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千堂卓士の選択肢

掲載日:2026/07/18


 人生とは、選択の連続だ。


 何をやるにも、あっちか、それともこっちか……そして選んで後悔するまでがセット。


 そんな選択が連続して起こる人生だが、選択すらもできない出来事もちらほらとある。


 そのうちの一つが『生まれ』だ。


 千堂卓士せんどうたくし十九歳童貞。七つ上の姉、五つ下の妹に挟まれ、息苦しい生活を送っております。


 ……え? なに? 羨ましいこと山の如し? そりゃ姉と妹に挟まれてりゃ息苦しいよな死ねっ! だって? おいおいおい、落ち着けよお前ら。漫画やアニメ、甘ったるくてもはやくどい青春ラノベの見過ぎだ。武器を下せ。


 いいか、お前たちに現実ってもんを見せてやる。現実はそんな甘くはねぇ。お前たちが常日頃から描いている妄想通りには進まねぇんだよ。俺の生活を見終わった頃には、お前たちは涙を流し『辛かったな』と、俺を優しく抱きしめてくれることだろう。



   ♢



「いただきます」「いただきま〜す」


 千堂家の食卓に、俺と妹の声が響く。

 俺たちは隣り合ってはいるものの、特に目を合わせることもなく、目の前に置かれている箸を手に取った。


「お兄ちゃん、とって」

「え? なにを?」

「はぁ? ご飯食べてるんだから、とってって言ったら醤油以外になにがあんの? つーか、少しくらい自分で考えたら? ほんと使えない」

「……」

「なにボーッとしてんのよ! 早くとって!」

「はいはい……」


 こいつは、妹の美奈みな。思春期真っ盛りの中学生。

 身長小さめ、胸も小さめ、しかし態度はかなりデカめ。紺色のボブヘアーを揺らしながら何度も何度も俺に辛辣な言葉を投げつけてくるその姿に、俺は何度涙を流したことか。


 ……ん? なんだって? ツンデレじゃん羨ましいだと? なに言ってんだお前は? ツンデレなんて可愛いもんじゃない。いいかよく聞け、ツンツンツンだ。デレなどどこにも見当たらない。


 美奈が兄貴である俺のことをかなり下に見ていることは、言われなくても充分伝わっている。きっと美奈の中での俺は『ははぁ〜美奈さまぁ〜!』とか言いながらこうべを地に擦り付けて靴をペロペロ舐め回している雑魚オブ雑魚と化してしまっているのだろう。


 なので、そろそろクソ生意気な妹に兄の威厳とやらを見せつけ『お兄ちゃんかっこいい』と言わせてやろうと思ってはいるのだが……なかなか実行に移せない。なぜかって? 


 仮に俺が妹に何かをしたとしよう。そうすると──


「うわーん! お母さぁぁぁん! お兄ちゃんがいじめてくるぅぅぅ!」


 などと平気な顔で嘘を吐き涙を流し──


「卓士ぃぃぃ! 一週間物置の中にぶち込むぞ貴様ぁぁぁ!」


 地上最強の生物『母』が光の速さで召喚され、こちらの勝機はゼロ。有罪確定演出。ヒノキの棒とナベの蓋というクソ雑魚装備で勝てる訳がねぇだろぉがぁぁ!


 末っ子という立場を最大限に活かして攻撃してくるし、スキル『お母さんのご機嫌とり』がほぼMAXなため、母さんからの信頼ゲージもほぼMAaaaXs! こっちがなにを言おうと棄却され、『おっ、今日はいけるんじゃ……!』と思ったいくさも、魔法の言葉『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』が発動し簡単に終戦。俺にはもうどうしようもない。逆らってはいけないと、細胞という細胞に刻み込まれてしまっているのだ……。


「たっく〜ん、おかわりいっぱいあるから、遠慮せず食べてねぇ〜」


 妹の攻撃に疲弊し悲しみのため息を吐き出す俺に、優しい笑顔で優しい言葉を届けてくれる素敵な女性は、姉の真子まこねぇ。


 先ほどの態度を見て分かる通り、妹とは全くと言っていいほどに逆、デレデレデレである。二十六歳社会人、黒髪ロングでお胸もボイン。ナイスバディで外を歩けば男女問わず注目の的になってしまう、俺の姉とは思えないほどに顔もお身体も整いに整ったスーパーお姉ちゃんである。


 ……え? なに? デレデレデレでナイスバディとか、お前を◯す以外の感情が生まれてこない? 待て待て待て落ち着けって。俺の話を聞いてからにしてくれ。いいかお前たち、デレくらいならば俺も『おねぇちゃ〜ん♡ ばぶばぶ♡』みたいなダメ人間となれ果てていたかもしれないが……デレデレデレは、お前たちが思っている何倍もヤバいぞ。


「たっくん、どう? 美味しい?」

「う、うん。すごく美味しいよ」

「よかった〜! お姉ちゃん、今日も一生懸命たっくんのこと思いながら作ったから、美味しいって言ってもらえて嬉しい〜! あっ、たっくん、お姉ちゃんが食べさせてあげよっか?」


 こんなことを平気な顔で言ってくる。


「ねぇたっくん、今日は久しぶりに一緒にお風呂入る?」


 などということも平気な顔で言ってくる。


 ここで俺たちの年齢をおさらいしておこう。


 俺、十九歳。姉、二十六歳。


 入るわけないだろ馬鹿野郎! 俺を社会から抹消したいのかこのやろう!


