第30話『筋肉ゴリラは図書館の夢を見る』
部屋に荷物を運び込み、ひとまず今後の方針を確認することにした。
「図書館に行って、キュリが言ってた戦争の記録とか伝承の類を調べる──それが今の目的ってことでいいんだよね?」
「えぇ、ですが現時点では、忍び込むしか手段がありません」
「……え? なんで?」
「仮にも王国の資料です。貴重な文献の保管庫となれば、入館には許可が必要かと」
「えぇええええぇぇぇ!?」
思いっきり日本感覚で「誰でも入れる図書館」を想像してた俺がバカだった。
まぁよく考えれば──この世界、パソコンもコピー機も無い。
紙の資料は一点モノ。そりゃあ貴重だよな。
「で、その許可ってどうやったら出るの?」
「国の推薦、市民権、あるいは……国が認める傭兵資格でしょうか」
「つまり、“冒険者登録”ってやつか……」
思わず天を仰ぐ。
出たよ、RPGテンプレ。
図書館行きたいだけなのに、まずはギルド登録から。
もはや【おつかいクエストの始まり】感が漂う。
「……まぁ収入源になるなら悪くないか」
というわけで、俺とカナは“ギルド的な場所”へ向かうことにした。
───
そして、ここがその案内所。
外観はまさにイメージ通りの“冒険者ギルド”。
ただし──
中に入った瞬間、イメージは崩壊した。
「あれ……思ってたより……血の匂い強くね?」
扉を開けた瞬間、全員の視線が一斉にこっちへ。
見た目からしてゴロツキっていうか……ほぼ殺し屋。
角刈り+傷だらけ+二刀流+口に楊枝。
全員、誰かしら殺した後に来てるような面構え。
「……あの、二人……登録したいんですけど……」
受付嬢にそう声をかけると、目を丸くされた。
そりゃそうだ。
筋骨隆々の男たちが肩をぶつけ合う空間に、
明らかに“浮いてる”のが俺たちだ。
(いやでも……ギルドとかってキュリみたいな女の子もいるんじゃないの……?)
……すると後方から、いかにもな声が飛ぶ。
「おいおい、女連れて傭兵だぁ? にぃちゃん、溜まるもんも溜まんねぇってかぁ?」
「ハネムーンギルドデビューってか? いいねぇ、俺も一緒に混ぜてくれよぉ?」
即座にカナを確認した──反撃始まるかと思って。
「処刑しましょうか?」とか出るかとビビったんだけど──
……え? なんでカナ、嬉しそうなの?
(まさか……)
(これ、“夫婦っぽいって思われた”って解釈して喜んでない!?)
(ギルドの地獄環境より、そっちの方が重要なの!?)
カナは微笑み、俺の腕にピトッと寄り添う。
「……主様♡ こういう雰囲気も、“新婚設定”には大切かと」
(もはや設定じゃなくて感情ダダ漏れなんですけど!?)
「ではこちらの契約書に、サインをお願いします」
受付嬢に渡された紙を見ると──そこには、びっしりと“戦場規約”が書かれていた。
《契約後の離反・逃亡は死罪》
《上官の命令には、例え致死性が高くても従うこと》
《危険手当は前線到達後に申請可能(※死亡時は無効)》
《命が惜しい場合は、腕でカバーせよ》
──はい?
(なんか、文字が全部“棺桶フォント”で見えるんだけど!?)
「カナ!?ねぇカナ!?これ絶対ヤバい!死ぬやつ!!」
「ふむ、あまりに普通の規約ですね……」
「普通じゃねぇよッ!!死ぬって書いてあるよね!?しかもけっこう明確に!!」
俺が顔面蒼白でジタバタする中、受付嬢が不思議そうに口を開いた。
「あの……ここ、“傭兵案内所”ですけど?てっきり重罪人の方かと……」
「え、じゅ、重罪人!?」
「いえ、傭兵登録はだいたい、死刑寸前の囚人とか、国に裏切られた帰還兵の方が多いので……」
──え、ここそんなところなの!?
