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第75話『平和(物理)・文明(狂気)・飯(共食い)』

「お肉♪お肉♪ 帰ったらたっべるのだぁ〜♪」


クーがぶんぶん手を振りながら、ご機嫌で前を歩く。


「クーはん、そんなご飯食べるのが楽しみなんやねぇ♪」


白蓮がその横で、にこやかに歩いている。

なんか姉妹……いや、もう一周回って親子みたいだ。


「てか……白蓮さん!? 着いてくんの!?」


白蓮はふふっと微笑むと──

「当たり前です。迎えに来てくれはったんやから♡ もう離れまへん」


「だから誤解だって!? それに一応“六王”なんだろ!? いいのかよ……」


「六王も、うち以外はもうやられてしもうたし……。

それに、ガルザが上手くやるやろ。

それにな……」


白蓮は立ち止まり、透き通るような瞳で空を見上げた。

「“六王”なんて、恐怖の象徴は無くなった方がええんよ……。

これからはあの子もおるし──キュリちゃんなら、アステリオン王国とも上手く仲取り持ってくれるやろ?」


(んー……円満なのか? まぁ、いいならいいか……)


 


──と思った矢先。


後ろを歩いていたちっちゃい悪魔(物理)が口を開いた。


「足痛い〜おぶってぇ〜シュン! ほらぁ〜? 可愛い女の子を背負いたくなるでしょ〜?♡」


白蓮がすかさず乗っかる。


「まぁ背負うても、背中に当たるもん無いとドキドキも出来ませんやろ?

うちが代わりに────」


「はぁ!? ちょっとまた胸弄り……! やっぱりあんたはここで────」


「上等や! 決着つけたるわ!」


「ちょっと待った!! 頼むから……やめてくれ! 本当に大変なことになるから!!」


 


──その瞬間、クーが鼻を“すんすん”と動かした。


「……? どした、クー?」


クーはピタリと足を止め、遠くをじっと見つめた。


そして、手を振り出す。


「あっ! カナなのだぁー♪ ひっさしぶりなのだぁ〜!」


が、次の瞬間。

クーの尻尾がブワッと膨らみ、表情が一変した。


「──逃げるのだぁぁぁぁ!!」


その声と同時にクーが猛ダッシュ。


「へっ? ちょっ……クー?」


俺の疑問など一瞬で吹き飛んだ。


目の前には、メイスを片手に静かに歩み寄るカナの姿があった。


「ひっ……!?」


咄嗟に身を屈める。

直後、背後から──鈍い衝撃音。


振り返ると、カナの一撃を白蓮が扇子でギリギリ受け止めていた。



「──主人様に、新しいゴミがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


カナが鬼神の如くメイスを振り下ろす!

だが、白蓮も黙ってはいなかった。


「流石シュンはん……♡ そりゃ嫁の一人や二人、いて当然ですわなぁ♪」


軽く受け流し、カナの一撃を弾き飛ばす。

そのまま反撃に備えた──が。


 


カナはなぜか両手で顔を覆い、悶絶していた。


「きゃぁぁ♡ 主人様と……お似合いな夫婦だなんてぇ♡♡」


「……なにが起きてんだよ。」


白蓮はその隙を逃さず、にっこりと笑う。


「ほな、カナさん? 正妻はあんたはんやね♪

 うちは側室でええから。よろしくなぁ、カナさん♡」


 


「せ、正妻……?」


カナの手からメイスが、ぽとりと落ちた。


 


唖然とする俺に代わって、リリィが全力でツッコむ。


「あんたたち、それでいいの!?」


 


カナは頬を真っ赤にして、地面をゴロゴロ転がる。


「正妻……正妻……♡♡♡」


白蓮はサラッと髪を整え、微笑んだ。


「大賢者はんの夢は“ハーレム”やろ?

 うちは別に、争う気なんてあらへん。

 ただ、そばにおれるだけで幸せやからなぁ♪」


 


(ま、まさかあのカナを……完全に手玉に取った……!?)


白蓮……恐ろしい女や。


正妻の件にツッコミを入れたかったが、ここで血の惨劇が起きるよりはマシだと思い──

俺は静かに何も言わなかった。


 


代わりに、遠くで震えていたクーを呼び戻し、

俺たちはようやく、自分たちの“国”へと帰るのだった。


 


(……平和って、こんなに怖かったっけ?)