 姉がこのような、正直引くレベルまで甘ったるくなってしまったのには、しっかりちゃんと原因がある。


 千堂家は美奈が産まれて間も無くして、父が病に倒れてしまい、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。それから姉は、少しでも母の負担を減らしたいという思いから、俺の世話を何から何までするようになった。お弁当作ったりだとか服選んでくれたりだとか、学校の三者面談という親が行くはずの行事も進んで参加し──その結果、彼女にとって俺という存在は『弟』を通り越して『自分の子』に近い存在と化し、手塩にかけて育てたたっくんが、もう可愛くて可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。彼女の瞳に映る俺は、未だに可愛い可愛い小学生のたっくんなのだろう……。


「たっくん、どうしたの? ボーッとして」

「へ? あ、いや、なんでもないよ! 最近ちょっと大学の課題とかが忙しくて、疲れが溜まってるのかも! あ、あはは〜」

「そうなんだ。それじゃあ、今日はお姉ちゃんと一緒に寝る? お姉ちゃんがいつもいつも頑張ってるたっくんに、いっぱいよしよししてあげるね」


 もう一度互いの年齢を確認しておこう。


 俺、十九歳。姉、二十六歳。


 いい加減現実を見ろ馬鹿野郎!


「大学生にもなってお姉ちゃんにベタベタ甘えて……マジキモい」


 俺が一体なにをしたというのだろうか? いやなにもしてませんけど。なにもしてないから現状が変わらないのはわかってるけども……できる訳がないだろう!


 妹には細胞という細胞に逆らうなと刻み込まれているから逆らえないし、姉に現実を見ましょうなんてそんなこと面と向かって言えるわけがない……。お姉ちゃんは青春時代を『卓士を育てる』中心に歩んできたのだ。我慢してきたことなんて山のようにあるだろう。自分のことを後回しにして育ててくれた、いわば第二の母に対し、『いい加減現実を見ろっ! お前の前にいるたっくんは、可愛さのかけらもないただの童貞だぞ! 彼女いない歴=年齢の可哀想な童貞だぞ! 目を覚ませ!』なんて、そんな辛辣なこと言えるわけが……! なにより自身の口からそんな悲しい現実を吐き出したくないぃぃ! 現実を見たくないぃぃぃ! うわぁぁぁ!


 逃げ出したい……こんな息苦しい生活から……!


 逃げ出したい……十九歳童貞という現実から……ん? 十九歳?


 そうだ、俺はもう十九歳だ。大学生だ。大学生ともなれば、高校生よりもバイトとして雇ってくれるところは増えて働きやすいだろうし、なにより一人暮らしも許可が得やすい。俺はもう子供ではなく大人に近い存在……一人でも生きていける存在! そう、つまりは……!



 エッチなゲームを、堂々としていい存在なのだ……!



 これで抜け出せる、息苦しい生活から……! 十九歳童貞という現実から……!

 あちらの世界には素晴らしい甘々な生活が俺を待っているはず……!


 ムフッ! ムフフフフッ! ムフフフフッフフ〜!


 この時の俺は考えもしていなかった。

 エロゲという存在が、俺の人生を大きく変えるものになるなんて。



   ♢



 千堂卓士、十九歳! ただいま、エロゲなうです☆


 いやはや、少々痛い出費となったが、思っていた以上にシナリオが面白いし、なによりこんな可愛い子たちと……ムフッ! ムフフフフッ! なので、俺のテンションはやり始めてからずっと絶好調をキープしている。

 どうしてこんな素晴らしいものを今までやってこなかったのだろうか? 全く、エロゲは最高だぜ。


 俺が今プレイしているエロゲは、魔法の学舎まなびやに通う主人公が仲間たちと共に魔法を学んだり魔物に立ち向かったり悪い人たちと戦ったりムフフなことしたりと、いわゆる王道も王道のストーリー展開。エロゲビギナーの俺にはこれくらいわっかりやすいのがちょうどいいのだ。


 ちなみに、学舎ってことは……と思いの方々、安心してください。こちらに出てくるヒロインたちは、どんな見た目だろうと皆十八歳以上です。


 そしてそして、誰もが気になる攻略対象のヒロインは四名。


 一人目は、この子。


「やぁやぁおにぃーちゃん! 元気してるぅ〜? 鈴は元気いっぱいいっぱい! 今なら宇宙まで飛んでっちゃうかもしれないくらいだよぉ〜!」


 貴様は妹がいるのに妹に手を出すのか? と、思っているそこのあなた。ゲームと現実を一緒にしちゃいかんぞ。それに、俺に妹はいない。我が千堂家の家族構成は、母、姉、俺、大魔王の四人だ。現実見なきゃはお前だよというツッコミはいらん。次行くぞ。


 二人目は、この子。


「もぉ〜また遅刻して……。君ってば、昔から朝起きるの苦手だよね。仕方ないなぁ、私が明日から起こしにいってあげるよ。もちろん、タダじゃないよ? 起こすたびに、私にスイーツ一つ買うのが条件。まぁでも、こーんな可愛い子に毎朝起こしてもらえるんだから、スイーツの一つくらい安いものでしょ? ふふっ、なーんてね」


 軽く舌を出して俺を誘惑してくる、スイーツもぐもぐ系幼馴染。

 世の男子が憧れ夢見る『幼馴染』という存在でありながら、優しいし、可愛いし、完璧才女と思わせておいて隙あればスイーツ片手にもぐもぐもぐ。こんな可愛らしい一面も持ち合わせているんだ、好きにならない理由が見つからないよ。ドッキリにかけられ落とし穴に落ちていく芸人くらいの勢いで恋に落ちる。毎日スイーツ貢いで金欠になるよこれは。ヤバいよヤバいよ。


