第31話『ようこそ、冒険者ギルドへ。』
「12歳の誕生日、おめでとう♪ リリィ!」
「来年はいよいよ、王都の魔法学校だな!」
両親が、いつもより少しだけ豪華なご馳走で祝ってくれた。
今日は特別な日。だけど、それでも“いつもの幸せ”の延長にある日だった。
──王都には、可愛いお人形とか、お洋服がたくさんあるらしい。
商人のおじさんがそう教えてくれた。
だから私は、毎日魔法の練習をしてる。
だって、来年には魔法学校に入学するんだもの!
この前だって、村の近くに現れた魔物を、村の人たちと協力して倒した。
いつか勇者のパーティーに入って、えっらい冒険者になる。
そして──
可愛いものを、たくさん集めるの。
……そう、決めていた。
だけど──
12歳の誕生日の、ほんの少しあと。
悲劇は、なんの前触れもなく訪れた。
──────
「おい! 大丈夫か! 動ける奴らは女子供を連れて──ぐあああああっ!!」
(ん……? 体が……痛い……)
(パパとママと……お野菜、採ってた……はず……)
目を開けた。
そこにあったのは──地獄だった。
村は燃えていた。
田畑は巨大な足跡に踏み荒らされ、家は潰され、煙が空を覆っていた。
この前、魔物を一緒に倒したお兄さんたち──
その身体は、散らばっていた。
「……パパ? ママ……?」
這うようにして、傷ついた体を引きずる。
さっきまで一緒にいたはずの両親を、必死に探す。
けれど──
その前に、現れたのは。
──数匹の、ゴブリンたちだった。
「な……何よ……! べ、別に……あんたたちなんて……!」
「こ、怖くなんか──無いんだから……!!」
必死に声を張り上げる。
恐怖で足が震えていても、言葉だけは負けたくなかった。
「火の精霊よ……ささやかな祈りを聞き入れ、力を貸して……ファイア──ッ!」
詠唱の最中。
その言葉が終わるより先に──
ゴブリンの斧が振り下ろされた。
「きゃっ──!」
転がる。掠っただけでも、骨に響く衝撃。
地面に手をつきながら、再び詠唱を始める。
「火の精霊よ、ささやかな──」
また斧が来る。
魔法が、完成しない。
「火の……精霊よ……」
何度やっても──終わる前に襲われる。
12歳の少女は、その瞬間、悟った。
前衛のいない魔法使いなんて、ただの的だ──
目の前に広がる現実は、教本の中の戦術なんかじゃない。
誰も、守ってくれない。
誰も、待ってくれない。
──私は、弱い。
──このまま、殺されるんだ。
そう、思ったその時──
「──第四戦技《流水剣》」
静かな声とともに、風が走った。
いや──水のように“流れ”が走った。
目の前のゴブリンたちが、何かに包まれたように──
弧を描いて、一斉に吹き飛んだ。
剣を持った一人の男が、そこに立っていた。
(……何……あれ……)
斬撃? 魔法? それとも──何か別の、もっとすごい“力”?
空気の重みが、まるで違って見えた。
「大丈夫かい?」
男が、振り返る。
やわらかな笑みと、真っ直ぐな目。
それは、“戦い慣れた者の目”だった。
このあとすぐに、彼の仲間たち──
斧使い、弓兵、魔術士らしき数人が現れ、残ったゴブリンを薙ぎ払っていく。
誰もが“生きるために戦っている”顔をしていた。
そして──
これが、後に魔王を討伐し、
魔法中心だった時代を終わらせ、
“戦技”という新たな力を広めた──
──勇者と、私の出会いだった。
──────
かつて、私が生まれ育った村に──両親の墓を建てた。
あの日、焼け落ちた家の前に。
私ひとりでは、土を掘るだけで何時間もかかった。
けれど、ようやく埋めてあげられた。
……だから、もう、ここにいる理由は無かった。
魔法学校に行く意味も、無くなっていた。
魔法は、詠唱に時間がかかる。
守ってくれる前衛がいなければ、何もできない。
村で私は、魔法が何の役にも立たないことを知った。
だから──勇者たちについていくのは、必然だった。
彼らは、“戦技”という技を使う。
剣が風を纏い、斬撃が流れを生み、足が空を跳ぶ。
まるで魔法のような剣さばき、身のこなし──
けれど、それは魔法じゃない。
私は、旅の中でその技を必死に見て、盗み、真似た。
次第に、仲間も増えた。
気づけば、私たちは「勇者パーティー」と呼ばれるようになっていた。
──────
ある日、戦場の最前線で耳にした。
