第15話『ウチの嫁(三号機)が戦場で汁を残して逝きまし
──時は遡り。
シュンは、ヒゲのオッサンたちと共に走っていた。
少しずつ離れていくガリウスの背中を、涙目で追いかけながら。
「おめぇよぉぉぉぉぉ……屋台がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
脳裏に浮かぶ選択肢──
(一旦、置いてけばよくね?)
だがそれを即座に打ち消す。
(いや、ダメだ……今日という日を共に過ごした……俺の、城だ……!)
──そう、細部までこだわり抜き、
憧れの屋台を完全再現した、我が魂の結晶。
それが《屋台・第三号機》である。
⸻
1号機:クーに破壊された。
2号機:スキルを試したら爆散した。
そして完成したのがこの、三代目──
最早、嫁だ。妻だ。
添い遂げる覚悟で来ている。
⸻
なお爆散の原因となったスキルの説明は、例によって女神がやらかしている。
──ウインドウ──
【強化炎王の加護】
説明:ボワっとなって守られる(略)
「いや、テキトー過ぎんだろッ!? “ボワっと”ってなんだよッ!!」
※なお、実際にボワっとなって爆散した。
⸻
そんな試行錯誤を経て完成した3号機。
今日一日を共に過ごし、屋台としての機能は完璧だった。
たとえ敵の目を引こうとも、俺はこの屋台と生きると決めたのだ。
ただひとつ──
重い。
気づけば、ガリウスの姿はすでに見えなくなっていた。
「くっ……!」
汗と涎と、何か色々な汁を撒き散らしながら、俺はかける。
このヒゲどもと共に。
⸻
──しばらくして、前方に「逆走してくるヒゲ達」を発見した。
「ん? おい何で戻って──」
ゴゴゴゴッ!!!
ヒゲ達を屋台でまとめて吹き飛ばしながら進むと、
やがて開けた場所に出た。
そこにいたのは、立ち止まるガリウスの姿。
「やっと……追いついた……!」
3号機を見せるため、俺は全力でガリウスの元へ駆け──
──次の瞬間。
ズドォン!!!
爆音と衝撃が走り、俺の視界は宙を舞った。
「いってぇ……!? 今の何──」
そして……目の前にあったものは。
バラバラになった妻──いや、屋台の姿だった。
⸻
「……う、そだろ……」
あまりに衝撃的な光景に、思わず膝をつく。
目の奥から、じわじわと涙が溢れてくる。
「なんで……なんでなんだよ……」
木片を一つ、また一つ、丁寧に拾い上げながら、俺は呟く。
「なんで……俺を置いて……」
何も言えなくなったその時。
ふと、転がる魔法瓶が目に入る。
──それは、彼女が……いや、3号機が残した最後の遺産だった。
「これは……まさか……けんちん汁……?」
その瞬間、俺の耳に幻の声が届いた気がした。
『……この汁を……あのヒゲへ……届けて……』
「……っ! わかった……!」
俺は、妻の遺志を胸に、魔法瓶を握りしめた──。
──────
そして今に至る……
……って
なんで俺こんな状況になってんのーーーーー!!!??
目の前には、無数の触手をしならせて暴れ狂うバケモノ。
その前に立ち塞がり、巨大な斧で必死にそれを受け止めてるのは──
ガリウスさん。
──うん、光景だけ見たら完全に異種族バトルファンタジーのラストバトルです本当にありがとうございました。
しかもこいつら、もしかして……
けんちん汁を巡って争ってるんじゃ……
……
…………んなわけあるかーーーい!!!
いやマジで、今ツッコミとかしてる場合じゃねぇ。
俺の横っ腹をかすめるように、
触手が地面ごとごっそり削り取っていった。
ヒッ……! なにこれ怖ッ!!死ぬって!マジで死ぬって!!
このままじゃ洒落にならん!!!!
「なんか使える魔法とかないのかよぉぉぉぉぉ!!!」
ウインドウを展開し、脳内フル回転でスキルリストを確認する。
女神の息吹
インフェルノフレイム
スタージェネシス
エターナルセラフィックシューティング(略)
セイントクロックエンド・オブ・カラミティ(詠唱30分)
……etc.
いや長い長い長い。名前長すぎだろ。
とりあえず──強そうなヤツをタッチ!
■スキル:滅びの歌
説明:隕石を落とす。略
…………は?
……
…………
『隕石!? どこに!? ここに!?』
『いやいやいやいや、それ俺も死ぬやつだろうがぁぁぁぁ!!!』
『範囲攻撃で敵ごと俺を消し飛ばすとか、RPGで一番やっちゃいけないムーブだぞ!?』
『てか“略”ってなんだよ!!!そこが一番大事だろ女神ぁぁぁぁ!!!』
バコォォン!!
再び隣を触手が通過し、地面がクレーター状に抉られた。
ガリウスも斧を振るうたびに、片膝をつきかけている。
ああもうヤバい、マジで終わる、死ぬ、俺の人生打ち切りエンド!!
この状況をひとことで言うなら──全滅フラグ点灯ッ!!!
『もうどうにでもなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
反射的に、そこにあったスキルをポチッとタッチ!
■スキル:精神干渉術式
青白い魔法陣が、ふわぁ……っと俺の前に展開される。
「おぉ……なんかそれっぽい……!」
魔法陣から、淡い光が一筋、ゆっくりとリティスに向かって飛んでいく。
ヒュゥゥゥゥゥ……
ポスッ
……
………………
リティス「グォォォォォォォオオアアアアアア!!!」
(※普通に触手振り回してきました)
『効いてなーーーい!!!!!』
『なにあれ!?ビーム的な演出だけ!?ただの癒しの光!?』
『温泉旅館のヒーリングライトかよ!!せめて目くらましくらいしてくれよ!!』
『女神ああああああああ!!前線に出てお前が撃てええええええええ!!!』




