第37話「世界を動かす草むしり(ただし蚊つき)」
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──アステリオン王国、地下大聖堂。
石造りの静謐な空間。
空気は冷たく、光すら届かぬ場所。だが、その中心に座す男は──まるで“陽光”のごとき微笑を浮かべていた。
「──大教皇様! 報告です!」
慌ただしく駆け込んでくる黒ローブの男。
その服装は、聖堂の“神聖さ”とは正反対の、どこか異質な空気を纏っていた。
大教皇──この国の“信仰”と“法”の頂点に立つ男は、ゆったりと椅子にもたれながら耳を傾ける。
「……ん? なんだ、私は忙しいんだ。手短にな」
「はっ! 東の平原に──再び冒険者が派遣されたとの報告が……!」
男の声には明らかな焦りが滲んでいたが、ファルカンは鼻で笑う。
「ふん、まだいたか……金に目が眩んで、あの依頼を受ける愚か者が」
そのまま手元のグラスを傾け、ワインを一口。
赤い液体が、聖堂の闇の中で艶やかに揺れる。
「いつも通りだ。陣を小規模に展開し、“行方不明”扱いにでもしておけ」
「はっ……」
「──もっとも、草むしりの依頼を出し続けているフィルバートにも、そろそろ“冒険者を攫っている”だの、“殺している”だの、妙な噂が立ちはじめておるがな」
ファルカンは、くつくつと喉の奥で笑う。
「むしろ好都合だ。次の議会では、その噂を“材料”にしてやろう。
“冒険者が消える依頼を続ける男”として、責任を追及する。
誰一人、私の正義に逆らえまい」
男は深々と頭を下げる。
「かしこまりました。今回も、例の通り処理いたします」
ローブの男が姿を消すと、ファルカンは椅子の背もたれにゆっくりと体を預け、深く息を吐いた。
「……あとは、“あのババア”の始末か」
ふと、思い出す。
先日の議会──
「この国には、魔族のスパイが紛れ込んでいる」
自ら放った虚偽の報告に、会議室の面々は一様に動揺し、狼狽えていた。
「滑稽だな……」
ファルカンの笑みが深まる。
「魔族に、あれほどの知性があるとでも思っているのか? 笑わせるな……」
──あとは、冒険者ギルドへ“濡れ衣”をかければ良い。
あのババア──ギルドマスターを“スパイ容疑”で弾圧すれば、邪魔者は全て排除できる。
ファルカンは、指先で机を“コン、コン……”と小さく叩く。
すると──空間の奥、闇の中から数名の黒ずくめの人影が姿を現した。
「……魔法陣の方は、どうなっている?」
問いかけに、黒衣の一人が静かに答える。
「東西南北、それぞれの拠点における魔法陣の構築はすでに完了しております」
「この大聖堂地下に設置する“最終陣”につきましても……
先日、リティス殿の実験結果を反映させた新たな術式により、完成まであとわずかかと」
ファルカンは目を細め、グラスを掲げる。
「……遂に、か」
「これで私も──ようやく、“世界”の舞台に立てる」
地下大聖堂の祭壇に置かれたその杖。
かつて“全てを見通した者”が手にしたと伝わる、その象徴。
──今、それが“世界魔法陣”の中心へと据えられようとしていた。
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──その頃。アステリオン王国、冒険者ギルド。
扉が軽快な音を立てて開き、ゴスロリ衣装の小柄な少女がひらりと入ってきた。
「ただいま〜っと。ちゃんと良い子にしてた?」
その声に、カウンターにいた受付嬢がピクリと反応する。
「……もう、また子供扱いして!」
ゴスロリなギルドマスターと、真面目な受付嬢のじゃれ合いに、ロビーの冒険者たちがふっと緩む。
──このやり取り、もはや“名物”である。
だがその空気が一変したのは、受付嬢の何気ない一言からだった。
「そういえば昨日の試験者……魔法使いの彼なんですけど、ギルドマスターが結果伝える前に連れて行かれちゃったので、私のほうでE級スタートにしておきました♪」
「…………え?」
リリィの顔がピクリと引きつった。
「ちょっと待って? E級? あんな魔法撃つ子を、E級スタート……?」
「だって、なんか……やたらと遅い魔法だったじゃないですか。みんな笑ってましたし……」
リリィは額に手を当てて、天を仰ぐ。
「遅い……確かに遅い。でもね……あれ、そういう魔法じゃないのよ」
「え? どういう……?」
リリィは溜め息まじりに、机の上に腰を軽く乗せると、指で空中をなぞるようにして語り出した。
「詠唱の短さと速度を犠牲に、威力だけを極限までチューニングした呪文。
初級魔法の皮を被った、近接対応型の接触魔法よ」
「ち、チューニング……って、魔法って詠唱通りじゃないと精霊が反応しないって……」
「普通はね。でも、彼はそれをやってたのよ。
