あれ俺空気化してない?
「よし、それじゃナギちゃんも回復したことだし、陽介くんと日向ちゃんのところへいこう!」
……はい? 突然何をほざくんだ、こいつは。
やっと四度目の正直で、本題に入れるかと思いきや、朱音は突然立ち上がりよしとポーズを取ると、佐武にも立つよう促す。俺を無視して、そのままドアへ向かっていこうとする二人に俺は静止の言葉をかける。
「ちょっと待て! お前らは何しに来たんだ?!」
「え? 活樹んちの双子を見に」
「いや違うだろ! あれだろうが、今日の学校での話しだろ?!」
「ああ。んなの、あとあと。いつでもできるっしょ、そんな話。活樹、ゲーム部屋ってとこに案内して」
俺もう断ろうかな、こいつの偽彼氏の件。そう思わずにはいられない発言であった。
朱音は俺の袖も引っ張ると、部屋をでていく。俺が思わず閉口していると、しびれをきらしたのか、ねえと声をかけられる。
「日向ちゃんたちが遊んでる部屋ってどこなの? 早く言わないともう勉強教えないぞ」
「……ちょっとのぞきにいくだけだからな」
「わーってるって。はやく案内して」
「俺の部屋の向かいのとこ」
俺は目の前にある部屋を指差す。便利なことに、ゲーム部屋って俺の部屋の目の前にあるんだよなあ。このマンション、部屋がありえないほどあるから。
それを聞くや否や、朱音は俺の袖を離し佐武の袖だけを引っ張って、ゲーム部屋へと突入。ガチャ、と勢いよく開かれた扉に陽介がわあ、と驚いたような声をあげたのが聞こえた。
一応俺の客だし、いかなければと俺もゲーム部屋へと足を踏み入れる。
「やあやあこんにちは! よければボクたちも一緒に遊ばせてくれないかい?」
「お、おい朱音! 行くだけじゃなかったのか? 一緒に遊ぶとか、そういうのは――」
「おにいさま、私たちは別にかまいませんよ。ね?」
「うん! むしろ私は活樹さんさんがいたほうが……」
「私もかまいませんけど」
そういって、月城さんは陽介を一瞥する。だけど陽介はまったく気づいていないのか、ふてくされたように俺から顔をそらして、何故か後ろの佐武のほうをチラッと見た。よくみたらこいつハーレムだな、女の子とばっか遊んでいやがる。それに妹の日向に続き、神林さんも月城さんもレベル高いし。
そう考えたら俺の状況も似ているっちゃあ似ているが、陽介は三人、俺は二人だから俺はハーレムではない。佐武も朱音もかなり可愛いほうだと思うけど。
ちなみに陽介は悔しいけど、そこそこ整った顔をしており俺は残念な顔である。よく言われます、目が死んでるって。
「あ、陽介君もいいかい?」
「……かまいませんよ」
陽介、顔が赤い。なんだこいつ、年上好きだったのか? そういや、さっきも佐武のほうもチラチラみてやがったしな。まあ姉貴大好き人間だし、年上好きでも納得できる。あとで追求してみると面白いことになりそうだ。
ニヤニヤと陽介をみていると、アイツが口パクで死ねと言ってきた。本当に死んだらどうするんだよ、責任とってくれるのかねえ。
互いにほぼ同時に顔をそらし、視線の置き場に困っていると朱音が懇願するような目で俺を見上げていた。
「ねえ、活樹活樹! ちょっとでいいから、ゲームやらせてよ、ね? ボクんち、ゲームなんて学習用のソフトと本体しかないんだよ! テレビゲームなんて、やったことないんだよ?!」
「い、いや、今六年生組みがやってるみたいだし、俺じゃなくて六年生組みに――」
「朱音姉……朱音さん、僕のとこいいですよ」
そういって陽介はかの有名なカクゲーを中断させるべくスタートボタンを押し、少し照れくさそうにその場を立ち離れる。
そ、それにしてもぼ、僕?!今一瞬だけど朱音姉さんっていいかけてた?!なんか陽介に乗り移ってねえか? なんか姉貴への態度と俺と日向に対する接し方を足して二で割ったようなしゃべり方してる。
日向も俺と同じことを思ったのか、ありえないといった表情で陽介を見ており月城さんは呆然とその光景を見ていた。
だけども、朱音はそんな事情はいざ知らず、ありがとうと笑顔を向けて陽介のいたところに座る。朱音が陽介の前を横切ったとき、あいつ一瞬だけど幸せそうな表情を浮かべていた。
「よーし、お三方、お手柔らかにたのんます。なにぶん、初めてなもので」
「よろしくお願いします。あ、操作のやり方教えましょうか?」
「おお、日向ちゃんも優しいねえ。大丈夫、とりあえず感覚でやってみる!」
「は、はい。じゃあ一回リセットして最初からやりましょうか」
「ありがと!」
朱音さんの俺への態度と、年下への態度が違うのは何故。ツンデレなのか? 今でれてるの? 俺へのツンと年下へのデレで中和されちまってるよ。
……まあ、朱音はいいとして、問題は佐武のほうなんだけど……。
佐武のほうを見てみると、もう標的がかわったのか陽介は佐武と楽しそうに談笑していた。あいつ変わり身はやっ?!年上なら誰でもいいんかい!
