第5話『名前の前にまず、誰の犬かを決めましょう』
ここまで読んでくれた奇特なあなた!
ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー、なんでも嬉しいです!
作者は1PVでも跳ねて喜ぶタイプなので、反応があるとガチで次の原動力になります。
どうかこのテンションのまま、応援いただけると助かります!
(いや、助けてください!!)
……静かだった。
あれほど荒れ狂っていた気配が、まるで嘘みたいに消えていた。
今、小屋の外では銀狼──あの化け物が、ぐったりと倒れている。
動く気配はない。おそらく、完全に気絶してるんだろう。
ならば、今のうちに。
俺はゆっくりと、扉に手をかけた。
ギィ……と金属が軋む音を立てながら、小屋の中へ。
「……なんだ、ここ」
内部は、意外にもちゃんと“誰かの部屋”だった。
石造りの床と壁、埃だらけの家具。
倒れかけた本棚と、焼け焦げた机。
そして奥には、壊れかけた小さな寝台。
部屋の中央には、真っ黒に焼け焦げた円形の痕跡があった。
「魔法陣の……残りか?」
焦げた跡から、かすかに漂う焦臭さと魔力の残滓。
近づかなくても分かる。
ここは、何かを“封じていた”場所だ。
「……やべぇとこ入っちまったな」
思わず小声でつぶやく。
明らかに“ただの遺跡”じゃない。
むしろ、“何かが終わった”痕跡が残された空間って感じだ。
俺は慎重に歩を進めた。
床はしっかりしていたが、踏むたびにミシミシと嫌な音がする。
机の上には、古い羽根ペンと空の瓶。
本棚は崩れかけていたけど、かろうじて数冊の本が残っている。
そして机の引き出しが……ひとつだけ、微妙に開いていた。
「……ああ、もう。こういうの一番フラグっぽいって分かってんだけどな……」
覚悟を決めて、引き出しに手をかける。
ギィ、と音を立てて開けたその中に──
一冊の、ぼろぼろになったノートが入っていた。
表紙には、かすれた筆致でこう書かれていた。
《賢者の歩行録──転生とクソゲー人生の記録》
「……いや、タイトルの時点で嫌な予感しかしねぇよ」
ノートは埃まみれで、表紙は破れかけていた。
けど、やたら自信ありげに書かれていたタイトルだけは、しっかりと読めた。
《賢者の歩行録──転生とクソゲー人生の記録》
「……いや、タイトルからしてだいぶ地雷臭」
ためらいながらページをめくる。
一行目からして期待を裏切らなかった。
唐突だけどここに、大賢者のこの俺が!記録を残す!
なんかしんみり死んだ風に思われるの癪だから、最初に言っとくわ。
俺は元気です。──いや嘘、もう死んでます!
おいどっちだ。
まずよぉ、俺は転生者なんよ。
元の世界じゃクソ真面目に働いて、努力もして、それなりに頑張ってたんだけど──
死因がな……
エロ本隠してるとこ親に見つかって、動揺して階段から落ちた!
まじでこれな!
お前らも気をつけろよ!?エロは命落とすぞマジで!?
ページの隅に何故か「猫型ロボット」の落書きがあった。
で、死後に行った謎空間で、ボンッ!キュッ!ボン!の超美人な姉ちゃんが現れてさぁ──
めちゃくちゃテンション上がったよね。
もう脳内、「これ後で絶対攻略対象になるやつじゃん!」って思ってたのにさぁ──
「あなた、ダサ死ランキング第1位です」って言われたわけ。
うっせぇよ!!!!
でも、なんか“頑張った人用”の特典があるらしくて、
渡されたスキルがこれ。
【魔道の極み】──最強の魔法理解力、全属性可!術式短縮付き!
完璧ッ! 俺、異世界で無双確定ッ!!
ハーレムよ!出でよハーレムよ!!
