表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/80

第30話『筋肉ゴリラは図書館の夢を見る』

部屋に荷物を運び込み、ひとまず今後の方針を確認することにした。


 


「図書館に行って、キュリが言ってた戦争の記録とか伝承の類を調べる──それが今の目的ってことでいいんだよね?」


 


「えぇ、ですが現時点では、忍び込むしか手段がありません」


 


「……え? なんで?」


 


「仮にも王国の資料です。貴重な文献の保管庫となれば、入館には許可が必要かと」


 


「えぇええええぇぇぇ!?」


 


思いっきり日本感覚で「誰でも入れる図書館」を想像してた俺がバカだった。


まぁよく考えれば──この世界、パソコンもコピー機も無い。


紙の資料は一点モノ。そりゃあ貴重だよな。


 


「で、その許可ってどうやったら出るの?」


 


「国の推薦、市民権、あるいは……国が認める傭兵資格でしょうか」


 


「つまり、“冒険者登録”ってやつか……」


 


思わず天を仰ぐ。


出たよ、RPGテンプレ。


図書館行きたいだけなのに、まずはギルド登録から。

もはや【おつかいクエストの始まり】感が漂う。


 


「……まぁ収入源になるなら悪くないか」


 


というわけで、俺とカナは“ギルド的な場所”へ向かうことにした。


 


───


 


そして、ここがその案内所。


外観はまさにイメージ通りの“冒険者ギルド”。


ただし──


 


中に入った瞬間、イメージは崩壊した。


 


「あれ……思ってたより……血の匂い強くね?」


 


扉を開けた瞬間、全員の視線が一斉にこっちへ。


見た目からしてゴロツキっていうか……ほぼ殺し屋。


角刈り+傷だらけ+二刀流+口に楊枝。

全員、誰かしら殺した後に来てるような面構え。


 


「……あの、二人……登録したいんですけど……」


 


受付嬢にそう声をかけると、目を丸くされた。


そりゃそうだ。


筋骨隆々の男たちが肩をぶつけ合う空間に、

明らかに“浮いてる”のが俺たちだ。


 


(いやでも……ギルドとかってキュリみたいな女の子もいるんじゃないの……?)


 


……すると後方から、いかにもな声が飛ぶ。


 


「おいおい、女連れて傭兵だぁ? にぃちゃん、溜まるもんも溜まんねぇってかぁ?」


 


「ハネムーンギルドデビューってか? いいねぇ、俺も一緒に混ぜてくれよぉ?」


 


即座にカナを確認した──反撃始まるかと思って。


 


「処刑しましょうか?」とか出るかとビビったんだけど──


 


……え? なんでカナ、嬉しそうなの?


 


(まさか……)


(これ、“夫婦っぽいって思われた”って解釈して喜んでない!?)


(ギルドの地獄環境より、そっちの方が重要なの!?)


 


カナは微笑み、俺の腕にピトッと寄り添う。


 


「……主様♡ こういう雰囲気も、“新婚設定”には大切かと」


 


(もはや設定じゃなくて感情ダダ漏れなんですけど!?)


 


「ではこちらの契約書に、サインをお願いします」


 


受付嬢に渡された紙を見ると──そこには、びっしりと“戦場規約”が書かれていた。


 


《契約後の離反・逃亡は死罪》

《上官の命令には、例え致死性が高くても従うこと》

《危険手当は前線到達後に申請可能(※死亡時は無効)》

《命が惜しい場合は、腕でカバーせよ》


 


 


──はい?


 


 


(なんか、文字が全部“棺桶フォント”で見えるんだけど!?)


 


「カナ!?ねぇカナ!?これ絶対ヤバい!死ぬやつ!!」


 


「ふむ、あまりに普通の規約ですね……」


 


「普通じゃねぇよッ!!死ぬって書いてあるよね!?しかもけっこう明確に!!」


 


俺が顔面蒼白でジタバタする中、受付嬢が不思議そうに口を開いた。


 


「あの……ここ、“傭兵案内所”ですけど?てっきり重罪人の方かと……」


 


「え、じゅ、重罪人!?」


 


「いえ、傭兵登録はだいたい、死刑寸前の囚人とか、国に裏切られた帰還兵の方が多いので……」


 


 


──え、ここそんなところなの!?