 三人目は、この子。


「貴様、この私を待たせるとはいい度胸しているではないか。今の今までなにをしていたんだ? まぁ貴様がどんな理由で遅れたであろうと、私の数分を無駄にした罪は許されないがな。構えろ。貴様のその腐り切った性根をここで叩き直してやろう。……なに? それこそ時間の無駄? ははっ、なにを言っている? 間違った道に進もうとしている後輩を正すのも先輩の役目だ。さぁ、つべこべ言わずにかかってこい。こないのならば、こちらからいくぞっ!」


 曲がったことは大嫌い。鬼怖クール系先輩。

 身長高め、目つき鋭め、おっぱいデカめと、圧がかなり強めの先輩なので、精神弱々男子の俺は『くぅ〜ん……!』と怯える子犬と化してしまうので正直なところあまり関わりたくない存在であるのですが、学舎帰りに茂みにしゃがみ込んで「おーどうちたどうちた? 可愛いなぁお前は〜!」と甘々声で子猫と戯れている先輩を目撃し、こちらに気付き大慌てでよくわからないし聞き取れない言葉を吐き出し続けて勢いよく逃走し、後日『俺だけが知る先輩の秘密♡』関係となってしまったとなれば話は別でございます。

 ギャップという強烈な右ストレートを心にぶち込まれ倒れ込む俺は、もうKO寸前。君のことしか考えられない。この後『俺にだけは甘えてくるし弱い顔を見せてクール先輩』になってしまうと思ったら……カンカンカーンッ! 試合終了! 勝者、先輩っ!


 四人目は、この子。


「せんぱ〜いっ! もぉ、どこ行ってたんですかぁ〜? あたし、めっちゃくちゃ探したんですよぉ〜! 今日はあたしの買い物に付き合ってくれるんでしょ〜! ってことで、早速いきましょ〜! ……え? そんなの聞いてない? あれ、言ってませんでしたっけ? んじゃまぁ、今言ったんでそれでよしっ! つーことで、デート開始っ! いこいこ〜!」


 犬のように尻尾振って俺に寄ってくるギャル後輩。

『優しいギャル』それだけですでに百点満点だ。男たちは皆、ギャルに優しくされることに憧れ、夢を見、目覚め、『どうして夢は覚めてしまうのだろう……?』と、何度冷たい涙を流したことだろう。その夢が、今目の前にある。飛びつかない理由ある? ねぇよなぁ!

 しかもこのギャル、優しいだけでは終わらない。普段イケイケで周り気にせず猛アタックしてくる猪突猛進ガールだというのに、こちらからちょっとアタックしてみると「ちょっ! ちょちょちょたんま! まったまった!」とか言いながらめちゃくちゃ顔赤くして恥ずかしがる打たれ弱さまで兼ね備えて……止めてくれギャル氏、そのへきはオレに効く。

 その他にも俺の癖を刺激してくるポイントがいくつもあるし、そもそも『オタクに優しいギャル』については論文並みに語ることができる。ので、長くなりそうなのでこの一言に集約し、本文を終了とさせていただきます。


『はぁぁぁ〜〜〜〜〜ん……しゅきっ♡』


 以上四名が、卓士の攻略ヒロインとなる。

 四人とそれなりに交流を済ませ、選択肢も出てき始め、そろそろ俺の嫁を決めなければならぬ状況と化し……悩みに悩み抜いた、千堂卓士の選択は──


「おにぃちゃ〜ん! 起きてってば〜! ねぇねぇおにぃちゃ〜ん! は〜や〜くぅ〜!」


 俺の妹はこんなに可愛いわけがない? 馬鹿野郎可愛いぞ! 可愛くないのはうちの妹だけだ馬鹿野郎!


 せめて二次元の中だけでも、妹に優しくされたい。兄として扱ってもらいたい。俺が画面や本の向こうで見続けてきた夢を、今ここで実現させたい……! 


 だから俺は妹に手を出す。何も言うな。何を言っても俺は止まらんぞ。


 こうして俺は、妹と二人屋根の下できゃっきゃうふふして仲を深め、深め、深め……ついに、あのイベントがやってきた。




 千堂卓士十九歳童貞……エロゲ経験は、これまでゼロだ。しかし、ゼロの俺でもこれはわかる……!


 次、エッチなシーンだっ!


 落ち着け、落ち着くんだ千堂卓士……! 一旦冷静になろう。ストップしよう。ヘッドホンを外そう。


 ついに……ついにこの時が来たぞ……! エロゲを始めて約三時間……まさかこれほどまで時間がかかるとは……! エロゲなんだし『スッと始めてスッとヤッて卓士くんスッキリッ!』だと思っていたのだが……焦らしに焦らしやがってこのやろう……! 俺様のマグナムはもう限界寸前だぜぇ……! ガラスだろうと岩だろうと妹だろうと、なんだって貫きあんあん言わせてやる……! 恨むなら、焦らしに焦らして俺のマグナムを何度も暴発させようとしたお前たちを恨むことだなぁ! ヒョッヒョッヒョッヒョ〜!


 ……いやしかし、我が妹の鈴ちゃん、よくよく見たらうちの妹に似てなくもないんだよな。身長小さいし、髪型と髪色も似てるし……まぁでもぉ、性格なんて天と地ほどの差があるしぃ〜! お胸だって、うちの妹がよく言って『みかん』だとしたら、我が妹である鈴は『スイカ』でございますよ!


