第42話『角度を変えれば見えてくる──問題しかない』
──リリィが出ていった後。
残された部屋に、俺とカナだけがいた。
しん、と静まり返った空間。
俺はベッドの端に座ったまま、深いため息をつく。
「……主様?」
カナがそっと俺の隣に座る。布の擦れる音だけが静かに響いた。
「なぜ……“大賢者の魔導書から魔法を得た”とは言わず、“弟子”などと?」
「んー……」
俺は後頭部をポリポリかきながら、視線を天井に向けた。
「ほら、“転生者です”とか言ったら面倒くさそうじゃん?」
「弟子って言っとけば、それっぽいかなって……」
カナは、ほんの一瞬だけ目を伏せ──
次の瞬間には、目を輝かせて俺を見つめていた。
「…………やはり、主様のお考えは深い……!」
「確かに、無用な混乱を避けるには……その場の空気を読む判断力も、上に立つ者には必要……!」
「えっ……あ、うん……」
俺は口元を引きつらせながら生返事。
(いや、全ッ然そんな深く考えてなかったんだけど!?)
「で、主様。今日は……どう致しましょう?」
カナは姿勢を正し、指を顎に添えて思案顔になる。
「未だ、王国の歴史について確たる情報は得られておりませんが……」
「何やら、別の面倒ごともありそうですし」
「うーん、そうなんだよなぁ……」
俺は首を回しながら、窓の外をぼんやり見やる。
「ただ争いの原因探ろうとしてただけなのに、アークデーモン出てくるし……」
俺はため息をつきながら
「……で、昨日得られた情報って?」
カナはスッと立ち上がり、姿勢を正して一礼。
そのまま、真面目モードで“昨日の件”──フィルバートやファルカンの動きについて話し出す。
──────
一通り語り終えたカナは、尊敬の眼差しでこちらを見つめてきた。
「それにしても……さすがは我が主様!」
「草むしり依頼など、普通であれば受けぬものを──」
「その“違和感”を見抜き、さりげなく調査に移行されるとは!」
「しかも、私が駆けつけた時には既に魔法陣を発見し、敵の主力と交戦中!」
「……あの御姿はまさに──“策士”……!」
「このカナ……やはり主様に一生お仕え致しますっ!」
俺は笑顔のまま、内心で頭を抱えていた。
(うん……重い……)
(……口が裂けても、“草むしりしか受けられなかった”なんて言えない)
(むしろ、E級でも受けられる依頼を血眼で探してルンルンで受けたなんて……)
「ま、まぁ……これだ!って、思ったというか……」
「ね? うん。そういうことにしとこう」
ごまかし気味に笑う俺の前で、カナが急に表情を引き締める。
そして──小さく、意を決したように口を開いた。
「主様……」
「この凡庸なるカナに、どうかお教え頂けませんか?」
「先程の話、大司教ファルカンについて──」
「国の情勢や証言から見て、魔法陣に関わっているのはほぼ間違いないかと……」
「ですが……」
カナは少しだけ眉をひそめ、目を伏せた。
「私には──フィルバート様が“あえてファルカンを泳がせていた理由”が、見えないのです」
(んー……たしかに)
(フィルバートって名前だけで情報量すごかったし、切れ者っぽい)
(そんなやつが、あのファルカンの動きを見逃すかな?)
(でも……わっかんねぇぇぇぇ)
俺が何も言わないまま黙っていると──
カナが、ウルッと潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。
「主様……?」
「主様のご意見を……どうか……!」
(あぁ……詰めてきたぁ……)
(このままだと答えるまで粘られるパターンだこれ……)
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、ふいに顔を背け──
「……まぁ、いずれ分かるさ」
カーテンをそっと開け、朝焼けを背にして、静かに呟く。
「角度を変えれば──見えてくることもある」
キマった(※自分基準)。
「…………!」
カナが目を見開いて感動してるのが、背中越しに伝わってくる。
(よし……このスキに逃げよう)
「じゃ、ちょっと散歩してくるわ」
俺はそう言い残して、すたすたと部屋を後にした。
──深く考えたわけじゃない。
なんとなく、それっぽい雰囲気で乗り切っただけだ。
(……さて)
(……どうやって時間潰そう)
階段を降りながら、俺は心の中でぼやいた。
草むしりより平和な依頼、無いかなぁ……
────────────
──────
部屋から逃げ出し
朝の町を、ぶらぶら歩いていたときだった。
前方から、顔が派手に腫れたグローレンが、とぼとぼと歩いてくるのが見えた。
「お、グローレン!」
手を振ると、グローレンは重たい動きで顔を上げる。
「ああ、シュン様……」
いつもの軽さが微塵もない。顔色も悪いし、声にも覇気がない。
「どうした? なんか……元気ないし、いつもの“チャラさ”どこいったよ」
グローレンは深いため息をついて、顔をしかめた。
「どうもこうもないっすよ……」
「この間の夜、シュン様と一緒に助けた女の子……覚えてます?」
「あー……あれか。お前が助けに入ったら、お前を囮にして女の子だけ逃げたやつな?」
「あれっすよ……!」
グローレンは涙目で、拳を震わせる。
「その時の男が──この国にいる“黒狼団”ってグループの奴だったらしくて……それ以来、めっちゃ絡まれてて……」
「お……おぉ……」
俺の脳裏に、あの時のやり取りがよみがえる。
去り際、男が吐き捨てたあの台詞──
《お前ら……覚えてろよ……》
(完全に、フラグだった……ッ!!)