 


 


「ちなみに、いわゆる“冒険者ギルド”は2本隣の通りにありますよ?」


 


 


……。


 


「えっ」


 


 


その瞬間、俺はカナを見た。


 


「……カナ?」


 


「……女性が少ない方が、主様との共同生活に支障が出にくいかと」


 


「そっちの理由ぉぉぉおおお!?!?」


 


 


──ダメだ。命足りねぇ。


 


本気でこのままだと、死ぬ。


図書館の許可どころか、首が飛ぶ。


 


いや、俺、なんでここまで他人任せだったんだっけ。


 


(……そうか。カナは“ある程度の知識を持った状態で召喚”されたから、俺よりこの世界に詳しいはず──って、勝手に思ってたんだ)


 


でもそれ、完全に油断だった。


知識はある。でも優先順位が狂ってる。


俺の命より「夫婦感」を優先するタイプだ、この子は。


 


 


──もう決めた。


 


この先は、自分で考える。


他人に流されるんじゃなくて、ちゃんと選ぶ。


命がけの決断が必要なら──


その前に**「行き先くらいは自分で決める」**くらいの人間でありたい。


 


 


「……行くぞ、カナ。2本隣の通りだ」


 


「……はい♡ では今度こそ、新婚冒険者夫婦として──」


 


「設定のせいで死にかけた自覚ある!?」


 


 


──こうして、ようやく俺たちは“まともな方のギルド”へ向かうのだった。


──2本隣の“冒険者ギルド”は、外観こそ似たようなもんだった。


けれど──扉を開けて一歩踏み込んだ瞬間、


 


「これだ……!これだよ……!!」


 


──求めてたのは、コレなんだよ!!


 


露出度高めの鎧に身を包んだ女戦士!

ツインテのレンジャー!

大剣を担ぐイケメン!

スカーフ巻いた斜に構えた盗賊!

角で乾杯してるドワーフおじさん!!


 


(なんだよ……ちゃんとあるじゃねぇか!夢のRPG空間!!)


 


そのままの勢いで、受付嬢にルンルンで向かう。


 


「こんにちはー!冒険者登録したいんですけど!」


 


受付嬢は笑顔で頷いた。


「はい♪ ようこそ。登録ですね?」


 


「そう!で、これ登録すれば市民登録と同じで身分証になるんですよね!?」


 


「はい♪ ただし“C級”以上まで昇格しないと、公共機関はご利用いただけませんのでご注意を♡」


 


「全然やります!! やりまくります!じゃあ登録を!」


 


「お連れの方も、ご一緒に登録されますか?」


 


「はい、主人と一緒に♪」


 


「まぁ♡ 夫婦で冒険者登録とは珍しいですね〜♪

 最近は採取系の依頼も多いですから、仲良し夫婦にぴったりですよ」


 


(そうか、戦うだけじゃなくて、日銭稼ぎにもなるのか。こりゃ一石二鳥だな)


 


「では、こちらにお名前をご記入いただいて……登録試験は中庭で行いますので、お済みになりましたらお進みください♪」


 


──サラサラと名前を記入し、案内された中庭へ向かう。


 


そこでは、すでに数人の冒険者が集まり、中庭を囲むように観客席から覗き込んでいた。


 


(……なんか、見られてるな。スカウトか?物珍しさか?)


 


受付嬢が戻ってくる。

その隣には──


 


「え?」


 


──どう見ても10代前半にしか見えない少女。

ふわりと揺れる黒と紫のゴシックドレス。

リボンとフリルで装飾されたスカートは、膝丈で動きやすそうな作り。

白いタイツに編み上げブーツまで完璧に揃えており、

まるで“どこかの貴族の人形コレクション”から抜け出してきたような雰囲気だ


 


「マスター、この方達が新規登録者です」


 


……え、マスター? 今なんつった? この子が?


 


シュンの視線を受けて、少女は無言でジロリと睨んだ後、

満面の営業スマイルに切り替えた。


 


「はいはーい、いらっしゃい♡ 新人さんたちだね〜♪

 まぁ……この感じなら多分合格だけどぉー、やっぱり試験って大事だよねぇ〜?」


 


(うわ、喋り方が“やべぇ系”だ……!)


 


「──じゃ、どっちからやる〜?♡ 実戦形式だけどぉ?」


 


……いや、こっちの胃が実戦だよ。


喋り方は陽キャ、目は人を選別するタイプの悪魔。


 


その態度に若干イラッとしつつも、ここで切れるほどガキじゃない……たぶん。


 


すると、カナが一歩前に出た。


 


「では、私から参りますね?」


 


そう言って、ふわりとシュンの手を離す。


 


その瞬間、中庭の空気が微かに……冷えた気がした。


 


「……どうか、お怪我のない範囲でご対応くださいませ♡」


 


(……あ、これまた誰か吹っ飛ぶやつだ)


 


俺と受付嬢は、直感的に“これから地獄が始まる”ことを察知し──


少しだけ距離を取った。



カナは、静かに右手を掲げ──重々しい金属音と共に、空中からメイスを呼び出した。


その瞬間、観客席の空気が微かにざわめく。


 


「へぇ〜……面白いね、それ。収納魔法? それとも……幻術?」


 


ギルドマスターの少女──ゴシックドレスの裾を揺らしながら、興味深そうに首を傾げる。


その赤い瞳には、好奇と悪戯の色が入り混じっていた。


 


