0.醜い女の戦い
新連載、始めました!
よろしくお願いします!(>ω<*)
「素肌に直接触れたいなんて、破廉恥聖女もいいところじゃない!!」
ダークブロンドの長髪とワインレッドの瞳を持つ、女性にしてはかなり長身な人物が、そう叫べば。
「治療ですもの。それよりも一目惚れしたからって、その場で他の女性と恋仲になれないように呪いをかけるなんて、迷惑魔女もいいところですわ!」
毛先だけが薄いピンクがかって見える、ホワイトブロンドの長髪と、淡いアメシスト色の瞳を持つ女性が、そう返す。
「なによ! この破廉恥聖女!」
「恋愛の仕方も知らない、迷惑魔女!」
魔女と呼ばれたワインレッドの瞳の女性は、その魅力的で豊満な肉体を強調するかのように、体の線がハッキリと浮き出るような、上下とも丈の短い黒いドレスのような服装をしていた。
対して聖女と呼ばれた、淡いアメシスト色の瞳の女性は、白一色のドレス。頭に花のような飾りと、ドレスに合わせた白い真珠のイヤリングが、清楚感を引き出していた。
二人は見た目も色も、全てが対照的。魔女と呼ばれた女性は、長く伸ばした爪も厚い唇も、全てが真っ赤だが。聖女と呼ばれた女性は、全てが自然のままで。
なにもかもが正反対でありながら、それでいて彼女たちは、ある意味ではとてもよく似ていた。
そもそも、彼女たちが言い合いを繰り広げているこの場は、とある国の夜会の場。
窓ガラスは、全てが外側から割られ。会場の出入り口では、騎士たちが避難誘導を行っているという、とてつもない非常事態ではあるが。先ほどまでは確かに、スローテンポのワルツが流れる優雅な場所だったのだ。
それが、今。なぜか、醜い女の戦いの場へと発展してしまっているのだが。
元はと言えば、彼女たちが一人の男を取り合っていることに、端を発する。
幸か不幸か、魔女と聖女に愛されてしまった男の名は、デューキ・ブッセアー公爵。現国王の腹違いの末の弟で、シャンパンゴールドの髪とターコイズブルーの瞳に、短く切りそろえた顎ヒゲを持つ紳士だ。
会場内に残っている人々の中には、時折彼に目線を向けては、同情のような憐れみの表情を浮かべる者もいるのだが。彼のこれまでの人生を考えると、それも致し方ないことではあろう。
「ふしだらな女」だとか「覗き見」だとか、あまりよろしくない言葉が飛び交う中。公爵はその場を立ち去ることもできず、最も迷惑を被っている人物として、その場に立ち尽くしていた。
「淫乱聖女!!」
「色欲魔女!!」
醜い争いが、なおも続くこの場で。どうしてこんなことになってしまったのかと、現実逃避のようなことを考え始めたのは、きっと一人や二人だけではないだろう。
いったいどんな経緯をたどれば、こんな状況へと成り下がるのか。
その答えを探るべく、今から半年以上前に遡って、確認してみようではないか。