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第47話『煌閃の刻印──グロリア・ルクス』

──置いてかれた。


俺は、泣きながら走っていた。


もう、何も考えられない。


グローレンとフェルの背中は……消えた。

文字通り、疾風に紛れて消え去った。


 


「ま、待ってよぉ……俺も……戦友だろぉぉぉ……!!」


 


声は上ずり、呼吸はゼェゼェ。

鼻水は唇に到達し、目の前が滲む。


もう“感情”っていうより液体として終わってる。


 


 


──その時。


通りがかりの親子連れの声が耳に入る。


 


「ママー、あのお兄ちゃん泣いてるよ」


「しっ、見ちゃダメ!“哀れみ”が移るわ!」


 


「俺って何!?伝染病!?」


 


いや、違う。


違うけど合ってる気もしてきた。


 


 


──ズシン。


地面が揺れた気がした。


 


影が消えた。


上を見上げると──


空が、真っ黒だった。


まるで世界が俺に**“夜”だけを選択して提供してきた**かのように。


 


 


「……こ、これ……何か、来る……」


 


紫の霧が広がり始める。


周囲の人々がざわめき始め、やがて──


 


一人、また一人と倒れ始めた。


 


「え……うそ……え……?」


 


子供が倒れる。老人が崩れる。


母親が、悲鳴を上げた。


 


「誰か!助けて!この子が──!」


 


 


──その時、俺の体にも“何か”が来た。


胃の奥から、ぶちゅぅ〜っとストローで魔力だけ吸われていく感覚。


 


「うわっ……うわああああ……

おしりから魂出るぅぅぅぅ!!」


 


手足がガクガク震える。


立っていられない。吐き気がする。


──そして


 


「な゛な゛な゛ん゛だ゛こ゛れ゛ぇ゛え゛え゛!?」


 


言語すらバグった。


声が振動しすぎて、周波数がバグった。


まるで喉から震災速報が流れてるみたいだ。


 


 


体はブルブルと、意思に反してバイブレーションモード。


自分で自分を見て思った。


 


(これは──誰が見ても“呪われてる”)


 


「だずげでええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 


 


ふらつきながらウインドウを開く。


MPゲージが【+99】【−98】【+101】【−100】を繰り返してる。


 


「ギャンブルかよ!!!」


「俺のMPでパチンコやめろよぉぉぉ!!!」


 


 


その時、上空に──


黒いオーラを纏った、“悪意そのもの”みたいな浮遊おじさんが見えた。


 


その顔に、見覚えがある。


 


──あいつだ。

俺の尊厳を奪ってる元凶。

俺の魔力を無許可でサブスクしてるド外道。


 


(てめぇかああああああああああああ!!!!!!)


 


怒りで涙が止まった。


怒りで目が覚めた。


怒りで吐き気だけ続いてた。


 


 


俺はウインドウから魔法を選ぶ。


──《魔断の弾丸》


説明:

・とにかく速い!

・とにかく飛ぶ!

・だいたい後ろまで全部ぶっ壊す!


 


「しらねぇよ!!」


「巻き込み?知らねぇよ!!今だけは道徳オフにするからなァァァァァ!!!!」


 


怒りのままに詠唱。


10重の魔法陣が展開され、轟音と共に空気がうなる。


そのとき──


空のおっさんが指を一本立てて「まって」ってジェスチャーしてきた。


 


 


「遅いわあああああああああああああああああ!!!」


 


そのまま撃った。


何も聞く気はなかった。


あのジェスチャーは……俺の魂にとってのラストストローだった。


 


 


シュンは叫んだ。


 


「これはなああああああ!!!

てめぇに撃つためにある魔法なんだよおおおおおおお!!!!!!」







────────────






 


時は、少し前に遡る。


 


ファルカンが腕を横に薙ぐ。


そのたった一動作で、黒雷が奔り、天地が震える。


 


轟───ッ!!!


