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第49話『禁忌の森、ただいま建国完了しました』

──あれから数日後。


俺は、ようやく《禁忌の森》へと帰ってきた。


 


「ただいまぁぁぁぁぁあああああああ!!

俺のスローライフぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 


──実際、泣いていた。


アークデーモンだの、光る宙のオッサンだの、

国王との謁見だの、命のやり取りだの。


もう、心が限界だった。


 


戦いの後? もう、地獄よ。


怪我人運んだり、会議に呼ばれたり、国王と話させられたり。


まぁ、ほとんど「ふむ」とか「そうですね」とか相槌打ってただけだけどな!


 


グローレンはどうにか一命を取り留めて、

フェルは二日後には筋トレしてた。


ロリマスは姿を見せなかった。きっと忙しいんだろう。

てか怖くて近寄れん。


 


あと、キュリって子が“スパイ容疑”で拘束されてたけど……


たぶんフェルが「俺の副官に何してんだコラァァァ!!」って暴れて、酷い扱いにはならなかったはず。たぶん。


 


他にも予定が山ほど組まれてたけど──


 


バックれました。


 


いや〜〜〜〜実に清々しい!!!


会食、寝る、報告書、会食、寝る──


気が狂うわ!!!


 


 


んで今、森の前まで来たわけだが……


 


「カナ……お前さ……」


「はい? どうなさいましたか?」


 


「なんでそんな平然としてんだよ!?

お前、これ見て驚かねーの!?」


 


 


──俺の目の前には、


森を取り囲むように、巨大な柵と──


謎の門構え。


 


平原に広がるその光景は、もはや自然じゃない。


 


……町だった。


 


「なんで!?

俺が不在の間に“町”が生えてんだよぉぉぉぉ!!」


 


門へと恐る恐る近づくと、どこからか怒号が飛んできた。


 


「止まれぇ! ここを誰の領地と心得る!

かの偉大なる主様の地にして──」


 


涙が出てきた。


俺のホームが……もう、俺のじゃねぇ。


 


 


──そのとき。


門が勢いよく開いた。


 


「主~~~~っっっっ♪」


 


犬型弾丸がこっちに突進してきた。


 


「まっ、まっ──ちょっおまっ──」


 


──ドガシャァァァン!!!


 


クーの突撃をモロに受けた俺は、そのまま地面に叩きつけられた。


 


「主ぅ~~~♡ さびしかったのだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 


ペロペロペロペロペロペロペロペロ……


顔面がヨダレでコーティングされる。マジで。


 


「ちょ、ちょ、待っ──お前、地味に強いのやめろォォォォ!!」


 


 


殺気。


カナの気配が変わる。


 


──ヒュンッ!!!


 


「ヒィィィィィィィ!!」


 


メイスが俺の顔面を掠め、クーはギリギリで後方に跳んで避けた。


 


 


「クーさん? 寂しかったのは理解できますが──」


 


──カナの声が冷たく笑う。


 


「主様の身体は、国家的財産なのです。傷つけるのは……許しません」


 


「ヴヴヴヴヴ……ずるいのだぁ!カナばっかり主様主様ってぇぇぇ!!」


 


カナは手を胸に当て、誇らしげに微笑んだ。


 


「当然です。私は主様の忠誠度ランキング一位の従者ですので」


 


「クーの方が上なのだぁぁぁ!!なでなでいっぱいされてるのだぁぁぁ!!」


 


「わっ、私だって主様とっ──!」


 


「──あぁ……帰ってきたんだな……」


 


ヨダレまみれのまま、俺は天を仰いだ。


 


 


……と思ったら。


「主さまぁぁぁ!! ギルも心配しておりましたぞぉぉぉぉぉ!!」


 


なぜだ。なぜ一番最初に飛び込んでくるのが“男”なんだ。


 


両手を広げて走ってくるギルを──


 


躱した。


 


ギルは見事にズザァァァと地面を滑っていった。


 


 


「男と抱き合う趣味はねぇぇぇぇぇぇ!!」


 


 


ズザァ……と起き上がったギルは、即座に切り替えた。


 


「さっ、さっ!主様!お疲れでしょう!?

すぐに食事をご用意いたしますぞ!

上質な肉! 汁物! 愛情!!」


 


「最後余計だぁぁぁぁぁ!!!!!」





──────


門を潜ると──


 


木造の立派な家が、ズラリと並んでいた。


まるで計算されたように整った区画。

左右には舗装された道。

端には見張り台らしきものまである。


 


「……いやいやいやいや……」

思わず足が止まる。


 


「なんか人、多くね……?」


 


アステリオン王国ほどではないが、

確かに“都市の喧騒”がある。


子どもたちの声。

店の開け閉め。

鍋の煮える音。


 


──おかしい。

ここ、禁忌の森だよな?


 


 


「はい! 現在、民はざっと1500名ほど!」


ギルが満面の笑顔で答えてきた。


 


「鉄峰連合の敷地内に住むことを希望した者は、

王とガリウス殿の采配で村に分配されました」


「残りの者たちが、ここに──

“主様の地”に留まりました!」


 


──ざっくり言うと、


【俺の留守中に、村が都市になってた】ってことらしい……いやなんで?!


