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第2話『最初の仲間、最初のけんちん汁』


──光が、地を割った。


眩しすぎて直視できなかった。いや、実際目をつぶってたのに、まぶたの裏にすら後光が差してくるレベルの発光だった。しかも耳鳴りつき。なんかもう、世界から「ここ、神イベントですよ〜」って強制通知された気分だ。


 


いや分かる。うん、分かるんだけどさ──

これ、ただの“話し相手欲しいな”っていう俺の願望だったんだけど!?


 


「──召喚、完了しました」


 


女神の、どこか事務的な声が響いて、

目の前の光が一瞬、凝縮された。


まるで濃密な霧が一点に吸い込まれていくように、

輝きの核に、ひとつの“人影”が形を持ち始めた。


 


そして──現れたのは、


完璧な、いや、完璧すぎる女性だった。


 


スラリと伸びた体躯。白銀の髪は陽光を浴びると水面のように揺らめき、

目元には一切の隙がない。いや、あった。感情の隙が、皆無だ。


まるでAIが生成した“理想的な忠誠”のフォーマットって感じの顔立ち。


……え、怖くね?


 


彼女は現れるなり、静かに膝を折った。

それは礼儀でも挨拶でもなく──崇拝だった。


 


「主よ……」


声はしっとりしてて美しかったけど、

その響きの中にある“熱”が異常だった。


 


「ようやく……ようやくお会いできました。

 私は、あなたの剣。あなたの盾。あなたの器。

 この命、この世界、この魂、すべてを捧げます」


 


……え? 話し相手じゃなかった?

俺、友達欲しいって言っただけなんだけど!?


 


「まずは、世界征服から始めましょう」


 


 


「やらねぇよ!?!?!?」


 


勢いのままに叫んでた。


いやそうなるだろ!? なんで即、世界征服なの!?

「はじめまして」も「好きな食べ物」もないの!? ステップゼロ!?


 


でも彼女は──まるで最初からこうなると決まっていたように、

俺の拒絶を微笑みで受け流した。


 


「……御意」


 


静かに頷くと、彼女はすっと立ち上がる。

その一連の動作に、一切の戸惑いがなかった。

むしろ、“計画通り”って感じの余裕すらある。


いやいやいや、やばいってこの娘──


 


「お名前を」


「えっ」


「主の御名を賜りたく──我が信仰の礎となりますので」


「えぇぇぇ……」


 


俺の名前なんて別に、大層なもんじゃない。

でもこのテンションで「斉藤シュンです」って名乗ったら

“神シュン”とか言い出しそうで怖ぇんだけど。


 


でも目が本気なんだよなぁ……。


 


「……シュン。斉藤、シュン」


「……」


彼女は一瞬、目を閉じた。


まるでその名前に“祈り”を捧げるかのように。

いや違う、これ──誓いの儀式だ。


 


「我が主シュン様。以後、命を賭してお仕えいたします」


 


やっぱ“様”つけたーーー!!!


誰だよ、「話し相手いねぇな」ってぼやいた俺!!

この娘、話し相手っていうより家臣!家臣っていうか宗教!!


 


「まずは拠点の整備、次に地域の制圧、資源の確保と民の教育を──」


「待て待て待て待て!お前の中で進行中の国家運営プラン止めろォ!!」


「……御意」


笑顔を崩さず、再び臣下モードに戻る。


あのさ──

“御意”の中に、絶対“納得してない感情”混じってるよね!?

今の「お子様ランチですね」って顔だったよな!?!?


 


くそ……召喚したのが間違いだったのか?

いや、違う。そもそも俺の“理想の臣下”ってやつを、女神が見て作ったわけで……

ということは、つまり──


俺のどこかに“支配欲”とか“王様願望”があったってことか!?


やだ……人って怖い……(自己嫌悪)


 


「それでは主、住居と食料確保の計画に移りましょう」


「……いや、俺の意思どこ……?」


 



──初対面から五分、俺はすでに胃が痛い。


いやマジで……

忠誠心がバグった娘が横で跪いてるって、どういう精神状態で耐えればいいんだ?