(ていうか、それ一緒にいた俺もヤバいんじゃねぇかこれ!?)
「グローレン、元気でな!!」
俺はその場からダッシュしようとした。が──
ガシッ!!
「逃がしませんよぉ〜!? シュン様も当事者っすからねぇ〜!?」
右腕をがっちりホールドされる。
「頼みますってぇ〜! 俺だって一人や数人なら相手できますよ!? でも訓練中以外、ずっと絡まれるんすよ!? 夜の町も歩けないんすよぉ!?」
「いやだあああああ関わりたくねぇぇぇぇぇ!!!」
必死に腕を振りほどこうとするが──流石は軍人、副官。
ビクともしねぇ。
そのとき──
「おい!探したぞ、グローレン!」
声のする方を振り返ると、見覚えのある隊長コートの人物が近づいてくる。
「お前、今日の報告書まだ提出してないだろ!」
「あっ、隊長……」
(あ、フェルだっけ。確か謁見の時会った……)
フェルは、俺たちの距離感と表情を見て、眉をひそめた。
「……また揉め事か?」
「しかもシュン殿まで巻き込んで……」
俺とグローレンは、状況を一から説明した。
フェルは腕を組みながら黙って聞いていたが──
「……ふむ」
やがて頷くと、バシィッとグローレンの背中を叩いて言った。
「流石は俺の副官だな!」
「困ってる人を見捨てない! それもまた、騎士道だッ!」
「ガハハハハ!!」
(うん……やっぱり副官が副官なら、隊長も隊長だな……)
フェルは俺に向き直る。
「それにしても……森の盟主たるシュン殿まで狙われるとなれば、黙ってるわけにはいかんな」
俺とグローレン、同時に顔を明るくする。
グローレン「隊長!ありがてぇ!!マジで助かります!」
俺「おおぉぉぉ!?ありが───」
「──よし!じゃあ3人で突っ込むか!」
『……へっ?』
唐突な発言に、空気がフリーズした。
フェルは既に腰の剣に手をかけ、前を見る目をしている。
「正規手続きで討伐申請しても、どうせ“通らん”」
「この国の汚染は深いからな。黒狼団の討伐は、何故かいつも却下される」
「……だったら、俺たちで叩くしかあるまい!!」
「シュン殿の実力も、確かめてみたかったところだ!!」
「ムリムリムリムリムリムリムリィィィィ!!?」
俺は全力で手を振った。全身で拒絶の意志を表明。
「死ぬ!死ぬやつそれ!!無理!!」
だが──
フェルはにこやかに、俺の肩をガチッと組んできた。
「安心せい! 多少やりすぎても、罪には問わん!!」
「“俺が責任を取る”!」
責任を取るという言葉が、逆に怖い。
グローレンもノリノリで、俺の手を握ったまま言う。
「隊長! シュン様! どこまでもついていきます!!」
「このくそがぁぁぁお前のせいだわ!!!」
だが、もはや力関係的にも地理的にも勝ち目はない。
「行きたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
俺の悲鳴が、町の朝空に虚しく吸い込まれていった───
【あとがき小話】
ふっふ〜ん♡
ねぇねぇ、気づいちゃった人もいるかもだけどぉ〜?
今日の更新……4話ぶっ通しだったんですけどぉ〜!?!?
え?どうしたのって?
ふふっ♡
実はね……
\ブックマークが4つも増えてたの〜っ♡/
ねぇねぇ、それって──
「1ブクマ=1更新」
ってことじゃない?♡
神対応すぎてちょっと自分が怖い♡(←こわくない)
ちなみに、作者はそのへんで床に転がって白目むいてま〜す♡
「いや……うれしいけど……まって……体力が……」
とか言って、ピクピクしてるの♡かわいそう♡たぶん生きてる♡
でもねっ
本当にありがとうっ!
読んでくれて、ブクマしてくれて、感想までくださる方もいて……
リリィ、めちゃくちゃ嬉しいですっ♡
この“謎テンション全開あとがき”も、愛ゆえだって思って許してね〜♡
またすぐ、続きで会おうね?
次も、きっと、読みに来てくれるでしょ?
ねぇ♡ 読みに、来てくれるよねぇ?(圧)
それじゃ、またっ♡
ばいば〜い♡