「ちなみに、いわゆる“冒険者ギルド”は2本隣の通りにありますよ?」
……。
「えっ」
その瞬間、俺はカナを見た。
「……カナ?」
「……女性が少ない方が、主様との共同生活に支障が出にくいかと」
「そっちの理由ぉぉぉおおお!?!?」
──ダメだ。命足りねぇ。
本気でこのままだと、死ぬ。
図書館の許可どころか、首が飛ぶ。
いや、俺、なんでここまで他人任せだったんだっけ。
(……そうか。カナは“ある程度の知識を持った状態で召喚”されたから、俺よりこの世界に詳しいはず──って、勝手に思ってたんだ)
でもそれ、完全に油断だった。
知識はある。でも優先順位が狂ってる。
俺の命より「夫婦感」を優先するタイプだ、この子は。
──もう決めた。
この先は、自分で考える。
他人に流されるんじゃなくて、ちゃんと選ぶ。
命がけの決断が必要なら──
その前に**「行き先くらいは自分で決める」**くらいの人間でありたい。
「……行くぞ、カナ。2本隣の通りだ」
「……はい♡ では今度こそ、新婚冒険者夫婦として──」
「設定のせいで死にかけた自覚ある!?」
──こうして、ようやく俺たちは“まともな方のギルド”へ向かうのだった。
──2本隣の“冒険者ギルド”は、外観こそ似たようなもんだった。
けれど──扉を開けて一歩踏み込んだ瞬間、
「これだ……!これだよ……!!」
──求めてたのは、コレなんだよ!!
露出度高めの鎧に身を包んだ女戦士!
ツインテのレンジャー!
大剣を担ぐイケメン!
スカーフ巻いた斜に構えた盗賊!
角で乾杯してるドワーフおじさん!!
(なんだよ……ちゃんとあるじゃねぇか!夢のRPG空間!!)
そのままの勢いで、受付嬢にルンルンで向かう。
「こんにちはー!冒険者登録したいんですけど!」
受付嬢は笑顔で頷いた。
「はい♪ ようこそ。登録ですね?」
「そう!で、これ登録すれば市民登録と同じで身分証になるんですよね!?」
「はい♪ ただし“C級”以上まで昇格しないと、公共機関はご利用いただけませんのでご注意を♡」
「全然やります!! やりまくります!じゃあ登録を!」
「お連れの方も、ご一緒に登録されますか?」
「はい、主人と一緒に♪」
「まぁ♡ 夫婦で冒険者登録とは珍しいですね〜♪
最近は採取系の依頼も多いですから、仲良し夫婦にぴったりですよ」
(そうか、戦うだけじゃなくて、日銭稼ぎにもなるのか。こりゃ一石二鳥だな)
「では、こちらにお名前をご記入いただいて……登録試験は中庭で行いますので、お済みになりましたらお進みください♪」
──サラサラと名前を記入し、案内された中庭へ向かう。
そこでは、すでに数人の冒険者が集まり、中庭を囲むように観客席から覗き込んでいた。
(……なんか、見られてるな。スカウトか?物珍しさか?)
受付嬢が戻ってくる。
その隣には──
「え?」
──どう見ても10代前半にしか見えない少女。
ふわりと揺れる黒と紫のゴシックドレス。
リボンとフリルで装飾されたスカートは、膝丈で動きやすそうな作り。
白いタイツに編み上げブーツまで完璧に揃えており、
まるで“どこかの貴族の人形コレクション”から抜け出してきたような雰囲気だ
「マスター、この方達が新規登録者です」
……え、マスター? 今なんつった? この子が?
シュンの視線を受けて、少女は無言でジロリと睨んだ後、
満面の営業スマイルに切り替えた。
「はいはーい、いらっしゃい♡ 新人さんたちだね〜♪
まぁ……この感じなら多分合格だけどぉー、やっぱり試験って大事だよねぇ〜?」
(うわ、喋り方が“やべぇ系”だ……!)
「──じゃ、どっちからやる〜?♡ 実戦形式だけどぉ?」
……いや、こっちの胃が実戦だよ。
喋り方は陽キャ、目は人を選別するタイプの悪魔。
その態度に若干イラッとしつつも、ここで切れるほどガキじゃない……たぶん。
すると、カナが一歩前に出た。
「では、私から参りますね?」
そう言って、ふわりとシュンの手を離す。
その瞬間、中庭の空気が微かに……冷えた気がした。
「……どうか、お怪我のない範囲でご対応くださいませ♡」
(……あ、これまた誰か吹っ飛ぶやつだ)
俺と受付嬢は、直感的に“これから地獄が始まる”ことを察知し──
少しだけ距離を取った。
カナは、静かに右手を掲げ──重々しい金属音と共に、空中からメイスを呼び出した。
その瞬間、観客席の空気が微かにざわめく。
「へぇ〜……面白いね、それ。収納魔法? それとも……幻術?」
ギルドマスターの少女──ゴシックドレスの裾を揺らしながら、興味深そうに首を傾げる。
その赤い瞳には、好奇と悪戯の色が入り混じっていた。
「……お喋りはいいので、始めましょう」
そう返すカナの視線は冷たい。
受付嬢が手を振り上げる。
「始めッ!」
その声が終わる前に──ズドン!!──爆音が中庭に響いた。
カナが踏み込み、メイスを振り下ろす。
迷いも溜めもない。まるで一撃で終わらせるかのような殺気。
ゴスロリの少女はそれを見ながら、ふわりと横に跳ねて躱す。
「うわっ、怖〜。ちゃんと狙ってくるじゃん。えらいえらい」
その間に少女は、小さなナイフを数本、手の中から滑り出すように取り出す。
指先から滑るように放たれたナイフは、カナの背後へと回り込むような軌道で──空中に止まった。
一瞬の静止。
そして──角度を変え、カナを追尾するように殺到する。
(追ってくる……?)
