第22話『馬鹿犬とジェスチャー外交』
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セザール国の元首領ギルは、生きた心地がしていなかった。
自らの全戦力を賭けた一手──
かつて“戦神”とまで謳われたミノタウルスの精鋭たちを率いて、満を持してこの地に現れたはずだった。
だが。
その全てを、たった一人で粉砕した女がいる。
クー。獣人の娘。
その無慈悲なまでの強さは、“誇り高き猛牛たち”を刈り尽くしたというのに──
「……主の匂い、する……」
そう呟く彼女の瞳は虚ろで、心ここに在らずといった様子。
まるで今にも、この場を捨てて何処かへ去ってしまいそうな危うさすらあった。
ギルは、密かに歯噛みした。
(……冗談じゃねぇ……! ここでこいつが逃げたら、俺たちはただの烏合の衆だ……!)
ミノタウロスなき軍勢など、ドワーフの英雄ガリウスの前では紙同然。
いま必要なのは、圧倒的な“脅し”であるはずだった。
このままでは交渉すら成り立たない。
ギルは焦りを隠しながら、なんとか言葉を発した。
「……あの〜、クー様? ガリウスとの交渉、俺が前に出ても……よろしい、ですかね?」
返ってきたのは、明後日の方向を見つめたままの、曖昧な相槌だけ。
(マジでやべぇ……!)
腹の底が冷えるような感覚に、ギルは知らず一歩、前に出る。
──こうして、“最悪の布陣”のまま、外交の火蓋が切られようとしていた。
一方その頃、鉄峰連合側。
シュンは必死にクーへジェスチャーを送っていた。
人差し指を口元に当てて――シーッ。
(黙ってろ! 余計なこと言うんじゃねーぞ!!)
クーは“主”を発見して飛びつこうとしたが、直前で止まる。
そして、妙な合図に気づいた。
(……主が……静かに“狩れ”って言ってる?)
クーは大きくうなずくと――サインを返した。
シーッ……からの、両手を広げてガォーッ!
(違ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)
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ギルは緊張を押し隠しながら、ガリウスの前へ進み出た。
「よう。初めてだな……英雄さんよ。俺はギルだ……」
ガリウスもまた、値踏みするようにギルを見据える。
(コイツが……セザール国の首領……。
流石、我らが手を焼いてきただけはある。修羅場を相当くぐってきた眼だ……)
「ギル殿、貴公に虚言や策略は通じぬな。だからこそ、率直に問おう。
……和平の道はないのか?」
ギルは一瞬だけ口を噤む。
(和平? 正直そんなもんねぇ。
今この場でアドバンテージを握れなきゃ、二度と鉄峰連合を潰すチャンスは来ねぇ。
……だが、あのクーって獣人。アイツのやる気次第で全てが変わっちまう……)
「話が早そうだな……ガリウス……でもよ────」
その時だった。
ギルの目に映ったのは、ガリウスの背後に立つ妙なガキ。
両手で大きくバツ印を作り──膝を抱えて座り込む。
(……っ! “バツ”からの“座る”……!?
伏兵が動き出そうとしたのを止めた……ってことか!?
つまり“いつでも狩れるが、まだ待機中”ってサインじゃねぇか!?)
背筋に冷たいものが走る。
「……何を望む、だと? よく言えるな……。だがよ……俺らも、ただ脅しに屈する気はねぇんだわ」
ガリウスは眉をひそめる。
(脅し? ……いや、今の俺の声音に圧が乗っていたか……?)
言葉を選びかけたその時、視界の隅で“彼女”が動いた。
クー。
セザールの陣営に立つ獣人の娘が、音もなく一歩、前へ。
その足の沈み込みに、ガリウスの背筋が凍る。
(……あの踏み込み。禁忌の森で刃を交えた時と同じ……!)
無意識のうちに、背中の巨斧へと手が伸びていた。
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シュンは青ざめ、慌てて新しいジェスチャーを繰り出す。
両手を突き出して──(止まれ!)
自分を指差して──(俺が!)
両手を組み合わせ──(もし仲間だってバレたら!)
喉を横切る──(俺、殺されるぅぅぅ!!)
さらに両手をグルグル回す──(だから落ち着けぇぇぇ!!!)
クーは目を輝かせる。
(主が……!止まれ? ……いや、“狩りの体勢に入れ”!)
(俺が? ……“主人様が直々に指揮を取る”!)
(仲良く? ……“組み伏せて捕らえろ”!)
(喉を切る? ……“獲物を仕留めろ”!)
(回せ? ……“旋風で蹴散らせ”!)
「……完璧なのだ!!」
ドンッ! と地を蹴り、一歩踏み出す。
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(いや違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!)
シュンの心の悲鳴は、もはや天を突き抜けていた。
ガリウスは、巨斧にかけた手をじり、と強めた。
視線の先、ギルの背後で迫り出したクーが、今まさに牙を剥こうとしている。
(……やはり、動いた……! ギル殿の命で……!)
(あれは単なる威嚇ではない……完全に“試し”に来ている……!)
