身も蓋もない
あれから陽介とゲームしたり弟妹の友達に勉強を教えたりと色々した。まあ小学六年生程度のことならば、俺も教えてあげられるからな。あまり勉強しないとはいえ、俺はそこまで馬鹿じゃない、と思う。
それで六年生組みの勉強会が終わったら、再びゲームをして遊んだ。なんで俺こんな六年生と遊んでるんだ、と思ったのだが今日は暇で特にすることもなかったからなんだよな。元々は昨日姉貴に消された分のゲームをリカバリーするために、早く帰る予定だったから。
神林さんと月城さんが家に帰り、俺も自室へ戻った。少し休憩したらアイツもくるだろうと思ったのだが、待てど暮らせど来る気配を感じない。これは俺から来い、ということなのだろうか。
めんどくせぇ、とは思いつつも立ち上がる。このままだと解決できないまま、明日になって佐武と気まずくなってしまうからな。それだけは避けたい、そういうのめんどいし。
自室を出て、数歩歩いた先の隣の部屋のドアをノックし、入室する。すると俺が声をかけるよりはやく、何かが俺の腰に巻きつく。
「おにいさま? 私ならいつでも準備はできてるよ? でも今は糞陽介がいるから、またあとで私からおにいさまの部屋に――」
「準備ってなんの準備だよ! いつも俺が部屋に入るたび抱きつくのはやめろっていってるだろうが。それに今は陽介に用事があってだな」
「え? ……そうなんだ、それは残念。でもたまには私と二人きりになってセッ――」
「誰がするかァァ!」
つかどこで覚えたその単語! ったく、最近のマセガキは恥ずかしげも見せずにこんな単語を使って……。こいつひょっとして、そういうことに好奇心旺盛な陽介より知ってるんじゃないの? ……はぁ、お兄ちゃんため息でちゃうわ。
陽介も呆れたようにため息をつき、早々にこの場から立ち去りたいようだった。そりゃそうだわな、俺も同じだもん。
日向は名残惜しそうに俺の腰を離し、自分の机へと向かう。それと入れ替わりに陽介が俺のところへ来た。だけど日向は何かを思いついたのか、あっ、と声をあげる。
「それじゃあ私はお風呂に入って、おにいさまと糞陽介の用事が済んだころにコンド――」
無言で扉をしめてやった。てかアイツ、なんでそんなの知ってるの。マジで持ってるのかよ、近藤さん。俺でさえ見たことはあっても触ったことはないぞ。あ、見たことあるっての実物じゃなくて画像とかで、げふんげふん。なんでもない。
陽介はそんな複雑な心境の俺に哀れみを含んだ目で俺を見ていた。
「兄貴、頑張れ」
「何を?!お前は俺に何を頑張れというんだ!」
こいつまでこんなことを。この家に俺の味方はもういないというのか……。
「それにしても、日向は兄貴のどこが好きなんだか。理解しかねるね」
「あ? なんだ、羨ましいのか? かわってやろうか?」
「恐ろしいこというな。アイツのブラコン対象がもし俺だったら、同じ部屋の俺はどうすればいいんだ。逃げ場ねえよ」
まあ、確かにその通りなんだろうけどコイツも人のこといえないよな。陽介も正真正銘のシスコンだし。
「うるせえな、兄貴だってシスブラどっちもあんだろうが」
「何お前、人の心よんでんの? やめてくれない? そういうの。それにシスブラってなんだよ。俺にはどっちもねえよ」
「顔にでてんだよ、このシスブラ」
けっ、シスブラはどっちだ。