俺はただ、誰にも迷惑かけずに生きていきたかっただけなのに──


 


「……で、えーと……」


咳払いしながら彼女をチラ見する。


やっぱ姿勢が完璧すぎる。背筋は糸のように真っすぐで、目線はちょうど俺の膝あたりに固定されたままピクリとも動かない。


……これ、地味にプレッシャーやばい。


 


「……お前の名前、って……ある?」


ちょっと探るように尋ねると──


彼女は、すぐに返した。


 


「ありません」


 


語気は穏やか。でも、明確だった。


 


「私は主の創造により、この世に生を受けた存在。

 名を持つことはなく、また、名を与えられることこそ、存在の意味でございます」


 


……わーお。思ってたより何倍も“人工物”だった。

なんかもう、彼女自身に名前の概念がない。


そして何より──この流れ、嫌な予感しかしない。


 


「では……我が名、いただけますか?」


 


うわ、やっぱ来た。

その“ありがたさ”100倍みたいな表情やめて!?

なんかもう、俺のネーミングセンスに国運乗ってそうな圧なんだけど!?!?


 


「え、えぇと……ほら、自分で好きなのとか……ない?」


 


「ありません」


即答。即ノー。


 


「主の手によって“我”に名を。

 それこそが我が在り方であり、矜持であり、存在証明──」


「ちょ、ストップストップストップ!!」


また始まったぞ、神格化トーク。

頼むから名前一個つけるだけでそんなに重くしないでくれ。


ていうか、俺のネーミングセンスだと下手したら“ポチ”とかになるんだけど!?


……くそっ、でもやるしかねぇか。


俺は、少しだけ考えた。


本当はもっと適当に「アイリス」とか「セレス」とか言って済ませたかったけど、

この娘の“ガチさ”を目の前にすると、さすがに逃げられなかった。


 


「……じゃあ、そうだな」


 


あくまで自然に、素朴に。

俺の中で思い浮かんだ名前を、ゆっくりと口にする。


 


「……カナ。どうかな、それ」


 


彼女の目が、ふっと揺れた。


ほんの一瞬、まるで心臓に風が吹き抜けたかのような

微かな震えが、その瞳に映った気がした。


 


そして次の瞬間──

彼女は、ひざまずいたまま深く頭を垂れる。


 


「──畏まりました。

 我が名は、“カナ”。主シュン様より賜りし、この魂の真名」


「我が命が尽きようとも、この名は手放しません」


「この名に恥じぬよう、必ずや世界を──」


 


「やめて!世界征服のくだり毎回つけるのやめて!!!」


 


せっかく神聖な流れだったのに、

最後の最後でまた物騒になるの、やめろや!!!


 


彼女──いや、カナは、

そんな俺の叫びにも動じず、微笑を深めただけだった。


 


……なんだろう、すっげぇ疲れた。

名前つけただけなのに、二時間プレゼンした気分なんだけど。


 


「……よし。とりあえず今日は、休もう。寝よう」


「了解しました。では私は、主の寝所を警戒しながら三歩後方で立ち続けます」


「寝ろ!!!!」


 


──こうして俺の異世界生活、

ついに“最初の仲間”が誕生した。


けど、話し相手って……

こんな圧強いもんだったっけ……?



────── 



──翌朝。


俺は起きて、泣きそうになった。


 


いやいやいや、

昨日はテンションで流してたけど、

どう考えても今──


 


この拠点、人数に対して生活環境が脆弱すぎる!!