英雄の胸に、冷たいものが落ちた。
これ以上の押し合いは無意味。
むしろ、誤れば一瞬で軍が焼け落ちる。
「……ギル殿。虚勢の言葉は不要だろう」
声を低く絞り出す。
「だが、貴公が本当に対話を望むなら……その証を見せていただきたい」
一方のギルも、必死に笑みを張り付けながらも冷や汗を流していた。
視線の端で、あの妙なガキが再びジェスチャーを繰り出していたからだ。
突き出した両手──
自分を指差す──
組み伏せる仕草──
首を掻き切る動き──
そして回すように両手を旋回。
(……! 止まれ。俺が。捕らえろ。仕留めろ。蹴散らせ……!?)
(……つまり、“俺が指揮を執る伏兵が、お前らを包囲する準備は整った”ってことか!?)
(クソッ……完全に、読み切れねぇ……!)
胃が焼けるような痛みに、思わず奥歯を噛み締めた。
(……この状況で強がりは通じねぇ。だが弱さを見せりゃ即食われる……!)
「……あんたの背後も、ずいぶん騒がしいじゃねぇか……英雄さんよ」
低く、鋭い声音。
「だったら……俺だって、黙って従うわけにはいかねぇんだ」
二人の言葉が交錯した瞬間。
両陣営の兵たちは思わず呼吸を止める。
空気は氷のように張り詰めた。
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そして。
互いの思考が、ほぼ同時に一つの結論へと収束していった。
「(……これ以上は危うい。だが、退くわけにもいかん……!)」
「(……下手に出ても殺される、強気でも潰される……だったら……!)」
ガリウスとギルは、それぞれの足元を踏み鳴らすように一歩進み出る。
「「この場は……お前に一任する!」」
ガリウスは振り返り、シュンを前へ押し出した。
ギルは顎で合図し、クーを前へ進ませた。
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両軍の間に残されたのは、互いにしか気づいていない“ジェスチャー合戦”を繰り返していた、シュンとクー。
二人は前へ進み出て――
「「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
心の叫びを同時に響かせた。
【あとがき小話】
作者「読たんの皆様、いつもありがとうございます!」
なぜか今日はスーツ姿にウサ耳をつけた作者が登場。
クー「いつも感謝なのだ!」
ユズハ「ユズハを見にきてくれてぇ、ありがとですよぉ♡」
作者「いや、たぶん作品を見に来てると思うけど……実際ユズハ推し、まだ……」
ユズハ「うぅ……帰って枕ぬらしてもいいですかぁ……」
クー「推しってなんなのだ? 食べ物なのか? あそこの小さい読たん……じゅるり」
作者「食うな! 読者を食うな!」
⸻
作者「さて、真面目にお知らせがあります! 活動報告に書こうと思ったけど、あとがきの方が確実に届きそうなので」
ユズハ「えっ!? ユズハ推し拡散キャンペーンですかぁ?!」
クー「食べていい? 食べていい? あの子供っぽい読たん」
作者「違う! 人選完全にミスった! えーっと、来週からお試しで――」
•月曜日 才能奪取
•水曜日 経験値
•金曜日 才能奪取
•日曜日 経験値
作者「この更新予定で進めていきます!」
ユズハ「えぇぇ〜!? 才能ばっかり優遇じゃないですかぁ! ユズハ回、もっと増やしてもいいと思うんですけどぉ?」
作者「いや、それはストーリー次第だから……」
ユズハ「ストーリーとか関係なくぅ、ユズハ推しを育てるには“露出”が大事なんですよぉ?♡」
作者「アイドル戦略かよ!? 小説の話してんの!」
⸻
クー「ふむふむ……では経験値の日は、全部クーの日にするのだ!」
作者「ちょっと!? なんでそうなるの!?」
クー「だって、クーが一番強いのだ! 主役に決まってるのだ!」
ユズハ「えぇ〜!? じゃあユズハはぁ? せんぱ〜い♡(作者の腕に抱きつく)」
作者「やめろ! 読者に“誰が主人公だっけ”って思われるから!」
⸻
ユズハ「でもでもぉ、ユズハがいないと〜……ただの胃痛ラノベになっちゃうんじゃないですかぁ?」
作者「正解だけど悪口みたいに言うな!」
クー「ならクーが全部食べちゃうのだ! 才能も経験値も、読たんも!」
作者「食うな! 世界ごと食うな!」
•才能奪って成り上がる!無職の俺がヒロイン達と社会を支配するまで
小説家になろう: https://ncode.syosetu.com/n4091kh/
カクヨム: https://kakuyomu.jp/works/16818622172347809124
•はぁ?!ダサい死に方ランキング1位だからって特典渡せば納得すると思うなよ!?クソ女神がぁぁぁ
小説家になろう: https://ncode.syosetu.com/n2164kw/
カクヨム: https://kakuyomu.jp/works/16818792437839711338
作者「……というわけで、色々ありましたが」
作者「これからもよろしくお願いします!」
ユズハ「ユズハ推しもよろしくお願いしますぅ♡」
クー「読たんを食べるのもよろしくなのだ!」
作者「食うなって言ってるだろぉぉ!!」