 これがお胸の格差社会っ! 


 まるで、皇帝と奴隷っ!


 これから始まるイベントに、ざわざわ、ざわざわ……!


 さて、周囲から『やれー!』『押せー!』『抱けー!』という声もざわざわ聞こえてきましたので、そろそろいっちゃおうと思います!


 千堂卓士十九歳童貞! 初エロゲ! 初エッチシーン!


 タクシ、イッきまーーーーすっ!


「ねぇお兄ちゃ──」

「シャアァァァァァァァズナブルッ!」

「……頭大丈夫?」

「心配どうもありがとう! め、めめめ珍しいな! お前が俺の部屋に来るなんて! い、いいい一体どうしたというんだ!」

「それはこっちのセリフなんだけど。なんでパソコン抱きしめてんの?」

「へ、あ、いや、これは……あ、あれだあれ! パソコンが、その、い、愛おしくなってな! いつもいつも大学の課題とかこなしてくれてありがとなぁ〜つって! あ、あははは〜!」

「キモすぎてキモい。キモい以外の言葉が見つからない」

「俺のことはどうでもいい! で、な、何しにきたんだよお前は!」

「パソコン貸して」

「……え?」

「だから、パソコン貸して」

「……い、今?」

「今」

「……な、なんで?」

「動画見たいから」

「ど、どどど動画なら、スマホで見ればいいじゃないの! なんでわざわざパソコンで──」

「好きなアイドルのライブ映像なの! だから少しでも大きな画面で見たいの! それくらいわかってよ! ほんと使えない!」

「お、大きな画面がいいなら、リビングのテレビの方が──」

「自分の部屋で一人で楽しみたいに決まってんでしょ! こんなことも言わないとわかんないって、バカなの! アホなの! いいから貸して!」

「あ、や、い、今は──」

「貸して!」

「だ、だから今は──」

「早く!」

「だ、だからね──」

「か・し・て!」


 ま、マズい……マズいマズいマズいぞこれはぁぁぁ……!

 こうなってしまった美奈を止めることは、俺には現状無理なこと! パソコンを手にするまで、美奈はここから動かない! しかしながら、ここでスッと無抵抗でパソコンを渡してしまえば、エッチな画面がこんにちは! 焦らしに焦らされた卓士くんは、我慢できずに自慢のマグナムをすでにもう見せびらかしているかもしれない! まだまだお子ちゃま未成年の美奈にそんなシーンを見せてしまったら、卓士くんはスッキリ前に刑務所前へ! 今後一人で楽しむ時も、この地獄の光景が甦り一人でも楽しめなくなってしまう! 


 父よ! 今、天から俺を見守ってくれているんだろ⁉︎ ならば教えてくれ! 男は、このような危機的状況をどう乗り越えればいいのだ⁉︎


 頼む、教えてくれ! 俺の父として……そして、一人の男として、迷える男子を、救いたまえぇぇぇ!


 千堂卓士の選択肢

・堂々と見せる

・正直に話す ▼

・隠し通す


「み、み、美奈っ!」

「な、なによ?」

「すまん……今は、パソコン貸せない……。だから、出ていってくれないか……?」

「はぁ? なんでよ?」

「お兄ちゃんはな……今、あれなんだ……」

「あれって?」

「……『男の子の時間』、なんだ……!」

「……は?」

「だから、出ていってくれ……! 頼む……!」

「意味わかんないんだけど。男の子の時間って、なに?」

「男の子の時間は、男の子の時間だ……! 男の子の時間が終わり次第、すぐに貸してやる。だから今は──」

「意味わかんないから。さっさとパソコン貸し──」

「美奈ぁぁぁ! 男の子がぁ! 必死にパソコンを隠しぃ! 男の子の時間だと主張しぃ! 女の子にお部屋から出ていってほしいと懇願しているぅ! この意味がぁ! 中学生であるお前ならぁ! わかるはずだぁぁ!」

「だから、意味わかんないって──」

「お兄ちゃんは今ァァ! 男の子の時間なんだァァァ!」

「だーかーらー! 男の子の時間ってなによ! 意味わかん……な……」

「……み、美奈?」

「……も、ももも、もしかして……お、男の子の時間、って……!」


 美奈の顔が、みるみる赤く染まっていく。

 俺はこれ以上美奈を刺激せぬよう、こわばっていた表情を和らげた。


「察してくれたようだな、美奈。ありがとう。お前の、推しをできるだけ大きな画面で一人で楽しみたいという気持ち、お兄ちゃんも痛いほどわかるよ。お兄ちゃん、できる限り早く男の子の時間を終わらせる。だから、ほんの少しでいい……待っていてくれないか?」

「あ、いや、え、えっと、その……だ、大丈夫! す、スマホで見るから! 画面ちっちゃくても大丈夫! うん!」

「え? いやでも──」

「いいの! おっきくてもちっちゃくても、私の推しは推しのままで変わらないから! だ、だから、その……お、お兄ちゃんは、私のこと気にしないで! 男の子の時間も、急がなくていいから! うんうん!」

