パフェはご飯にあらず
「飯だ! 早く飯を作れ! この可愛い子がどうなってもいいのか!」
「たすけて、おにいさま!」
「……なにやってんの、お前ら」
のんびりイスに座って本読みながらくつろいでいると、いきなりばんと勢いよくドアが開く。そのドアの先には姉貴がいてその姉貴はよく推理ものなどの犯人がやるような、片腕を日向の首にやってボールペンで首の頚動脈を狙っている。そんな物凄くくだらない猿芝居をやっているうちの女共に呆れた声で言ってやった。
「さあさあ、ほら飯を作るんだ! この子がどうなってもいいのかね?!」
「あーはいはい」
「おにいさまー助けてー! 助けてくれたらお風呂一緒に――」
「だが断る」
「うわっ! お兄ちゃん失格だな。だからもてないんだよ」
関係ないだろ。まあもてないのは事実だけどさ……。
姉貴は拗ねた子供のようにブーブーとブーイングを俺に言ってくる。
俺ははあ、とため息をつき再び読書を開始した。すると姉貴は日向に協力せんきう、と言った後解放して俺のところへだだだっと走ってきて本を取り上げる。
「無視すんなァァ! ほら、さっさと飯つくれ!」
「今日バイトだったんだろ? まかないは?」
「今日は気が向かなかったから断ってきた」
「なんだよそれ……。てか、まだ六時前だろうが。もうちょっとゆっくりさせてくれや」
「いやだいやだー! 腹減ったー!」
子供かっての。つか、飯くらい自分で……。って無理だな、それは無理な注文だったな。
前にもちょこっと触れたことがあるが、うちの女共はとにかく料理ができない。母親の遺伝を見事なまでに受け継いでいて、どうしてこうなったといえるものを何度も作り上げてきた。もはやゲームなどにでてくる失敗料理のほうがまだ見た目食べれそうだ。
あれは殺人兵器に等しい。このまま、断り続けたらまた姉貴はあの兵器を作るかもしれない……。食べ物を無駄にするっていうのはやはり気が引ける。命を大切にしなければ。
「わかったわかった。今日は何か食いたいのある?」
「筑前煮とか煮物」
「なんでそんな手間のかかる料理をピンポイントで選択するの? つか今からそんなの作ったら三時間はかかんぞ」
「それくらい用意しといてよ」
「今初めて言われたのにどうしろというんだ」
「じゃあイチゴパフェでいいよ」
「じゃあってなんだよ。なんの解決にもなってねえぞ。それにそれはご飯じゃなくてデザートだ」
いつにも増しての無茶振りをいってきやがる。大体俺は基本料理くらいしか作れないし、イチゴパフェなんて専門外だっての。
姉貴はちぇーっと残念そうに声をあげる。さて、じゃあ俺は読書の続きを、と思ったのだが姉貴は、なにか思いついたのか今度はいきなり抑揚のある声をだす。
「よし、んじゃ銭湯に行こうか!」
「は? ゲームやんの?」
「いや、戦闘じゃなくて銭湯。お風呂」
「ああゆらたまね。けど金大丈夫か?」
ゆらたまとは、まあ話の流れでわかるだろうけど俺らの家の近場にある銭湯である。
「うん、実は活樹の小遣いをちょっと減らして――」
「ふざけんな?!」
「いやそれは冗談だけど。今月はまだ少し余裕あるし、しばらくゆらたまなんていってないじゃん? 煮物とかは冗談だけど、イチゴパフェは食べたいし」
姉貴はお風呂じゃなくてイチゴパフェが目的だろ、絶対。
まあ俺としても、飯も作らずにすむし足を伸ばせる風呂にも久々に行きたいし。別に断る理由はあるまいな。ちょっと理由がじじくさいなんて思ったりしない。
「じゃあ陽介たちにも準備するよういってくるわ。姉貴はバスタオルとかよろしく」
「うん。ついでにあたしの下着とかも――」
「だが断る」
少しは恥じらいというものを知りやがれ。こちとら思春期男子でい。まあ姉貴の下着なんてなんとも思ってないけど。
とまあ姉貴の思いつきで銭湯にいくことになり、俺は隣の部屋へ姉貴は脱衣所へバスタオルをとりにいった。
「おいオメェら、銭湯の準備しろー」
「は? ゲームやんの?」
もしかしてこいつ、さっきの俺と姉貴の会話きいてたの? さっき俺がいったことと一字一句同じなんだけどどういうこと。
「戦闘じゃなくて銭湯だよ。ゆらたまいくことになったから」
「ああ、そうか。わかった」
「日向も準備しとけよ」
「はーい!」
さて、俺も準備しますかね。でていく直前、日向がどっちの下着が好みですかなどと聞かれたような気がしたがきっと空耳だろう。うん、空耳であってほしい。
すぐ隣にある部屋に戻り、タンスをあさり適当にトランクスとシャツを着替え袋につめて携帯ゲームを手に取る。今日は裁判ものでももっていこうかね。
あとは上にパーカー羽織って準備完了っと。
着替え袋をくるくると回し、姉貴のほうを手伝うべく脱衣所へと向かう。だが、もうすでにみんな準備が完了していたようで、玄関のほうから声がきこえた。
「早くこないとおいていくぞー」
「そうだよ、おにい。はやくいこうよ」
「おにいさまー! 私は待ってるからねー!」
なんで俺よりあいつらのほうが準備早いんだろう。俺、そんなに遅かっただろうか。
今いくーと、声あげ小走りで玄関のほうへと向かい、慌てて靴をはいた。
既に姉貴と陽介はでていったらしく、いるのは日向だけだ。それじゃいくか、と声をかけ俺たちも小走りでエレベーターへと向かい乗る。
ちょうど、陽介が姉貴に媚びる寸前だったところみたいで惜しいところを見逃した。
