第73話『幕引き』
ガルザの姿をした魔王が拳を叩きつける。
地面が裂け、火柱が奔る。
「っ……危なっ!」
リリィは地を蹴り、滑るように炎を避けた。
「白蓮! 私が前で錯乱するから引き立て役よろしく♡」
「いちいち勘に触る言い方やね!
まぁたのむで?」
白蓮が扇子を広げ、氷の魔力を纏う。
その魔力が炎に呑まれかける瞬間、背後のキュリが両手をかざした。
「……吸収阻止、展開しますっ!」
キュリの緑光が白蓮の魔力を包み、氷が地を這った。
花弁のような氷結陣が咲き誇り、刹那——空気ごと凍る。
だが直後、魔王の身体から迸る炎が全てを飲み込む。
灼熱の奔流が氷を砕いた瞬間、リリィのナイフ群が光を引いて飛ぶ。
「うっざいのよその顔!!」
火炎を振り払う魔王の動作より早く、クーが影のように滑り込み、
牙を剥いた笑顔のまま、右腕を叩き斬った。
「その腕、いらないのだぁ!」
「ほう……」
魔王が低く笑い、口元を吊り上げた。
その瞬間、クーの足元が光を放つ。
「爆ぜろ」
轟音。
地面が跳ね上がり、爆炎がクーを包む。
リリィが短剣を交差させ爆煙に突っ込み、
灰の中から飛び出してきたクーと同時に連撃を叩き込む。
「ヒヤッとするじゃない?!」
「ふふっ、まだまだやれるのだぁ!」
魔王の拳が振り下ろされる。
だが、ガリウスが咆哮とともに前へ出た。
「第三戦技・鋼壁!!」
両腕を交差させて受け止めた衝撃が地を鳴らす。
白蓮はその隙を逃さず、扇を一閃。
「凍りなさい、《雪見ノ檻》!」
氷が爆ぜ、魔王の両腕を封じた。
「──両腕、貰ったわ」
「楽勝♡」
息を荒げながらも、リリィは笑みを浮かべる。
白蓮も苦笑して扇を閉じた。
だが——その笑みが消えるのは、一瞬後だった。
「中々やるではないか。……人の戦い方とやらでは、俺には不利らしい」
魔王が呟いた。
そして、赤黒い魔力が地を這い昇り、頭上に巨大な火球が形成されていく。
「なっ……何よあれ、冗談でしょ……?」
「冗談やないわ。あんなん落ちたら……灰すら残らん」
リリィの口から乾いた笑いが漏れる。
「白蓮殿! キュリ殿! 魔法で防壁を!!」
ガリウスが叫び、再び戦技を構える。
白蓮とキュリが同時に詠唱を重ね、氷と風の防壁を張り巡らせた。
だが、魔王が魔力を纏った瞬間——両腕が再生し、同時に火球を押し出す。
炎が天を裂き、氷壁を叩き割った。
「ガリウス様っ!!」
防壁が砕け、衝撃が大地をえぐる。
ガリウスは体で受け止めようとするが、瞬時に吹き飛ばされた。
白蓮はキュリを氷の中に包み込み、自らの体で庇う。
「っ、耐えて……!」
リリィとクーは同時に跳び、灼熱の塊へ突撃した。
「クー! 一気に押さえるよ!」
「うんっ、負けないのだぁ!」
二人が両側から火球を受け止める。
短剣と爪が火花を散らし、爆ぜる熱気が肌を焼く。
「ぐっ……押さえて……っ!」
「うぅぅ……あっついのだぁぁぁ!!」
地面が溶け、足が沈む。
それでも、二人は後退しない。
「クー! 耐えて!!」
「リリィもがんばるのだぁっ!!」
火球が脈打ち、空気が震える。
限界の中で、二人は叫んだ。