「み、美奈……!」

「全然、もうほんと、気にしなくていいから! ぱ、パソコンはその、またお兄ちゃんが男の子の時間じゃない時に貸してくれるでいいから! じゃ、じゃあね!」

「美奈……! ありがとう……!」

「……お、お兄ちゃん……」

「どうした、美奈?」

「いや、あの……お、男の子の時間を、その……邪魔して、ごめんなさい……。次から部屋来る時は、ちゃんとノックします……」

「お前、そこまでお兄ちゃんのことを……! ありがとう……ありがとう、美奈……! お前のような素敵な妹がいて、俺は幸せ者さ……!」

「いや、あの……ほんと、ごめん……」


 そう言って、美奈は部屋から出ていった。


 果たしてこれでよかったのだろうか? いやでも、堂々と見せていたら『未成年にエッチな画像見せたざい』で逮捕されてただろうし、隠し通そうとしても『貸して! 無理! 貸して! 無理!』の繰り返しで痺れを切らした美奈が力尽くで奪い取ろうとしてきて取られて中見ていやぁんで逮捕だったろうし……俺の選んだ選択は正しい。そう、正しいんだ。


 エッチなものを見ていると知られてしまった。が、なにを見ているまでは知られていない。そもそも、奴はもう中学生で『男は性欲の塊である』ということは知っているはずだ。つまり、男である兄がエッチな何かを見ていると知っても、男だから仕方ないくらいの軽い気持ちではい終了。兄より推しっ! 兄より推しっ! で俺のことなんて宇宙の彼方へと忘れ去ることだろう。


 ってことで、俺も先ほどの出来事は忘れよう。いるべき場所へと帰還しよう。さぁ、鈴……お兄ちゃんと一緒に、楽しもうなぁ〜! あはは〜あっははは〜! あっふぅぅ〜〜んっ!



   ♢



 兄の部屋から出ていって数十分後──美奈は自室で推しの動画を見ることなく、ベッドで横になり枕を抱き抱え、悶々としていた。


 頭の中で何度も描き出される光景は、パソコンを抱き抱え焦りに焦っている情けない兄の姿──ではなく、その数分後……年頃のせいなのか、兄がどんなものを見ているのか気になってしまった美奈は、いけないとわかっていながらも静かに兄の部屋の扉を再度開き中へ侵入……そして、見てしまった。一枚絵が立ち絵に切り替わる、その時まで。じっくりと。


 もちろん美奈も年頃のため、ある程度の知識はある。初めて見たわけでもないので動揺はしないし、兄が自分に背を向けながら一人不思議な運動を繰り返していたのも『男の子だし』で納得することができた。


 が、美奈の悶々は未だ解消されない。そう……それ以外の理由があるのだ。


(……お、おおお、お兄ちゃんがエッチしてたの……あれ……妹、だよね……? 絶対に妹だよね……? だってあの子、何度も『お兄ちゃん』って呼んでたし、『兄妹なのにイケナイコトしてる』とかなんとか書いてあったし……! やっぱり妹以外の何者でもないよ、あの子! そ、そそそ、それに、あの子……! 髪型も髪色も、私そっくりだった……! も、も、ももも、もしかして、お兄ちゃんって……!)


(私のこと、エッチな目で見ちゃうくらい、好きだってことぉぉぉぉぉぉ⁉︎)


 どうしてそうなる?


(そうだよ! 絶対にそうだよ! だって、私に絶対見られまいと必死にパソコン隠してたし!)


 妹以外を攻略中でも隠すぞ。


(私のような素敵な妹がいて幸せとかなんとか言ってたし!)


 そういう意味で言ったのではない。


(なんか右手勢いよく動かしながら小さい声で『美奈ぁ……美奈ぁ……!』って、言ってた気がするしぃぃぃぃ!)


 卓士は息を荒げていただけであり、つまりそれは美奈の幻聴である。


(そ、そんな……! お兄ちゃんが私のこと、好きだったなんて……! 現実ではどう足掻いたって叶いっこない恋だから、せめてゲームの中だけでも叶えようと思って、私に似たキャラが出てくるゲーム買ってコソコソシュッシュ美奈美奈美奈ってやってたに違いない!)


「う、うぅ……お、お兄ちゃんが、そんな悲しい恋をしていただなんて……! わ、私、これからどんな顔でお兄ちゃんと会えばいいの……?」


 このように、美奈がおかしな勘違いをした結果──


「いただきまーす」「い、いただきます……」

「おかわりいっぱいあるから、遠慮せず食べてねぇ〜」

「……お、おおおお、お兄、ちゃん……!」

「ん? なに?」

「と、ととと、とって……!」

「ん? なにを?」

「お、お醤油……!」

「ん。ほれ」

「あ、あり、ありが、とう……!」

「……ん?」

(あぁぁぁ! 私、お兄ちゃんとどんな顔して話してたっけ⁉︎ どんなふうに接してたっけ⁉︎ わかんなくなっちゃったよぉぉぉ!)


 兄への態度を改めるきっかけとなったおかげで、卓士は美奈から優しく接されるようになるのであった。



   ♢



 千堂卓士、十九歳! ただいま、エロゲなうです☆


 いやはや、エロゲを始めてみてからというものの、俺の私生活はエロゲを始める前よりも豊かなものへと変化していった。


 まず、どれほど理不尽なことがあったとしても『まぁ家帰ればエロゲあるし。妹の鈴が俺を癒してくれるしなぁ〜』くらい軽く考えられるようになり、俺の精神は非常に安定。毎日エブリデイ楽しく過ごせるようになりました。


 あと、これはエロゲの影響なのかはわからないが……妹の鈴、じゃねぇ美奈が優しくなった気がするというか? 毎日息をするように俺に浴びせてきていた心無い言葉も、最近は滅多に聞くことがなくなり、この前なんて買い物帰りにいきなり「て、手を繋ぐくらいなら……い、いいよ」とか、頭上にハテナがこれでもかと生成されるようなこと言ってきたり……。俺の細胞には美奈に逆らうなと刻み込まれているので、もちろん繋がせていただきましたけども。


 当時はなんのことやらわけわかめ状態だったのだが、今思えば、小さい頃一緒に買い物に行った時のことを思い出し、兄に甘えたくなったのかもしれないな。そう思うと、可愛いところもあるもんだな。まぁ、我が妹の鈴には勝てんがな。ガハハハハ!