それどころか──私には詠唱そのものが見えなかった」
「えっ……!?」
その瞬間、リリィは腰の短剣を取り出す。
豪奢な装飾の柄。だが──刃の部分は、途中からごっそり抉れていた。
「これ、旅をしていた頃に手に入れた神器級の短剣よ。
普通の魔法や剣では傷一つつかない──はずだったのに」
受付嬢は恐る恐る、それを手に取った。
「まさか……これ、あの試験中の……!?」
「そうよ。私が油断して、ちょっと受けに行った瞬間……これ」
受付嬢の顔が、みるみる青ざめていく。
「わ、私……そんなヤバい人材を……E級に……!?」
「まぁ、仕方ないわよ。今どき、あんな“本気の魔法”なんて誰も見たことないもの。
判断ミスじゃなくて、“時代が忘れてる”だけ」
リリィは笑っている。けれど──その目は、真剣だった。
「それはそうと……彼がギルドに来たら、ちゃんと引き止めておいてよね?」
「そ、それが……」
受付嬢は今にも泣き出しそうな顔で、口元を手で覆った。
「彼、今朝……草むしりの依頼、受けちゃいまして……」
「……………………は?」
ギルド内の空気が、一気に冷え込んだ。
リリィの目が、わずかに見開かれる。
「ちょっと。あれって私が“承認済みの者しか受けるな”って言った依頼よ?」
「ご、ごめんなさい……だって……E級だし……いいかなって……」
リリィはこめかみに手を当て、深く息をついた。
「……よりにもよって、草むしり。あの依頼だけは──」
それは、ギルド内部でも**問題行動を起こした者への“追放候補者リスト”**にのみ振っていた依頼。
名目は“草むしり”。だが、その実態は──
「王国に極秘裏に進めている、監視不能地域の調査依頼。
しかも、現地は今……裏で動いてる教会筋の影があると見てるのに……!」
受付嬢は膝を抱えて座り込み、震えながら呟く。
「し、知らなかったんです……ただの……草むしりだと……」
「……仕方ない」
リリィは軽くスカートを翻し、くるりと踵を返す。
「ちょっと、様子を見に行ってくるわ」
その背中には、子供のような軽さも、
ギルドマスターとしての飄々とした態度も、もはや無かった。
──リリィは、そのまま無言でギルドを後にし、東の平原へ向かっていった。
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──一方その頃。
そんな国家陰謀も、大賢者の魔力も、魔法陣も、何もかも──
梅雨知らず。
シュンは今──
「ぷ〜〜〜〜ん」
「ペチッ!」
「ぷぅ〜〜〜〜ん……」
「ペチッ!!」
「──うぜええええええええええええええええええ!!!」
蚊と、死闘を繰り広げていた。
──それは、草と虫の王国。
全長3ミリの敵が、最強魔法使い(仮)に牙を剥く世界。
──この男、転生しても一人だけ季節の害虫と戦っているのであった。
◆あとがきの森──迷い込んだ者だけが辿り着く
どうもこんばんにちわ!
作者でございます!(ピンポンパンポーン)
え?
「呼んでない」って?
「カナとかクーとかリリィ出せ」って?
……あのぉ、作者にも出番ください。
⸻
◆さて、本題(強制)
えっ、何の話かって?
聞いてくれるの?(聞くって言ってない)
実はですね、今までこそこそと「よろしければブクマを……」みたいな
奥ゆかしい文化系の人間ぶってたんですが。
\やめました。/
堂々と言います!
ブクマ50、目指したい!!
「作品が面白ければ勝手に伸びるんじゃね?」
って声が遠くから聞こえましたが──ええ、ええ、正論ですとも!
でもそれ言ったら私、心がウニになるので優しくしてください(トゲトゲ)
⸻
説明……してません(キッパリ)
ちなみにこの作品、
「なんか色々設定ありそうだけど説明されないな?」
って思ってるそこのアナタ──
正解!
実は、けっこう裏設定あります。
勢力とか魔法体系とか、出してない情報とか、あります。
……が!
エイヤーって投げてます
投げっぱなしジャーマン!!
いや、だって、説明入れるとテンポ落ちちゃうし?
ギャグ止まっちゃうし?
何より説明って……面倒くさ──(殴)
ちがうの!!ちがうのよ!?
決してサボってるわけじゃなくて!
“余白”とか“考察の余地”とか!
あとその……ト書きでシュンくんが叫んでるから!!(責任転嫁)
⸻
◆最後に
ここまで読んでくださった、奇特なあなた。
感謝です。大感謝です。土下座感謝です。
ブクマ・感想・いいね・ランキングチェック・お布施(※ない)などなど、
何かひとつでもポチッとしてもらえると、
次の話の執筆速度が最大120%加速する(※当社比)
それではまた次回──
“料理スキルで異世界まったりしたかったのに神扱いで軍隊できてた件”の世界でお会いしましょう!
ぺこり!




