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第28話「なんで毎回俺が止めてるの?」


ガチャッ。


「カナさーん……お客様がお呼びですよ〜……」


 


そっと扉を開けて声をかけると──

カナが、ピタリと動きを止め、ゆっくりと振り向いた。


その顔には、明らかな反省の色。


 


「……申し訳ございません……!

 私としたことが……主様に“応対”させるなど……

 ……反省してもしきれません……!」


 


まるで万死に値するかのような表情で頭を下げてくる。


 


「いや……そこまで気にしなくていいよ。

 とりあえず、呼んでるから行ってきて?」


 


すると、カナがハッと顔を上げて──


 


「主様は……行かれないのですか?」


 


「んー、多分……目的、俺じゃなかったみたいだし」


 


「……承知しました。

 では、カナ──“一応”会って参ります……!」


 


カナが神妙に頷き、出ていく。


その場に残されたのは、俺と……ギル。


 


「んー……ギル君? どうやって受け答えしようかなぁって思ってるんだけど……

 対応、いけそう?」


 


問いかけに、ギルは背筋をピンと伸ばし──


 


「はいッ! 主様の御意に従い、このギル、誠心誠意邁進して参りますッ!」


 


いや、邁進じゃなくて冷静になってほしい。


続けてギルは真顔で問うてくる。


 


「ところで主様。アステリオン王国の使者……そのご用件とは?」


 


「んー、よくわかんないけど……

 挨拶して、村見て、けんちん汁飲んで──

 で、最終的に“カナと話したい”って言われた」


 


ギルが硬直した。


 


「……なんと……ッ!?」


 


明らかに顔色が変わる。


 


「主様……これは──戦争です!!」


 


「えぇぇぇぇぇ!?」


 


「当然ですとも!

 アステリオン王国のクソガキどもが!

 我が主様に自ら応対させておいて!

 よりによってその御手でけんちん汁を振る舞わせておいて!

 カナ様に用があるだとォ!?!?!?」


 


「いや、別にそこまで怒らなくても──」


 


「許せません!!

 主様におもてなしをさせ!

 我が領の大切なけんちん汁を搾取し!

 最後に“あ、やっぱ本人じゃなかったんで”みたいな顔してやがるッッ!!

 ──あいつらァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 


──ドォン!!


 


そのとき。


壁の向こうから、爆音が鳴り響いた。


……わかる。即座にわかる。


この重くて鈍くて破壊的な打撃音と、

切り裂くような風の“断ち割り音”。


 


(はい、クーとカナだなこれ)


 


もはや反射的に判断できる自分が悲しい。


 


俺はギルを引き連れて、慌てて現場へと向かった。


すると──


 


「たいわ大事って主様言ってたのだー!!」


 


……叫んでるクーの声が響いたその先で。


 


……木に、副官がぶら下がっていた。


いや、正確には、木にズドンと突き刺さってぶら下がっている感じだ。

腕も足も変な方向に曲がってるけど、かすかにピクピクしてる。生きてる。たぶん。


 


その場の空気は、凍りついていた。


クーが騎士団の前に悠然と立ち──

その後ろでは、黄金の光をまとった鬼畜女騎士が、メイスを構えて仁王立ちしていた。


 


カナが……キレてる。


……完全に、ガチで、怒ってる。


 


「我が主を──召使のように扱った罪……

 国ごと、消しますよ? ……俗物共──」


 


(物騒ワードの連打やめて!?)


怒りで空気がビリビリと震える。

村の草木が、魔力の波で逆なでされてるのがわかる。


 


俺は慌てて叫んだ。


 


「おいお前らッ!! 何やってんだよ!?

 てか木に人ぶら下がってるけど! あれ生きてんのか!?」


 


と、そのとき。


クーの背後から、フェルが必死に姿を現し──


 


「すまなかったッ!!