「……お喋りはいいので、始めましょう」


 


そう返すカナの視線は冷たい。


 


受付嬢が手を振り上げる。


「始めッ!」


 


 


その声が終わる前に──ズドン!!──爆音が中庭に響いた。


 


カナが踏み込み、メイスを振り下ろす。

迷いも溜めもない。まるで一撃で終わらせるかのような殺気。


 


ゴスロリの少女はそれを見ながら、ふわりと横に跳ねて躱す。


 


「うわっ、怖〜。ちゃんと狙ってくるじゃん。えらいえらい」


 


その間に少女は、小さなナイフを数本、手の中から滑り出すように取り出す。


指先から滑るように放たれたナイフは、カナの背後へと回り込むような軌道で──空中に止まった。


 


一瞬の静止。


 


そして──角度を変え、カナを追尾するように殺到する。


 


(追ってくる……?)


 


しかし、カナは振り返らない。


聖鎖が音もなく現れ、刃のうち二本を絡め落とす。

残り一発がかすかに肩を掠めたが、構えは一切崩さない。


 


「……ふ〜ん?魔法かな? ってか、今の……“鎖”?」


 


少女がニヤッと笑う。


 


「珍しいな〜、そんなの見たの久しぶり。

 てっきり、ただの殴る系かと思ってたんだけど」


 


言いながら、少女はくるりと回転し、もう一度距離を取る。


軽やかな足取り。まるで遊んでいるかのような動き。

だが、視線だけは──一瞬たりともカナを見失っていない。


 


「けどさ〜……ねぇ、ちょっと聞いていい?」


 


少女は口元に指を添え、上目遣いで言う。


 


「その体格で……ほんとに“お嫁さん”やってんの?」


 


カナの足が、止まる。


 


「え、だって、でっかいしゴツいし……

 主様って人、よっぽど物好きなんだね〜?」


 


 


──ビキィ。


 


空気が凍る。


地を踏みしめるカナの足元で、石畳がヒビを入れて砕けた。


 


「……主様を、侮辱しましたね」


 


「え〜? してないよ? ただの感想♡

 でもまぁ、“筋肉ゴリラ”って言われたくなかったら、もう少し女の子らしい恰好したら?」


 


ズドオオオンッ!!!


 


カナが飛び出す。


その踏み込みだけで砂塵が舞い、観客席がどよめく。


メイスが再び振るわれる──音が遅れて届くほどの速度。

少女はすれすれで飛び退き、同時に手から小型ナイフを投擲。


 


だが、そのすべてを、カナの聖鎖が絡め取り、叩き落とす。


 


「わぁ、ちゃんと怒った。やっぱり効いた? あたしのひとこと♡」


 


少女の口調は軽い。だが、手元の動きは一切緩まない。


飛び跳ね、地を蹴り、ナイフを撒き、回避しながら観察する。


 


一方、カナは追い詰める。


構えを崩さず、狙いを定め、間合いを殺し、逃がさない。


まるで狩人。いや──処刑人。


 


観客席が静まり返る中、二人だけが空気を震わせていた。


 


(……ちょっと待て? え? これって“軽く手合わせ”の試験じゃなかったっけ!?)


 


シュンは、遠くで胃を押さえながら考えていた。


 


(なぁ……図書館行くための準備で、今こんな命削ってるのおかしくない!?)


 


そして次の瞬間、カナのメイスが──少女の足元、寸前の距離で地を砕いた。


破片が跳ね、少女のドレスの裾が破れる。


 


……にもかかわらず、少女はなお、笑っていた。


 


「ふふっ……いいじゃん、いいじゃん。ちょっと楽しくなってきたかも〜?」


 


その赤い瞳は、どこまでも愉しげだった。


 


そして、カナの瞳は──どこまでも冷酷だった。


 


中庭の空気が、さらに緊迫を増していく。


だが、誰も止めようとはしなかった。


──この戦いが、どこまで進むのか。

全員が、固唾を飲んで見守っていた。



よ、読んでくれたのだ!?

……ほんとに!?ほんとに!?読んだってやつ!?

じゃあ!じゃあ!!クーのこと、褒めてくれてもいいのだっ!!


ブクマでも、いいねでも、感想でも、★でも、なでなででもっ!

なんでもいいから!**「えらいのだ〜♡」**って言ってほしいのだ!!


あとお肉もほしい。

いや、ブクマと一緒にお肉ついてこないかなって……え?ついてこないの?

えー……じゃあ感想書いたら抽選で焼肉の券とか……(もごもご)


あっ、でもでも!クーね!また来てくれたら、今日より2倍しっぽ振るのだっ!


だからまた来てね?来てくれたら、クー、全力で走って全力で転んで全力で笑うのだっ!!


……てか、なんの話だったっけ?


と、とにかくありがとなのだーーーっ!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