お互いに無言になったとこで、俺の部屋へと向かう。この相談は日向に聞かれたらマジですごいことになりそうだし。……いろんな意味で。
まあ向かうっつっても、隣の部屋だから大して距離はない。だけども、大声をあげてはいけない。隣の部屋にいる日向にきかれてしまう。何の因果か、俺がベッドを置いている位置の隣に日向もベッドをおいているらしい。つまり毎晩隣で寝ている、というわけだ。薄い壁はあるぞ、当然。薄い壁はあるんだからな? 大事だから二回いったぞ。
俺の部屋のドアを開け、陽介に入るよう促し座らせた。そしたら何故か部屋をキョロキョロと見回しはじめる。
「相変わらず殺風景な部屋だな。なんだよ、この本棚は」
そういって本棚のところへ向かい、俺の宝物(エロ本ではない)の本を物色している。俺はライトノベル系の本が大好きであり、まあつまりその本棚には俺の夢と希望とロマンが詰まっているというわけだ。
陽介は何冊か適当に本をとり、それらをパラパラめくって流し読みするとすぐに本を戻した。
「エロ本のひとつもねえのな。全部オタク系の本じゃん。まあそれっぽいのはところどころにあったけど」
「うっせえな、別にいいだろライトノベル好きなんだから。それに、エロ本全部すてたりあげたりしたんだよ」
「は?!な、なんで?」
「……前さ、日向が俺の部屋きたときエロ本発見したみたいで。翌日、俺が折り目つけてたページのところの人と似たような格好で俺の部屋きて、襲われた」
「へ、へえ……」
「それ以来この部屋からもうエロ本は……」
流石の陽介も今のは茶化せなかったのか、黙ってしまった。……わかるか? 俺の気持ちが。それ以来、日向は俺の好みがツインテールだとわかったのか、毎日ツインテールするようになったからね。襲ってきたのは最初の一日で、必死の説得により何とか部屋に帰ってもらえたけど、すごい複雑な気持ちだよ兄貴として。
襲われた日から、家に帰ってきてからたまに物の位置がずれてたりしてたこともあったし……。
だからもう、俺はエロ本部屋から消失計画をたてたわけだ。惜しいけど捨てたり、勇樹にあげちまった。……なんで中学生のくせにエロ本もってるかって? ふっ、それは企業秘密というものなのだよ。
「ま、まぁ……。あれだよ、うん。頑張れ!」
「だからお前は俺に何を頑張れっていうんだ?!」
「てか兄貴の性欲の行き場なんてどうでもいいんだよ。さっさと本題言え。俺だって、ゲームしてぇんだから」
「あ、あぁ……」
本当にこいつで判断は正しかったのだろうか? 今更な疑問が浮かび上がったが、考えてもコイツしか浮かばなかったのだ。数少ない男友達の佐々木は佐武のこと好きだしよ……。だからコイツにしか聞くことができない。
俺を意を決して言葉をだした。
「俺、さ。学年一人気の女子にコクられたんだけど……」
「……寝言は寝て言えよ」
「嘘じゃねえよ! マジなんだって!」
「妄想と現実を一緒にしてるんじゃなく? マジで?」
「お前は俺をどんな風に思っていたんだ。マジだよ」
「……まあいいや。仮にそうだとして、それで? なんていわれたの?」
「う、後ろから抱きつかれて、ちょっと話して好きっていわれて……」
思い出すだけで顔が赤くなってくる。妹を除き、って含めていいのかわからんが、とにかく血のつながってない異性から好意を抱かれたのは初めてなのだ。それも学年一人気者の女子に、だぞ?
