布団の中には
ある早朝のことであった。午前七時ぐらいだったろうか、私は目を覚ました。私は布団から出ようと試みたが、朝の寒さが桎梏となったために、私は布団という楽園からなかなか出られないでいた。人間は他の動物にも見られる「体毛」を捨てたために、冬は布団に籠もったり、分厚い外套の袖に腕を通したりしないと生きていけないらしい。むろん私もその一人であった。
私は布団にくるまってただ天井の木目を見た。よく注意して見ていると、ある一つの木目が瞳に、また一つの木目が今度は口に見えてきて、ついに天井というキャンバスに一つの顔が描けてしまった。その顔がなんだか私に似ていたために、その天井に不明瞭に浮かぶ顔に私は少々恐怖を覚えたのである。
「私が大人になったなら、布団とお付き合いすることになりそうだ」
などと、そこらへんの子供でも云わないことを、私は天井を仰いで小さくつぶやいた。
「何してるの?早く起きな!」
母の声が私の耳を刺した。敵に怯える亀みたいに、布団は私の頭から足までのすべてを匿った。布団という牢獄に閉じ込められた囚人は、その狭さを苦しんだ。だがその狭さや暖かさは、彼にとってはたいへん心地よいのであった。
そのとき、私はある妄想を楽しんだ。ずっと布団の中でいるのが無聊であったのだ。もしこの布団の中に広がるのが、また一つの家であったなら、どんなに便利だろうか。こんなことを考えたところで何も生まれない、という反論はあるだろうが、しょうもなくて、時間を浪費するような妄想をすることは私にとってたいそう楽しいことなのである。私は布団の中で、その家の間取りについて考えてみた。
がばっと布団をめくると、玄関になっていて、そこからは廊下が続いている。しばらく歩いた先には三つドアがある。正面のドアを開けると、リビングが広がっている。そこではテレビと机、そして一つの椅子が私を待っている。
右にあるのは襖で、その奥には和室があった。壁は真っ白で、ぐるっと見回すと押し入れがある。私は、この押し入れというのが好きだった。私の家(布団の外)には私の部屋がないので、押し入れの中に入っては、その狭さと目の前に広がる暗黒に、私は妙な安らぎを覚えていた。幼少の時分、私は押し入れの中に入るときに母に見つかってしまい、散らかすなとよく叱られたことが何度かあった。だがここであればいくら押し入れの中で何をしようが叱られることはない。それが分かった瞬間、私はにやりと唇を歪ませた。
左のドアを開けると、そこには壁一面を埋め尽くすほどの本棚が立っている。その本棚を構成しているものたちは、私が最近読み始めた漫画であったり、浩瀚な国語辞典であったりした。その隣には典型的な勉強机があった。これはいわゆる「自分の部屋」だ。それにしてはきわめて贅沢な気がするが、これは妄想であって、架空の家の間取りなど、私の思うままなのだ。
「いつまで布団の中で籠ってるの!早く布団から出なさい」
布団の中が家になっているという幻想は、誰かの手によって簡単に破られた。母はせっかく完成した私の家を取り壊してしまったのである。




