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第71話『キュリの勇気と、俺の断末魔』


俺はキュリの横の机に置かれた鍵を見ながら、思った。


 


「……なんか、上、揺れてね!?」


 


天井の埃がぱらぱらと落ちてくる。地鳴り。振動。これは明らかに“ただの建物の軋み”じゃない。


 


「もしかして…………皆さんが戦っているのでしょうか?……」


キュリが不安げに呟く。


 


「うん、多分そうだな。もしかしたら、俺も“痛い思い”する前に脱出できるかも!」


心がウキウキする。


だってクーがいる。リリィもいる。さらに変な妖狐の女の人(※強い)が増えた。


 


──正直、大丈夫だろ。たぶん。


 


「ガルザさん…………」


キュリが心配そうに呟く。


その声で、俺もふと思い出した。


 


クーとリリィ…………あいつら、手加減とかしなさそう……


善人か悪人かとか以前に、たぶん“ノリで吹っ飛ばす”。


 


(あの……良い人っぽかった話を聞いた直後に……)


 


クー「たいわしてガッてやったのだぁー♪」


リリィ「雑魚すぎてぇ〜殺しちゃった♡」


 


──うん。笑えない。


 


「なんとか止めないと!?」


 


俺はガシャガシャと鎖を引っ張る!


 


その様子を見て、キュリも慌てて自分の鎖を引っ張り始めた。


 


「シュンさん! 鎖の右側の天井に……亀裂が!」


「えっ!?」


 


よく見れば、確かに。キュリの鎖が繋がっている天井、そこに小さな亀裂が走ってる。


 


「これは……ワンチャンあるぞ!!」


 


俺は顔を真っ赤にしながら、キュリの鎖に足をかける!


地味に筋トレだけはしてたから、身体の柔らかさと体幹は無駄にある!


 


「全力で引っ張ります!!」


キュリがガシャガシャと、全力で鎖を引く!


 


「うぉぉぉぉぉぉ!! 燃えろ俺の腹筋!! 唸れ俺の脚力!!」


 


そして上から、さらに強烈な振動が!


ゴゴゴゴッ!


 


「いけぇぇぇぇぇぇええええ!」


 


ガチャンッ!!


 


ボルトが天井から外れた。


 


「よっっしゃぁぁぁあああ!!!」


「わぁぁっ! やりましたよ、シュンさん!!」


 


キュリの片手が自由になり、ギリギリで机の鍵へ届くようになった。


 


「ん〜〜、あと少し……!」


キュリがぷるぷるしながら手を伸ばして──


 


──足音。


外から、誰かが戻ってくる音が聞こえた。


 


「やば!? 戻ってきたぞ!? 急げキュリ!!」


 


「わかって……ます……けど……!」


 


指先がギリギリ鍵に触れ──


カチャッ


 


「とれました!」


キュリは慌てて自分の足枷の鍵を外す!


 


「早く、俺のも!」


 


「はい! 今──」


 


ドォンッ!


強烈な振動が再び部屋を揺らす!


キュリの手から鍵が、ころんっと落ちた。


 


「あーーーっ!? おい! 早く!来ちゃうから!!」


 


「ふぇぇぇん……ごめんなさいぃ……!」


 


キュリが床に這いつくばって鍵を探す!


足音は──もう、扉のすぐそこだ!


 


「早くっ!! 早くっ!! そっちだって!!」


 


するとキュリがそちらを見て、小さく呟く。


 


「え……でも……シュンさんは……?」


 


「だから早くっ!!(俺の鍵取って!開けてぇぇぇえ!)」


 


「…………わかりました! シュンさんの“想い”、無駄にしません!」


 


「は?」


 


キュリは涙をぬぐい、そっちの扉へ駆け出す!


 


(シュンさん……私を逃がすために、自分を犠牲に……?)

「──シュンさん! 必ず皆さんを助けてみせます!!」


 


「ちげぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!

 俺の鍵あけてけぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!」


 


バタンッ!


直後、扉が開く。


 


「お待たせぇぇぇぇぇぇ♪」


 


グリーン・モンスター、リングイン




 


「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあ!!」


 




俺の悲鳴を背に──


 


キュリは涙をぬぐいながら、走っていた。


さっきまでの泣き虫とは違う。

もう誰かに守られるだけの少女ではなかった。


 


──シュンさんを信じて、今度は“自分が守る番”。




「シュンさんの“想い”、無駄にしません!」


 


その決意が、彼女の足を真っ直ぐ未来へと向かわせる。



──────



──そして、残されたのは俺だけだった。


 


 


グリーンモンスターことマリーは、俺の隣にキュリがいないことに気づいた。

その表情に一瞬、戸惑いが走る。

けれど、それは一瞬だけだった。


 


「……キュリを、逃したのね?」


 


マリーの声は、妙に穏やかだった。

だが、その瞳の奥には疑念と警戒、そして“理解不能”という色が浮かんでいる。


 


「あなた……わざとここに残ったの? 狙いは何? ……読めない。理解できない。

 やっぱりあなたは……ガルザ様の仰る通り、底が知れない……」


 


(いや違うんだよ……ただ、置いてかれただけなんだよ……)


 


もう、訂正する気力もない。

言っても信じてくれないのは、よく分かってる。

だから俺は、全力で“生存本能”だけを口にした。


 


「痛いのいぃぃぃやぁぁぁぁ!! せめて優しく! 優しくしてぇぇぇぇ!!」


 


マリーは、まるで“未知の兵器”を見るような目で俺を見つめた。

そして、冷ややかに呟く。

「ここに来て……愚者を演じるのね。

 ……恐ろしい。」




俺は泣きべそをかきながら

「もう愚者でいいよぉ……見逃して…………」

 


彼女は静かに立ち上がり、手にしていた儀式具を次々と床に配置しはじめた。

金属の軋み。魔石の共鳴音。

壁際に置かれた球体の中では、どろりとした液体が蠢いている。


 


「ちょっ……なにそれ!? 怖いんだけど!?