嬉しくないわけがないのだが、やはり付き合う、となると――。
普段あまり使わない頭をフル回転させ、必死に考えを巡らせていると、
「それさ、本当に告白か?」
などと、身も蓋もないことを言い出したのである。
「だ、だって好きっていわれたんだぜ?」
「じゃあ聞くけどよ、兄貴みたいなめんどくさがりやの自堕落野郎に、その学年一の人気者の人が好きになると思うか?」
「た、たしかにそれも一理あるが……。だ、抱きつかれたんだぞ?」
「後ろからだろ?」
「お、おう」
「逃がさないようにするためだったかもしれんじゃないか。あと、好きって言われる前はなんていわれたんだ?」
「た、たしかだな……」
……あれ、何ていわれたんだっけ? やべえ、抱きつかれたときの背中の感触しか思い出せねぇよ。てかそれに気をとられて、好き以外に何を言われたかまったく脳に記憶されてねえ。
頭を抱えて必死に思い出そうとする俺に、陽介は呆れたようにため息をついた。
「じゃあさ、付き合ってとか言われた?」
「それは……たしか言われてない」
「好きって言われたからの会話は?」
「な、なかったはずだ。その人、俺のこと好きっていってから走っていっちまった」
「ふうん……どこのエロゲだよそれ」
「おい、お前今なんていった。言ったことによってはきれるぞこの野郎」
「なんでもねえよ。じゃあさ、例えばだけど好きのあとにまだ言葉続いてたんじゃねえの? 兄貴がそれを聞き逃したとか」
な、なん……だと……?!好きのあとに続きがあるとか、考えもしなかった。でもたしかに、その線はあったかもしれない。
そういうのもちゃんと考えとけばよかったぜ。
陽介はちょっと納得した俺に更に追い討ちをかけるように言った。
「例えばさ、兄貴は後ろから抱きつかれたんだろ? 無防備だったわけだし、隙だらけだな、とかスキルをもっと磨いたほうが良い、とか言われたんじゃね?」
「な、なるほど……。そういえば俺、その人が来るまで寝ちゃってたしな」
「どうせ兄貴のことだから授業中も寝てたり、休み時間のときもボーっと過ごすことが多いんだろ? そういうのの忠告も含めてるんじゃね?」
「で、でもだったら、別に放課後に呼び出す意味ねえだろ」
「馬鹿か、お前は。そんなこと教室でいったら、変な噂が立つだろうが。兄貴とそういう噂立って、嬉しい女がいるか? とにかく、隙ばっかみせてるから見るに見かねてその人気者の女子が、ご親切に忠告までしてくださったんだろ? 感謝しろよ、その人に」
物凄く説得力のある言葉たちだった。たしかに、その通りかもしれん。
でも何でだ? コイツ、何でこんなに楽しそうなの? だけど、俺がその疑問を口にするより早く、もう部屋に戻るといって、俺の部屋をでていった。
……まあとりあえず、明日からもっと警戒心を強めるとしよう。久々に色々考えたら疲れた。明日の準備してもう寝るとするか。
*
翌日、中学校。俺の教室にて。
昨日決めたことを元に、俺は警戒心を強くし、休み時間とかも警戒を怠らなかった。これは朝の出来事である。
「さ、さささ佐竹! お、おは、おはよう!」
「む、佐武か。おはよ。……ええと、昨日はありがとな!」
俺がそういうと、佐武は不安そうだった顔をパァっと明るくさせた。何か喜んでいるようである。どうやら、佐武も忠告どおりに俺が警戒心を強めたことを喜んでくれているのだろう。
「じゃ、じゃあ佐竹もあたしのこと――」
「たしかに俺は今まで警戒心が甘かったかもしれない。これじゃあいつチョークが飛んでくるかわかったもんじゃないな。昨日の忠告、本当に感謝してるぜ!」
「え、は? ちゅ、忠告? な、何のこと?」
「昨日放課後さ、俺に隙だらけ、とかスキルを磨けとか言っただろ?」
「え、い、言ったっけ、そんなこと……」
「言っただろ? 無防備な俺に。最初はさ、告白かと思ってドキドキしてたんだが、よく考えたらそんなわけないもんなぁ。だって俺たち、ただの同級生でしかないもんな!」
まぁこれはよくよく考えたら当たり前なことだ。陽介の話を聞くまでもなく、じっくり考えればこの結論に至れたはずだったんだよ。
笑顔で良い台詞を聞かせてやるつもりだったのだが、何故か佐武はこの世の終わりみたいな顔をしていた。も、もしかして……。
「佐武、まさかお前……」
「い、いや違うんだよ、本当! だってあたしは――」
「お前も俺のことを狙っていたのか?!敵に塩を送るってやつか?!」
「……もう知らない!」
そういって佐武は俺の頬を引っぱたき、どこかへ行ってしまった。……もっと警戒心を強めて、かわせということなのだろうか……。
章の分け方をかえました。
場所をずらしたかっただけですので、内容はぜんぜんかわっておりません。




