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第21話『禁忌の森で最もやってはいけないこと:それは「褒める」だった』

アステリオン王国 王座の間


王座の玉座に座すのは、若き国王──

レオニス・アステリオン。


その足元には、重臣たちが膝を折る。

だがその列の最前には、王家の権威とは別に、

圧倒的な発言力を誇る老人の姿があった。


──大教皇、ファルカン。


荘厳な法衣と魔具の杖を携えたその存在は、

聖職者というより“政治の獣”そのものだった。


 


「……いくら三栄騎士の一角が討ち取られ、国境が鉄峰連合に押されたとはいえ……

 “禁忌の森”への派兵など、常軌を逸しております……!」


 


貴族の一人が、恐る恐る言葉を発する。


重臣たちがざわめく。

その意見は、誰もが内心で抱いていたものだったからだ。


 


──かの“禁忌の森”。


数百年前、大賢者と呼ばれた存在が支配し、

人類文明を一瞬で吹き飛ばしかけた“厄災の地”。


現在は無人とされているが、その力の残滓は未だ測定不能。

それゆえ、アステリオン王国と鉄峰連合の間には――


 


**《禁忌の森 不可侵条約》**が存在する。


 


鉄峰連合が山を、アステリオンが平原を。

それぞれの領土を確保し、互いに“あの森”だけは侵犯しない。

それが長年の均衡だった。


 


森を取る利は大きい。


だが──

“あの存在”を怒らせることは、もはや二国間問題ではない。


 


「最悪の場合、世界大戦もあり得るぞ……!」


貴族の一人が叫ぶと、王座の間には緊張が走る。


 


だが、玉座の上。


若き王──レオニスは、静かに口を開いた。


 


「……我が国は今、東に鉄峰連合。

 西には未だ混乱の続く、魔族の領土に挟まれておる」


「……」


「このままでは、両面から侵攻された時に、

 アステリオンは守りきれんのだ。──いずれ滅ぶ」


 


レオニスの目には、焦燥と疲労が色濃く浮かんでいた。


 


「鉄峰連合が平原に要塞を築き出せば……

 我らは南の要所を失う。あとは、坂を転げ落ちるだけだ」


 


その言葉に、重臣たちの顔色が変わる。


だが、それでも誰かが反論を口にしかけた時──


 


「──皆さん、少々落ち着いていただきたい」


場の空気を断ち切ったのは、やはりあの男だった。


 


大教皇ファルカン。


その声音には、宗教者とは思えぬ政治的な“余裕”があった。


 


「魔族は今、内部抗争で分裂状態。

 三栄騎士の残る二人で防衛線は維持できます」


「……」


「そして鉄峰連合が“禁忌の森”を取れば、

 平原の支配権は完全に奪われます。──選択肢はありますか?」


 


「……それは……」


 


「そもそも、大賢者の目撃情報など、最後に記録されたのは五十年以上前。

 もはや伝説と化した幽霊に、国を明け渡しますか?」


 


口調は穏やか。だが、言葉の裏には確かな“誘導”があった。


その論理に、次第に貴族たちは呑み込まれていく。


 


「確かに……」


「禁忌、禁忌と言っている間に、国が滅びる……」


「条約違反は、ドワーフ側が先にすれば良い話……」


 


場の空気が一気にファルカンに傾く。


そして、彼は満を持して最後の一手を打った。


 


「──王よ。実は既に、兵を派兵済みでございます」


 


「なに……?」


 


「あなたが悩んでおられる間に、

 私の独断で、フェル隊長率いる部隊を禁忌の森へと送りました」


「…………!」


 


レオニスの眉がピクリと動く。

だが、それ以上の反論は出なかった。


 


「……なるほど。女神様のお導き、というわけか」


 


「そう解釈いただければ、幸いです」


 


「……ならば、フェルからの吉報を待つとしよう」


 


その瞬間──

この場が“誰の支配下にあるか”が明確になった。


 


会議は閉幕した。


だが、誰の胸にもわだかまりが残る。


 


この一手は、もはや外交戦ではない。


 


