クソ兄貴
「おーい沙月ー! 今日、俺んち来るかー?」
どうも、俺陽介です。……あ、僕っていってるのは莉桜ねえさまの前だけだよ? だって他の人に猫かぶる必要はないっしょ。主にバカツキとかバカツキとかバカツキとか、日向とかの前はさ。莉桜ねえさまの前以外はほとんど「俺」を出してるよ。
ちなみに沙月っていうのは神林沙月っていって、俺の好きな人だ。莉桜ねえさまももちろん大好きだけど、あくまで姉だからな。その辺はちゃんとわきまえてるよ。俺ァ、日向とは違うんでね。
「急にどうしたの?」
「いや、ほら。前、俺のゲームテクみたいとか言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ。だから、今日はお前のために予定あけといてやったんだ」
「ふうん……覚えてないや。でもまあ、今日暇だし、ゲーム博士の家もみてみたいし……。じゃあお邪魔させていただこうかな」
よし! きたこれ! 今日は莉桜ねえさまもいないし、いるとしたらバカツキと日向だから問題ない。邪魔するようであったら、部屋に押し込めて……っと。それにしても、形だけとはいえ、二人きりか。もう、とどめ(コクハク)をさしても、いけるよな? きっと沙月も俺のこと、好きだろうし。
なんて、プランを立てながらニヤニヤしていると、
「何ニヤニヤしてんの、陽介。気持ち悪いよ。あ、今日彩乃家につれていくから」
「は、はぁ? ニヤニヤなんてしてねえし。それに今日は沙月を家に招待したからだめだ」
「彩乃が私のおにいさまを見たいっていうから、家にいくの。あんたの事情なんて知らないから」
「お前の素敵なおにいさまなら目の前にいるだろ?」
「え、どこにいるのそんな人? 私にはみえないなあ。……それにしても、活樹おにいさまはあんなに素敵なのに、もう一人の糞兄貴はどこがいいのすら、探すのに疲れるわ」
こんのクソ野郎……! 俺のことボロクソいいやがって。本当日向はバカツキ溺愛のくそブラコンだよな。俺だって、一応こいつの兄貴だっていうのに。
思わずため息がでちまうぜ。日向の話を聞いて、沙月は何かに興味をもったのか、目をキラキラと輝かせ始めた。
「あれ、日向の家ってきょうだい三人じゃなかったの?」
「誰情報それ?」
「ゲーム博士。日向とゲーム博士と、あと物凄く美人で完璧なお姉さんがいるって。ゲーム博士からきいたんだけど」
「なんでおにいさまが抜けているの。てか、どんだけシスコンなの」
「……ふんっ。お前にだけはシスコンとかいわれたくないね」
「残念ながら、私はシスコンじゃありませんから。まあお姉ちゃんのことも好きだけどね。あ、そうだ、沙月。活樹おにいさまはね、こいつなんかよりずっとずっと素敵で、かっこよくて最高のおにいさまだから!」
「へぇ……てっきり日向がいつもいってたおにいさまってゲーム博士のことかと思ってた」
「はぁ? なわけないでしょ。なんで私がこんなのをおにいさまなんて呼ばなきゃいけないの」
「でももう一人お兄さんいたんだあ。……ねぇ、ゲーム博士! 私も活樹さんに会ってみたい!」
うあぁぁぁ……。こ、こんのクソ日向がァァ! プラン立てて、数分で崩れ去ったよ!
あんなバカツキなんてみせたら、絶対幻滅される……。あんなのが俺の兄貴なんて、知られたらもう学校になんていけねえよ、沙月に嫌われちまうよ……。
な、なんとしてでもそれだけは阻止せねば。
「で、でもバカツ……兄貴は今日、遅くなるとかいってたぞ?」
「はぁ? 何嘘いってんの? おにいさまは今日、直帰ですぅ。私のおにいさま手帳にかいてるもん」
おにいさま手帳ってなんだよ! てか素直に教えるバカツキもバカツキだよ! ……って、いえたらいいのにな。以前、こいつの前でバカツキとか兄貴の悪口いったら、俺のコレクション翌日には灰になってたから。泣いたよ、あの日はほんと。
日向はそのおにいさま手帳らしきものをだし、うっとりとした表情で中身をみている。きっと、兄貴の写真とかが入っているのではなかろうか。
沙月はそんな事情はもちろん知らず、期待に胸をふくらませているようだった。
「へぇ……。そんなにすてきなお兄さんなんだ。楽しみだなあ」
……もうどうにでもなれ。こうなったら、兄貴を利用して、俺の株価をあげてやらァ。
*
俺と日向と沙月と彩乃は学校を終えると、俺んちのゲーム部屋へといく。ゲーム好きの俺ら姉兄弟妹にとっては、必要不可欠な部屋であり、親に必死になって頼んだっけ。
気づいたら、昔のゲーム機なども買って小さなゲームセンターみたいになっている。
「うわ、うわうわうわ! ゲーム博士の家すごいねえ!」
「ほんとほんと! 陽介くんの家、なんか知らないゲーム機まであるし!」
「いやあ、そんなに褒められると――」
「そういう古いゲーム機はお姉ちゃんがバイトしたり、おにいさまが誕生日に買ってもらったものだよ。コイツ、自分じゃテレビゲーム機とか、買ってもらったことないし」
……な、なんなんだよ、コイツは。俺の株価を下げるかのように、悪口ばっかよう……!
