第27話「交渉は順調です(ただし俺を除く)」
「なぁクー?」
「なんなのだ?」
俺は隣でしっぽを振るクーの頭を、もふもふと撫でながらぼやいた。
「……なんで、ああもみんな好戦的なんだろうな……」
「ん〜、たいわは大切なのだ!」
しっぽパタパタ、耳ぴょこぴょこ。
おまえが言うのか、という気持ちを全力で抑える。
「クーには、対話はまだちょっと早かったかな〜……」
すると不満げにむぅっと唇をとがらせ、
「クーはちゃんと、たいわしてるのだぁ! この間も牛さんたちと、たいわしたのだぁー!」
「……そうだね。うん、してたね。全力で」
たいわ(物理)だったけどな!
「……それにしても、いつ来るんだろ。アステリオン王国の使者……」
怖かったらどうしよう……
礼儀作法? 知らん。
椅子の座り方も危ういのに……。
「やっぱ、ギル連れてくるべきだったかなぁ……」
そんな不安をクーのもふもふで紛らわせてると、
──向こうから、武装した一団がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
やべえ、来た。ガチのやつだこれ。
……胃が死ぬ。
その中から、ぴょこんと一人──
小柄な少女が先行して、こっちに駆けてくる。
そして、ぺこっとぎこちなくお辞儀して──
「は……初めましてっ……わ、わわ、私は……キュ……キュ、キュ……キュリと申し……も、申しまひゅ……申しますっ! ……あ、あの、こ……こ、こ、今回そのぉぉ……!」
──カミすぎて内容が一切入ってこない。
語彙がバグってる。
言葉がメルトしてる。
むしろこのまま口から魔法暴発しそうで怖い。
「とりあえず落ち着こ?ね?深呼吸して? 大丈夫だから、食べたりしないから」
撫でてるクーをぽふぽふしながらフォローすると──
「んー……そいつ、食っても美味そうじゃないのだぁ。魔──」
「ふぇぇぇぇ〜ん! 美味しくないですよぉ〜! 私ぃ〜!!」
「だから食べないってば!?」
※口調が“ですぅ”系なのに、泣きながら反論すんな。
こっちが泣きたい。
そんな騒動のなか──
後ろの武装集団がゆっくりと追いついてくる。
そして、その中で明らかに一番“格”の違う存在。
威圧感をまとい、凛とした姿勢の──青年が一歩前に出る。
「私は──アステリオン王国の特使、フェルだ
この地の主に、謁見の許しを乞いたい」
謁見って……そんな物々しい話なのか? てっきり会って終わりだと思ってたんだけど……。
──────
「は、初めまして。シュンです。えーと、よろしくお願いします……」
俺なりに丁寧に挨拶してみた。
すると、“フェル”とか名乗った男が少し怪訝そうに眉を寄せて──
「では……案内を願えますか」
……あれ? 謁見って、まさか視察系?
「村の様子を見せていただきたい」的な??
うん……謁見の定義がわからん。とりあえず「会って終わり」じゃないことだけは確かだ。
仕方なく、俺はクーを撫でながら渋々案内を始めた。
─────
「ここが民Aの家で……あっちが俺の“けんちん汁”工房です。で、その隣が会議場なんですが……」
俺が指差して説明すると、フェルたちは緊張した面持ちで後ろからついてくる。
なんでそんなピリついてるんだこの人たち。見学ツアーじゃないの?
とりあえず一通り説明し終えて、フェルの方を向く。
「……これで、案内は一旦終わりましたけど……」
するとフェルは、意外そうな顔をして──
「で……謁見は……?」
……まだあんの!?
え、謁見って、まだあるの!?
挨拶したし、案内したし、観光名所も紹介したし……。
いやちょっと待て。日本式で考えよう。
客人が来て、まず挨拶。次に案内。で、最後は──
……あっ。
おもてなしだ。
日本式と言えば、お・も・て・な・し。
とはいえ、茶菓子なんて気の利いたものは無い。
だから俺は、寸胴と器を抱えて走った。
────
「こ、これは……?」
戻ってきた俺に、フェルが思わず尋ねる。
「けんちん汁です! めちゃくちゃ美味しいですよー♪」
俺はどんどん器に盛って、フェル一行に振る舞っていく。
──外交の場における最高の武器は、心を込めた郷土料理である。
皆がスプーンを口に運んだ瞬間──
「……っ!?」「な、なんだこれは……ッ」「美味……っ!!」
全員が目を見開き、信じられないという顔で俺のけんちん汁を見つめていた。
──よし、これで“謁見”は完璧だ。
おもてなしは、日本の心。
なんだかんだで器を空にした頃、フェルが咳払いひとつ。
「で?……いつ、お会いできるのでしょうか?」
(……誰に? 俺じゃなかったのか……?)
「えーと……その、俺に会いに来たんじゃないのか?」
フェルは目を丸くして、きょとんとした顔をこちらに向けた。
「いえ……“主様”と呼ばれるお方に、ですが?」
クーが膝の上で撫でられながら、誇らしげに胸を張る。
「主様は主様なのだ!」
(お前が言うと、逆に信憑性が消し飛ぶんだけど!?)
そんな俺の内心をよそに、フェルは隣の副官と顔を寄せ合い、ヒソヒソと囁き合い始めた。
「なぁ……これ、俺たち、からかわれてないか?」
「うぅ……でも、人は見かけによらないって言いますし……」
「あのお美しい方はどこ行った!」
「グローレンさん!落ち着いてくださいってば!」
「お前は緊張感を持てグローレン、でもな……まさかこんな……のほほんとした青年が主様とは……」
「でもでも隊長、それならそれで逆に良いのでは?」
「は? なぜだ?」
「だって……てっきり大賢者か、筋骨隆々の古強者が出てくると思ってたので……」
「まぁ、それに比べれば、この青年の方が……」
「話しやすいですよね!」
「……うーん、確かに……いやでも、いやしかし……」
(……なんで俺の評価が“話しやすい”に着地しそうになってんだ!?)
(つーか、全部聞こえてるんだけど!?)
(……やっぱり俺、主っぽさゼロなんだな……)
フェルは再びこちらを振り返ると、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「重ね重ね恐縮ですが……以前、我々と直接“約定”を結ばれたお方を、呼んでいただけますか?」
「……はい、今、呼んできます……」
俺はトボトボと立ち上がり、まるで**“主様の使い魔”**かのように小さく肩を落として歩き出した。
(いや……俺、何やってんだこれ……)
カナ「ここまでお読みいただいた、尊き読者様へ──」
カナ「主様と私の物語をここまで見届けてくださったこと、深く感謝いたします。
ですが……もし、お気持ちの片隅にでも“悪くないな”と思っていただけたのであれば──」
カナ「ブクマ、いいね、感想、★、DM、念話、忠誠の誓約、何でも構いません。
作者が跳ねて喜び、次の話が3倍速で書かれる可能性があります」
カナ「……いえ、正直に申し上げますと──
主様と私の未来のために、“今すぐ”反応していただけると助かります……!!」
カナ「ですので、どうか……どうか!」
カナ(メイスを構えて正座)
カナ「反応してくださらないと……作者が拗ねてどこかへ逃げます!!(そして私の出番が減ります!!)」
カナ「どうか……このまま共に歩んでくださいませ、読者様……!」
(静かにメイスが床を叩く音が響く)