 さてさて、そんなこんなで妹である鈴と愛を育み、学舎で魔法を学び、魔物を倒し、愛を育み、魔法、魔物、時たま人、愛……の日々を過ごして、数日……ついに、この時がやってきてしまったのだ。


 千堂卓士、十九歳……エロゲを始め、やり続け、いろんな経験をここまで積み重ねてきました。積み重ねた経験が、俺に教えてくれました……。


 次が、妹との最後のエッチだ……!


 落ち着け……落ち着け、千堂卓士……! 一旦歩みを止めよう。深呼吸しよう。ヘッドホンを外そう。


 ……なんだろう、この気持ちは? 興奮はもちろんしている。しているのだが……興奮とは違う何かが、俺の心にまとわりついているというか……。この気持ちは、一体……?


 名前のわからぬ感情きみに、『君の名は……?』そう問おうとした瞬間──俺の頬を、一雫の涙が通過していった。


「……感動……! そうだ、俺は今、感動しているんだ!」


 エロゲを始めるまで、『エッチなシーンだけあればよくね?』そんなことを思っていた。

 エロゲ初心者たちは、俺と同じ考えをしている人たちが多数だろう。


 その者たちに、声を大にして伝えたい。


 それは、間違いであるっ!


 エロゲに最も必要なこと……それは、『エロ』ではない……!



『愛』だ。



『エッチなシーンを見る』この行為だけでも興奮は生まれる。

 だかしかし、彼女たちと関わり、彼女たちと愛を育み、互いのことをよく理解した上でするエッチは……興奮度が、桁違いだ。


 どうして桁違いに興奮度が増すの、だって?

 よくぞ聞いてくれた。お答えしましょう。なぜ相互理解で興奮が増すのか。


 エロゲ初心者の皆さん、こう思ったことはありませんか?


『エロゲの主人公ってキャラデザあるのに全く姿見せなくない? ボイスもないし』と。


 もちろんこちらには理由がございます。ズバリこれは……『あなた』だからです。正確に言いますと、あちらの世界のあなたです。主人公にキャラデザがあるのに全く立ち絵が画面に映らないのも、ヒロインはもちろんモブたちもフルボイスなのに主人公だけボイスがないのも……あなただからです。あなたを、世界に溶け込みやすくするためです。


 他のキャラたちとは違い、目を閉じていては主人公はなにを喋っているのかがわからない。あなた自身が追わなければならない。主人公の言葉を追って、追って、追いかけて……次第に、あなた自身が喋っているような感覚に陥るでしょう。それでいいんです。それが、正解なんです。


 自分が喋っている感覚になると、他のキャラたちと会話しているような感覚になっていきます。その感覚が維持され続けていると……あなたが、ヒロインたちと同じ場所にいるような感覚になるのです。


 察しの良い方々はすでにお気づきでしょう。ですが、最後まで言わせてください。


 立ち絵が全く出てこない? 当たり前じゃないですか! あなた視点なのですから!


 ボイスがない? 当たり前じゃないですか! あなたが喋っているのだから!


 そう、ヒロインの隣に立っているのは、エロゲの主人公ではないっ!


 あなた自身なのだっ!


 つまり、ヒロインとエッチしているのは、主人公ではないっ!


 お前自身が! 大好きな女の子と! 愛する女の子と!


 エッチを、しているのだぁぁぁ!


「くそっ……ちくしょうが……! 今の今まで、気づくことができなかった……! それほどまでに、このストーリーは俺の心に沁み込んで……! エロゲ製作者は、魔法使いなのかよ……!」


『エロシーンまで長いからスキップしたい』『俺は会話を聞きたいんじゃない。エッチがしたいんだ』お前たちの言いたいことはわからなくない。俺だって、できることなら早くヤりたい。


 だがしかし! 騙されたと思ってしっかりストーリーを読んでほしい! 物語に入り込んでほしい! お前たちにも、極上の気持ちよさを味わってほしい!


 愛の素晴らしさを、知ってほしいんだ……!


「でも……でもよぉ……! こんなの、苦しすぎるよ……! 苦しすぎるって……!」


 そう……この魔法にも、デメリットがある。


 世界に深く入り込めば入り込むほど、虚無が広がっていく……。


 そうだ、この世界は──


「いや、違うっ! 偽物なんかじゃないっ! 偽物なんかじゃ!」


 そうだよ、なにバカなこと言ってんだ千堂卓士っ!


 偽物なんかじゃねぇ! 


 妹と……鈴と歩んできた道は、育んできた愛は、してきたエッチは、本物だっ!


 本物なんだよっ!