なにか俺にうらみでもあるのか?
「あ、そういえば、お兄さんは?」
「おにいさま、まだ帰ってきてないみたい。一目みたら、絶対にかっこいいとか思うよ。でも惚れないでね、私のだから」
日向が笑顔でそういうと、ただいまーと気の抜けた、なんともやる気のなさそうな声が聞こえた。いつもはゲームとられてっけど、今日はとれねえだろ、さすがに。
その声を聞くやいなや、日向は風のようにダッシュで玄関へと向かっていった。
「じゃあ彩乃、お兄さんのことみにいこうか!」
「うん、陽介くんもいこ?」
「俺はゲームの準備すっから。兄貴なんていつでもみれるしさ」
俺がそういうと、彩乃は少し残念そうな顔を浮かべ、それを隠すように沙月と玄関のほうへ向かった。今日こそ兄貴得意のカクゲーで、コテンパンにして沙月の目を俺に向けてやらァ。兄貴に勝つために練習したんだからな。
かの有名なカクゲーをゲーム機にセットし、二人分コントローラーを用意する。伊達にゲーム博士なんて呼ばれてないことを教えてやるぜ、ふははは!
悪いな兄貴、なんて考えていると沙月の意気揚々とした声がきこえてきた。日向の甘い猫なで声が聞こえるってことは、兄貴も一緒か。
「あ、陽介。ちょっと話があるんだけど」
「あ? 何のようだよ」
「いいから、ちょっとこい」
なにやら、真剣な話のようだ。兄貴がいつにもなく真面目な顔をしている。
まあ、だったら兄貴も本気だしてくれるだろう。
「……俺にゲームで勝ったら聞いてやるよ。……沙月、ちゃんとみてろよ」
「うん、もちろん! 活樹さん、頑張って!」
「なんで兄貴を応援?!普通俺じゃね?」
「陽介くん、頑張ってね!」
「……あ、お、おう」
何故か彩乃に応援された。日向は心なしか、ちょっと不機嫌そうにしている。恐らく沙月がバカツキにくっついてるせいだと思うんだが……。俺も機嫌悪くなってきたぜ、なんか。
俺はイチコン(1Pコントローラー)をとり、兄貴にニコンを渡す。そしてキャラを選択し、格闘を始めた。
――結果、惨敗。
最初は結構いい勝負だったんだ。兄貴の攻撃パターンを研究して、それを回避して……。でも兄貴は巧みな動きと技を使い、俺に一回も倒されずにアイツは勝った。
「じゃあ、あとで俺の部屋こいよ。約束は守ってもらうからな」
「わ、わかってるよ。コイツらが帰ったら――」
「活樹さん、行っちゃうんですか?!私たちと一緒に、遊びませんか?」
「でも邪魔したら悪いだろ? 陽介とか日向も友達同士で遊びたいだろうし」
「そんなことありません! ね、ゲームはか……佐竹くん、日向! 活樹さんも一緒に遊んでもいいよね?!」
なんで、沙月はこんなに必死なんだ? そ、それに前は俺のことを名前で呼ぶときは、陽介ってよんでいたはずなのに。 も、もしかして……。
チラッと日向のほうをみてみると、アイツも同じように俺のことを見ていた。――どうやら、考えてることは同じらしい。
今の日向とは、利害関係が一致している。俺たちはアイコンタクトを取り、なんとかそれだけは阻止せねば、と互いに動く。
「さ、沙月。このあと、俺たち勉強会する予定だろ? 兄貴がいたら、邪魔になるぜ」
「あれ、そんな予定あったっけ……? でも、あったとしても、活樹さんがいたら、教えてもらえると思うよ! ……優しそうな、お兄さんだし」
「で、でもおにいさまもやりたいこと、あるんですよね?」
「え? いや、俺は今日特にすることはないけど。勉強会するなら、出来るとこなら教えてあげれるよ。……あ、もし邪魔じゃなければ、だけど」
こ、こんのクソ兄貴ィィィ! 俺が宿題教えてっていったら、ググレカスとか意味のわからんこといってきたくせに……!
結局、兄貴は俺たちの勉強会などに参加。そして、沙月にメールでまた活樹さんに会いに行くね、などという俺にとっては非常に酷なメールが届き、その日は泣き寝入りすると思いきや、兄貴が部屋に尋ねてきた。
……さて、いつになく兄貴が真面目な顔をしていやがる。ちょっと今日の仕返しにからかってやろう。
陽介視点です。
頭の中にどんどん構成がでてきた、更新ストップなんて酷すぎます……。
また息抜きにかきにきちゃうかも……。




