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第63話「狐と小悪魔、殺意の笑み」

ガルザは──

監視に差し向けた〈しもべ〉から届いた映像を見つめながら、無意識に喉を鳴らした。

感情を表に出すことなど皆無な彼の眉間が、微かに歪む。


 


「……あの“シュン”とかいう者は、いったいどこまで──読み切っている……?」


 


画面の中で展開されていたのは、連続する“出来すぎた結果”だった。


 


古竜王の撃破。


妖狐族の懐柔。


そして──

たった一人を先行させての、ガリウス救出と死霊王の撃破。


 


偶然にしては──出来すぎている。


 


だがそれ以上に、ガルザが戦慄を覚えたのは──


 


その“中心人物”が、映像の中で泣きながら全力で走っていたという事実だった。


 


「……これほどの魔法を操れる者が、凡才……いや、“道化”を演じている……?」


 


 


──ガルザだけが知る事実がある。


 


リリィが、アステリオン王国で撃破したファルカン。


 


あれは“六王”すらも超える存在だった。


 


だが、その怪物を撃ち落としたのは──

誰も気づいていない**《魔弾》**だった。


 


全員が「第九戦技が決め手だった」と誤認している。


だが本当は──あの魔法だけが、ファルカンの命を絶った。


 


見切れぬ速度で、確実に急所を貫いた魔力。


その軌道も、意図も、誰ひとり理解していない。


 


(あの男──“わざと”理解させていないのか……?)


 


戦場の全容を読み、仕掛け、立ち回り、道化を演じる。


しかも、誰よりも“目立たない”形で──確実に、殺している。


 


 


それほどの存在が。


今は、“凡人の皮”を被り──笑われながら歩いている。


 


 



「しぬぅぅぅ……す……少しだけゆっくり……クーー!」


「大賢者はん♡うちがお膝で少しお休みに────」


「なるかぁぁぁ!? さっきから何なのこの人!?」


 




 


「……危険だな」


 


呟きは、静かで低い。


だがその声には、“本能的な警戒”が滲んでいた。


 


「……放置すれば、間違いなく……やつの魔法は、この身を滅ぼしに来る」


 


その歩き方すら“演出”だとすれば──

もはや、計り知れない。


 


「“道化”すら、計算のうち……か」



 


「おい、マリーはいるか」


 


影の中から、すっと現れたのは一人の魔族の女。


沈んだ瞳と張り詰めた空気を纏う、“精神魔法”の使い手。


 


「何でしょう、ガルザ様」


 


 


「──あの者を、捕らえろ」


「お前の“精神魔法”でな」


 


「承知致しました……必ずやご期待に」


 


 


そのまま、闇に溶けるように姿を消す。


 


 


「……あとは、残りの王を“防衛”につかせろ」


「俺は──“儀式”に入る」


 


 


魔王復活と、“あの青年”への警戒。


──その両輪が、静かに世界を変え始めていた。




────────────








戦いを終えたガリウスとリリィは、聖堂の瓦礫の上で大の字になって倒れていた。

呼吸は荒く、衣服は血と土で汚れ切っている。

それでも、二人は生きていた。


 


その場にようやく、シュンたちが駆けつける。

 


「わー!お菓子くれる人なのだー!」


 


クーが真っ先に飛びついてリリィに抱きついた。


 


「ちょっ!? 離しなさい、馬鹿犬!」


 


「……っはぁ、はぁ……」

俺は身体を引きずるようにして、ガリウスの元に駆け寄る。


 


「大丈夫ですか!? 怪我は──」


 


「あぁ……問題は無い……ちょっと肋が数本な……」


 


「“ちょっと”じゃないですけど!? でも……無事でよかった……」

俺は安堵しつつ辺りをキョロキョロ見回す。

だが──そこにあったのは、変わり果てた屍の山だった。


 


言葉を失った俺を見て、ガリウスが空気を変えるように声を張る。


 


「それにしても、救援がシュン殿にクー殿、そしてリリィ殿とは……随分と頼もしいものだな!」


 


力強い笑みに、思わず頷きかけたその時。


 


「そして……その後ろにおられるのは?」


 


ガリウスの視線は、白蓮に注がれていた。


 


「あー……えっと、俺もよくわからないんですけど……さっき知り合って……」


振り返った俺の視界に飛び込んできたのは──

宿敵を見据えるかのような険しい瞳。


白蓮が、リリィを睨みつけていた。


 


「えっ? なんで今度は怒ってんの!?」


 


俺の狼狽をよそに──


 


「ちょっ! くすぐったいってば! やめ! やめなさい!」


「んー、お菓子かくしもってるのだぁー! だすのだぁー!」


 


相変わらずクーとリリィはじゃれ合っている。


 


──だが次の瞬間。


氷の氷柱が、リリィめがけて飛来した。


 


「──っ!」


クーが咄嗟にリリィを突き飛ばす。

紙一重で、氷柱は地に突き刺さった。


 


「白蓮! 何するのだ! 危ないのだ!」


 


「どうしたんだよ急に!?」


 


俺たちが叫ぶ。

だが、白蓮は険しい表情のまま一歩も退かない。


 


「……ごめんな、大賢者はん。クーはん……」


 


その声は震えず、ただ深い怒りに満ちていた。


 


「──でも、その女だけは……生かしとくわけにはいかんのや」


 


白蓮の瞳は、冷え切った殺意でリリィを射抜いていた。




リリィがゆっくりと短剣を構える。

口元には挑発的な笑み。


「妖狐族が残ってるって聞いた時、まさかとは思ったけど……あの夜の小狐ちゃんだったのね♡」


 


白蓮は扇子を開き、静かに魔力を解き放つ。

冷ややかな眼差しがリリィを射抜いた。


「えぇ、生きとります。泣き虫やった子供だけがな……。でも百年経っても顔ひとつ変わらんあんたを見てると──どっちが化け物か、わからへんわ」


 


「アハ♡ 化け物でも可愛いなら得じゃない?」

リリィは肩をすくめて笑う。


「可愛い、ね……若さに縋る女ほど、その言葉を欲しがるもんや。滑稽やわ」


 


「そっちこそ“悲劇の生き残り”に縋ってるだけじゃなぁい? ダサい〜♡」


 


白蓮は扇子を閉じ、地に光紋を走らせる。

「奪われた分だけ、ウチは憎しみで咲いた。命を背負ったことのない子供には理解できんやろな」


 


「ん〜? じゃあ、その子供にまた殺されにきたの? 可愛い狐さん♡」

リリィが短剣を上げ、笑みを深める。


 


(やべぇ……完全に殺る気だ……!)

(止めたい……でも割り込んだら俺が死ぬ……!!)


 


二人の視線がぶつかり、空気が裂ける。

次の瞬間、戦いが始まろうとしていた。



短編公開しました!


本編に繋がる“前章譚”の短編──


 


いやぁ……四苦八苦しながら書きました。


 


評価・ブックマーク、本当にありがとうございます!

皆さんの応援があったから、最後まで書き切れました。

少しでも笑って、ちょっとでも胸が熱くなってもらえたら嬉しいです。


 


この物語は、連載中の本編──

『料理スキルで異世界まったり生活、と思ったら神扱いされて軍隊できてた』

に繋がっていきます。


 


あの男の伝説の始まり、ぜひお楽しみください!



『死因:階段。称号:大賢者。──童貞のまま世界を救う男の話』


▶︎ カクヨム版:https://kakuyomu.jp/works/822139837247630837/episodes/822139837247698105

▶︎ 小説家になろう版:https://ncode.syosetu.com/n5898kv/




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