「……ありがとう……」


 俺の口から、感謝の言葉がこぼれ落ちた。

 まさか、エロゲをしていてこんなことを言うなんてな。

 いや、エロゲをしていたからこそ、言ってしまったんだろうな。


 自然と『ありがとう』が言えてしまう。『ありがとう』が止まらない。


「お兄ちゃん!」


 鈴が俺を呼んでいる。


「わかってるよ。今いく」


 俺は彼女に微笑みながら答え、ヘッドホンを手にし、つぶやいた。


「ありがとうございます……! 貴方様たちのエロゲ、別作品も買わせていただきます……!」


 さぁ行こう。妹の待つ世界へ。

 これはゲームじゃない。

 現実だ。

 現実世界へ、リンクスタート。


「たっく〜んっ!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁすなっ!」

「あら、どうしたの? 大きな声出して?」

「ま、まま真子ねぇ! 部屋入る時はノックしてよ!」

「あっ、ごめんなさい。クッキーが美味しく焼けたから、早くたっくんに食べてほしくて!」

「そ、そ、そうなんだ! もうすぐ大学の課題終わるから、終わったら食べにいくよ!」

「わかったわ! すごく美味しくできたから、たっくんにあ〜んして食べさせてあげるねっ!」

「あ、う、うん……た、楽しみだなぁ〜……」

「ところで、どうしてたっくんはパソコン抱き抱えてるの?」

「え? あ、いや、これは、えっと……! か、課題がもうすぐ終わるって思ったら、すごくすごく嬉しくて! 喜びの表現がデカすぎましたといいますか! あ、あははは〜!」

「そうだったんだ〜! もぉ〜たっくんってば、喜びの表現が独特でとっても可愛い♡ あとで課題頑張ったねって、お姉ちゃんも抱きしめてよしよししてあげるね!」

「あ、ありがとぉ〜……た、楽しみにしてるぅ……」


 あ、危なかったぁぁぁ……! 真子ねぇは美奈と違ってデレデレデレだから、アホみたいな言い訳でもスッと受け入れてくれて……本当によかったぁぁぁ……! なんとかこれで姉にエロゲしていることをバレずに──


「ねぇ、たっくん」

「え? な、なに?」

「大学の課題って、どんなことしてるの?」

「……え?」

「お姉ちゃんに、見せて♡」


 な、なななな、なにぃぃぃぃ⁉︎

 こ、こやつ、一度安心させて希望を見せておいてすぅぅぐ喉元にナイフあててきやがった! 一度安堵してからのこれは、不安や恐怖が倍々の倍だぞ! 心折れるぞ! 性格悪すぎるだろうがぁぁぁ!


 マズい……マズいマズいマズいぞ俺ぇ! どうする……どうするんだ、この状況を!

 いや待て、落ち着け! 真子ねぇは美奈と違い、経験豊富な大人のお姉さんだ。そして俺にデレデレデレだ。だからこそ、ここでエロゲしてますと暴露しても『あらあら、たっくんったら。まぁ、たっくんも年頃の男の子だし、こういったことに興味を示すのも仕方のないことだよね。じゃあ〜……お姉ちゃんがぁ〜、手取り足取りぃ、いろぉ〜んなことを、たっくんに教えて……あ・げ・る♡』みたいな展開になるわけねぇぇぇだろぉがぁぁぁ! なったとしても正直困るが勝つわ! エロゲの世界に入り込みすぎて、脳がエロゲ脳と化してしまっている! 落ち着け落ち着け千堂卓士十九歳ぃぃぃ! 童貞という現実を見ろ! 現実を見て、現実に帰ってこいぃぃぃ!


「たっくん? どうしたの?」


 急げ卓士! ここで時間をかけすぎても、真子ねぇの疑いゲージが上昇していくばかり! これ以上の長考は死を意味する!


 選べ……選ぶんだ千堂卓士! 大丈夫! お前ならできる! 最良の選択肢を、選び抜くことが、お前ならばできるはずだぁぁぁ!


 千堂卓士の選択肢

・堂々と見せる

・正直に話す

・隠し通す ▼


「真子ねぇ……!」

「なに? どうしたの?」

「ごめん……課題は、見せられない……!」

「あら、どうして?」

「この課題は、一人で成し遂げないと意味がないんだ……!」

「そうなの? でも、ちょっと見せるくらいはいいんじゃない? お姉ちゃん、たっくんがどんな課題やってるか気にな──」

「俺は今まで、真子ねぇにずっと頼って生きてきた。でも俺は、もう十九歳なんだ……大人の一歩手前なんだ……! いつまでもいつまでも、真子ねぇに頼ってばかりは嫌なんだ……! 俺だって、立派な弟……いや、立派な一人の男として、真子ねぇの隣に立ちたいんだ!」

「た、たっくん……!」

「正直今、少し課題に詰まってる状態なんだ。だから今真子ねぇに課題を見せたら、俺の甘ったれた心が『真子ねぇ助けて!』といつもの調子で甘えちゃう気がして……。俺は一人の男として成長したい……! だからここは、グッと甘えたい気持ちを我慢して……俺一人で、課題に向き合うよ……!」

「たっ、くん……!」

「でもね、真子ねぇ……俺はまだまだ弱い男だから、真子ねぇを頼らなくちゃいけない日が必ず来る……。その時は、嫌な顔しないで助けてくれると、嬉しいな」

「もちろんだよ、たっくん! 嫌な顔なんてするわけないじゃん! お姉ちゃんは、たっくんが困っていたらどんなことだって手を差し伸べるわ! だから、遠慮なんてしないで! 甘えたい時は、全力でお姉ちゃんに甘えてきていいの! そうしてくれた方が、お姉ちゃんも嬉しいから!」

「ありがとう、お姉ちゃん……! 俺、こんな優しくて弟思いのお姉ちゃんをもてて、すごく幸せだよ……! ありがとう……ありがとう……!」

「私もだよ、たっくん……! 生まれてきてくれてありがとう……! 私、待ってるから……! 今も素敵なたっくんが、もっともっと素敵な人になって私の隣に来てくれるのを、待ってるからね……!」


 そう言って、真子ねぇは出ていった。瞳を潤ませながら。


 なぜ瞳を潤ませていたのだろうか? よくわからない。そんなことよりも、俺の選択は間違っていなかっただろうか……?