 


「……水、もうないじゃん……」


持ち歩き用の水筒。昨日【水分生成】で満タンにしたやつが、

半分も残ってなかった。


そりゃそうだ。俺ひとりなら一日一本で済んだけど、

今は──


 


「主、どうぞ。私が採取した野草です。朝食に」


「ありがとう……いや、なんでそんな朝から笑顔で草摘んでくる余裕あんの?」


 


カナが差し出したのは、まさかのサラダボウル一杯分の野草盛り。

器は俺が昨日削った木の皿だ。

……うん、俺なりに頑張ったの、これは。


 


「しかしこれはまずいな……」と、俺は唸る。


カナが生まれたことで人員が“倍”になったのに、

俺の昨日の準備、完全にひとり暮らし仕様だった。


 


「住居も寝床も一人分。水も食料も、一日で底をつく。

 MPは有限で、スキル使用でガリガリ減ってるし……」


 


そしてなにより──


「なんか……俺よりカナのほうが働いてね?」


 


昨日、建てた仮設小屋。

あれも、実質カナが丸太を運んで建ててくれた。


水も野草も、全部彼女が早朝から準備してくれてるし……

俺、なにしてた?昨日。


 


「……俺の立場……」


「主は、指揮官です」


即答だった。


「命令するだけでよろしいのです。労働は私が。戦闘も私が。思考も、いずれ」


「いずれ!?」


なんか未来の話に“思想制圧”入ってなかったか!?今!?


 


「とはいえ、主の消耗が進むのは由々しきこと。

 現状、食料と水分の備蓄が不十分です。MPの消費にも対策が必要です」


「だろ!?やっぱコスパ悪すぎだろこの生活!!」


 


昨日わかったことのひとつに、スキル使用はMP消費型ってのがあって、

【水分生成】も【火起こし】も、一発で20〜30MPくらい削られる。


しかもMPって、そんなポンポン回復しない。寝て回復、食って回復。

つまり生活のためにスキルを使うと、逆に生活が厳しくなるという矛盾。


 


「……もうスキルを、拡張するしかないな」


俺は深呼吸して、意識を集中する。


頭の中に浮かぶのは、例の──


 


【スキルウィンドウ展開】


【スキル取得】

使用可能経験値:999,996,429


取得候補:

・簡易水路構築(Lv1)──3,200EXP

・木造住居設計(Lv1)──5,000EXP

・畑整備(Lv1)──2,700EXP

・野菜種子生成(Lv1)──4,500EXP


→ イエス!


──取得スキル:

【簡易水路構築(Lv1)】

【木造住居設計(Lv1)】

【畑整備(Lv1)】

【野菜種子生成(Lv1)】


 


「よし、拠点拡張だ」


俺は振り返り、カナに言った。


「俺たちの──**『静かな暮らし』のために!**」


「……っ、御意!!」


謎に感動してる風なのやめて!

あと絶対“静か”に暮らすって意味、君の中でバグってるよね!?



──作業は、想像よりスムーズに進んだ。


理由は明確。


 


カナが人間じゃない働き方してるからだ。


 


「主、木材の搬入終わりました。次の土台はどの配置にいたしましょう?」


「えっ、あの丸太、もう運び終わったの!?」


「はい、左肩だけで。あと、一部は投擲で搬送しました」


「投げたの!?」


 


俺が取得したスキル【木造住居設計】は、“簡易な間取り図”と“建築イメージ”を視界に表示してくれる便利スキルだった。

素材さえあれば、建築の知識がなくても形にできる。


ただし──


実際に組むのは手作業だ。


俺のような筋トレ社畜系でも、さすがに丸太運搬はきつい。

だがカナは、そんなのを右肩で3本・左肩で2本・背中に1本ってレベルで歩いてくる。


 


「……ちょっと待って。お前さ、スキル見せてくれない?」


「主には開示できません」


「ですよね〜!!」


 


俺が前世の努力で得た経験値、数億単位。


でもカナは──最初からこの性能。

しかも完全忠誠。


いや逆に怖ぇよ。


 


「続いて、畑の区画に移ります」


「は、はいっす……」


カナに引きずられるように畑スペースに向かう。


取得した【畑整備(Lv1)】は、地面を柔らかくしたり、

区画を視覚的にガイドしてくれるスキルだ。

……が、耕すのはやっぱり手作業。


「主、ここを耕します」


ザッザッザッザッ──

クワで土を捌くスピードが、なんかもう畑のプロ。


「本当に昨日生まれた存在ですか君!?!?」


 


