The Weight of Memories
“ポックリ、ポックリ、 正義の味方!あなたの 最後の人生使って防衛しましょ! 若い子みんなを守るんだ〜!”
頭の中でテーマソングを歌いながら、必死に走り出す。戦車が弾丸を撃ち出した。弾丸を両手でフットボールを受ける様に捕まえる。
「そのまま前に投げて下さい。軌道は制御します。」
ガチャリとドアを開けたとたん、ムワッとした湿った暑い空気が顔を覆った。
外は42度、アパートは空調を入れとかなければ軽く55度ほど上がってしまう時期。 エアコンをほんの軽くでも入れておかなければ電気製品や何もかも痛む。光熱費が嵩むが軽く空調をつけっぱなしにして出かけたものの、家の中はサウナの様。 エアコンの温度を下げ家の中の気温が下がるを待ちつつ、 空調ジャケットを脱ぎテレビをつける。
“ポックリ、ポックリ、 正義の味方!あなたの 最後の人生使って防衛しましょ! 若い子みんなを守るんだ〜!”
初老のアイドルが踊って歌うから自衛隊のテーマソングが流れてきた…
暑くて白髪が混じり始めた髪の毛を掻き上げながら空調ジャケットをキッチンの椅子にかけた。
私の空調ジャケットは昔ながらのファン扇風機が中側についた古いスタイルだ。空調ジャケットとしてはまだまだ現役で使えるものの 扇風機で空気を送るスタイルなので どうしても膨れた風船の様になってオシャレでもなくむさ苦しさが高い。新しいものはジェル系でスッキリした体にフィットして体の熱を上げず 外構の熱も受けない様ねできている様だ。 なかなか優れものらしいがそれに伴って値段もそこそこする。 最近の空調ジャケットは優れていいものが多いが年金生活の決まった収入ではなかなか手が出ない。
自衛隊のテーマソングは勧誘のコマーシャルだ。 最近の政情で大規模な隊員の募集を余儀なくした政府が、 隊員募集をわかりやすく年配者に配信するためにテーマソングを作曲した。 そういう私自身も、 明日から隊員だ。
最近 始まった戦争で 隊員が大量に必要になったため大規模に募集をし始めた。今回の採用に受かったのはありがたい事だ。
近年の日本人口高年化により60歳以下の防衛官は募集されなくなり すべてが高年齢防衛官となっている。
ジュネーブ協定によりすべてのAiによるオートマッチック攻撃が余るにもターゲットに当たりすぎて人為的ではないとみなされ、無効となったため 昔ながらの徴兵、肉弾戦となり始めた。 まあ、それを守る国も守らない国もあるものの 日本は協定を守るため、苦肉の策として老年戦士団を創ることに決断したのは5年前だ。
初日
駐屯地に行くのかと思っていたのが、初日は事務所にて書類を記入して制服を貰い勤務先を通知されバスで同伴された。
勤務先は 倉庫の様な所で ここがこれからの勤務先になる様だ。 この施設のそばには宿舎がありそこにこれからの寝泊まりになる様だ。
2日目
朝8:00am、朝礼。
今日の日程を申し渡される。
三菱製のKトラに乗り込み指示されて場所にバディと進軍する。
指定された場所は坪60ほどの庭とガレージの付いたなかなか大きな家だ。
訳がわからずバディを見えると 彼は運転席の真ん中にある私と彼を分ける箱を指した。
「明けてそれをつけて下さい。 付け方は簡単ですが、判らなければ聞いて下さい。」
明けてみると小型のパワードスーツが入っていた。 腰、膝と足首に巻きつけるベルト、それに肘、手首と肩につけるパッドが入っていた。使った事はないものの見た事はあったので、トラックを出てつけ始める。
「所で君は 外付けそれともインプラント? 外付けだとアップを入れないとパワードスーツにつながらないから。」
眼尻にある突起を触りアップをダウンロードする。
最近の携帯は 眼球側にインプラントを埋め込む事でネットもメッセージもすべて眼球で操作可能で脳波にもつながっているとかでかなりネットもしやすいなってるらしい。私のは 眼尻に装着させてインプラントに近い作動はするものの脳波にはつながっていないので少し作動が遅い。昔はやった伝導イヤホンに近いらしい。インプラントは最近流行っているものの私たちの年齢層にはさすが恐怖感が強くて普及しなかった。私もさすがに脳波に繋がるなんて怖いし値段のこともあり外付けだ。
二人とも用意ができたので門をくぐると雑草が高く、手で分けながら玄関まで進む。どうやら何年も庭園の整備がされていない様で現状はかなり無惨な状況になっている。元は庭師によって剪定され池も管理されて素晴らしい庭園であったことが窺われる。
バディは持っていたカギでドアを開けると 処狭しとものが詰まっている。ドアを開けてものが流れ出さなかっただけでも奇跡だ。
「必要なものだけ取り出して下さい。これがリストです。あとはすべて廃棄で決まっていますから。 場所が少し曖昧なのは良くあることなので、根気良く探して下さい。この状態でだと フェイスマスクをした方がいいかも知れませんね。」
リストを観ると、1つ目は 先祖代々の位牌、母親の結構指輪 そして本。先の2つは探しやすそうだが 最後の一つはこの家の状況からしてなかなか大変そうだ。
