第35話『会議室に走る戦慄、花街に流れる鼻血』
王都──
城内の重厚な扉の奥、上層部の会議室では、国の要人たちが長机を囲んでいた。
「ん〜〜もぉっ! 私は忙しいって言ってるのに〜! こんな会議、時間のムダなんだけど〜〜?」
苛立ちを露わにする高音の声が、厳粛な空気をぶち壊す。
場違いなまでに華美なゴスロリ衣装。年齢も見た目通り、どう見ても十代前半。
だが──彼女の名は《リリィ》。
かつて“勇者一行”の一員として名を馳せ、今もなお「冒険者ギルド」の長としてその名を残す不老者である。
「落ち着いたらどうだ、リリィ」
国王が穏やかにたしなめる。若き君主として知られる彼だが、彼女の態度には少し眉を寄せる。
「ふんっ、偉そーに。どうせまた私抜きで勝手に決めるんでしょ?
あんたが頼りないから、舐められてるんだっての。分かってる?」
リリィの無礼極まりない物言いに、大臣たちが一斉に顔をしかめる。
「こ、国王陛下に対して、なんたる口の利き方……!
いかに過去の英雄とはいえ、もはや王政の時代。いい加減、分を弁えてもらわねば──」
「そもそも、“冒険者ギルド”などという遺物……。
今や継続している国も数えるほど。
傭兵と騎士団の時代に、採取だの探索だの、そんな穀潰しを未だ保護しているだけでも感謝すべきですぞ?」
「ふむ……外見ばかり子供のままと思えば、中身も同様とは。
百年も生きて、何一つ成長せぬとはな」
立て続けに浴びせられる非難。
だが、リリィは微塵も怯まず──
「はぁ〜〜? 偉そうに踏ん反り返ってるけどさ〜
アンタら全員、結局“大教皇の坊や”に頭が上がらないだけじゃん? なにが会議ごっこよ、ウケる〜」
バン、と机を叩いて立ち上がり、逆に煽り返す。
緊張が走る中──
若き国王が静かに声を発した。
「……まぁ、皆、落ち着け。
争うために集まったのではあるまい」
穏やかな声音には、確かな説得力が宿っている。
「我が至らぬ点は、承知している。
だからこそ、皆に支えてもらいたいと思っているのだ」
──その時だった。
重厚な扉が、静かに開いた。
「……遅れて、申し訳ありませんな。国王様」
現れたのは、この場において最年長──《大教皇》。
腰の曲がりも見せず、杖を持ち、ゆっくりと歩み寄るその姿は、まさに風格そのものだった。
「いや、構わぬ。むしろ、貴殿からの要請で集まった会議だ。
──我らを呼んだ理由、聞かせていただこう」
国王の言葉に、大教皇は深く頷き──
重々しく、椅子へと腰を下ろした。
そして一言、静かに告げた。
「……この国に、魔族のスパイが紛れ込んでいる──
そんな情報が、我らの元に届きました」
──会議室の空気が、凍りついた。
────────────
一方その頃──アステリオン王国、夜の花街。
ネオンに彩られた通りを、グローレンと俺は肩を組んで歩いていた。
「シュンの旦那ぁ〜! どうっすか? この街、可愛い子多いでしょ?
あの子とか、あの子とか! どれも逸材っすよぉ〜〜♡」
(俺の──人生を振り返る)
(学生時代は勉強漬け。青春?なにそれ)
(大学は六浪。人と話すより筋トレと睡眠時間の確保が優先)
(そして就職後はブラック企業で毎日“死”と隣り合わせ)
──女の子? 知らねぇよそんなもん!!!
鼻血出るわ!
今なら“セクシー”って文字見るだけで出血しそうだわ俺!!
(いやでもクーやカナは……いるけど……)
(クーは元・狼。カナは俺が呼び出した従者……)
(つまり、“俺の意思”が関与してる存在であって──)
(なんか、こう……“運命の邂逅”感がねぇんだよ!)
でも今日は違う!!
──俺はついに!
大人の階段を登る時が来たのだッ……!!(キリッ)
「グローレン君! いい目してるじゃないか!」
「でしょでしょーっ!? さすが旦那、話がわかるぅ〜〜!
特にあそこの店っすよ、王都最上級の名店!」
おぉぉぉ……まるでドラゴンの巣みてぇなオーラ放ってるけど……
でも俺は今、勇者になれる気がする……!
──その時だった。
「……ところでグローレン君」
「なんすか?」
「その……“あそこ”って、どのくらい……?」
「ん〜……ざっと40万ゼクトっすね〜?」
──沈黙。
よんじゅうまんぜくとぉぉぉぉぉぉっ!?!?!?
(いや待て、待て待て!)
(俺があの日けんちん汁を売り捌いて得たのは──7万ゼクト)
(戦場で!命を賭けて!血と涙と油まみれになって稼いで7万!!)