しかし、カナは振り返らない。
聖鎖が音もなく現れ、刃のうち二本を絡め落とす。
残り一発がかすかに肩を掠めたが、構えは一切崩さない。
「……ふ〜ん?魔法かな? ってか、今の……“鎖”?」
少女がニヤッと笑う。
「珍しいな〜、そんなの見たの久しぶり。
てっきり、ただの殴る系かと思ってたんだけど」
言いながら、少女はくるりと回転し、もう一度距離を取る。
軽やかな足取り。まるで遊んでいるかのような動き。
だが、視線だけは──一瞬たりともカナを見失っていない。
「けどさ〜……ねぇ、ちょっと聞いていい?」
少女は口元に指を添え、上目遣いで言う。
「その体格で……ほんとに“お嫁さん”やってんの?」
カナの足が、止まる。
「え、だって、でっかいしゴツいし……
主様って人、よっぽど物好きなんだね〜?」
──ビキィ。
空気が凍る。
地を踏みしめるカナの足元で、石畳がヒビを入れて砕けた。
「……主様を、侮辱しましたね」
「え〜? してないよ? ただの感想♡
でもまぁ、“筋肉ゴリラ”って言われたくなかったら、もう少し女の子らしい恰好したら?」
ズドオオオンッ!!!
カナが飛び出す。
その踏み込みだけで砂塵が舞い、観客席がどよめく。
メイスが再び振るわれる──音が遅れて届くほどの速度。
少女はすれすれで飛び退き、同時に手から小型ナイフを投擲。
だが、そのすべてを、カナの聖鎖が絡め取り、叩き落とす。
「わぁ、ちゃんと怒った。やっぱり効いた? あたしのひとこと♡」
少女の口調は軽い。だが、手元の動きは一切緩まない。
飛び跳ね、地を蹴り、ナイフを撒き、回避しながら観察する。
一方、カナは追い詰める。
構えを崩さず、狙いを定め、間合いを殺し、逃がさない。
まるで狩人。いや──処刑人。
観客席が静まり返る中、二人だけが空気を震わせていた。
(……ちょっと待て? え? これって“軽く手合わせ”の試験じゃなかったっけ!?)
シュンは、遠くで胃を押さえながら考えていた。
(なぁ……図書館行くための準備で、今こんな命削ってるのおかしくない!?)
そして次の瞬間、カナのメイスが──少女の足元、寸前の距離で地を砕いた。
破片が跳ね、少女のドレスの裾が破れる。
……にもかかわらず、少女はなお、笑っていた。
「ふふっ……いいじゃん、いいじゃん。ちょっと楽しくなってきたかも〜?」
その赤い瞳は、どこまでも愉しげだった。
そして、カナの瞳は──どこまでも冷酷だった。
中庭の空気が、さらに緊迫を増していく。
だが、誰も止めようとはしなかった。
──この戦いが、どこまで進むのか。
全員が、固唾を飲んで見守っていた。
よ、読んでくれたのだ!?
……ほんとに!?ほんとに!?読んだってやつ!?
じゃあ!じゃあ!!クーのこと、褒めてくれてもいいのだっ!!
ブクマでも、いいねでも、感想でも、★でも、なでなででもっ!
なんでもいいから!**「えらいのだ〜♡」**って言ってほしいのだ!!
あとお肉もほしい。
いや、ブクマと一緒にお肉ついてこないかなって……え?ついてこないの?
えー……じゃあ感想書いたら抽選で焼肉の券とか……(もごもご)
あっ、でもでも!クーね!また来てくれたら、今日より2倍しっぽ振るのだっ!
だからまた来てね?来てくれたら、クー、全力で走って全力で転んで全力で笑うのだっ!!
……てか、なんの話だったっけ?
と、とにかくありがとなのだーーーっ!!!