「“大賢者”と呼ばれる魔術師が、鉄峰連合とアステリオン王国の境に現れた」
かつて、世界を一度壊した存在。
魔王と並び、歴史の中で名を刻んでいた災厄。
私たちは、大賢者を追った。
──そして、出会った。
あまりにも胡散臭い、フード姿の男だった。
銀色の巨大な狼を連れ、開口一番こう叫んだ。
「ハーレムを作りてぇぇぇだけなんだよおおおおおおおおおおおお!!!」
(……何この人……)
だが、ふざけているのは口だけだった。
その魔法は──地形を捻じ曲げ、天候すら変える。
雷を呼び、空気を凍らせ、大地を引き裂いた。
私たちには、“対魔法領域”を扱える僧侶がいた。
だからこそ、「魔法使いなど怖くない」と思っていた。
だが──
その力は、異質だった。
銀狼が前線を張り、
大賢者は、弱体化を受けてなお、常識外の魔力をぶつけてくる。
「何でだよ……俺はただ異世界で可愛い女の子に囲まれたいだけなのに……」
「きっしょ♡ ハーレムとか言って、犬一匹しかついてないじゃ〜ん♡」
「おい!リリィ!気を抜くな! くるぞ!」
「このロリッ子がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
──戦いは、凄絶を極めた。
だが最後には、私たちが勝った。
大賢者を禁忌の森に封じ、
森全体を結界で包み、外へ出られないようにした。
けれど、その代償として──
私は、“不老”の呪いをかけられた。
(可愛い女の子ぶってる奴は全員地獄を見ろぉぉぉぉぉ!!!)
(お前らまとめて合法ロリになれぇぇぇぇぇ!!!)
──と、わけのわからないことを叫びながら。
──そして私は、止まった。
魔王を討伐し、世界は“平穏”を取り戻した。
あれから、何年が経ったのかは、もう分からない。
仲間たちは、一人、また一人と去っていった。
あの勇者すら──いつの間にか、姿を消した。
気づけば、私だけが残っていた。
私は、孤独になった。
孤独を埋めるように、可愛いものを集めた。
ぬいぐるみ、リボン、ドレス、小さな食器……
可愛いは、正義。可愛いは、癒やし。
でも、それは穴の空いたバケツに水を注ぐようなものだった。
──気づけば、手元のお金は消えていた。
仕方なく、“ギルドマスター”という職に就いた。
でも、そこに夢はなかった。
魔王も、大賢者もいなくなったこの世界は、
今度は、国同士が醜く争う時代へと移り変わった。
冒険者は廃れ、
代わりに──騎士団と傭兵が主流となった。
私は、何度も騎士団に誘われた。
力も、実績も、全ては申し分ないと。
──でも、興味はわかなかった。
私が憧れた“勇者”とは、違っていた。
彼らは理想の象徴で、
誰かのために戦い、誰かの心を救う存在だった。
今の騎士団に、そんな顔はなかった。
呪いを解く術も、いまだ見つかっていない。
そして──魔法は、もう、廃れた。
魔法が消えたこの世界で、
不老のまま生き続ける私は──
今、世界に絶望している。
止まったままの身体。
止まったままの心。
時間だけが、残酷に過ぎていく。
──それでも。
もし、誰かがまた、私の時間を動かしてくれるなら。
そんな夢を、ほんの少しだけ……まだ、見ているのかもしれない。
リリィ
──不老のギルドマスター。
かつて、勇者の隣にいた少女。
今はただ、誰かの“スタート地点”である場所で──
笑いながら、待っている。
──「ようこそ、ギルドへ♡」
ちょっとぉ〜♡
誰ぇ!?ブックマーク増やしたのぉ!?
……いや、褒めてるよ? ちゃんと褒めてる。
めちゃくちゃ偉い、すっごい偉い。天才、優勝、神、世界の光♡
でもさぁ……
作者がね?その瞬間──
跳ねたの♡ ピョーンッて♡ ベッドの上で♡
「うわぁぁぁぁ!?更新ボタン押しちゃったぁぁぁ!!!」って叫びながら、
投稿日じゃないのに公開してやんの♡
……ねぇ、それ見てどう思う?
可哀想? ううん、笑っていいとこ♡
でもまぁ、応援されたら調子乗るのがこの作者だからさ〜、
あなたのその1クリックで、たぶんあと3話ぐらいは書くんじゃないかなぁ?
……うっわ、責任重大♡
だからさ♡
ちゃんと覚悟して読みに来なさ〜い?
あなたが“神”なら──
作者はその辺に転がる“拝み倒すバカ”だし♡
うふふっ、
次の更新も、ちゃんと見にきなさい♡