 えっ、目玉? それ目玉だよね!? お前なんでそんなもん持ってんの!?」


 


俺は涙と鼻水を垂らしながら叫ぶ。

けれどマリーの表情は、もはや決意に染まっていた。


 


「あなたの知略の底が見えない……。

 きっとこの術式の効果範囲すら、あなたの想定内……。

 ……このままあなたを生かしておけば、確実にガルザ様の障害になる。

 ならば私は、この命をもって――排除する!」


 


俺の足元の床が、ぞわぞわと動き出した。

配置された奇妙な道具が、カタカタと揺れ、何かが笑う音がする。


 


「おい……おいおいおい……なんか今、笑ったぞ!? 下の人形みたいなの笑ったぞ!?!?!?」


 


マリーは両手をかざし、魔力を注ぎ込む。


 


「いくらあなたが知略に富んでいようと……我らが種族に伝わる秘術は知らないでしょ?」


 


マリーの声が重なり、部屋の空気が軋む。


「魂入れ替えの秘術…………。

 魂の“格”に応じて、強ければ弱い魂を、弱ければ強い魂を呼び寄せる。

 本来なら、あなたほどの核なら──下級悪魔との交換のはず。

 操れないのは残念だけれど……もう手段を選んでる場合じゃないのよ。」


 


「いやいやいやいや待って!? なにそれ怖っ!? 

 乗っ取られるとか一番やばいやつじゃん!!!

 ちょ、話そう!? たいわ! たいわ大事!! ねぇ!? たいわ!! たいわぁぁぁぁぁ!!」


 


マリーは薄く笑みを浮かべ、まるで祈るように囁いた。


「……“対話”。ようやく焦りを見せたわね……。

 その焦りさえ、あなたの計算に見える。……やはり、底が深い。

 ガルザ様、このマリー、命に代えても使命を果たします……!」


 


「話聞けよこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 


床の陣が一斉に光を放ち、重い空気が部屋を押し潰す。

黒い液体のような何かが、足元から這い上がってくる。


 


──熱くも、冷たくもない。

ただ、“生きた何か”が、俺の中に侵入してくる感覚だけがあった。


 


「やだやだやだやだ!! ほんとに入ってる!? 俺の中、誰か入ってるぅぅぅぅぅ!!??」


 


マリーの目が涙で滲む。

それでも、止めない。

祈るように、狂うように、声を上げた。


「どうか……この方に、魔の力を……!」


 


──その瞬間、世界が裏返った。


 


視界が反転する。

音が消え、時間が止まり──

心の奥底に、誰かの声が響く。


 


> 『……我が器は……ずいぶん、脆いな。』


 


「え、え? え? だ、誰ぇぇぇ!?!?!?」


 


──そして俺は、闇に呑まれた。


最後に見たのは、マリーの涙と笑みが混じった、あの顔だった。

作者の独り言(掘り出されないであろう解説)


どうも作者です。

一生誰にも聞かれないであろう裏話を、勝手にやります。

Q&Aコーナー、スタート。



Q1. ファルカンの魔力吸収で町の犠牲者が出なかったのは?


A. シュンとカナが、ほぼ全部肩代わりしてたからです。

シュンは無自覚に、カナは意図的に。

特にカナは、シュンの負担を少しでも減らそうと自分の魔力をわざと放出していました。

──なので、ファルカン戦のカナはちょっと弱ってたわけです。

(あれ、地味に命削ってたんですよ)



Q2. シュンがリリィ戦で放った“ポワポワ風玉”、弱くね?


A. 実は大賢者短編のラストで放ったものと同じです。

初級魔法なのに「近接戦特化」にチューンしたトンデモ魔法。

威力を極限まで上げ、速度を完全に捨てた一発。

接近してくる相手を、鎧ごと削るための“盾割り玉”です。

詠唱も短く、実戦ではかなり便利。

……が、そんな改造できるのは大賢者クラスだけ。


なおシュンはその辺りをまったく知らず、

「遅い! 使えねぇ!」とか言ってました。

(彼の中ではただの“ポワポワ玉”)



Q3. 現状で一番強いのは誰?


A. ……ベルヴァインを覚えていますか?彼です。

次点を挙げるとすれば…………魔族領編のラストで明らかになります。

ヒントだけ言うなら──“格”が違うやつがいます。



他にも色々ありますが、とりあえず今日はこのへんで。


ちなみに作者的お気に入りキャラは白蓮です。

でも読者人気は……どう考えてもリリィがぶっちぎり説。

(あんなに口悪いのに……)


キャラは今後も増えます。

そしてたぶん、また暴れます。


──ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。

次回も、笑って読んでやってください。

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