第29話『被り湯に1500ゼクト、命の価値はプライスレス』
あの場にいた者たちの思惑は、それぞれ微妙に──いや、派手にズレていた。
なんでもいいから禁忌の森との接点を失わないよう必死に画策していた者。
主様の素晴らしさを広める絶好の布教機会と捉えていた者。
特に何も考えず「主様なのだ〜」とご機嫌で賛同した者。
そして──
お忍びデート気分を味わいたいと思った私!
◆ ◆ ◆
アステリオン王国へ向かう街道を、カナとシュンが並んで歩いていた。
「……どうしたの? カナ、やたらニヤニヤしてるけど」
問いかけると、カナはぴたりと笑みを止め──だがすぐに、それ以上の熱量を秘めた微笑を浮かべた。
「いえ。何でも御座いません。ですが主様……しっかりと、お手を引いてエスコートしてください」
「……手?」
「はい。私たちは──村を飛び出し、駆け落ちしてアステリオン王国への移住を求める“新婚夫婦”という設定ですので」
「いやいや待て、設定って……てかまだ王国にも入ってないよ? 今まだ田舎道だよね?」
「甘いです、主様」
カナはシュンの前に回り込み、堂々と指を立てる。
「“雰囲気”とは、前もって構築しておかないと違和感を生むものです。
現地に入ってから急にベタベタし始めたら、演技感が出てしまうでしょう?」
「いや、それを“ベタベタ”って言っちゃってる時点で不自然なんだけど……」
「ですから──」
すっ、とカナが一歩踏み出し、
自然な流れで手を絡め──
密着するように身体を寄せてくる。
「離れないでくださいね? ……ダーリン♡」
「いきなり語尾変わった!?!?!?」
シュンは反射的に後ずさりしかけたが、
強引に握られた手は……逃げられなかった。
「……わかったよ、はいはい……」
渋々、恥ずかしさに頬を赤くしながら従う俺。
──で、横を見ると、カナがなんかドヤ顔してる。
(……おかしい。なんで俺、戦略的夫婦になってんの?)
そして、カナは内心で静かに──いや、激しく闘志を燃やしていた。
(前回は馬鹿犬に先を越されました……
しかも、セザール国そのものを丸ごと持ち帰るという暴挙……!)
(正直、信じられません。あの馬鹿犬にしては、過去最高の実績です……!)
(となれば──今度は私の番です)
(可愛さ! アピール力! エスコート要求力!)
(すべてを駆使して、“主様にとって唯一の女”になるのです……!)
──カナの目がギラついていることに、シュンはまだ気づいていない。
だがその手を握る力には、並々ならぬ決意が込められていた。
この任務は、アステリオン王国との外交交渉。
だが──カナにとっては、それ以前に
「恋愛戦争」である。
主様を巡る女たちの覇権争いは、既に水面下で勃発していた。
──そして今、静かに、戦の狼煙が上がった。
(シュン本人だけが、まるで気づいていないままに)
──城門が見えてきた。
その前には、入国希望者の長い列。
それもそのはず。現在、アステリオン王国は戦争中だ。
最前線では今も兵が刃を交えており、
国境付近の警備は当然ながら厳重。
城門からの入国者には、必ず身元確認が行われる。
「──次の者! 推薦状、または入国許可証を提示しろ!」
門兵の怒鳴り声に、俺たちの番が回ってくる。
カナが、フェルから事前に受け取っていた入国許可証をスッと差し出す。
門兵はそれを睨みつけるように確認し──
「……ふむ。で、貴様らの目的は?」
「目的は──主人と、この国に移住を……」
そう言いながら、カナがぴたりと腕に絡みついてくる。
「ちょっ……おい、カナ!?」
「……必要でしたら、その……この場で口付けでも──致しましょうか?」
「なんでそこで色仕掛け入れるの!?」
俺のツッコミも虚しく、門兵は眉をひくつかせながら言った。
「……もういい! 行け!」
──だが、その場から動かない女が一人。
「本当に、よろしいのですか?」
「は?」
「やはり、ちゃんと夫婦か確認が必要ではないでしょうか。
偽装だったらどうするんです?」
「……いや、もういいって言っただろ」
「しかしこの場で口付けすれば、確実に信頼度が上がるかと。
“口付け済み”という証明にもなりますし」
「いらんわそんな証明書ッ!!」
門兵が声を荒げた。
「この国に口付け証明なんて制度はない!