(※隣のページに「未来の嫁リスト」とか書いた落書きがある。犬耳・狐耳・小悪魔系……)
──でも、次のページ。
……聞いてくれ。
この世界、魔法効かないやつ、めっちゃいる。
おかしくね!?
魔道の極み!極めてるんだよ!?
それをなぁ!! 無効化!? 反射!? 耐性!!?
なぁあああああんでやねぇえええええええん!!
魔法撃っても壁貫通しないし、詠唱短縮しても間に合わないし、
俺の火球を握り潰した村娘もいたわ。
あいつ誰やねん。怖いわ。
結論:この世界、クソゲー。
「いやもうそれお前の運が悪いだけでは……?」
そんなこんなで、信じられるのは己のみ!ってなって、
色々あってこの地に辿り着いた。
ここは“神の力が交差する地”らしい。
魔力の密度もスキルの反応も異常。
でも、逆に言えば──ここなら何か残せるかもって思ったんよ。
で、しばらく拠点にして暮らしてたらさ──
一匹の銀狼が迷い込んできたんだよね。
最初はな、めっちゃ敵対してて、俺も「うわモンハンやん」って思ってたけど──
でも、気づいたら旅についてきてて。
名前は……結局、つけなかった。
「主が名を与える資格を得たときに、教えてください」って言われた。
「いや、尊っ……何その真面目忠犬……」
で、俺はその“資格”ってやつを、最後まで得られなかった。
最強になろうとしたけど、なれなかった。
世界を変えたかったけど、変えられなかった。
ハーレムもできなかった。エロ本も燃やされた。
……でもな、アイツだけは、最後まで俺のそばにいてくれた。
銀狼には言った。
俺が死んだら、自由に生きろって。
……でも、多分、あいつ残ってるわ。真面目だし。バカだし。
ってわけで、もしこれ読んでるヤツがいたら──
アイツ、頼むわ。
──その下に、追伸のようにこう書かれていた。
あ、暇すぎて魔導書も作った。
でも、なんか癪だからどっかに隠した。
見つけられたら、くれてやる。
「……見つけられたら、くれてやる」
さっきの日誌の最後に、そう書いてあった。
魔導書。
転生チート野郎が暇すぎて作ったっていう、魔法系の最終兵器。
部屋を見渡しても、魔力反応なんてこれっぽっちもないし、
隠し棚とか床下金庫みたいなギミックもない。
──となると。
「いや、まさかな……」
ベッドの下。
ある意味、一番“人間味のある隠し場所”。
「さすがに、それは……いやでも、死因エロ本だしな……」
葛藤したのは3秒だけだった。
しゃがみ込んで、そっと手を差し込む。
ゴソ……
──指先に、分厚い何かが当たる。
「…………あるんかい!!!」
反射的に叫びながら、それを引きずり出す。
黒革の装丁。銀の文様が浮かび、手に取った瞬間──
ゾクッとするような魔力が指先を走る。
どう見ても、それだった。
「おいおいおい……マジで魔導書じゃねぇかよ」
でもさ。
これだけは言わせてくれ。
「隠し方、エロ本と一緒だろおぉおおおおおお!!」
お前、賢者だろ!?
どういう精神構造してんだよ!!
いやもう尊敬すら湧いてきたわこのアホ!!
興奮とツッコミが混ざる中、俺は意を決して表紙を開いた。
──その瞬間。
魔導書が、**ぼうっ……**と発光した。
「うわ、ちょ──!?」
本が勝手に宙に浮き、ページが一気にめくれていく。
文字が光を帯び、魔法陣が空中に浮かぶ。
最後のページに差しかかった瞬間──
本が、光の粒になって**パアアアッ……!**と砕け散った。
「え、えっ……!? ちょっ……まっ──」
反射的に目を閉じると、
全身がビリビリと震えた。
何かが……体に、流れ込んでくる。
光の粒が皮膚を貫き、魔力が脳に叩き込まれるような──
スキル?呪文?詠唱?いや、もっと根源的な知識が一気に──
ブワァァァァ……!!