「──まだだっ!!!」
「もう少し……もうちょっとだけなのだぁ!!」
だが次の瞬間、
火球の中心が歪み、爆ぜた。
轟音が走り、閃光が弾け、熱が爆ぜた。
世界は、白に呑まれた。
風が吹き抜けたあとには、
誰も、動かなくなっていた。
「……幕引きのようだな」
魔王は焼け野原をゆっくりと歩く。
崩れた大地の上で、まだ息のあるキュリのもとへと立ち、無慈悲に見下ろした。
「貴様の願いなど、この程度だ。
いつの世も、強者の一振りで儚く散る。
──願いも望みも、弱者の戯言にすぎん」
拳が振り上げられた、その時だった。
静寂を裂くように、背後から足音が響く。
「やり残したことを片付けに来てみれば……随分と面白い光景じゃないか」
魔王はゆっくりと振り返る。
その視線の先には、悠然と立つ男の姿があった。
「貴様は……確か、シュンとか言ったか。
一足、遅かったようだな……」
焼け野原に立つシュンは、倒れ伏す仲間たちを一瞥した。
静かに手を翳し、低く呟く。
「全く、ここまで愚かとは……。まぁ、彼奴らしいが」
淡い光が広がり、横たわる皆の身体を包む。
癒しとも再生ともつかぬ、透明な光の膜が大地に漂った。
「ほう?俺の前で堂々と……随分と舐められたものだな」
魔王の額に血管が浮かぶ。
拳に魔力を凝縮させ、一瞬で距離を詰め──シュンへ叩き込む。
衝撃波が地を揺らした。
しかし、シュンは微動だにしない。
「……あまりはしゃぐな。この器は脆いのだ」
その穏やかな声に、魔王の目が見開かれた。
ガルザの記憶では、目の前の男は魔法こそ扱えど、
この速度、この強度を持つ結界を展開できる存在ではなかったはずだ。
「貴様……何者だ? いや、どうでも良い。
このまま灰となれ!」
炎が天を突く。
魔王の拳から放たれた灼熱が、シュンの全身を包み込む。
だが──
「……だから言ったろう。はしゃぐな、と。
この俺に、二度も同じ言葉を言わせるな──阿呆が」
炎の中から、声が響いた。
次の瞬間、光が爆ぜ、
シュンの掌から伸びた光線が魔王の両脚を貫いた。
魔王が膝をつく。
その前で、シュンは静かに笑みを浮かべる。
「丁度いい。
私の前で“魔王”を名乗ったこと、
そして愚かにも拳を振るった勇気を讃え──少し遊んでやろう」
膨れ上がる魔力。
シュンを包んでいた業火が、風もなく霧散する。
代わりに、空を覆い尽くすほどの巨大な魔法陣が広がった。
「さぁ──自称“魔王”よ。
このふざけた力の前で、存分に踊って見せろ」
叫びとともに、魔王の両脚が再生する。
ガルザを取り込んだその肉体は、魔石の力を最大限に発動し、
上空の魔法陣から流れ込む魔力を吸収し始めた。
「俺に魔法だと? 通じると思ったか!? そんなものは──!」
シュンは小さく笑い、指先で空を指した。
「どうした? その程度の吸収で、何か変わるとでも?」
「なに……!?」
直後、空が閃光で満ちる。
魔法陣ひとつひとつから、各属性の最上位魔法が降り注いだ。
火、氷、雷、風──大地を穿つ全属性の奔流が、魔王を呑み込む。
「貴様の魔力が尽きるまで、耐え切ってやるわ!