 シュン殿への非礼、そして……副官グローレンの軽率な発言、

 心よりお詫び申し上げる!!」


 


ちゃんと頭を下げてる。

その姿勢は誠実そのもので──


 


「──はぁ? ゴミ虫の話を聞くわけがないでしょう。

 あなたがたは……ここで、消えなさい」


 


……駄目だ、全然届いてねぇ。


カナの殺意ボリューム、MAXのままじゃねぇか。


 


(やべえ……これ、ほんとに始まる……!

 交渉どころか開戦式になりかねねぇ!!)


 


焦る俺の横で、スッと前に出る影があった。


ギルだ。


頼む、冷静に頼む。今こそお前の真価が問われる──!


 


 


「貴様らァッ!!! 一人も生きては返さんぞォォォォォ!!!!」


 


 


(──こいつもやっぱダメだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)


 


目が完全に“血走り戦闘モード”のギル。

アステリオンの騎士たちは震え上がって後ずさりしてるし、副官は未だ木に刺さってる。


……何この地獄絵図。


 


もういい。


俺は、声を張った。


 


「お前ら全員、いい加減にしろッ!!」


 


その声に、全員の動きが止まった。


クーの爪がピタリと止まり、

カナの聖鎖が空中で揺れをやめ、

ギルの手から、爆発寸前だった魔力がスッ……と霧散する。


 


俺は、静かに言った。


 


「これは……命令だ」


 


──その言葉で、ようやく全員が沈黙した。


副官が木からずり落ちる音だけが、遠くに響いた。


(……誰か……あいつもなんとかしてあげて……)


 


 


──胃が……痛ぇ。 


───パキンッと静寂が走る空間。


テーブルを挟み、俺とギル、それにカナが並んで座り、

向かいにはアステリオン王国の使者──フェルと、

その傍らにちょこんと立つ少女キュリ。


……グローレン副官は、まだ治療中である。

(※さっきまで木にぶら下がってた)


 


「……誠に、申し訳ありませんでした」


 


フェルが、真っ直ぐに頭を下げた。

その背中は硬く、額には冷や汗。


 


「いえいえ、まぁ、こちらこそ……その……」


俺もなるべく丁寧に返そうとしたが──


 


「……うちの……カナが……

 おひとり……ね? ちょっと……申し訳ございませんでしたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ」


 


勢い余って土下座しそうになった。


(俺が謝るのも変なんだけど、なんかこう、流れ的に……!)


 


フェルは咳払いを一つして、話題を切り替えた。


 


「では……互いの非礼は水に流すということで。

 ところで本題の前に、一つ……よろしいでしょうか」


「ん、はい……どうぞ」


「なぜ、セザール国の代表であったギル殿が、こちらに?」


 


その場が少し、緊迫する。


 


俺が答えようとしたそのとき──ギルが立ち上がり、深く頭を下げた。


 


「主様、私より説明させてください──」


「え、あ、うん……?」


 


ギルは、ぴしりと姿勢を正し、堂々と宣言する。


 


「私はこの禁忌の森の盟主であらせられるシュン殿の、忠実なる配下となりました。

 セザール国は事実上解体され、私は以後──この地に仕えます」


 


(いや、事実上!? え、今、国の終わりを正式発表しなかった!?)


 


フェルの表情がピクリと険しくなる。


 


「……セザール国が……解体……?

 確か、鉄峰連合と交戦中であったはず……」


 


その眼差しが鋭くなるのを見て、

俺は内心で──(あ、これマズい展開)と察した。


 


「……でしたら、この禁忌の森と我々アステリオン王国で手を組み、

 鉄峰連合を……共に──」


 


その提案を、遮る声。


 


「却下です」


 


──カナだった。


表情は冷たく、口調は凍てつくような静寂。


 


「主様は、争いを望んでおられません。

 そもそも、手など組まずとも──

 鉄峰連合であろうと、アステリオンであろうと。

 我々の進路を阻むのであれば、潰すだけです」


 


その場に、空気が張り詰める。


 


(物騒ワードが多すぎる……)


 


確かに言ってることは理屈が通ってるけど、

“潰す”とか“組まぬ”とか、言い方ァ!


