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第14話『略:それは女神の怠慢』

リティスの掌に、魔力が一点に集中していく。


ただの魔力ではない。

それはもはや、視認した時点で理解できてしまうレベルの暴力だった。


──あれは、受け止められない。

反射ではなく、本能がそう告げる。


 


だが。


 


「……チッ、情けねぇな。英雄なんて言われちゃいるが、リティスといい……獣人の嬢ちゃんといい……俺もまだまだってか……」


膝をついていたガリウスが、ギリ……と大地を踏みしめて立ち上がる。


「──でもよ。

ここで引いたら……俺の背後にいる連中はどうなんだ?

……でも……俺が諦めちまったら……

……全部終わっちまうんだよ……!」


 


【第七戦技】


 


その瞬間、空気が引き絞られたように張り詰めた。


ガリウスは全身に戦技を纏い、渾身の構えをとる。

切り札を以て、正面から打ち砕くつもりだった。


 


だが──


 


ズゥゥゥゥン!!!!!


 


リティスの掌から放たれた“魔力塊”が、空間を歪ませながら射出される。

まるで質量を持った光の塊が、大地ごと薙ぎ払わんと迫る。


 


──そして。


その軌道に、屋台が飛び込んだ。


 


ガリウス「…………は?」


リティス「…………あ?」


 


ド  オ  ン  !!!


爆風。


強烈な魔力衝撃によって、周囲数百メートルの空気が弾け飛ぶ。

砂煙が舞い、地形が変わり、そして……屋台は消し飛んだ。


 


──数秒後。


ガリウスがゆっくりと身体を起こす。


鼻の奥に残る、焼けた木材の匂いと、微かに香る出汁の風味。


 


「…………な、んだ……?」


 


視界に映ったのは──


 


爆散した屋台の残骸。

そして、その破片を拾い集めながら、地面に膝をついて泣く一人の青年。


 


『……俺の……俺の屋台がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!』


 


ガリウスは、声もなく見つめた。


青年は涙をぼたぼた零しながら、ひとつひとつ、木片を拾い集めている。


──その姿に、あのリティスですら若干ドン引きの表情を見せていた。

見た目は異形でも、あの表情は“完全に困惑”している。


 


そんな空気も無視して、青年は何かの破片を手に取ると──


ぱああっと表情を明るくした。


 


『あ!あのあの!これ!奇跡的に無事だったんですけど!』


筒のような容器。

その蓋をくるくる回して外すと、中からとろりと液体が現れる。


 


『これ……どうしても、試食してもらいたくて……!』


 


ずい。


青年はガリウスの方へそれを差し出す。


──どう見ても料理の一部だ。


 


(いやいやいやいや何だこの流れ……!?)


 


だが──


ガリウスは無言で受け取り、気付けば……口に運んでいた。


 


「……な……なんだこれは……?

……芳醇な香り……だが、塩気が効いてて、沁みる……

う……うまい……」


 


ぱあっ、と青年が歓喜の声を上げる。


『でしょ!?でしょ!? これ!けんちん汁って言うんですけどぉぉおおお!!

ほんとは具材がゴロゴロ入ってるんですけど……今、爆散しちゃって……!』


『でもこのスープだけでもどうです!?どうです!?

もし良ければ広めてもらったり……口コミレビューとか……Xクロスでバズらせたり……』


 


「……けんちん……?

……レビュー……?

クロスって……?」


 


この異常すぎる光景と、初めて聞く単語の数々に、

ガリウスの脳はついに──思考を停止した。


 


──その頃、リティスも同様に思っていた。


(いや何これ)


 

リティスは、けんちん汁の香りに一瞬気を取られていた自分を自覚し──


「……ッ、我、何を──」


──次の瞬間、激昂した。


「消え失せろおおおおッ!糞虫がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


肉体が歪み、変形する。

その背中から伸びるのは、無数の異形の触手。地を這い、空を裂き、怒りのままにガリウスたちを貫かんと殺到した。


「チッ──!」


ガリウスは即座に青年を突き飛ばすようにして守り、全身の筋肉を収束させる。


「──第四戦技《乱舞》!」


旋風のように大斧が唸り、触手の一撃一撃を弾き返す。

金属と肉の衝突。激しい衝撃が幾度も巻き起こり、砂煙が天を覆った。


──しかし、不思議と押し返されてはいない。

流れを断ち切ったからか?

それとも、あのけんちん汁とかいう出汁の力か?


「……わからんが……今だけは……!」


それでも攻防の均衡は一瞬のものでしかない。

このままでは、持たない。


「今のうちに! 逃げろぉぉぉぉッ!!」


ガリウスが咆哮する。しかし──


青年は逃げるどころか、その場で何かぶつぶつ言いながら手を動かしていた。


『これでもない!いや……でもこれなら……!隕石……いやいや死ぬわ俺ごと!?』


──ぶつぶつ。


『ならこのチャージバレットとか言うのは……いっぱい打ち出す……面倒なので略………………』


──ぶつぶつぶつぶつぶつ。


『あのクソ女神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


「……!?」


ガリウスの脳裏に、一つの言葉がよぎる。


──錯乱してやがる!!


戦場の中心で絶叫する青年と、突如振り切れたように無双の触手を振るうリティス。

今や戦場は、けんちん汁と絶叫と変形肉塊のカオスに包まれていた。


「……頼むから正気に戻ってくれッ!!」

ガリウスが思わず声に出す。


その瞬間──


青年が、はっとしたように顔を上げる。


『……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁもうわからん!!』


叫びながら、青年は勢いよく立ち上がる。


『どうにでもなれええええええええええええええええ!!!』


リティスの触手が一斉に、青年へと襲いかかる。


──次の瞬間。


青年の目の前に、青い魔法陣が展開された。

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