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他人の本音が見えるせいで婚約解消したら、嘘しかつけない呪われ王子に愛されるようになりました  作者: Mikura


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20/21

18話



 パーティーは無事に終わり社交シーズンは休息期間となったが、どうやらあらゆる噂が駆け巡っているらしい。

 私とアレクシオは悪人同士で気が合っているというものから、氷姫である私を笑わせたアレクシオの治癒魔法の美談まで様々だ。しかしあまり気にしなくてもいいだろう。王家はもうアレクシオの敵ではないし、悪意のある噂は小さくなっていく。……広がるとすれば美談の方のはず。

 それにアレクシオは領地を与えられて王都から離れることも公表されたため、王都の人々の興味はそのうち別のものに移るだろう。目の前にいない人間のことなど、意識から外れていくものだ。


 そして私もまた、アレクシオと共に離れた土地へ移るため忙しく支度していた。結婚式は公爵の就任式と同時に行われ、場所はアレクシオが治める土地ヴィアトレイでの予定である。

 まずはヴィアトレイに移住しある程度住居などを整えてからになるため、家財などの発注をかけたり、あちらの気候に合わせた服の仕立てをさせたりとやり取りが多い。



「リリアン、暇そうだな。付き合え」

【疲れただろう、息抜きに少し出かけないか?】


「ありがとうございます、是非」



 打ち合わせは主に王城で担当の者と話し合っており、今日の予定を終えたところでアレクシオから誘われた。いい気分転換にもなるだろうと二つ返事で受け、二人で出かけることにする。


 アレクシオが選んだ行き先は王都内でも樹木の多く涼しい森林公園だった。湖には水鳥が泳ぎ、自然豊かで、魔道具によって整えられた環境とはまた別の趣がある。

 そんな公園の湖を眺められる木陰のベンチにアレクシオと並んで座った。王城はどことなく閉塞感があるけれど、こうして外でそよぐ風に当たっていると開放感があり、いい気分転換になりそうだ。彼は本当にいい場所を選んでくれた。



「気持ちいいですね、アレクシオさま」

 

「お前を不快にさせたかったんだがな」

【ならよかった、疲れていそうだったからな】


「まあ……顔に出ておりましたか?」



 笑えるようになってから徐々に表情が戻ってきているらしく、ピクリとも動かなかった顔に感情が表れやすくなったようだ。顔に全く感情がでないのは問題だけれど、出過ぎるのもよくはない。これからはもう少し気をつけたほうがいいだろう。



「日に日に気が緩んでいるように見えるぞ、気をつけろ」

【お前の表情が豊かになるのは嬉しいが、無理はするな】


「ふふ……はい。ありがとうございます」



 太陽に照らされて輝く水面や、カモの親子が泳ぐさまなどを静かに眺める。ここは貴族用の区画なので平民の出入りがなく、貴族たちは暑くなってきた気温を嫌い、魔動具を使って快適な温度に調節した室内で過ごしたがるおかげで人気もなく、静かだった。



「リリアン」



 名前を呼ばれて隣のアレクシオを見上げると、小さな箱をこちらに差し出していた。名前を呼ぶだけでそれ以上何も言わない彼は、気の抜けたような顔で箱を開ける。



「……この指輪は……私に、でしょうか」



 見たことのない、不思議な色合いの石がはめ込まれた指輪だ。その質問にアレクシオは頷いて、無言のまま私の手を取り、左手の薬指に指輪を通す。

 指輪の宝石からは魔力を感じた。つまりこれは、ただの宝石ではなく魔石で、おそらくアレクシオ自身が作り出したものだ。時を巻き戻す魔法の力が込められた、特別な石である。



「ありがとうございます、アレクシオさま。……伝統とはいえこのように貴重なものをいただくなんて、恐縮ですわ」



 王族の伝統として、自分の魔石で作った指輪を贈るものがある。王族の魔法は殆どが守護、防壁を張るもので、王族と結ばれる相手を守るという意味が込められていた。アレクシオの場合はその魔法にも当てはまらないし伝統を守らずに宝石を選んでもよかったはずだが、わざわざ作ってくれたのだろう。

 指輪にするほど小さな魔法石を作るのは非常に難しい。魔力を凝縮しなくてはならないし、大きいものを作ってから削ろうとすると粉々に砕け散るからだ。

 これは私を妻に迎えるアレクシオからの誠意だろう。僻地の公爵夫人となることへの償いのような意味もあるかもしれない。



「ここまでお気になさらなくても……」


「勘違いするな、これは王族としてのけじめだ」

【そういうことじゃない、私の気持ちを伝えたかった】



 指輪をはめた手を離さなかった彼は、そのまま手の甲へと唇を寄せ、懇願するように同じ場所へ額をあてる。そしてじっと漆黒の瞳で私を見上げた。



「お前が嫌いだ。心底憎んでいる」

【お前が好きだ、心の底から愛している】



 憎々しげにつぶやく声と苦し気に眉を寄せる表情とは正反対の本音。言葉を呑んで固まる私に、彼はさらに続けた。



「嫌いだ……嫌いだ。本当に………憎らしいお前にずっと伝えようと思っていたので、清々した……」

【お前が好きなんだ、そう言いたいのに言えない。どうして私は好いた相手に好意を伝えることすらできないのか……】



 怒気を堪えるような声と表情。しかしアレクシオの瞳にはじわりと涙がにじんでいき、潤んだ瞳に私が映りこむ。

 声にも表情にも好意を表すことができない苦しみに、彼の心は泣いている。私はつい、そんなアレクシオの頭をそっと抱き寄せてしまった。



「伝わっております、アレクシオさま。……私には、しかと伝わりましたから……」



 伝えられないもどかしさに泣くほど私を愛してくれている。魔石の指輪は誠意ではなく、彼からの愛情だった。

 それを理解したからだろうか。……私もまた、縋るように無言で強く抱きしめてくる彼に、その力の強さで感じる息苦しさとは別に胸を締め付けられるようだった。


(……私は……この人が自分を表に出せずとも苦しまないでいられるような、そんな存在になりたい)


 同情と愛情はよく似ているのかもしれない。憐憫と絡み合う愛しさ、とでもいうべきか。彼の苦しみを和らげ、傍にいてあげたい。私の前では言葉にすることを恐れなくていいと、安心してほしい。

 結婚したい理由が増えた瞬間だった。……おそらく、これは恋なのだろう。



明日はエピローグです。



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