──大賢者の忌む“あの森”への侵犯。


その代償が、果たして“地図に収まる範囲”で済むかどうかは……

誰にも分からなかった。


────────────


──────


一方その頃

森を進むフェル隊長率いる調査団は森の中腹まで進んでいた。


 森の気配が──変わった。


 騎士団一行がその違和感に気づいたのは、拠点まで残り数百メートルという距離にまで迫った頃だった。


「……隊長。気のせいじゃなければ、妙な静けさです」


 副隊長キュリが、周囲の木々を見上げて眉をひそめる。小鳥のさえずりが止み、虫の羽音すら聞こえない。まるで自然が“呼吸をやめた”かのような感覚だった。


 フェルは、馬を止めた。


「……この先は、もう戻れないな」


 本音を言えば、この手前で引き返したかった。いや、引き返す予定だった。


 だが──


 森の奥に続く踏みならされた道。


 明らかに人のものとは思えない足跡。


 獣のようでいて、規則的。大きく、重い。しかも、その道は“誰か”が意図的に作ったような構造をしている。まるで導くように。


 ……この先に、何かがいる。


 ただの遺跡ではない。生きている“何か”が。


(大賢者本人……あるいは、その後継者か)


 どちらにせよ、確認せずには戻れない。──いや、戻れば世界の針が狂う。


「対話が……できれば良いのだがな……」


 フェルは自嘲気味に呟いた。心底、自分が外交使節ならと願った。今の装備では、何が来ても戦えはしない。だが──それでも進むしかない。選択肢は、なかった。


 その時。


 視界の先──木々の間から“それ”が現れた。


「──……っ!」


 騎士たち全員が息を呑んだ。


 白。


 純白の神衣に身を包み、金の紐が風に舞っていた。まるで神殿の奥から出てきた神官のように、幻想的で、凛とした気配を纏う少女。



否──少女、と呼んでいいのかさえ、わからない。


 ただ、それが放つ“存在感”は……人が放つものではなかった。


 この世の理から浮き上がるような、歪な神性。


 フェルの喉が、思わず鳴った。


 ──ゴクリ。


「……誰、だ?」


 問いかけた声に、彼女はふっと微笑み──音もなく、唇を動かす。


「あなたたちは、この森に何を求めて来られたのですか?」


 その声音は、澄んでいた。静かで、穏やかで、まるで風のようだった。


 だが、その奥にあるのは……冷たい、湖底のような“無”。


 フェルは反射的に馬を降り、姿勢を正す。


 丁寧に──慎重に言葉を選ぶ。


「我々はアステリオン王国より派遣された調査団だ。この地の奥に“何か”を感じ、調査に──」


 だが、彼女はその答えをさえ──興味なさげに、遮った。


「この地は、かの《我が主様》の支配下と知っての侵入なのですか?」


「っ……!」


 主様──だと?


 つまり……やはり、大賢者の……?


 横にいたキュリが、顔を青ざめさせながら口を開いた。


「あ、あのぉ〜〜っ、ご、ごめんなさい!その、私たち……ほんとに悪気があって来たわけじゃなくてぇ……っ」


 今にも泣きそうになりながら、声を震わせて釈明する。


 だが──


 その少女は、小さく、舌打ちした。


「……消しますか」


 その“呟き”に、場の空気が凍りついた。


 が──その時。


「おぉっとっとっとぉ!ちょ〜〜〜っと待ったぁ!」


 グローレンが、スッと前に出た。


 どんな緊迫感でも空気を読まない、それが彼の“芸風”である。


「どこぞの発展国家のプリンセスかと思いましたが!なるほど、神の創造物とは!いやはや……まさかこのような奇跡の美が、森にいらっしゃるとは!」


 おどけた仕草で片膝をつき、手を差し出すグローレン。


 もちろん、相手は反応しない。


 だが彼は怯まない。


「いやぁ〜〜それにしてもお美しい!ぜひともお名前を……いや!この出会いに意味があるとすれば、我々がこうして貴女様とご縁を──」


「──お美しい?」


 少女の声が、ぴたりと空気を割った。


 全員の背筋が凍る。


 そして──その目が、静かにグローレンを見据える。


「当たり前です。……かの《お方》がお作りになられたのですから」


「……っ」


「“美しい”などという人の浅はかな尺度で、主様の創造を語ろうとは──愚かですね」


 その声は、静かだった。静かであるがゆえに、怖い。


 完全に……地雷、踏み抜いた。


(やばい!やばいやばいやばい!!)


