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ある日の殺し屋。  作者: 結城 からく


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1/2

陰鬱な場合

 薄暗い部屋の中、スマートフォンのアラームが鳴り響く。

 目覚めた男は億劫そうに朝食の準備を始めた。

 テレビは今日の星座占いを紹介している。


『ごめんなさーい! 十二位は魚座! 新生活に向けて問題が山積みかも!? ラッキーアイテムは紫色の靴です!』


「最下位か……」


 焼きたてのトーストを齧りつつ、男は暗い顔で落ち込む。

 その後、彼はシャワーを浴びてスーツに着替えると、スマートフォンの通知を確認した。

 通知欄にはメッセージが表示されていた。


「一時間後に第二倉庫……」


 男は戸棚を開く。

 そこには菓子類に紛れて拳銃が置かれていた。

 男は拳銃をズボンのベルトに差し込み、自宅を出発する。


 きっかり一時間後、彼は第二倉庫に到着した。

 そこでは数人の人間が集まり、互いのアタッシュケースを交換している。

 彼らは第三者の来訪に気付いて怒声を上げた。


「おい、誰だてめえ!」


 男は返答せずに拳銃を発砲した。

 正確無比な銃撃は、瞬く間にその場の人間を全滅させる。

 目的を達成した男はスマートフォンでどこかに連絡をした。


 五分後、作業着姿の若い女がやってくる。

 女は気さくな調子で挨拶をした。


「こんにちはー」


「ど、どうも……」


 男は目をそらしつつ答える。

 彼は人とのコミュニケーションが苦手なのだった。


「また派手にやっちゃってますねえ。今回は手強かったですか?」


「いや……それほどでも……」


「ほほう、さすが関東トップの殺し屋は言うことが違いますね」


 女は楽しげに微笑むと、男の背中を叩いて告げた。


「あとはこっちで片付けるんで、先にチーフに報告しといてください!」


「あ、ありがとうございます……」


 男はそそくさと現場を離脱した。

 次に彼が向かった先は、最寄りの牛丼屋だった。

 入店した男は室内を見回し、奥のテーブル先に座るチーフを見つける。


 チーフは五十代くらいの中年男だった。

 ベージュのスーツを着て、紅ショウガをのせた牛丼を頬張っている。


 男はチーフの対面に座った。

 チーフは柔和な表情で会釈する。


「どうも、お疲れ様です」


「お、お疲れ様です」


 テーブルまでやってきた店員が水を置きながら男に尋ねる。


「ご注文は?」


「普通の牛丼……ご飯少なめで」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員は慣れた様子で立ち去った。

 箸を止めたチーフは男に訊く。


「今回の案件も問題ありませんでしたか?」


「ええ……特には」


「それは何よりです。では次の依頼についてご相談したいのですが……」


「あ、あの。実はこの仕事を……辞めようと思ってて……」


 男は勇気を振り絞って告げた。

 チーフは不思議そうに首を傾げる。


「はい? 僕の聞き間違えでしょうか」


「殺し屋を、辞めたい……です」


「なぜですか」


「なんか、向いてなさそうで……人と喋るのも嫌ですし……」


 男は下を向いて答える。

 泳ぐ視線が彼の動揺を端的に表していた。

 チーフは大きく息を吐くと、背筋を伸ばしてニコリと笑った。


「……説得しても無駄のようですね。分かりました」


 チーフがテーブルの呼び出しボタンを押す。

 次の瞬間、店内にいた客や店員が一斉に銃を取り出し、そのすべてを男に向けた。

 チーフは冷徹な眼差しで男に告げる。


「辞めるのは自由ですが、生きて足を洗えるとは限りません」


「処分……ということですね」


「あなたは組織に関わりすぎた。ここで死んでもらいます」


 数分後、牛丼屋から出てきたのは男一人だけだった。

 間もなく建物が爆発し、割れた窓から炎が噴き上がる。

 通行人が仰天する中、男は肩を落として歩く。


「就職……面倒だなぁ……」


 拳銃を捨てた男は、憂鬱な気持ちで帰路に就いた。

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