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前世の私が邪魔して、今世の貴方を好きにはなれません!  作者: 当麻月菜
第3章 前世の私が邪魔して、今世の貴方の気持ちがわかりません

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4

 ──翌朝。


 フェリシアは自室のドレッサーの丸椅子に腰かけ、鏡越しにニドラとモネを見つめている。


 モネはニコニコ顔でファリシアの髪を三つ編みにしているが、ニドラはむすっとした表情で髪に結ぶリボンを選んでいる。


「……こんな平民のような格好をさせるなんて、イクセル殿は何をお考えなんでしょう。まったく」

「まぁニドラったら。平民の格好と言ってるけれど、わたくしが貴女のお父様と初デートをした大切なワンピースなのよ。そんなことを言ったら悲しいわ」


 ぼやくニドラに、モネは自身の思い出話をして嗜める。すぐにニドラはシュンとするけれど、不服さは消えてはくれない。困ったものだ。


「そんな顔をしないで、ニドラ。わたくしはモネから素敵なワンピースをお借りできてとっても嬉しいの。貴女にも似合うって言ってもらえると、わたくしもっと嬉しくなるわ」

 

 どうにかして機嫌を直してほしいフェリシアは、鏡越しにニドラに微笑みかける。目が合った途端、ニドラは頬を膨らました。


「別に似合っていないなど言ってません……フェリシア様は何をお召しになられてもお美しいです」

「まぁ!ありがとう、ニドラ。ふふっ」


 拗ねた顔でも褒めてくれるニドラは愛らしい。しかし不機嫌さは消えそうもないので、フェリシアとモネは説得するのを諦め無言を貫くことにした。


 その後、身支度を終えたフェリシアは鏡の前に立つ。 

   

 モネから借りたワンピースは、水色のタータンチェック柄で袖がパフスリーブになっている。スカートはたっぷりと布をつかっているけれど、綿素材なので軽くて涼しい。


 これなら長時間街を歩いても暑さで具合が悪くなることはないだろう。柔らかい革でできたローヒールの靴も、とても歩きやすい。


「よくお似合いですわ」


 櫛や使わなかった髪飾りを片付けながら、モネは満足そうな表情を浮かべる。ニドラは物言いたげな顔をしているが、不満を口にしないということはそれなりの出来栄えなのだろう。


 イクセルから村娘の恰好でと言われた時には正直、この人何を言っているのだろうと目を丸くしたけれど、鏡に立つ自分はしっかり村娘になっている。


(で、この恰好でデート……ですか……)


 箱入り娘のフェリシアは町を散策することも滅多になかったし、ましてデートなど生まれて一度も経験したことがない。どんなことをするのか作法もさっぱりわからない。


 夜会で顔を会わす令嬢の中には意中の男性と街に出かけることもあるようだけれど、フェリシアは遠い世界の話だとぼんやり聞き流してしまっていた。


 今更悔やんでも仕方がないことだが、こんなことならもう少しちゃんと耳を傾けていれば良かった。


 フェリシアはチラリとモネを見る。ニドラよりふんわりした印象を与えるモネは、人生の先輩でデート経験者でもある。


 いっそのことモネにデートの心得を訊こうか本気で悩むフェリシアだが、実行に移す前にイクセルが到着したと報せが来てしまった。


 モネとニドラを連れて玄関に足を向ければ、使用人が心得たように扉を開ける。


「あ……」


 ポーチに一歩出たフェリシアは短く声を上げて足を止めてしまった。


(どうしましょう。かっこいい)


 今日のイクセルは貴族青年の衣装でも、警護隊の制服でもない。シャツとズボンだけの素朴な服装だった。帯剣はしているが、いつもの装飾が多い鞘ではなく革製のシンプルなものを無造作に腰に差している。


 これがイクセルでなければ求職中の傭兵にしか見えないが、彼はとにかく顔とスタイルがいい。キラキラ衣装を脱ぐと、余計に美貌が際立ってしまう。まったく罪な御仁だ。


「おはよう、シア。約束どおりの格好で来てくれて嬉しいよ」


 朝日にも負けない眩しい笑顔を見せられ、フェリシアは頬に熱が集まるのを隠せない。


「お、おはよう……ござい……ます。昨日、お約束しました……から」


 もじもじとスカートの裾を握って挨拶を返す自分に、フェリシアは「ちょっと、どうしたのよ」と突っ込みを入れる。


 寝込む前まではこの程度でしどろもどろになったりなんかしなかったのに。自分は一体どうしてしまったのだろう。


 これまで何度もイクセルをまっすぐ見つめることができない状況はあったけれど、それは恐怖や罪悪感から。でも今は、そういう類のものじゃない。


(困ったわ……わたくし、ドキドキしているわ)


 この胸の鼓動がなんなのかを、フェリシアはもう気づいている。


 こんな最悪な事態があるだろうか。まさか自分が振ったイクセルを、また異性として意識してしまうなんて。


 一度終わった恋は、消えてなくなるものだと思っていた。どんなにイクセルの見た目が良くても、慰めてくれようとも、恋愛の対象になることなんてないと気楽に構えていた。


(……愚かすぎるわ、わたくし)


 恋をしたところで、相手は自分ではない女性を好いている。叶わないとわかっているのに、惹かれてしまうなんてわざわざ傷つきにいくようなものだ。


「駄目だわ、こんなの」


 フェリシアの呟きは誰にも聞かれていないと思ったけれど、しっかり拾ってしまう者がいた。


「そうでございます!絶対に駄目でございます!!」


 声の主はモネである。モネは普段は温厚なのに、今は別人のように怖い表情を浮かべて、イクセルに詰め寄ろうとしている。


「え?……っ!ちょ、ちょっと、どうしたのモネ!?待って!」

「いいえ、待つのはシア様でございます」


 慌ててフェリシアが止めようとしたけれど、ニドラに邪魔されてしまい、モネはイクセルと向き合ってしまった。

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