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呪われ公爵と聖女様 ~またの名を、聖女と魔女の仁義なき戦い~  作者: 朝姫 夢


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25.異変 ~聖女視点~

 天候を自在に操るなど、人間には(・・・・)不可能だ。そのことは、聖女サーンもよく知っていた。

 だが、同時に。巡礼中に、何度も雷雨に見舞われるとなると。季節外れもいいところなこの状況に、一つの可能性を考えてしまうのは、致し方のないことだろう。


(魔女の仕業でなければ、よいのですが……)


 そう。人間には、天候を操ることなど不可能だ。だが、よくない方向に人智を超えてしまった魔女という存在ならば、それが可能になる。

 しかし、そうなると。


「……胸騒ぎが、しますね」


 結界の強化を終えて、あとは教会へと戻るだけ。だというのに、一向に進むことができない。

 原因となっている激しい雨風と、時折大きな音を鳴り響かせながら空を走る稲光を、宿の窓から眺めながら。一人、そう呟いた。

 昔から、勘はいいほうだった。特に悪いこととなると、自衛の本能が働くのか、外したことがない。

 だがそうなると、今回の場合は。


「すでに、侵入されているということでしょうか」


 結界は、より強力なものへと張り直した。いくら魔女が人智を超えた存在とはいえ、簡単に破ることはできないだろう。

 そもそもこの結界の状態は、聖女は常に把握している。だからこそ結界が破られた場合には、それが一部だったとしてもすぐに気がつくはずなのだが。それが、ないということは。


「……結界が弱まる機会を、最初から狙われていたのかもしれませんね」


 あるいは、どこかから今回の巡礼の目的についての情報を、事前に手に入れていたのか。

 裏切者か、もしくは自覚なく操られている者か。はたまた公爵の呪いに、そんな効果まで付与(ふよ)されていたのか。真相は謎だが、おそらくその中のどれか、だったのだろう。

 なにせこの悪天候の始まりは、結界を強化したあとからだったのだから。


「魔女の気配を探るのも、難しい状態ですし」


 窓ガラスに頭を預けると、雨粒が窓を叩く音がより鮮明に聞こえてくるが。魔女の気配は、相変わらず判別しにくい。

 というのも、公爵に施された呪いからは、常に魔女の気配がしているのだ。しかも、かなり強めに。そのため、それ以外の気配などあったとしても、弱すぎて感じ取れないのだ。


(結界の中に魔女本人が入り込んでいるとすれば、また別でしょうが)


 おそらく、そうではないのだろう。しかも場合によっては、他のなにかに紛れさせている可能性もある。

 一番厄介なのは、他者の気配に紛れさせている場合だろう。しかも今回は困ったことに、その可能性が最も高いのだ。

 そうなってくると魔女よりも本人の気配のほうが強すぎて、おそらくかなり近づかなければ、気がつくことができない。

 エテルネル王国は、国交を断絶していない。ということは、常に人の行き来があるということ。


(その中の誰かに、意識か魔法だけを植えつけて、運ばせていたとすれば……)


 おそらく、誰も気がつくことはできなかったであろう。それが結界がなくなっている時間帯であったのならば、なおさら。

 悔しさから、サーンは唇を噛みながら胸の前で手を組んで、祈りの体制を取る。


(しゅ)よ、どうか」


 公爵様を、お守りくださいませ。

 声に出さなかった言葉は、サーンにとっての一番の願いだった。今はそれ以外は望まないと、本気で思っているくらいには。

 だが、それが果たして聞き入られるのかどうかは、また別問題で。


 真夜中。突如異変を感じて、飛び起きたサーンは。


「公爵様……!」


 自らが分け与えた、聖なる力が。公爵の体から強制的に追い出されていることに、気づいてしまった。

 同時に強まる、魔女の気配。


「なんてことっ……!」


 予感通り、魔女はすでにエテルネル王国の内部へと侵入していたのだ。しかも、どんな手を使ったのかは知らないが、公爵のすぐ側にまで近づくことができる方法で。

 徐々に公爵の中から失われていく、聖なる力。そして、それはつまり。


「公爵様が……!」


 少しずつ改善していたものを、一気に変化させようというのだから。急激な変化を与えられた体は、その苦痛に耐えられない。今頃彼は、相当苦しんでいることだろう。

 それが分かるのに、どうやっても駆けつけることができない。天候も距離も、全てがサーンの味方ではなかった。

 そしてなにより、こんな時間に大勢の人間を叩き起こして、急かすわけにもいかず。

 結果、サーンができたのは。せめて、朝には天候が回復しているようにと、祈ることだけだった。


 神に仕える聖女が、朝まで祈っていた効果なのか。それとも、魔女が目的を果たし終わったからなのか。あるいは、その両方だったのか。

 理由は定かではないが、夜中までの嵐が嘘のように収まった翌朝。聖女たっての希望で急遽、ブッセアー公爵邸へと直接向かうことになったのだが。

 ようやくたどり着いたその先で、慌ただしい屋敷の中を案内されたサーンが、目にしたのは。全身に、トゲのついた薔薇の枝のアザを浮かび上がらせ。禍々しい魔女の気配を、これでもかと纏わせている、デューキ・ブッセアー公爵の姿。


 熱に浮かされ、苦しそうにもがいているその姿は。彼が望んでこの状態になったのではないことを、如実に表していたのだが。

 聖なる力の影響を与えないため、全員に部屋の外に出てもらってから。ふと、自分の中に湧いてきた怒りの矛先は、はたして魔女に対してだけだったのかと。必死で癒しの治療を施しながら、頭の片隅でそんなことを考えてしまうサーンなのだった。



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