この家は 1年前に 入隊した隊員の家らしい。防衛官になった隊員の 恩恵のひとつ、過去の防衛もしてもらえること。なかなか年を取ると片付けができず過去が溜まっていく。今回は入隊数が多数だったことと60-65歳の隊員が少ないためなかなか隊員の空間解放策を援助できずにいた。私は今年で65歳になるためこの隊に送られてきたとバディに説明された。若い隊員は、 戦場に出されず補佐官として過ごし老年隊員は訓練場に送られる。65歳はまだ若くこちらの作業方が合うらしい。
とりあえず最初の部屋に入った。最近の家では 仏壇も見かけなくなったが この家の持ち主の隊員の年齢時代はまだある家も多いようだ。最初の部屋も段ボールやらなんかプラスチックのケースなとで覆われていたが かろうじて豪華な仏壇が見えた。これは骨が折れそうだと落胆しながら 重そうな障害物を左手手押しやる。グシャと潰れて簡単に端に寄った。 腕のパワードスーツをつい凝視する。小さいのにかなりの力が出る 気をつけなければいけないものだ。
仏壇の前にしゃがみ込み手を合わせる。長い間この行為はしていなかった上この場で必要なのかは判らないが やはり昔からの習慣で手を合わせ、祈る。長い間忘れされた仏壇から位牌を持ち上げ、カバンに入れ立ち上がったところ勢いで箱から出てきたびつくり箱のおもちの様に飛び上がった。パワードスーツの素晴らしさを確認したものの少し恥ずかしくなってキョロキョロと周りを見回した。誰がいるわけでもなのだけど 少し恥ずかしくなった。リストの一つ目完了。
次は二階にある寝室のどこかわからないタンスにある母親の指輪。 バディはリビングルームエリアで指定された本を探していた。二階に上がる階段は沢山の本(これらはすべて探している本とは違うようだ)とチラシが重ねてありなかなか危なさそうだ。
年を重ねると階段の登り降りが億劫になる。足を上げるだけで膝が鳴り 踏めば少しよろつく。 まだ元気で現役のつもりでもこの物の積まれた階段を上がるのは 勇気のいるものだった。 気を取り直して階段を一歩踏んだところ なんとも体が軽い。 普通に歩いている様にスイスイ階段を登った。調子が乗りそうなところを押さえて、気をつけながら上がる。 階段の踊る場も物で埋まっていて2階も壊滅状況。2階には3室とトイレ。どれかの部屋のタンスに探し物はある。少し眩暈がしそうになりながら一番近い部屋にはいる。 ここはどうもオフィスにされていた様で古いコンピュータや今では見なくなったプリンターがあった。 ここには無さそうなので、次の部屋へ向かった。この部屋は 障子ドアになっているので物がドアを邪魔しないことを祈って右に引く。
ドアは 意外にも軽く開いた。 この部屋は他の部屋と違ってものはなく綺麗に整えられていた。 畳は残念ながら古句色褪せているものの綺麗な貝で装飾されたタンスと鏡台が置いてある。ここは隊員の母親の部屋の様だ。
大体装飾品は鏡台の引き出しに入れるものだろうと予想して、引き出しを開けて行く。 うっかりしたことに、どういった形の指輪か確認するのを忘れていたので引き出しにある豪華な指輪のどれが結婚指輪かわからない。 仕方がないのでバディにメッセージを送る。
「結婚指輪の詳細を教えていただけますか?」
返信は早く写真を送ってくれた。 若いカップルが幸せそうにくっついて写っている。女性の手のを拡大して指輪のデザインを確認する。 指輪はプラチナで大きなダイアモンドがついている。 シンプルなデザインだが目立つダイアのおかけで引き出しから探し出すことができた。リストの2つめ完了。
部屋を出て1階に降りる際 3室目の中が見えた。どうも隊員は独身で若い頃はスノーボードとサーフィンを楽しんだ様でボードと沢山の写真がかかっていた。 写真には彼自身の写真が沢山あるが他に誰かと写っているものは無いようだ。
「そちらは、どうですか。本は回収しました。」
バディのメッセージで我に返り1階に戻る。
「本見つかったんですか、あの中から?」
思わず本音が出てしまう。キッチンとリビングルームは一番状態が悪く、あまりにも早く見つけられてバディを尊敬した。
「案外簡単でしたよ。 まあ本の内容が内容なのであたりをつけると探しやすいんです」
そう言って、バディは本を翳した。
“木下家〜歴史200年〜”
どうやら隊員の父親が自費出版した家系図家族の写真を含めた自伝機の様だ。 本のタイトルは金箔で飾られかなり高そうな本の出来である。リビングルームの飾り棚にあった様なので どうやら来客に見せていた様だ。木下家はどうやら長い間この地で栄てきたようだ。 大きな家と庭も納得がいく。
リストの物が集まったので、カギを閉め帰還の準備をする。パワードスーツを脱ぎながら 隊員のアイテムを考える。 アイテムの中には何一つ彼のものはない。 入隊した時に自身の物を持っていったのか知れないが この3つは何か寂しさを感じさせる。彼は結婚もせず子も残さず木下家はこれでお終いだ。そう言う私自身も同じく独り身で子供もいない。私は入隊前にすべてを処分してきたものの今週の予定を見たところみな隊員は“過去の防衛”を 願っている様だ。