俺の魔力は無尽蔵……全てを吸収し、耐えれば──!」
轟音の中、シュンはゆっくりと歩を進める。
自らに結界を張りながら、暴風と熱の奔流を悠然と歩く。
「大賢者の魔法……やはり理すらも捻じ曲げる。
この器も、とんでもないものを背負わされたものだ」
魔王を名乗るそれは、全身から血を噴きながらも、
なお魔法を吸収し、耐えようと足掻く。
シュンはその様子を静かに見つめた。
「愚かだな。ここまで見せても、我が誰かわからんとは……」
次の瞬間、魔王は膝をつく。
血と魔力が地を染め、声が震える。
「誰かわからんだと!? 貴様は……シュンではないのか?」
シュンは立ち止まり、膝をつく魔王を見下ろす。
その表情には、慈悲も怒りもなかった。
「その姿勢……久しいな。
アークデーモンよ。まさか我に成り代わり、“魔王”を名乗るとはな」
魔王の瞳が大きく見開かれた。
恐怖と悟りが同時に浮かび、声が震える。
「……ま、魔王様……?」
「永遠の眠りをもって、貴様の不敬は許そう」
シュン──いや、“真の魔王”が手を翳す。
次の瞬間、上空の魔法陣が白光に弾け、
降り注ぐ最上位魔法の威力が一気に跳ね上がった。
天地が裂け、光が世界を覆う。
そして──偽りの魔王は、声ひとつ残さずその光に呑まれた。
祝・15000PV突破記念
──質問コーナーで、カオスが爆裂!?あとがき小話──
Q1:読者の皆さんにあだ名をつけてください!
カナ「そうですね……主様を支える崇高なしもべ、といったところでしょうか。
感謝してください、選ばれし読者様──ああ主様、そのようにお美しいお方を支えるだなんて、読者様はどれほど尊き存在か……その愛が、忠誠が、献身が────(※以下略)」
クー「えっとー……ひじょーしょ…………かわいいおともだち、なのだーっ♪」
白蓮「うちから見たら……読者様は、作者が物語を紡ぐための……もうひとりの主人公やと思うわ。
誰かが“見てくれてる”って、それだけで、この世界は前に進めるんやで?」
リリィ「え〜〜? 読者様ってばぁ、リリィちゃんの美貌と魅力に即落ち♡
も〜ぉ♡ しょうがないな〜♡ ザコザコの変態さんたち♡ ちょろ〜〜〜♡」
シュン「……お前ら、それ普通に炎上案件だぞ……」
Q2:シュンってあなたにとって何?
カナ「それは……崇高にして至高、究極にして絶対……世界にたったひとりの主様──!
あぁ、あなたの全てが素晴らしい……息づかい、髪の流れ、まばたき一回すら尊い……いずれは私が妻に────(※暴走中)」
クー「主様なのだ〜! なでなでが超上手いのだ〜♪ あと、いっぱいなでなでしてくれるから好き!」
白蓮「それを聞いちゃうんやな……?
うちにとっては……その……“運命のおひと”や。ふふ……ほんまに、ずっと、待ってたんやから」
リリィ「べ、別にその……リリィちゃんの呪いを解けるかも……ってだけで……その……
ちょっ、何期待してるのよっ!? ば、ばーか!!」
シュン「…………え、俺ってもしかして、割と本気で愛されてる……?」
(↑たぶん勘違い)
Q3:あなたにとって、作者とは?
カナ「ゴミ。……いえ、ゴミに失礼でしたね? ゴミには再利用価値がありますが、作者は一切ございませんので───
ということで、“存在価値の無い廃棄物”ということでファイナルアンサーを。主様に関わらないで頂きたい……真剣に……」
クー「ん〜? びみょ〜に……おいしそうではないのだー……。たぶん賞味期限切れてるのだ〜」
白蓮「まぁ……運命のお人と出会わせてくれたのは、ええことやったと思う。
けど……その先をどう導くかは、こっち次第やろな」
リリィ「私たちみたいな超ド癖つよ〜〜♡なキャラを生み出しといてぇ〜
よく恥ずかしげもなく“自分で書いてます”とか言えるなぁ?♡
ねぇ、ちょっとドMすぎじゃない? ド変態♡ きっもぉ〜♡♡」
作者(……泣いていいですか? てか、誰か一人くらい味方いてもよくない?)
シュン「……大丈夫。俺も、いつも不憫だから」
──ということで。
**祝・15000PV突破、本当にありがとうございます!**
キャラも物語も、どんどん転がってカオスになっていきますが、
“読者様の存在”こそが、作品を動かす一番の魔力です!
これからも、
崩壊ギリギリのテンションで、爆走していきます!
引き続き、ブクマ・評価・応援──
何卒よろしくお願いいたしますっ!