俺も負けじと隣で作業を始める。

意外と楽しい。地味に無心になれる作業って、やっぱあるんだな。


 


最後に【野菜種子生成】を使用。


ポーチに、“見慣れた日本野菜”の種が並ぶ。

大根、にんじん、ねぎ、白菜、しいたけ(?)……しいたけ、野菜か?まぁいいか。


 


「じゃあ植えていこうか」


「了解しました。主の指示に従い、誠心誠意、種をまきます」


「そこだけ聞くと、カルト宗教っぽいからやめて」


 


ふたりで植え終えた瞬間、ウィンドウが反応した。


 


【スキルウィンドウ展開】


【スキル取得】

使用可能経験値:999,980,529


取得候補:

・農業適性強化(Lv1)──2,000EXP

 └効果:MPを使い、作物の成長速度と質を高める。1日で初期収穫が可能。


→ イエス!


──取得スキル:

【農業適性強化(Lv1)】


 


「……よし、今日中に初収穫いけるかも」


MPはちょっと使うけど、食糧難よりはマシだ。


スキルを発動すると、植えた区画の上に光が走る。

キラキラしたエフェクトが流れ、地面からは微かに蒸気のような“生命力”のオーラが立ち上がった。


 


「すごい……これが、主の力……!」


「いや、MPで野菜にエナジードリンクぶっかけてるだけだから」



──────

 


──作物は、ほんとうに育った。


いやマジで。


夕方、畑に様子を見に行ったら、大根が土から顔出してた。

にんじんも、ネギも。小さな葉がぴょこぴょこ揺れてて、

なんか……ほっこりする。地味にテンション上がった。


 


「……うおぉ……すげぇ」


俺は、抜いた大根をまじまじと見つめた。

ハリがあって、重さも十分。葉っぱも青々してる。


 


「主の魔力は、実りを与える……やはり神の御力……」


「さっきから神って言ってるけど、俺ただの元社畜だぞ!?筋トレ歴15年だぞ!?」


 


カナは俺の“静かに暮らしたい”って希望を、なぜか**「神として隠棲される計画」**に変換してるっぽい。

もう修正は諦めた。


 


問題は、せっかくの食材を“どう料理するか”だ。


生でボリボリ行ける野菜もあるけど、

やっぱり──ちゃんと「料理」したい。


その方がMP回復にも繋がるっぽいし、なにより……

あったかい味噌汁が恋しいんだよ俺は!!!


 


「っしゃ、いくぞ……!」


深呼吸して、スキルを呼び出す。


 


【スキルウィンドウ展開】


【スキル取得】

使用可能経験値:999,978,529


取得候補:

・料理人(Lv1)──2,200EXP

・厨房構築(Lv1)──4,000EXP


→ イエス!


──取得スキル:

【料理人(Lv1)】

【厨房構築(Lv1)】


 


スキル取得と同時に、地面の一角が光り出す。


ぐおおおおおおおおお!?ってぐらいの重厚エフェクトの後、

ログハウス風のミニ厨房施設が“生えた”。


中には小さなかまどと調理器具、収納棚、

そして【最低限の調味料パッケージ】がきっちり入っていた。


 


「……この異世界、案外システム親切だな……」


 


大根、にんじん、ごぼう、ネギ、しいたけ──

全部刻んで、鍋に放り込む。


出汁はスキル付属の乾燥昆布と鰹節。

仕上げに味噌を入れて──


 


「……できた。けんちん汁、完成」


 


その瞬間、ふわっと、香りが立ちのぼった。


 


──あぁ……懐かしい。


鼻に抜ける出汁の香り。

根菜が煮込まれて甘くなった匂い。

味噌のやさしい温もり。


俺のMPも、心も、溶けていくような感覚。


 


「カナ、できたぞ。食べてみてくれ」


「……っ、承知いたしました……!」


 