でもやはりこういうところで陽介と俺との差を感じてしまう。アイツは初対面の人間とこうも早く馴染め、相手を楽しませることができている。本当に俺とアイツは同じ血が流れているのだろうか、と何度思ったことだろう。
「渚さんって、好きな人いるんですか?」
こいつ、いくら馴染めているとはいえ、初対面の人になんていう質問をしているのだろう。しかも女の子に。ちょっと失礼すぎやしませんか。それにお前の言い方、口説いているように見えるぞ。
佐武はその言葉を聞くとボンっと蒸気がでてると錯覚してしまうほど、顔を赤くする。そしてなぜか俺のほうを一瞥してたまたま視線があうとすぐに、陽介のほうに視線をうつした。……うむ、俺のほうを見たということはつまり俺の知っているやつ、ということだろうか? 勇樹あたりしか思いつかない、てか佐武の好きなやつ勇樹じゃね? うは、両思いじゃねえか。
報われたな、勇樹。そう思い明後日の方向を向く。やはり親友の喜びは俺の喜びでもあるだろう、多少は。そうと決まれば早速佐武に告白の方向を持ち込むとするか。
「え、あ、あた、あたしは別に好きな人なんてい、いな……」
物凄い動揺っぷりである。俺にはわかってるさ、佐武。ちゃんと俺が協力してやるからな! 先ほどの視線を思い出し、珍しくやる気をだす。勇樹に彼女ができれば、少しはおとなしくもなるだろうし。
うんうん、と一人頷き佐武のほうを見る。まだ、狼狽しているようだ。
陽介は少し難しい顔をして、悩んだ挙句、ようやく搾り出したような声で佐武に向かって言葉を発する。
「…………あの、渚さん。ちょっと、お話のほういいですか? できれば、二人で」
「え? う、うん。別にいいよ」
え、なに? あの間で、あいつの中でどんな葛藤があったの? むしろ、どんな風に考えたら二人きりで話しなんてシチュエーションできたの?
疑問は多々あるが、どうやら真剣な話っぽい。まさかアイツ、佐武に一目ぼれでもしたのだろうか。
これは下手に絡んだらめんどそうと考えた俺は、考えることをやめ、ゲーム組みのほうへと逃げることにした。めんどうごとなんて大嫌いだぜ!
ゲーム組みのほうに視線をやると、どうやら結構白熱した試合になっている。これに気づかなかったとは、俺結構考えていたんだな。
「くっ……あ、朱音さん本当に初めてなんですか?」
「あたり前田のクラッカーよ。ボクの家にテレビゲームなんて存在しないのさ」
そういいつつも、日向の使い手と思われるキャラをボコボコにしていく。神林さんと月城さんはとっくに倒されてしまっていたらしく、二人して強いね、などと話し合っている。そ、そんなに強いのか、朱音は。
こ、これはこのゲームを最も得意としている俺としては、腕がなる。ちなみに朱音の使い手は剣士で、それを初めてではできないであろうコンボを駆使し、完膚なきまでに日向を倒した。
「わ、私としたことが……。こ、これでもおにいさまと対等に戦えるようにと今まで……」
「え? 活樹ってそんなに強いの?」
「はい。このあいだ、勝手に勝負けしかけといた陽介に圧勝――いえ、完勝してました」
「ほーう」
日向の言い方にはちょっとした誇張もあるが、それでも俺は誇らしげに朱音をちらっと見やると、何事もなかったかのように普通に次の試合を始めていた。ちょ、おま、ここは普通俺との対決じゃねえの?!
……こいつにそんな俺を気遣うというか、そういう思いやりはあるまい。そう勝手に納得すると、ドアがガチャっと開く音が聞こえる。振り向くと、申し訳なさそうにしている陽介と、安心したような不安そうなよくわからない表情を繰り返している佐武の姿があった。
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