 


「……え? あそこ……鉄の窓?」


 


「はいっ! 鉄峰との資材提携でガラスも鉄も安定供給中!」


「加工はすべて──主様が作られた“けんちん汁工房”にて行っております!」


 


「え、けんちん汁工房!?」


 


「こちらでございます!」


 


ギルに案内されるまま、歩く俺。


そして──


 


到着したそこは、


完全に食品加工場だった。


 


広すぎる施設。回転する巨大な釜。

そして壁に設置された、業務用冷蔵庫(仮)。


 


「…………おい」


 


──片隅。


薄暗い影の中。


 


そこにあったのは、


埃をかぶって寂しそうに佇む──


 


4号機(屋台)だった。


 


 


「……お前……そんな隅っこで……」


 


俺は思わず膝をついた。


「……4号機……相棒ぉぉぉぉぉぉ……っっ!!」


 


 


ギルの説明は続く。


「こちらの工房もそうですが! 

最近では加工販売ルートの整備も進んでおり──」


 


──何一つ、耳に入らなかった。


 


今の俺には、相棒の悲しき姿しか見えなかったのだ。


 


 


───────


 


その後、俺の“かつての家”にも案内された。


 


森の奥にひっそりあったはずの我が家は──


 


豪邸になっていた。


 


 


そして中に入ると、


 


「──おかえりなさいませ、主様」


 


執事のような格好のギルが合図を送る。


 


「名物の2品を直ちに用意せよ!」


 


「ハッ!」


 


使用人たちが一斉に礼をして、動き始めた。


 


──俺は、


言えなかった。


 


 


「元の、ほうが……良かった……」


 


なんてことは、怖くて、絶対に。


 


 


──スローライフのはずが、

帰ってきた場所には“王の椅子”が用意されていた。




◆ ◆ ◆




俺、カナ、クーの三人はテーブルについた。


 


クーはフォークを握って、ルンルン。


カナはどこか満足げに、**“民をいかに洗脳しようか”**を脳内でシミュレーションしていた。


……うん、考えてることは聞かない方がいいな。


 


 


そこへ──


 


「お待たせしましたっ!」


 


ギルが料理を持ってきた。


 


置かれた皿には、けんちん汁──と、


 


「……ステーキ!?」


 


まさかの肉料理。


 


 


ギルが誇らしげに胸を張る。


「ささっ! お召し上がりくださいませ!」


 


まずは、けんちん汁を一口。


 


──懐かしい味だった。


優しいダシと根菜の香り。

ほんのり甘くて、あったかくて……


 


「……美味い……」


 


思わず本音が漏れた。


ああ、帰ってこれたんだなって──


そんな気持ちになった。


 


 


そして、ステーキに手を伸ばす。


一切れを口に運ぶと……


 


──ジュワッ……!


 


肉汁が、口いっぱいに広がった。


噛めば噛むほど、芳醇な脂と、どこか“野生”を感じる力強さが滲み出る。


 


これは、まさに──


 


「これぞ肉ッ!!」


 


感動のあまり、涙が出た。


 


 


「思えば……ステーキなんて……

子どもの頃に、家族でレストラン行ったとき以来かもな……」


 


 


ギルはその様子を見て、めちゃくちゃ喜んだ。


「おぉ! 主様に喜んでいただけて、このギル──生涯の努力が報われますぞ……!」


 


「現在、先ほどご案内した工房にてけんちん汁とステーキを加工販売し、収益を得ております!」


 


「けんちん汁は分かるよ?」


 


俺はフォークを置いて、ふと疑問を口にする。


 


「調味料は無限に出るし、農具と種もあげたから野菜はいくらでも作れるよな?」


 


「はい! 民の食を支え、外部にも販売を広げ、たいへん好評でございます!」


 


「でもさ──」


 


「ステーキは? 肉は?」


 


「さすがに1500人の民にステーキ食わせられるほど、森の生き物だけじゃ……」


 


 


──ギルは、にっこりと笑った。


「それが……秘密がありまして。主様、こちらへ」


 


 


ギルに案内され、カナと一緒に屋敷の裏へ向かう。


森のさらに奥、しめ縄がかかった古びた小屋。


 


入口には、木板で書かれた文字があった。


 


 


【クーのばしょ】


 


「ここは、クー殿と一部の者しか立ち入りできません」


 


ギルが鍵を開け、扉を開くと──


 


 


そこにいたのは──


 


黒い肌、鋭いツノ、獣のような体躯……


 


「……アークデーモン……」


 


 


蘇る記憶。


 


───────


《魔法名:光牢転界陣》


説明:ぎゅってしてぴゅーん

どこに飛ぶかは知りませ〜ん☆


詳細:略



(もうどうにでもなれえええええええええええ!!)




(……どこ行ったんだろう……)


 


(……いや、今は考えないでおこう……)


───────


 


 


ギルは笑顔だった。


 


「いや〜〜、本当に助かりました!」


「食糧問題に頭を抱えていたとき、クー殿が“じゅるっ”って涎垂らしながら森を歩いてたので、ついていったら!」


 


「何と! 食べても食べても再生する──夢の肉体が!!」


 


 


ギルは両手を掲げて言った。


 


「これはもう、神が与えた祝福としか思えません!!」


 


 


……いやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 


カナの顔が真っ青になった。


 


「まさか……さっきのステーキって……」


 


 


ギルは満面の笑みで親指を立てる。


「どうでしたか!? 美味しかったでしょう!!」


 


 


カナは一瞬、無言になったあと──


 


「ウップ……主様……わたくし、ちょっと……

……お手洗いに……」


 


ダッ!!!


 


超高速で屋敷に駆けていった。


 


 


そして、俺も。


 


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ……!!」


 


盛大に胃の中を開放した。


 


 


【あらすじ:ただいま俺のスローライフ】

→ アークデーモン肉だった


 


……俺は泣いた。


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