第26話「知性 vs 信仰──そして知性の敗北」
ここまで読んでくれた奇特なあなた!
ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー、なんでも嬉しいです!
作者は1PVでも跳ねて喜ぶタイプなので、反応があるとガチで次の原動力になります。
どうかこのテンションのまま、応援いただけると助かります!
(いや、助けてください!!)
森に入ってから──
シュン殿の雰囲気が、どこか変わった気がした。
ただならぬ緊張でも、覚悟でもない。
むしろ、妙な落ち着きというか……「あきらめ」が混じっているような、そんな背中だった。
そしてクー殿はというと──
(……うん。シッポ、めっちゃ振ってる)
「これから戦場に行きます」って顔の男の隣で、「おさんぽ〜♪」みたいなノリで歩いてる獣人。
そのギャップが逆に不安を煽る。
ギルは、一歩後ろから二人を見ながら、深く息を吸った。
(……正直言って、生きた心地がしねぇ)
確かに、クーとシュンが一緒にいる。それだけで“戦力”としては心強い。
だが──あの時森で見た、異様な連中の強さは、全く測れていない。
(万が一、何かあった時……俺に、あの男の力になれるのか……)
不安と疑念を押し殺しながら、ギルは剣の柄に手をかけた。
森の奥から、確かに──こちらに向かってくる気配がある。
空気が、一瞬で冷たくなった。
ただならぬ存在感。
皮膚の内側から肌を刺すような殺気。
呼吸が止まりそうになる。
(やばい……これは──)
その沈黙を破ったのは、隣のクー殿だった。
「ただいまなのだーーー♪」
元気いっぱいに声を上げたかと思えば、ふわっと影へと飛び込んでいく。
が──次の瞬間。
「この馬鹿犬がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声と共に、クー殿が回転しながら後方へ吹き飛んできた。
木々をなぎ倒しながら、綺麗な放物線を描く。
あまりにも予想外の光景に、ギルの手が震えた。
足がすくみ、呼吸すら忘れる。
そして──そのクー殿を吹き飛ばしたであろう存在が、森の影から現れた。
神官服のような白衣。
手には、鉄塊のごとき巨大なメイス。
ゆっくりと歩きながら、その人物──女は、まっすぐにシュンへと向かっていく。
(敵か!? この女は……! いや、だとしてもなんでクー殿が──)
剣に手をかけたその瞬間──
「……全く……どこに行っていたんですか……?
主様が一日中帰ってこなくて、心配したんですからぁ」
──女は、メイスを握ったまま、まるで恋人のようにシュン殿へ抱きついた。
ギルの思考が止まる。
(主様……? 今、“主様”って言ったか?)
混乱していると、吹っ飛んでいたクーが地面から跳ね起きた。
「痛いのだぁ! 何するのだカナ! それより主様から離れるのだーーー!」
「うるさいですよ、駄犬!
あなたこそ、ふら〜っといなくなったと思ったら、主様と帰ってくるなんて!」
「ぐぬぬぬ……! と、とりあえず離れるのだぁー!」
「ふふっ、私は主様の忠実な臣下ですから〜。あなたとは“格”が違いますよ?」
「は? なにをぉぉぉ……! 主様ぁ〜!」
「やめろやめろやめろォォ! 落ち着けお前らァァ!!」
──と、最後はシュン殿の必死な仲裁でどうにか収まった……ように見えた。
ギルはそっと一歩下がり、こめかみに手をやる。
(……なんなんだ。あの女、“カナ”って言ってたな……)
(あの一撃……クー殿を軽々と吹っ飛ばした。力は確かにある……
それが、“主様”と呼ぶ男の胸に飛び込むような女で──
しかも、クー殿と同格どころか、マウント取ってる!?)
シュン殿がいちばん常識人だと思っていた。
少なくとも、そう“見えて”いた。
だが──
(もしかしてこの男……)
(一番ヤバいのは──シュン殿、あんたじゃねぇのか……?)
ギルの疑念は、もはや深まるどころか、底なし沼のように沈んでいった。
⸻
三人のあとをついていくと──
あのとき見た“村”に、再び辿り着いた。
だが、様子が違う。
建物は増え、道は整い、柵が張られ、まるで小さな町のように形を整えていた。
思わず──息を呑む。
(……ありえねぇ。たった数日で……?)