 フェルの内心に、警報が鳴り響く。


 ──だが、そこは流石のグローレン。


 次の手札を切るのが早い。


「いやはや!これは私の無知ゆえの過ちでございます!」


 大仰に手を胸に当て、頭を下げる。


「“美しい”などという単語ではとても言い表せぬ、まさに《神意の象徴》──このような御姿をお作りになられた、その《お方》には、ぜひとも!ご挨拶を──いや、土下座でも何でもさせていただきたく存じまする!!」


 馬鹿なのか。こいつ馬鹿なのか。いや、それしか手はないのか。


 フェルは内心で混乱しながらも、頭を下げる準備を始めた。


 すると──


「…………」


 少女は、しばらくグローレンをじっと見つめ──ふぅ、と、息を吐いた。


「……少しは、わかっているようですね」


 その瞬間。


 場にあった殺気が、わずかに、和らいだ。


(……ッ、助かった……のか……!?)


気迫に押され、動けずにいた一同の前で──

あの少女は、しばらく無言で考え込む。


その沈黙が、逆に恐ろしかった。


(だ……ダメか……?戦闘は避けられないのか?──)


しかし──


「……明後日の、同じ時刻に。またここへ来なさい」


ぽつりと、無感情に言い放つ。


「主様への謁見を──進言しておきますので」


そう一言だけ残し、

カナはくるりと背を向けて、音もなく去っていった。


──森の闇へと、溶けるように。


 


 


──────


禁忌の森を後にし、帰還中の道すがら。


先頭を歩くグローレンが、ふと口を開いた。


「なあ……あれって……なんだったんだ……?」


声には、妙な震えがあった。


フェルが低く応える。


「……わからん。だが、一つだけ確かなことがある」


「敵に回しては、いけない。あれは──そういう存在だ」


「見たことがある。あの戦闘構え……あの気配……。きっと、大賢者と関係してる」


後方のキュリが、肩を震わせていた。


「ううぅぅぅ……私……ぜったい次の謁見行きたくないですよぉぉぉ……!」


「ていうかもうなんならこのまま帰って国籍変えて名を捨てて生きますからぁぁぁ!!」


フェルも疲れた顔で首を横に振る。


「ああ……俺も今回ばかりは、生きた心地がしなかった……。あの一瞬、死を覚悟したからな……」


 

……そんな空気の中。


ひとりだけ。


グローレンが、なぜかうっとりと空を見上げていた。


「…………綺麗だったなあ」


「……へ?」


キュリが振り返る。


「え……?なに?どこが?怖くておかしくなっちゃったんですかぁ!?」


「ふぇぇぇぇん……グローレンさんが壊れちゃったよ〜〜〜!」


だが彼は、満面の笑顔で頷いた。


「いや違うって!怖かったよ!?めちゃくちゃ怖かったけど──でも!」


「でも……それ以上に、綺麗だったんだよ……!」


「ほら、目とか……髪とか……あの冷たい表情……一瞬だけ、天使が見えたっていうか……」


 


フェルが顔をしかめて割って入った。


「おい、待て。お前──この間レイナと付き合ってたんじゃなかったか?」


「えっ?」


「あの、泣きぼくろが可愛いって騒いでた前線の子だ。お前、ずっと“あいつが運命の人だ”って──」


「あー……あー……」


グローレンは困ったように笑った。


「いや、それがさ……アイツ、前線で“黒い手”に仲間が引きずり込まれるの見てからさ……ちょっと、おかしくなっちゃって」


「最近はずっと“後ろ見て……後ろにいるの……後ろにぃぃ”とか言ってて……うん……」


 


フェルの顔色がまた悪くなる。


「……あの“黒い手”を使った魔法使いの話も、禁忌の森に関連してるのかもしれんな……」


キュリが泣きそうな顔で言う。


「やだやだやだやだ……そんなフラグみたいな事言わないで下さいよぉぉぉ〜!!」


 


──────

その頃


その例の主様は──


両手を大きくクロスさせてバッテン!

人差し指で口元を突き刺すように「シー!」

両手を上下に振りながら「NO NO NO!」の激しい動き

最後は両手を広げて「来んな!」の全力Xポーズ

……からの、地面に寝転がって隠れる素振り


全力のジェスチャーを繰り返していた。




ここまで読んでくれた奇特なあなた!


ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー、なんでも嬉しいです!

作者は1PVでも跳ねて喜ぶタイプなので、反応があるとガチで次の原動力になります。

どうかこのテンションのまま、応援いただけると助かります!


(いや、助けてください!!)


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