────────────








国の入り口が見えてくる。


「なんか……出かけて帰ってくるたびに、国の発展異常にしてない?」


最後に出た時はまだ木造中心だった街並みが──

いまやレンガ造りに発展を遂げていた。


「こんな急速な発展ってあんの!?」


ガラス窓、魔導式の洋燈、整備された石畳の道。

もはやアステリオン王国と肩を並べるレベルの文明がそこにあった。


「そんなことよりーーーーお肉!なのだぁ!!」


クーが全力で俺と白蓮の手を引き、

街の中心にある食堂へと突撃していく。


リリィは「報告書まとめるから」と言って、ギルドへ。


席に着くや否や、メイドたちが光速で料理を並べ始めた。


「ぇ……? 調理時間とかどうなってんの?

 てか、メイドとか……居たっけ?」


メイドたちはまるで訓練された軍人のように無駄がなく、

料理を運ぶ姿勢も完璧そのものだった。


「……ここ、俺の国だよな? カナ……またなんかした?」


問いかけると、カナはピシッと背筋を伸ばし答える。


「いえ、私はギルの特訓に付き合っておりましたので、

 町の発展には何も関与しておりません。」


(じゃあ誰が……いや、どうなってんだこの国……?)


そんな俺の疑問をよそに、クーはテーブルに突っ伏す勢いで叫んだ。


「美味いのだ〜〜♪」


俺もナイフに手を伸ばそうとして──ふと気づく。


(この肉……アークデーモンの……!?)


白蓮は魔族。つまり、これは──


「ま、まさか共食い……!?」


ハッと白蓮を見る。


「ん〜おいひ♪ 最高やね? クーちゃん♪」


「うまいのだー!」


(やばいやばいやばい! 言いそびれた!! 吐きそう!!)


すると白蓮が、上品にナイフを置いて言った。


「これ……デーモン系の肉やろ?

 ようこんな肉、用意できはりましたなぁ?

 デーモン系の肉は魔族領でも、なかなか食べられへんのに。」


「へっ!? 共食い認識してるの!? しかも褒めてる!!?」


白蓮はにこりと笑う。


「魔族領は食べるもんがのうて、よー他種族を襲って食べるんです。

 せやけどな、魔族を食べると──牛や鶏育てるより何倍も強くなるんや。」


「強くなる……?」


「そうや♪ せやからこの国の民は異常に力持っとるんやろ?

 流石やわぁ、シュン様は♡」


 


全ての記憶が繋がる。


──岩を片手で運ぶ老人。

──木を包丁で切る主婦。


「あの……まさかとは思うけど……

 みんなの“料理”とか“建築”とかも、影響あったり……?」


「まぁ当然あるやろなぁ?

 レベルが上がれば、特技の練度も上がるもんやし。」


「ちょ、ちょっと待った!! 今“レベル”って言った!?

 そんな概念、今初めて聞いたけど!?」


(あの女神ッ……!!

 普通チュートリアルで説明するレベルだろそれぇぇ!!

 異世界来て半年経ってから気づくとか、ある!?)


「も、もしかして……レベル、わかったりする!?」


白蓮は首を傾げた。


「それは無理やな。魔道具が必要やね。」


「魔道具!? それ欲しい!! 

 めっちゃ見たい俺のレベル!! 

 ドラゴン倒したし絶対めっちゃ高い!!

 俺つえーライフ、ついに開幕じゃねぇか!!」


「その魔道具は、どこに!? 今すぐ行く!!」


白蓮は申し訳なさそうに目を伏せた。


「うちは魔族領以外のことはわからへん……ごめんな、シュン様。」


 


その時、背後で静かに立っていたカナが口を開く。


「恐らく……“魔道国家ノールヴェルト連邦”にございます。

 あの国は唯一、今も魔道具の生産を続けていると聞きます。」


「行く!! 今すぐ行く!! 今から行く!!」


カナは無言で部屋を出ると、数分後──

巨大な書類箱を抱えて戻ってきた。


 


「恐れながら……主様の“お仕事”が山積みでございます。」


 


俺はナイフを落とした。


(……俺の異世界生活、終わってた。)


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