第33話『この世界、魔法に厳しすぎ問題』
観客たちは、腹を抱えて笑いながら去っていった。
「ホワ〜ン魔法!あれ絶対、風鈴の精霊だわ!」
「いやもう“ぽわぽわ魔法使い(笑)”確定じゃねー!?」
(……っっっ……!!)
(俺も……今すぐ消えたいんですけど!?)
(絶対つくじゃん!?“亀玉ノロノロ野郎”とか、“詠唱ホワ〜ン芸人”とか!!)
──観客がいなくなった試験会場には、
俺とカナ、ギルマス、そして受付嬢だけが残されていた。
そんな静まり返った空気の中──
ギルマスターがズイッと詰め寄ってきた。
「あなた!何その魔法!?
私が知ってる“初級魔法”と全然違うんだけど!?」
(……あ、あぁやっぱそうだよね?)
(ぽわ〜んて浮くし、速度もナメてるし……
でも“あんな遅さ”でも初級の皮は被ってたんだな……すみません……)
「は……は……あんなもんしか出せません……」
「あんなもんって!?
威力バグってたわよ!?威力が!!」
(あんなノロノロな上に……威力までバグってたのかよ!?
遅い上に威力も無いとか……)
(大賢者の魔法、ここまで来ると逆に“完成度低すぎ”だろ!!)
「どのくらい前から魔法覚えたの!?」
「え……あ、いや……えっと……」
(え〜と、俺が魔法の才能を引き継いだのが……確か……)
「……1ヶ月、くらい前……です……」
「───いち、かげつ……?」
「1ヶ月……!?ですって……!?」
(あーはいはいごめんなさ〜い!)
(1ヶ月で“ぽわぽわホワ〜ン玉”しか出せません!)
(いやむしろお前よ!大賢者!
日記で“無理ゲーだわこの世界”とか泣き言書く前に、
“初級魔法のチューニング”頑張れよおおお!?)
そんな俺の内心なんかお構いなしに、ギルマスターがスッと手を差し出した。
「あなた……私はリリィ! 私の──」
何かを言いかけたその瞬間──
「ギルドマスター様!!」
騎士らしき男がドカドカ走ってきて、リリィを後ろからガシッと掴む。
「何度も呼んだのに……!
大司教様がお待ちです!もうとっくに会議始まってますよ!」
「はぁ!?
大賢者のガキなんて、おしゃぶりでも咥えときなさいよ!?
あたしは今、未来の化け物素材を──」
「いいから行きます!!」
「ちょっ……あたしはまだ──!!」
リリィはずるずる引きずられ、試験場の出口へと消えていった。
(……いやいやいやいや)
(その“大司教”って、俺から見ればめちゃくちゃ偉そうな存在のはずなんだけど!?)
(それをガキ扱いで“おしゃぶり”って……)
(リリィ、お前が一番お子様だろ!!!)
……と、心の中で叫んでると。
受付嬢が苦笑いしながら書類を持ってくる。
「え〜と、マスターが引きずられていったので……
代わりに私が登録手続きをしますね。お疲れ様でした♪」
「あ、ありがとうございます……」
「一応、E級スタートになりますが、それでよろしいでしょうか?」
「……はい、お願いします……」
(──図書館行くための登録試験で、
あそこまでメンタルえぐられると思わなかった……)
(……でも、合格は合格か……)
(うん、ヨシとする。ギリ。たぶん)
──こうして俺は、何とか“冒険者”として登録を終えた。
──────
宿への帰り道。
空は茜色に染まり、王都の街灯がぽつぽつと灯りはじめていた。
人の声、馬車の音、屋台の掛け声──活気はあるが、どこか戦時中の緊張感も漂っている。
そんな中、俺はぽつりと呟いた。
「なぁカナ……お前はB級スタート、俺はE級スタートだったけどさ……」
「……やっぱ、魔法ってこの世界じゃ“終わってる”んだな……」
カナは不思議そうに、首をかしげる。
「そのようには見えませんでしたが?」
「えっ、見えたでしょ? ポワァ〜って玉出して、みんなにゲラゲラ笑われた俺が?」
「いえ、私の目には──主様の魔法は、“終わっている”どころか、異常に見えましたが?」
「いやまぁ……うん、それは俺も思ってる」
(てかあんな使えないのが“初級魔法”って何なんだよ……やっぱり魔法って終わってるだろ)
「でも世間的には、“ポワポワ玉”だったからね……」
カナは小さく笑い、俺を見つめる。
「主様が“終わっている”と判断されたのであれば──このカナも、その“知見”に立てるよう、学びを深めて参ります」
(知見……うん……さすが忠臣、発言が哲学的すぎる)
(まぁ、俺も俺で、使える魔法だけ見繕っておこう……今後の“ぽわぽわ事故”を防ぐためにも)
「……とりあえず、これで図書館には行けるようになったけど──」
「……ごめん。俺はE級だからまだ入れなくて。代わりに調べてもらっていい?」
カナは、その問いに即座に頷く。
その表情は、どこまでも誇らしげで、忠誠心に満ちていた。
「もちろんでございます、主様」
「主様の命とあらば──このカナ、必ず満足のいく成果を持ち帰ってご覧に入れましょう」
(あぁ……マジで頼りになるな……)
(俺より強くて、忠誠心MAXで、しかも可愛いとか……この子が家臣とか本当頼りになる)
「じゃあ、俺はそのへん探索してみる。せっかくだし、王都の情報もちょっと集めておきたいし」
「承知しました。主様。道中、怪しげな者を見かけた場合、即座に排除してから向かいます」
「やめて!?警備隊に通報して!?問題だけは勘弁して!!」
──こうして、俺とカナは別行動を取ることになった。
カナは図書館へ。
俺は王都の探索へ。
目的も手段も違えど──
目指すものは、同じ。
「静かに暮らしたい」
──その願いを叶えるための、“手段”を探す旅だ。
……たぶん、ね。
あとがき
「……ふふっ……ふふふふふ……♡」
「……ブクマが、増えていました」
「主様の物語が、確かに“誰かに届いた”……!」
「その事実に、私、喜びのあまり──」
「……次話を勝手に投稿いたしました!!」
「すみません、制御できませんでした……!
理性より先に、指が動いてしまったんです……!」
「だって……この感情は、戦場の勝利にも勝る……!
主様への忠誠を称賛されたような……そんな気がして……!」
「反応をいただけるだけで、私……あと十話くらい戦えます……」
「どうか、どうかこれからも……主様の物語を見守ってください」
「──そして、引き続きご支援いただけるのであれば……」
「私は、次の更新を**“最速で”**ご用意いたします……!」
「……え?作者のスケジュール?
ご心配なく。私が押し切りましたので」
「何より大切なのは、“今、主様が祝福されている”という事実……!」
「主様に反応してくださった、あなた──」
「私、貴方のこと……少しだけ認めます」
「……少しだけ、ですけど」
(※既に次話の投稿ボタンにカーソルを乗せてる目)




