神様教えて
「それでは、新慣の出し物は何がいいと思いますか?」
来たる新慣、高まる期待、それを上回るだるさ。クラス委員長の佐武には悪いが、どうせ俺は裏方を希望する予定だし、どうでもいい。
まあ冒頭の台詞どうり、新慣の出し物を検討中であり、再びいうが俺にとっては本当にどうでもいい。だけども彼女はとても真剣なご様子。誰も手をあげないことにしびれをきらしているようで、先ほどからチラチラと朱音のほうをみている。何故だかはわからんが、一応伝えたほうがいいのだろうか。朱音はそんなことは知らんって顔でボーっとしてるし。
「朱音、なんか佐武がお前のほう見てるぞ?」
「……ふぇ? …………ああ?!」
「はい、五十嵐さん」
佐武は抑揚のある声で朱音の名前を呼ぶ。あれだけアイコンタクトとって、やっと気づいてもらえれば声も弾むだろうな。
だけど、当の朱音はまだ頭が働いていないようで答えをだすのに時間がかかった。
「……はい、劇がいいと思います。それも次回やる学園祭につながる様な」
あらかじめ用意されていた台詞をそのままよんでいるかのような、棒読みっぷり。なんというか、こいつ自身はそんなに乗り気にみえないもの気のせいではないだろう。てか文化祭につなげる様って、別につなげなくてもよくね?
佐武はご機嫌な様子で黒板に劇、とかいていく。これで他に意見がでなければ、これで決定なんだろうけど俺としてはやりたくない。ないだろうけど、主役なんて論外だし脇役でも台詞覚えたり、小道具大道具作ったり……考えただけで眠くなってくる。
おい、誰か他に意見だせよ。なんならメイド喫茶でもいいぞ。もちろん俺は傍観する側で。
なんて中学のイベントごときでこんなのは無謀だとはわかっていても、期待せずにはいられない。みんなも俺と同じで、自分で意見をだすのは嫌なんだろうな。もし、それに決定でもしたら、自分中心に働かないといけないし。
「じゃあ、劇で決定します。これから、どんな劇をやるか、配役などをどうするかを話し合いたいと思います」
途端、とある女子が手を上げる。よく佐武と一緒にいる人、かな。
「恋愛劇がいいです! もちろん、中学でこんな恋愛はしないように、という忠告をこめてのですけど」
恋愛劇って……これだから思春期の女子は……。愛だの恋だのばっかりぬかしやがってよ。
ま、もちろん佐武は却下するんだろうな――
「他に意見がなければ、決定します」
……おいィィィ?!決定すんの?!決定しちゃうの?!
誰か手をあげろ、お願いだからさ本当。あげてくれたら百円あげ……ないけど。
だけど俺の期待に応えてくれるものはいなくて、そのまま決まってしまった。
「それでどんな劇にするかですが、なにか意見はありますか?」
すると後ろの席で、はい、と声が。もちろん、俺の後ろは勇樹である。
「すいません。先ほどの議題の場でいうべきでしたが、今言わせてください。恋愛劇に決まったのは別にかまわないんですが、どうやって学園祭につなげるんですか? それに別に学園祭につなげなくてもいいと思うんですが」
「学園祭につなげたほうが、作業が捗っていいと思います」
「学園祭は学園祭で、別のことをやったほうがいいと思うんですが。それに、学園祭につなげたところで、何かあるんでしょうか?」
さすが勇樹! よくいってくれた!
