基本はいいやつ
席替えが終わり、まだほとぼりが冷めない休み時間。俺は早速、隣の席にいるやつの格好の獲物となっていたようで、物凄いちょっかいをかけられている。俺はじっくり本を読みたいというのに……。
もはや、注意を促すだけ無駄だというのにそれだと余計にこいつは俺の机に侵食してくるから抵抗をせざるを得ないのだ。
「ちょ、おま、机に落書きするなっていってんだろうが!」
「……ちぇ、わかったよ。しょうがないなあ」
そういうと、朱音はおもむろに俺の筆箱を持ち中から消しゴムを取り出す。そして、俺の机に書かれた落書きを消し始めた。
無論、俺としてはそれに疑問を抱くしかなくて。
「いや、なんで俺の消しゴムで消すの? お前ので消せや」
「だってもったいないし」
「お前がかいたんだろうが!」
綺麗に全部消すと、その消すカスはそのまま。……怒っていいよな、これ。
「消すカス自分で捨てろ、俺におしつけんなよ! ……ああっ?!ちょ、今度は消しゴムに落書きしてんじゃねえよ?!」
俺が消しカスを朱音の机に移動作業をしている最中、ヤツは再び俺の消しゴムへの追撃を始めていたようだ。
今まできちんとケースにいれ、プラスチックのヤツも取らずに綺麗な純白を保っていた俺の消しゴムの側面やら色々な面がすっかり汚されていた。こ、こんなにあられのない姿に……。
まるで自分の貞操が奪われたのごとく、とてつもない喪失感が。だが、憤慨の気持ちは喪失せず。
「消せ、それェェ!」
「あーはいはい、わかったわかった。そんな怒るなって」
さすがの朱音も悪いと感じているのか、ちょっと顔に影がある。……うむ、悪いと思ってちゃんと反省しているならば、俺も許してやらんこともないんだがな。ちゃんと、思っているのなら、な。
少しの間、朱音がどうするのか内心ニヤつきながらその行動を見ていたが、とんでもない行動をとり始める。あろうことか、定規でその部分を削る――削ぎ落とそうとしていた。さすがにこれは俺も予想外だわ!
「お前なに考えてんだ?!じょうぎで消しゴム削るなよ!」
「だって、落書きしたの消せっていったじゃん」
「だからって削るか?!もうそれ、ケースにはいらねえじゃん! どうしてくれんだよ?!」
本当、この女の行動は読めん。思考回路どうなっとんねん。
「消しゴムごときでそんな怒るなって。ほら、前校門のとこで配ってた消しゴムあげるから許せ」
そういって、とある塾が夏期講習や冬期講習前に配ってる勧誘の決まり文句のかかれたチラシと共に中学生に配布している、その無料消しゴムを俺に渡す。未開封――というわけではないが、一度も使われていないことが伺える。
最初からこれを渡すつもりだったのだろうか? だったらなんというツンデレだろう。
「ったく。……お前は物を粗末にしすぎなんだよ」
ここで、俺は一つ異常を発見。なんか、消しゴムに赤い何かが書かれている――否、描かれている。
中身を確認。絶句。
「……っておい。何これ。ワックのトナルトさん?」
うまいな。いつもCMの一番最後にあるうたい文句もちゃんとかかれている。
「うまいっしょ? ボクだと思って大切にしてね?」
無駄にうまいところが腹立つ。それにこんなのを大切にできるやつがいたら、俺はそいつと神と称えて崇めてやるよ。……あ、佐伯くんならやりかねないかも。
とりあえず俺はこんなのを大切にできるほど勇者ではない。
「……こんなんいるかァァァ!」
当然、最大級の笑顔を向けているヤツにむけてぶん投げてやったさ。
「うわ、ひど。それ力作なのに!」
まあ、たしかにうまいんだけどな。俺にはアレを褒めたら負けたような気がして、褒めはしなかったが。
後にちゃんと朱音は消しゴムを弁償、というかとある塾の消しゴム(無傷)をくれた。こういうところはちゃんとしっかりしてる、いいやつなんだよな。
席替えのおまけみたいな感じでかきました。とても短いです。
まああれだけで終わってしまうのも、ちょっと残念な気がして。
次の話は渚の嫉妬話です。これまたさらに短いです。というか、手抜きっぽいですけど、違いますよ!
どちらかというと、こっちの話のほうが後にかきました。
渚のほうの話はこの会話をきいて、渚がどう思っているかをかいてみました。