「活樹、ほいこれ男組みのバスタオルとフェイスタオル」
「ん、さんきゅ」
「あとついでに、ゆらたまにつくまで女組みのバスタオルとフェイスタオル。においとか嗅ぐなよ」
「嗅ぐかアホ。自分でもて」
「バイトで疲れてるお姉ちゃんを労わろうとは思わないの?」
「思いませんね」
「ねえさま、僕が持ちますよ」
「おお、陽介はいい子だねえ。それじゃよろしく」
「はい!」
陽介、本当に姉貴には従順だよな。姉貴が飛び降りろとかいったら本当に飛び降りそうで怖いぜ。
数十秒たったのち、エレベーターは一階へとつく。言わずもがな、俺は紳士であるのでレディファーストの精神を忘れない。エレベーターの開のボタンを押して陽介がでたのを確認したのち、自分も降りた。
そこからは歩きだ。
「そういや、ゆらたま何ヶ月もいってなかったよねー」
「姉貴がバイト始めたからだろ」
「あれそうだっけ」
「確かな」
すごい淡々とした会話である。今思えば、姉貴があんなにバイト早く終わるって久々なんだよな。休みの日以外はほとんど八時過ぎに帰ってくることが多くて、姉貴は部屋にひっこんじまうし。たまにゲームとか一緒にやっけどよ。
元々口下手な俺は何をしゃべっていいのかわからず、黙ってしまう。ただ時間だけが過ぎていく。
「……そういやさ、アンタたち、何かほしいものとかないの?」
「ん、そうだなあ。俺はRPGゲームが――」
「活樹にきいてない。陽介と日向」
アンタたちって俺は含まれてないんだ。だったら名前で言いやがれこんちくしょう。期待させやがって。
「僕は特にありませんよ」
「おにいさま」
「なに?」
「いや、おにいさまがほしいです」
「……」
「あたしで手に入るようなものお願いしたいんだけど」
姉貴は苦笑いを浮かべる。陽介は考え込むふり、日向は真剣に考え込む。まあ陽介はほしいものあるんだけど、いえないって感じだな。前二万くらいするゲーム改造するやつやってみたいとかいってたし。日向は本気で俺以外ないんかい。
まあこんな何かのフラグが立つかのような会話をして、結局ゆらたまにつきそこでこの話題は終わった。
入浴券とやら購入の後、フロントにそれを渡して俺と陽介は当然ながら男風呂へ、姉貴と日向は女風呂へとそれぞれいく。そこで陽介の雰囲気がかわりました。二重人格怖い怖い。
「けっ、なんでバカツキなんかと一緒に風呂入らなきゃいけねえんだ」
「文句があんなら女風呂いけば? お前の大好きなねえさまがいるだろうよ」
俺だって、お前なんかとはいりたかねーんだよ。
そんな悪態を心の中でつき、陽介も同じことを思ったのか俺とは離れたところにロッカーを借りて、着替え始める。俺も着替えはじめ、ヤツの分のバスタオルとフェイスタオルを投げ、自分の分のはロッカーに収めた。そこからはまあ、とてもつまらない光景なので省かせていただこう。
*
「いっい湯だっなっ! アハハンってか」
「……古」
「一々ケチつけんな」
*
俺と陽介は風呂からあがり、食事などをする座敷へと移動。そして端の席に向かい合わせに腰を下ろした。
「陽介、なんで女ってのはこんなに長風呂なんだ?」
「女風呂いって、確かめてくれば?」
「それはお前の本心だろ」
「……」
「否定はしないんだな」
まあ確かに女風呂って男のロマンがあるよなあ。俺は別にみたいとか思ったことはただの一度もないけど。
陽介とはあまり会話することがなく、俺は持ってきたゲームを開始。既に数回とこの事件は解決しているのだが、まったく問題ない。神ゲーだし。
何回もやっているのには関わらず、苦闘しているうちに佐竹家の女共がやってきた。日向は俺の隣に、姉貴は陽介の隣へ。俺はゲームをセーブして、電源を落とす。
「あーいい湯だったなあ。やっぱ足伸ばせる風呂っていいね」
「なに年寄りくせえこといってんだよ」
同じこと思ってんじゃねえよ。
「まだピッチピチだよ、あたしは」
「さいですか。そんなどうでもいいことより、飯頼もうぜ」
どうでいいとはなんだ、と姉貴から文句を言われた気がしたが、スルー。こういうスキルも磨いておかなければ姉貴とは付き合えない。
さて、と俺をメニューを取り中身を拝見。今日も無難にトンカツ定食でいいかな。
「あたし、イチゴパフェね」
「お姉ちゃんそれご飯じゃない」
「我は食前にイチゴパフェを食べなくばいけず」
「……」
……古文は意味わからん。俺が読んでる本に古文なんて滅多にでてこないしな。
日向も古文はわからなかったみたいで、黙り込んでしまう。恐らく意味がよくわからないんだろうなあ、俺と同じで。
「私は食前にイチゴパフェを食べなければいけない、だよ。わかったかい、活樹くん?」
「俺じゃなくて、日向にいったんだろうが」
「いやあ、活樹が難しそうな顔してたからさ。ちゃんと、勉強しとくように」
なんかすごい負けた気がする。俺に言ったんじゃないってのにな。
それで、そんなやるせない気分のまま晩飯を食すことに。姉貴はイチゴパフェの主張は変えず、結局ヤツは頼みやがった。それに普通のご飯半分近く残したくせに、パフェはたいらげるし。一体どんな腹してやがるんだ。
受験、一応終わりました。
ストック、というより書きかけが何本かありまして、それに加筆訂正などをしていく形になります。
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