心の中で親友を絶賛し、そのままの攻撃を心の中で祈る。劇はいいとしても、恋愛劇っていうのはちょっとな。
すると先ほど恋愛劇を希望した女子が立ち上がり、反論。
「学園祭で何をやるか、で再び何をやるかというのを決めるよりも、今学園祭につながるようにことを進めておけば、より多くの時間を劇に割けると思います。そしてよりよい作品が出来上がるのではないでしょうか?」
「確かに一理ありますが、学園祭は学園祭でやりたいことがある人もこの中にはいると思います。今からあせる必要はあるんでしょうか?」
ここから、しばらく勇樹と女子の討論がはじまる。勇樹頑張れェェェ! と心の中で応援するも、口にだすことはしない。口調こそはとても落ち着いてはいるが、すごい激しい口論だし参加したらそれが最後、抜け出せなさそう。
数分激しい口論があった後、その中に佐武が割って入っていって多数決をすることに。俺はもちろん、反対派である。
多数決をとるとき、佐武以外ふせていたので数はわからないが、賛成派のヤツが多いような気がする……。気のせいであってほしい。
「賛成に決まりました。それでは、話の内容を――」
気のせいではなかった、か。もうどうでもいい。
どうせ裏方を希望するさ、と俺は考えることをやめた。もう考えるのもめんどうくさい。
それからは隣の朱音と同じようにボーっと過ごした。何故かこれからは活発に話合いが行われ、あちこちで意見がきこえてきたような気がした。
「では、話もおおまかに決まったので、役を。主人公を希望する人は――」
主人公ってアレだろ、男だろ? 相手次第で希望する人もでてくるかもしれんが、話したこともないやつが相手になるかもしれないのに、希望する人がでてくるとは思えない。
「そ、それでは、主人公はヒロイン役の人が選ぶ、ということでいいですか?」
どこをどうしたらそうなった。……ま、まあ、俺が選ばれることはないだろうしな。それに選ぶって半ば告白しているようなもんじゃ……。
「あの、ちなみにその選ばれた男子に拒否権は?」
「基本ないです」
ないのかよ。しかも佐武、笑顔にいうもんだから余計反論する気がなくなる。
この中で、ヒロインを立候補する人っているのか? むしろ逆にやりたかった人は立候補しづらいと思うんだけど。
まあ一応耳を傾けておくか。一応、配役が終わって裏方の話がでたら立候補する予定だしな。
「それでは、ヒロインやりたい人は――」
シーン、と辺りが静まり返る。そりゃ、ま、希望しづらいよな。
「…………で、では。い、いないようなら、あたしがやってもいいですか?」
少しの間。反対意見はなし、と。ここで反対意見をだすようなヤツがいればお前がやれってことになるからな。
「で、ではあたしがやりますね」
そこではい、と後ろから再び声が。無論、勇樹である。
「俺、やっぱ主人公やってもいいですか?」
さすが男だよな、勇樹。恋愛劇ともなれば、抱きしめるシーンくらいありそうな気もするが、なさそうな気もしないでもないし……。一応中学生が演じる劇だしな。
精々あって手をつなぐぐらいだろうか。
「はい、ヒロイン役が主人公を決めると最初から決めていました」
再び例の女子。今日はずいぶんと活躍しますね。
「ですが、主人公の希望者がいなかったのも事実です。俺やっぱりやりたいです」
「では何故、主人公を希望するときに手を上げなかったのですか?」
「そのときはやるかどうか迷っていました」
「最初の取り決めどうり、ヒロイン役の渚ちゃんが決めるべきだと思います」
そこで他の女子からも賛成意見が。こうなると、勇樹は引かざるを得ないよな。
「……わかりました」
ま、安心してもいいと思うんだけどな。佐武は勇樹のことが好きだろうし、きっと選ぶと思う。
さあ、佐武、安心して勇樹を選ぶといい。今なら気持ちはバレないと思うぞ。勇樹は立候補した、だから選んだとな。
「えっと、主人公はさ――」
最初はさ、だよな。佐々木勇樹だし。
「さ……佐竹活樹くん、にお願いします……」
そうそう、佐竹活樹くん……ってアレ? 佐竹活樹って……このクラスに佐竹活樹って二人いたっけ? いや、いないよなあ。てことは俺になるよなあ。
……俺かいィィィ!
「え、と……その、佐武。名前、間違えてない?」
「ま、間違えてないよ。あたしは佐竹……活樹にお願いしたいです」
どうやら、いい間違えでもないようだ。てか、先ほどいっていたようにどうやら拒否権はないようで、女子はニヤニヤと笑っているようで一部の男子からは睨まれていて……。
何これどういう状況? 何をしたらこんな状況に陥るの? 教えてゴッド……。
「お、お願い、できますか?」
「……あ、はい。で、では……ま、まあその。お粗末な演技しかできないとは思いますが……」
ここで断ったらある意味死ぬ気がした。受けたら受けたで死ぬかもしれなかったが。
新慣編突入ですー!
なんか予定が立てこもってるなあ……。家族の話もまたかかないと。
てかラブが入ってきてる。まあちょっとくらいはありですよね。