──そして、視界にウィンドウが浮かんだ。
⸻
⸻
【スキルウィンドウ展開】
【特典スキル:魔導書使用】
使用者に適性のある魔法スキルを一括付与します
取得スキル数:──多数につき面倒なので省略されました
→ 大量取得しました。
備考:詳細はスキル一覧画面で確認できます。
⸻
「…………いや、省略すんなぁあああああああ!!」
「おい神! お前だろ!? この“テンプレ手抜きウィンドウ”仕様にしたの!!」
「女神と同じで雑すぎだろぉォォォォ!!」
俺の人生の大強化イベント、ウィンドウ一枚で済まされていいと思ってんのか!?
せめてリスト出せよ!火球とか雷撃とかそういう王道魔法見せてくれよ!
なにこの“取得されたかどうか不安になるレベルの適当さ”!
「お前の転生設計、雑っていうか……やっぱクソゲーなんだよなぁああああ!!」
────────────
「……さて、と」
魔導書の謎スキルで脳に魔法詰め込まれた直後、
俺は小屋の扉を押し開け、外の光の中へ踏み出した。
視線の先に、倒れている銀狼と、そのすぐ傍で警戒態勢を崩さず立っているカナの姿。
「シュン様! 大丈夫ですか!?」
「ん、なんとか。中に賢者の日誌と、いろいろヤバいもんがあった」
「“いろいろ”の中にどれほどの爆弾が含まれているのか、正直聞くのが怖いんですが……」
軽く言ってはいるが、カナの目は真剣だった。
それは目の前の──銀狼を見据えているからだ。
「この獣……まだ息があります。気絶しているだけですが、完全に沈静化しているとも限りません」
「いや、俺はもう暴れないと思う」
「理由は?」
「直感。あと……顔」
「顔」
俺が指差すと、カナは眉をひそめながら銀狼を覗き込む。
さっきまで“魔獣暴走フルスロットル”だったやつとは思えないほど、ぐったりしている。
目を閉じて、呼吸も浅く、ピクリとも動かない。
……妙に満足そうな寝顔である。
「……たしかに、戦意は感じませんが……」
「こいつ、たぶんもう“役目”終えたんだと思う」
「役目……?」
「賢者が言ってた。最後まで一緒にいたって。
だから、たぶん。こいつも“見届けた”んだよ」
カナは沈黙したまま、銀狼をじっと見つめる。
──その間に、俺は意識を視界に集中させる。
そろそろだと思う。
ここで決める。
ウィンドウ、展開。
⸻
⸻
【スキルウィンドウ展開】
【特殊スキル:契約獣】
必要経験値:100,000EXP
対象:忠誠条件を満たした獣種一体
効果:主従契約を結び、絶対忠誠を得ます
備考:契約後、対象のスキル・行動は命令優先に切り替わります
→ 使用しますか?
→ ……イエス!