 いや待て、後悔するな。あれでよかったんだ。

 もし仮に、堂々と見せていたり正直に言ったりしたら、エロゲをしていることに対しては『あらあらまぁまぁ』くらいの寛大な心で見なかったことにしてくれるだろうけど……我が姉は、愛が鉛どころか山一個分くらい重い。これまで愛情いっぱいに育ててきた弟が、攻略対象にいなかったとはいえ『妹』を選択しただなんて事実を知ってしまったら……『へぇ〜。ふぅ〜ん。そっかそっか。私の愛、まだ足りなかったんだね……♡』みたいなことになり、今まで以上にぃぃいやぁぁぁぁぁぁ! これ以上は考えたくない考えたくないっ! エロゲ通り越してホラゲ展開だわこれは! みたいなことになっていたかもしれないんだ。


 いやしかし、美奈の時とは違い窮地に立たされても冷静に対処できたよな、俺。

 まぁここに来るまでにいろんなことを乗り越えてきたからなぁ。数千体の魔物に囲まれて死にかけたり、悪い人たちに目をつけられて殺されかけたりしてたし……それに比べりゃ、こんなこと屁でもないわ。


 やはりエロゲは人を成長させてくれる素晴らしいものだ。


 エロゲとは、人生の教科書である。


 ぜひ皆様も手に取ってください。人生、変わります。


 俺は妹の鈴に「すぐ戻る」と伝え、脳内で『ちゅっ』し、パソコンを閉じて背を向けた。

 その背はエロゲをする前とは比べ物にならないほど、広く、大きく、たくましく……男らしい背中になっていたことは、言うまでもない。



   ♢



 卓士の部屋から出た真子の顔は、喜びに満ちていた。

 蒸し暑い夏に力強く咲くひまわりにも負けぬ生命力に満ちているその笑みは、真子の足取りをとても軽くしていた。


(うふふ〜! たっくんったら、いつの間にあんなこと言える子に成長してたのかしら……! お姉ちゃん、とっても嬉しくて嬉しくて……たっくん、好き……♡)


 階段を一段一段降りるたびに、脳内では卓士の顔が浮かび上がる。『立派な一人の男として、隣に立ちたい』力強く伝えてくれたあの言葉が、何度も何度も脳内で再生される。


(はぁ〜……♡ 小さい頃のいっぱい甘えてきた可愛いたっくんもいいけど、大きくなったかっこいい素敵なたっくんも……好きっ♡ あんなかっこいいところ見せられちゃったら、お姉ちゃんもう愛が抑えきれなくなっちゃって……たっくんのこと『刺激が強く、人によっては嫌悪感を抱いてしまう恐れがあり、協議を重ねた結果この場にはふさわしくないと判断させていただきました。よって、千堂真子のこちらのセリフはモザイク加工させていただきます。申し訳ございません』ってしちゃうかもだよぉ〜……! ってダメダメダメ! なに考えてるのよ私は! そんなこと絶対にダメなんだからっ! でも、でも……今のこの状態でたっくんの顔見ちゃったら……! あぁ〜んダメェェェ! 今すぐに発散しないと、ダメぇぇぇん!)


 顔を真っ赤に熱らせた真子は、リビングから自室へと光の速さで駆けて行った。

 そして──


「真子ねぇのクッキー楽しみだなぁ〜……って、あれ? 美奈、真子ねぇは?」

「さっきリビング戻ってきたと思ったら、すぐどっかいった」

「そっか。どうしたんだ……今、たっくぅぅぅんって聞こえなかった?」

「気のせいじゃない?」

「そうか、気のせいか。ところで美奈、お前はさっきからどうして俺をジッと見つめているんだ?」

「……さっきまでエッチなゲームしてたんでしょ?」

「ぎくりっ⁉︎」

「や、やっぱり……! どんだけ好きなのよ……! この変態兄貴……!」

「み、美奈……! わかってると思うが、真子ねぇには絶対に言わないでくれよ……!」

「わ、わわわわかってるわよそんなこと! というか、近い! 離れて! このアホ兄貴!」

「あ、す、すまん……」

「きょ、距離感というものはちゃんと考えてよ! 距離感! わかった⁉︎ 叶わない恋で可哀想だとは思うけど、それはそれ! これはこれなんだから!」

「……なにが?」

「あ、いや、その……! な、なんでもない! なんでも! ほら、早くクッキー食べよ!」

「お、おう」


 千堂卓士はアホながらも、素晴らしい勘で選択を間違うことなく『妹にゴミを見るような目で見られて一生を過ごす』『姉に今以上にドロドロの重っ苦しい愛を注がれる』を回避することに成功した。


 しかしながら、人生は選択の連続である。


 これからも千堂卓士は、様々な選択肢が待ち続けているのだ。


 果たして卓士はこの先も、後悔しない選択肢を選び続けることができるのだろうか?


(う〜ん、クッキーめちゃ美味しぃ〜。美味しぃんだけど……そんなことよりも、早くエロゲがしたぁ〜い)


 一人暮らしかエロゲかでエロゲを選択したこいつには、多分無理な話である。


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