カナは、静かに椅子に腰を下ろすと、

一口分、ゆっくりと匙を運んだ。


そして──


 


「……っ!!」


 


スプーンが、落ちた。


カナの手から滑り落ちて、カラン……と皿の脇に転がる。


 


「なっ、どうした!?熱かったか!?」


「……これが……」


カナの手が、震えていた。


目も、口元も、全ての表情筋がかすかに動揺してる。


そして、かすれるような声で言った。


 


 


「これが……神の錬金術……」


 


「言い方!!!!」


 


「この湯気……この出汁……この、調和……!」


「やめろ、けんちん汁を魔導兵器みたいに語るのやめろ!!!」


 


「この味を……この味を世界に布教せねば……!!」


「待って、なんで急に布教フェーズ入った!?!?!?」


 


その後、カナは完全にスイッチが入ったように、

けんちん汁を目を潤ませながら完食した。


何回も「尊い……」とか言ってた。


どっちかっていうと仏教の話じゃね?って突っ込みは飲み込んだ。


 


でも──

ちょっとだけ、嬉しかった。


俺の作った飯で、人が感動してくれるっていうのは、

やっぱ、いいもんだな……。


 


「ありがとう、カナ」


「……はい……この味と共に、命果てるまでお仕えします……」


「やめて!!それ死亡フラグっぽいからやめて!!!」



 


──翌朝。


俺は、うっすらと嫌な予感で目を覚ました。


なんだろう。今日はカナの声が聞こえてこない。

野草の香りもしない。妙に静かだ。


 


「……カナ?」


 


声をかけると、彼女はすぐに姿を現した。

でも、いつもと違うのは──表情が“真顔”だったこと。


 


「主。そろそろ、この土地の周辺を探索すべきかと」


「……えっ」


 


来た。

来たぞこの感じ。

また“静かに暮らす”に真逆の提案……!!


 


「いやいやいや、俺はまず生活の安定を優先したいんだけど」


「存じております。

 ですが、“安全地帯”としてここを確立するには、

 狩場、水源、気候、地形、野生動物の有無──最低限の調査が必要です」


 


論理的すぎる。正論でしかない。

だがしかし、俺の本能が警鐘を鳴らしている。


 


「いや……それってつまり、人と出会う可能性あるってことじゃん?

 もし誰かの土地とかだったら……税金とか……徴兵とか……やばくね?」


 


「大丈夫です」


カナは迷いなく言った。


 


「必要なら、焼き払いますので」


 


「“必要なら”の基準どうなってんだよ!!!」


 


この娘、忠誠心バグってるから、

人間社会の“交渉”って概念が完全に欠落してる気がする。


 


でも──俺は、ふと思った。


 


ここで怯えてても、何も変わらない。

もし本当に、誰かの縄張りだったら、後で発見されたときの方がやばい。


今なら、先に“見つける側”になれる。


 


「……しゃあねぇ」


俺は立ち上がった。


 


「ちょっとだけな。近くの地形とか、水源の位置とか。

 あくまで、生活のための調査であって──」


 


「了承しました。

 すでに装備は整えてあります。防具、非常食、火打石、武器、野菜、調味料──」


「いや装備重っ!?完全に遠征パックじゃんそれ!!」


「主が万が一にも危険に晒されぬよう、三重に保護結界も展開済みです」


「外出の話をしてるだけでなんで軍事行動みたいになってんだよ!!」


 


でも──気づけば、俺の足は一歩、前に出ていた。


 


この場所を“本当の意味で安全地帯にする”には、

まず、この世界を知ることから逃げちゃいけない。


 


「よし、じゃあ行くか──ちょっとだけな!」


「承りました、主。

 まずは近隣半径三キロ、無人区域の特定から開始します」


「いや作戦名みたいに言うなああああああ!!!」


 


 


──こうして俺は、初めて“外の世界”へ踏み出すことになった。


誰にも迷惑をかけずに、静かに暮らすために。

その一歩が、後に──世界を巻き込む国家誕生の序章になるとも知らずに。


 


(第2話 完)


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