──発動中……
⸻
⸻
光が、銀狼の身体を包んだ。
地面に魔法陣が浮かび上がる。
美しく精緻な、金色の紋様が回転しながら輝いている。
「っ……!」
カナが一歩、俺の横に身を寄せる。
「これは……主従契約魔法!? でも、媒介も詠唱もない……!」
「うん。なんか“出たから”押した」
「……やっぱりシュン様のスキル、世界基準からずれてますよね!?」
カナの顔がマジだ。引いてるとかじゃなくて、“本気で想定外”って顔だ。
「その場で従属印が出るなんて、通常の契約魔法じゃありえません。
儀式も対話も経てないのに、ここまで完全な契約が成立するなんて……」
「つまり?」
「シュン様、スキルの構造自体が“例外設計”です!!」
「うわぁ自覚したくなかったわぁ~~」
「これで主従関係が成立してたら、もう倫理も理論も吹き飛んでますよ!?タップ一発忠誠契約って何ですか!!」
「むしろ優しくない? 世界が俺に、ちょっとだけ甘くしてくれてるっていうか──」
「その“甘さ”で世界が崩れるんですよぉおおおお!!」
──そんなやり取りをしている間に、契約は完了していた。
銀狼の胸元に、淡く光る“契約の印”が浮かび上がっている。
ゆっくりと目を開け、静かに──俺のもとへ歩いてきた。
吠えたり、唸ったりはしない。
ただ一歩、また一歩。俺の足元に並び、すっと座る。
その眼差しには、はっきりと“意思”があった。
「……もう、俺の従者なんだな」
言葉は通じないけど、伝わった気がした。
カナが、まだ半信半疑の顔で俺を見ていた。
「シュン様、いったい何者なんですか……?」
「……さぁ。努力だけでここまで来た社畜です」
「努力で神域超えないでください!!」
しばらくして。
俺とカナ、そして契約を結んだ銀狼──三人で、村の方へと戻っていた。
銀狼は無言で俺の隣を歩き続けている。
足音ひとつ立てず、気配すら感じさせないまま、ただ忠実に寄り添うように。
「……おとなしいですね」
カナがぽつりと呟く。
「主が認めたのなら、カナが異を唱える理由はありませんが……」
一瞬だけ視線を横にずらし、銀狼を見た。
「──この者、カナと“同じ匂い”がします」
「え?」
「主に選ばれたことへの喜び。そのために命を投げ出す覚悟。
カナには分かります。……とても、よく分かります」
それは、どこか──自嘲めいた響きだった。
でも、それ以上は何も言わなかった。
村の門が見えてきた。
そして次の瞬間──
「──ひいいっ!?」
「なんだあの狼!?」
「また化け物連れてきたぞ!!」
はい、予想通りの総逃げである。
村人たちは叫び声を上げながら、建物の影や物陰に隠れていく。
中には武器を手に取ろうとする者もいたが、銀狼が一歩動くだけで全員硬直した。
「……このままじゃ共存は難しいな」
「なら、姿を変えさせますか?」
「……ん?」
「このままでは、他者と生きることができません。
なら“主の傍に在る姿”として、整えるのが正しいと、カナは思います」
「……姿って、変えられるのか?」
「えぇ。スキル一覧を見れば、きっと“それ”も表示されているはずです。
主が望むなら、そうなる仕組みですから」
まるで、“世界の側が合わせるのは当然”とでも言いたげだった。
俺は、視界に意識を集中した。
⸻
⸻
【スキルウィンドウ展開】
【特殊スキル:契約獣・人型化】
必要経験値:300,000EXP
対象:主従契約済の獣1体
効果:人型へと変化し、人語・文化理解を得ます
備考:変化後、人格の一部が顕在化します
→ 使用しますか?
→ ……イエス!
──発動中……
⸻
⸻
光が、銀狼を包んだ。
地面に展開された白金の魔法陣。
その中心で、銀の毛並みが粒子となり、舞い上がっていく。
「……カナは、あまり好きではありません」
隣でカナがぽつりと呟いた。
「人の姿を得たからといって、忠誠心が変わるわけではない。
それでも、“主の隣を歩ける”という点では……価値はあります」
「……なんか、ちょっと妬いてない?」
「はい。カナは……妬いています」
答えが予想の五倍早かった。
「主の横に立つのは、カナだけで良かったのに──」
そう呟いた彼女の目は、どこまでも静かで、どこまでも狂っていた。
光が収まる。
形を変え、そこに現れた“誰か”。
その足音が、俺の隣に並ぶ。
──そして。
──第5話・完。
お読み頂きありがとうございます!
もしよろしければ──
作者のもうひとつの作品、**『才能奪って成り上がる!』**も読んでいただけると……
\\\ 跳ねて光りながら回転して爆破します ///
(※作者が)
つまり、とても喜びます。
どうぞよろしくお願いしますッ!