セザールも、拠点形成の速さでは他国に劣らぬつもりだった。
だが──それをもってしても、目の前の光景は“理解不能”だった。
言葉を失ったまま足を進めると、シュン殿が──突然、村の民に囲まれた。
「おかえりなさいませ主様!!」
「心配したんですぜぇ……!」
その声に、シュン殿が眉をひそめる。
「ん? なんかみんな、いつもと雰囲気違くない?」
「私が主様の素晴らしさを皆に説いておきましたから♪」
カナが、得意げに笑う。
「それ……洗脳とかじゃないよね……?」
(……“主様”? まさか、この村人たちも──)
ギルの中で、バラバラだったピースが──はまり始める。
(……俺とシュン殿の出会いは、戦場だった。あの時すでに、ガリウスと信頼関係を築いていた。
そして──その仲間のクー殿は、俺たちに“接触”し、“ミノタウルス部隊”を殲滅。
……あれは、偶然じゃない。計算だった。そう考えれば……全てが──繋がる)
戦場に“クー”を誘導し、その場で彼女を従える演出。
ガリウスには恩を売り、セザールの俺たちを掌握。
そして今──この森こそ、“大賢者の地”。
ギルの背筋に、氷のような感触が走る。
(まさか……まさか本当に……シュン殿こそが──)
「主様……ご相談が。主様が不在の間に、アステリオン王国の使者が訪ねて参りました。
主様がご不在でしたので、謁見は本日に変更となり……今から到着するかと」
カナが冷静に報告する。
「えーーーー! カナ、お前まで面倒ごとかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「申し訳ありません……やはり、消しといた方がよろしかったでしょうか? なんなら今からでも──」
「ごめん……よくやった……だから、とりあえずメイスしまわない……?」
──シュン殿がアステリオン王国とも繋がっている。
鉄峰連合、セザール、そしてアステリオン。
その全ての勢力の“交点”に位置するのが、この男。
しかも、その拠点は──要地たる“平原”のすぐ横。
大戦略において、絶対に無視できない場所。
ギルは、震えるように笑った。
(シュン殿……いや、“主様”──)
(あんたは、どこまで見えているんだ……?)
(どこまでが計算で……どこまでが偶然を装った罠なんだ……)
(こりゃ──勝てねぇ。国も軍も、勝てるはずがねぇ。
全部……全部、乗せられてた。最初から)
そのとき、ギルの瞳が変わった。
戦士の警戒から、狂信の輝きへ。
(決めた……俺は主様に、一生ついていくぜ!)
──その時、視線が合った。
ギルの目が、何かを悟ったように光っていた。
「……なんかギルの俺を見る目が……民と同じ、狂気じみた感じに……」
俺はそっと、目を逸らした。
(──見なかったことにしよう)
俺は新しくできた会議室に、ギルとカナとクー──計四人を呼び出した。
目的は一つ、これまでの総括と、これからの方針を話すことだ。
……で、なぜクーがいるのかって?
簡単だ。
放っておくとまた事件を起こす。確実に。
しかも本人はというと──
床でゴロゴロして、天井のシミを数えてる。
やっぱ暇そうだった。
「カナ……とりあえず、こっちの人がギルさん。わかるね?」
ギルはカナに軽く会釈し、丁寧に名乗った。
「セザールという国の代表を務めておりました、ギルと申します。
今後、シュン様に忠を尽くせることを光栄に思います。
どうか、よろしくお願い申し上げます」
その姿勢を見たカナは、フッと笑みを浮かべ──
「ほぅ……中々に見どころがありますね……
私はカナ。主様より創造されし忠誠の従者。
主様とともに歩み、添い遂げ、
いずれは暖かな家庭を築き──」
「してねーわ!?そんな約束した覚えねーわ!!」
俺は慌ててギルの方へ向き直る。
「えっと、ギルさん……もう察してると思うけど……
やっぱり怒ってる? というか、怒るよね?普通は──」
しかしギルは首を振り、笑顔を崩さずに答えた。
「もちろんでございます、シュン様。いえ、主様。
どうかお支えさせてください。
主様の深き策略……
その神秘には、私など到底届きませぬが、
愚直ながら、このギル、命を懸けて──」
(んーーーーーーー)
(拗らせたーーーーーー!!)