フェルの顔は明らかにこわばっていた。


 


(……まぁ無理もないよな)


この禁忌の森って、鉄峰連合とアステリオン王国の中間に位置してる。


で、そこに──

セザール国まで取り込んだ新勢力が誕生したわけで。


しかも、他勢力と組む気は無い。

けど、力はある。


そりゃあ不安にもなる。


 


「……そもそもさ?」


空気が重くなりすぎたので、俺は口を開いた。


 


「鉄峰連合とアステリオン王国って……」



沈黙を破るように、俺は口を開いた。


 

「なんでそんなに仲悪いの?」


 


その一言に、キュリとフェルが──


ぴくり、と顔を見合わせた。


 


(……え、なに? そんな反応するような質問だった?)


 


フェルが少しだけ困ったような表情を浮かべて、口を開いた。


 


「……何故って……」


間を置いて、絞り出すように言う。


 


「……戦争中だから、かな……?」


 


(うっす!! なんだその理由!?)


 


すると今度はカナが、静かに口を開く。


 


「ですが……セザールと鉄峰連合の戦は、国としての確立を賭けた“建国戦争”という側面がありました。

 ならばアステリオン王国と鉄峰連合にとって、争う理由など本来無いのでは?」


 


その声は穏やかでありながらも、理路整然としていて──核心を突いていた。


 


「……平原を奪い合ったところで、そこに資源があるわけでもなく……

 戦略拠点としても微妙。価値としては、象徴以上のものはありません」


 


ギルが腕を組み、続ける。


 


「たしかに……言われてみれば、不自然だ。

 アステリオン王国は北に魔族領と接しており、

 魔族の侵攻を堰き止める“砦国家”としての役割を果たしている」


 


「鉄峰連合にしても……

 アステリオンと無益な戦をするより、和平路線の方が遥かに得なはず……」


 


フェルの表情が、徐々に険しさを増していく。


 


カナが一歩踏み込んだ質問を放つ。


 


「アステリオン王国には──過去の文献や、歴史資料は残っていないのですか?」


 


キュリが、おずおずと手を上げる。


 


「あっ……その……王国内の図書館……えっと、あの、中央記録庫になら……」


 


フェルが唇を噛み、低く呟く。


 


「……一度、調べた方が良いかもしれないな。

 ……正直、何か……きな臭さを感じる」


 


その言葉に、俺は思わず口を挟んだ。


 


「きな臭いって……なんで“極秘”で調べる必要があるの?」


 


フェルが、真っ直ぐにこちらを見る。


 


「……今、王国内の政治構造が揺らぎつつある。

 内部で力を持つ貴族派閥と、聖教会系の派閥──

 どちらも、信用できる状況ではない」


 


「……下手に探りを入れれば、

 “平和を乱す意図がある”と見なされて、

 我々の立場が危うくなる可能性があるんだ」


 


キュリが青ざめた顔で口を開く。


 


「で、でも……私たち使節団が動けば、余計に目立っちゃいます……」


 


──再び、沈黙。


誰もが言葉を失い、視線だけが宙を泳ぐ。


そして、気づけば──


 


全員の目線が、俺に向いていた。


 


(……え?)


(……うそでしょ?)


(まさか俺が何かする流れなの……?)


 


──胃が死ぬ音が聞こえた。


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。


カナ、嬉しくて……ちょっと涙が出そうです。


主様(シュン様)の物語に、あなた様のような方が目を通してくださった──

その事実だけで、私はもう……!


(……はい? 作者?)


ああ……あの、自称“創作担当”ですか。


いえ、ご心配には及びません。

作者など放っておいても勝手に書きますので──

時々勝手に迷走もしますが……その時は、どうか苦情を直接送りつけてやってください。


それよりも!


ブクマ、いいね、感想、★、DM、テレパシー──

どんな形でも結構です!

主様の物語を「面白い」と感じてくださったなら、ぜひそのお気持ちをお聞かせください!


それが、主様の物語を広める力になります!

いえ、正確には……作者が調子に乗って続きを書きやすくなるだけですけれども。


 


ともあれ──

本当にありがとうございました。


あなた様のその一票が、主様を“神話”へと導く火種となることでしょう……!

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