それが──?
たった一夜で!?
──40万ゼクトだと!?!?
(つーか俺、自由に使える金いくらよ!?)
(…………)
(……せいぜい1万ゼクト)
(いや、むしろマイナスの可能性あるまである)
ナイわ!!ゼクトが足りなさすぎて“無ゼクト”だわ!!!
「……うん、グローレン君。今日は──またにしよう……」
「えっ!? なんでなんすか!? さっきまであんな楽しそうだったのに!?
鼻血垂らしながら“今日こそ大人の階段登るッ!”とか叫んでたじゃないっすか!!」
「いや……その……ゼクトが……」
──ゼクトの壁は高かった。
そのとき、路地裏のほうから女の声が響いた。
「だからっ! やめてって言ってるでしょ!?
あなたは、あくまで“お客”の一人なの!!」
(……おぉ……)
(どこの世界でも──恋のトラブルは絶えないんだなぁ……)
感慨深げに振り返ると──
──グローレンがいない。
「……えっ?」
視線を路地へ向けると、そこには──
すでに飛び出していくグローレンの背中があった。
「おいコラぁッ!! レディを泣かせてんじゃねぇぞコノヤロウ!!」
──男が一人、女の腕を掴み怒鳴っていた。
グローレンはその間に割って入り、仁王立ちで叫ぶ。
「レディに手ェ出すとか、男の風上にも置けねぇなオイ!」
男は不機嫌そうに舌打ちを鳴らす。
「チッ……なんだてめぇ。関係ねぇだろ、引っ込んでろ」
「そうはいかねぇ!
俺っちは、可愛い子が泣いてるのを見ると黙ってられねぇ主義なんでね!!」
(うん、さすがグローレン……
バカっぽいけど、決めるときは決める男……!)
(俺は……静かに見守ろう)
──男が振りかぶる。
その拳を、グローレンは軽く受け流し──
そのまま足を払って、男の体を一瞬で地に伏せさせた。
「ふっ。女の子を泣かす奴は、こうなる運命なんすよ……」
決まった。
誰がどう見ても、王都のヒーロー降臨である。
グローレンは華麗に手を払い、制圧した男の上でクルッとターン。
そして、優しく声をかける。
「お嬢さん、大丈夫っすか? お怪我はありませんか?」
──だが、その場には
誰もいなかった。
「…………いない」
(うん、そりゃそうだよね。
二人が殴り合ってる間に、普通に逃げてたよね)
(どんまいグローレン……)
そのとき、地面に転がっていた男が、ギリギリと歯噛みして立ち上がる。
「テメェら……覚えてろよ……!」
──ら?
らって何?
え、ら!?
「俺も含まれてるぅぅぅぅぅぅ!?!?!?!?」
男はそのまま、捨て台詞を残して闇へと消えていった。
(……ってこれ、フラグじゃねぇか!?
絶対後日なんか来るやつじゃん……!!)
(やめて、こっちは40万ゼクトにすらビビってんのに!)
「俺の夜は、“金も女もないのに命まで狙われる”という最悪のオチで幕を閉じた──」
【あとがき小話】
「なでてほしいのだぁぁぁ!!!」
「えへっ……えへへっ……ふふふふふふ……っ!!」
「し、知ってるのだ……! クー、ちゃ〜んと見てたのだっ……!」
「昨日から──**ブクマが、6つも増えてたのだぁぁぁぁぁっ!!!」
(※バク転しながら喜びを表現中)
「うれしいのだぁ……うれしくて、クー、胸がぽかぽかするのだぁ……」
「だから……っ!」
「……なでてほしいのだ……!」
「なでなでして……“よくがんばったね”って言ってほしいのだぁ……!」
「ブクマしてくれた人も……読んでくれた人も……
全部全部、ありがとなのだっ!」
「だから……お願いなのだっ……!」
(※おなか出してごろん)
「クーの頭、なでてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
(※しっぽぶんぶんMAX)
【あとがき小話】
「なでてほしいのだぁぁぁ!!!」
「えへっ……えへへっ……ふふふふふふ……っ!!」
「し、知ってるのだ……! クー、ちゃ〜んと見てたのだっ……!」
「昨日から──**ブクマが、6つも増えてたのだぁぁぁぁぁっ!!!」
(※バク転しながら喜びを表現中)
「うれしいのだぁ……うれしくて、クー、胸がぽかぽかするのだぁ……」
「だから……っ!」
「……なでてほしいのだ……!」
「なでなでして……“よくがんばったね”って言ってほしいのだぁ……!」
「ブクマしてくれた人も……読んでくれた人も……
全部全部、ありがとなのだっ!」
「だから……お願いなのだっ……!」
(※おなか出してごろん)
「クーの頭、なでてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
(※しっぽぶんぶんMAX)