(なに!?どうして!?なんで策略扱い!?)
(いや俺、これまで一度も策なんて巡らせたことないからね!?)
「それでカナ様。アステリオン王国の使者というのは、どのような者でしたか?」
「ふむ……騎士団みたいな服を着てたけど……えーと、ずっと泣いてる小娘と、軽口ばっか叩いてる男……あとは……ひとりだけ、ちょっとだけ強そうなのがいたような、いなかったような……?」
「えっ、カナ? 適当すぎない? そんなんじゃ──」
「……恐らく、それはフェル隊長と、その副官のキュリ、グローレンですね。三栄騎士候補とも噂されていた実力者たちです」
「で、その人たちを知ってるギルに聞きますが──狙いはなんだと読みますか?」
カナが顎を上げて問いかける。
ギルは静かに頷いた。
「推測に過ぎませんが……この森は“平原”を巡る争いの要所。鉄峰に平原を奪われた彼らが、ここを迂回路として本陣を叩けないか……その下見でしょうな」
(なるほど。やっぱりギルはセザールを率いてただけあるな……)
「──ですが」
カナが鼻で笑って、得意げに指を振った。
「筋は通ってますが、あなたは大事な一点を見落としている」
(ん?)
ギルが目を丸くし、両手を広げて尋ねる。
「この凡愚にも、ぜひご教示を……!」
「いいでしょう。聞くがいい、愚かな者よ……」
カナが高らかに宣言した。
「──アステリオン王国とやらは、いずれ世界を治める“我が主様”の存在にいち早く気づき、謁見の機会を求めて先駆けて来たのです!」
「なんと……! つまり鉄峰もセザールも乗り遅れた中、やつらだけが“主様の威光”に気づいていたと……!?」
ギルは感銘を受けた表情で目を潤ませる。
「私の浅慮では、到底たどり着けぬ発想……! さすがはカナ様!」
「ふふっ、致し方ありません……主様の偉大さは、常人の理解を超えているのです」
「精進いたします……! せめてその高みの影くらいは見上げられるように……!」
(おいおい、ギルの知能がカナの信仰圧で削られていってる……)
「では、アステリオンとも同盟を?」
ギルが一縷の希望を込めて問うと──
「同盟? まさか。対等などとんでもない」
カナが一歩前に出て、薄く笑う。
「──選べるのは、“属国”になるか、“吸収”されるか……それとも、跡形もなく“更地”になるかです」
「なっ……!? そのような選択肢が……!」
ギルは声を震わせて震撼していた。
(うん。コイツら駄目だ……)
俺は静かに席を立ち、クーを連れて部屋を出た。
【あとがき小話】
作者「カナ~?」
カナ「なんでしょうか?
ゴミ虫と話すのであれば、手当としてシュン様とのデートイベント一回分を要求します」
作者「初手から辛辣ぅぅぅ!?てか手当制なの!?」
作者「……えっと、でもさ、一応俺、**“作者”**なわけで……
つまりこの世界の創造主というか、神様みたいなもんよ?」
カナ「──それが?」
作者「いやだからちょっとは敬意とか、感謝とか、あっても……」
カナ「……ありませんが?」
作者「即答っ!?しかも疑問形の皮すら剥がしやがったぞ!?」
カナ「だってあなた、**“シュン様と私が夫婦という設定にしなかった”**時点で、存在価値ゼロですし」
作者「いやいやいやいや!それは物語的に……!バランスというか……!」
カナ「はぁ……物語と、私とシュン様の永遠の愛──
あなたはどちらが大切だとお思いで?」
作者「それはもう圧倒的に物語だろ! 作者だもん!」
カナ「……」
(スッとメイスを取り出す)
作者「ちょっ!?メイス構えるの早くない!?それ1秒未満だよね!?」
カナ「チリがチリらしく、物語などという幻想にすがっている姿……滑稽ですね。
よろしい、その歪んだ思想、物理で矯正しましょう」
作者「物理でくるの!?思想を!?え?脳ごと!?」
カナ「死ななければ治ります。たぶん」
作者「“たぶん”のノリで撃つなああああああ!!!」
(バァンッ!!)
──数分後、読たんたちの前に、 メイスで叩き潰された原稿データが無言で差し出されたという。
読たん(ま、また作者が殴られた……)ガクガク