勝手に新制度作るなッ!」
「ですが、“偽装夫婦の潜入事例”が増えていると文献で……」
「だからって現場でキスさせられるこっちの身にもなれ!!」
門兵が血管を浮かべて怒鳴る。
その視線が……完全に俺に向いてきた。
(なんで俺がキス要員みたいな顔されてんの!?)
門兵の目が語っている。
《お前はさっさと行け》
その視線に押され、俺は──
「もう行くぞカナ!!」
カナの手を強引に引いて、王国側へ入っていく。
「ちょっと主様!? まだ証明が──!」
「これ以上いたら別の意味で処刑されるわ!!」
背後から、門兵の魂の絶叫が聞こえた。
「次の者ッ!! 早くしろ!! …………絶対もう“証明”とか言うなよ!!!」
(先が思いやられる……)
──────
さて……
とりあえず王国潜入は、奇跡的に成功したわけだけど……
問題は、寝床だ。
さすがに野宿というわけにもいかない。
「カナ? 事前にフェルから宿とかの案内は受けてないの?」
「いえ、特には。──そうですね。いくつか回ってみましょうか」
(……まさか、無計画?)
──1軒目。
【旅籠・ルーナの宿】
見た目はまさにザ・RPG。
木造二階建て、赤い屋根、暖炉の煙。
看板娘らしき子がにこやかに言った。
「お二人で1日、3,000ゼクトとなります♪」
(……高いのか安いのかよく分からん……)
ちなみに所持金は──7万ゼクト。
※戦場でけんちん汁を売って作った俺の全財産
(いやこれ、フェルにせびっとけばよかったな……
仮にも禁忌の森の盟主としてせびり難かった……)
宿の説明によると──
・朝食なし
・濡れタオル別料金
・風呂共用、ただし“被り湯”は追加1,500ゼクト
(なんだよ被り湯って!てかタオルで金取るの!?)
「……もうちょい、他も見ようか……」
──2軒目。
【安宿・クロガネ】
入り口に「盗品持込厳禁」「殺しは外で」と書いてある。
店の親父がニヤリと笑った。
「300ゼクトだ、あんちゃん!」
「やっす!!」
反射で声が出た。
1軒目の10分の1だぞ!?
「おう。ただし──
“揉め事は自己責任”で頼むぜ?」
「自己責任ってレベルじゃない説明だったよね今!?」
ふと周囲を見れば──
受付の後ろでは、明らかに血のついた布を洗ってる誰か。
廊下を歩く客の一人は、斧を肩に担いでるし、
壁に貼られてる張り紙は“ご遺体の処理は追加料金”の一文付き。
「え? これ宿じゃなくて終末戦場のロビーじゃない?」
俺は思わずカナに確認の視線を向ける。
「……ん? どうしたんですか? 何の確認でしょう?」
……うん。
たぶんだけど、カナの身の安全より、俺の方がヤバい。
彼女は絶対に無事だ。
逆に宿の人間が一人や二人いなくなっても、彼女はたぶん無傷。
──こうして、拠点(※安宿クロガネ)が決まった。
心なしか、カナの表情は嬉しそうだった。
「主様と同じ部屋……楽しみですね?」
(いや、俺の命の方が今は大事なんですけど!!)
まさか、潜入任務の最初の敵が“宿屋の雰囲気”とは思わなかった。
ふ〜〜ん……ここまで読んじゃったんだぁ……?
ヒマだったの? それとも──**“あたしに構ってほしかった”**とかぁ?♡
まぁ、どっちにしてもぉ〜……
よく頑張ったじゃん♡ えらいえらい♪
……読解力は微妙だったけどぉ♡
あ、ちなみにこの作者──1PVでぴょんぴょん跳ねるし、
ブクマひとつで一日中ニヤけてるらしいよぉ?
ちょろっ……てか、ちょっと可哀想♡
だからぁ〜、優しいお兄さん♡お姉さん♡読者様〜♡
いいねでも感想でも、何でも落としてってあげてぇ?
あ、ついでにあたしの可愛さに負けたって白状してくれてもいいよ?♡
……あれ? なになに?
「悔しいけど好きになっちゃった……」って顔してない〜?
あはっ、もう完全に“落ちてる”じゃ〜ん♡
じゃ、また会えるよねぇ?
次はもっと激しいカオスに巻き込んであげるからさぁ♡
責任、取ってよね……?♡ぷぷっ♪
※本編にはまだ未登場キャラです