 


雷光が地を裂き、聖堂の瓦礫が宙を舞う。

その隙間を縫うように、リリィとフェルは――命を削るような応戦を続けていた。


 


だが――限界はすぐそこにあった。


 


リリィは、もはや煽る余裕など一片もなく。

フェルは、血塗れの顔に気迫を宿し、己の戦技だけで身体を無理に動かしている。


 


そして、彼女たちのその姿を――ファルカンは、実に愉悦げに見下ろしていた。


 


 


「……大賢者の視座とは、かくも絶景か……」


 


黒雷の球が、空中に浮かび上がる。


ファルカンの眼は虚ろに開き、快楽すら孕んだ吐息を漏らした。


 


「……あぁ……素晴らしい……

老い朽ちるだけの我が身に、再び意味を与えてくれた……教団の導きは、やはり正しかったのだ……」


 


その陶酔の瞬間、ザシュ──ッ!


 


放たれたナイフが肩口を抉る。


だが。


すぐさま肉が蠢き、傷口が再生されていく。


 


ファルカンは、ナイフを投げたリリィを睨み、静かに言った。


 


「──しつこいぞ?」


 


 


次の瞬間、ただの一振り。


ファルカンの腕が空を裂いた。


 


「っ──!」


 


暴風がうねり、リリィの身体を吹き飛ばす。

石壁に叩きつけられ、彼女の細い体が弾けるように崩れた。


 


「リリィ様──ッ!」


 


フェルが咄嗟に前へ出て、覆いかぶさるように庇う。


だが、それを狙っていたかのように、ファルカンが接近。


拳を振り上げ、フェルに叩き込んだ。


 


ドガッ!


 


鋼の剣がようやく受け止めるも──


次の瞬間、腹部に直撃した拳がめり込み、フェルは血を吐いた。


膝を折る。


 


そのままファルカンは、フェルの足首を掴み。


無造作に、壁へと振り投げる。


 


「──騎士とは、実に便利だな」


 


ドンッ、ドンッ、ドンッ──!


何度も壁に叩きつけられるフェル。


 


「棒を振り回し、誓いを語るだけで信頼される……

だが私は……他人の愚痴や弱音を聞いて、許して、宥めて……

“理解者”を演じ続けただけだった……!」


 


最後の一撃で、フェルの身体は遠くへ投げ捨てられる。


崩れ落ちるその姿は、もはやボロ雑巾のようだった。


 


──動かない。


 


場に支配するのは、紛れもない“絶望”だった。


 


目の前の男──ファルカン。


その存在自体が、暴力と狂気の権化だった。


 

そして空へと浮かび上がると、ファルカンはさらなる魔力を集束させ始めた。


 


空が、黒く、深く、淀むように染まっていく。


魔力の渦が大気を軋ませ、地面が震える。


 


風が止まった。


音が消えた。


まるで、この世の終わりが訪れたかのように。


 


瓦礫の陰に倒れ伏した者たちは、誰一人動けない。

痛みも、恐怖も、感情すら──全てを押し流す圧が、聖堂を覆っていた。


 


リリィも、フェルも、グローレンも。


全ての身体が、限界を越えていた。


 


だが──


 


ひとりだけ、立ち上がる者がいた。


 


 


「……っ」


血を吐きながら、膝をついたままのカナが顔を上げる。


 


空を睨むその目に、揺るぎなき意思が宿っていた。


 


そして、隣に倒れるリリィへと呼びかける。


 


「あなた……元・勇者パーティ、なんでしょう?

私が“動き”を止めます。

……やれますか?」


 


 


──沈黙。


 


リリィは、崩れそうな身体を手で支えながら、口元を歪ませて笑う。


 


「……あったり……まえ……よ……」



倒れかけた身体を、歯を食いしばって持ち上げる。


 


「……しっかり、止めておいてちょうだい……」


 


カナの足元に、光が集まる。


金鎖が無数に展開され、空へと向かって伸びていく。


 


「神罰第六条───《聖鎖の断罪》!!」


 


黄金の鎖が、空中のファルカンを捕らえた。


 


 


「……まだそんな力を……!」


 


身を捩って逃れようとするも、鎖は腕を、脚を、胴を、容赦なく絡め取る。


一閃、ファルカンの魔法が漏れ聖堂の塔を薙ぎ払う。


その崩れた瓦礫の直撃を──


 


「っく……がはっ……!」


 


グローレンが盾となり、己の身体で庇った。


血を吐きながらも、なおリリィたちの前に立つ。


 


「……はぁ、はぁ……女の子見捨てたら……

“騎士団”の名折れっす……から……」


 


その姿に、フェルが力なく叫ぶ。


 


「グローレン……! 彼女を、守り抜け……!

《第九戦技》を使えるのは……彼女しか……!」


 


ファルカンが抵抗し、鎖がきしむ。


 


カナは力を振り絞るように、唇を噛んだ。


 


「……ゴミB……」


 


「へへ……惚れた女に……心配されるなんて……

今日はサイコーっすね……」


 


次の瞬間。


 


バシュッ!!!


 


雷光が一直線に貫いた。


グローレンの腹を、雷が串刺しにする。


 


地面に倒れ込むグローレン。


仲間たちが、次々と倒れていく中──


 


リリィが、小さく呟く。


 


「……全く……若者に格好つけられて……

私も……やるしかないじゃない……」


 


 


足元に力を込め、家屋の屋根へと跳躍する。


リリィの瞳は、戦士のそれに戻っていた。


 


 


「カナ……いくわよ?

しっかり抑えてなさい」


 


 


「はい……主様のためなら……この命すら……!」


 


カナの身体が、光に包まれた鎖と同化するように朧げになっていく。


全身全霊を込め、ファルカンを縛り付ける。


 


 


「……蠅どもが!何をしようと私は再生する!!」


 


 


「えぇ……でもその再生が追いつかない一撃なら、話は別よね?」


 


リリィの身体が、淡い輝きを放つ。


 


 


曰く、その一撃は。


人類の極致にして、決して到達し得ぬ境界。


 


曰く、その一撃は。


“神話”にすら踏み込む──人の限界。


 


 


──《第九戦技・開放》

 《煌閃の刻印──グロリア・ルクス》!!


 


 


短剣が、青白い閃光に包まれる。


重力すら無視する跳躍と共に、リリィが空を翔ける。


 


ファルカンの目が見開かれた。


 


「何を……!? やめろ……待て……!」


 


「もう遅いわよ。これで終わり……!」


 


 


閃光の彗星が、空を切り裂く。


衝撃が天地を震わせ、聖堂の塔が根こそぎ吹き飛ぶ。


 


黒い雷雲を消し飛ばすほどの衝撃波。


 


そして──


 


短剣は、ファルカンの胸を貫いた。


 


その瞬間、世界は静寂に包まれた。


 


 


フェルが、地を這いながら見上げる。


 


「これが……勇者パーティの……人類の到達点……」


 


 


カナは、朧げな意識の中でその光景を見つめていた。


 


「……主様……」


 


 


──救世の光が、空を裂いた。


 


そして、それは。


かつての勇者が背負った“重み”そのものであった。






あとがき


えー、作者でございます。


この物語は──

・大賢者編

・鉄峰連合編

・アステリオン王国編(←イマココ)

・そして、ちょいいろいろあって──

・魔族領編へと向かっていきます。


現在、作者は60話目・魔族領編の執筆中でして、

前回の話に登場したキャラクターも、その章で本格登場予定となっております。


 


「相関図とか出したほうがいいかな……?」とも思ったんですが、

いったん保留にさせてください。


べ、べつに……

面倒くさいとかじゃないんだからね!(圧倒的ツン)


 


でも本当に、今書いている部分も、

皆さまにお届けできるのを心から楽しみにしております。


これからも、ぜひぜひよろしくお願いいたします。


 


そして最後に──


 


ブックマークやリアクション、本当にありがとうございます。


一つひとつ増えるたびに、ちゃんと見てます。

そして、それが本当に励みになってます。


今回はあえてキャラ小話じゃなく、

しっかりと作者としての言葉で感謝を伝えたくて書かせていただきました。


 


今後とも、何卒よろしくお願いいたします!


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