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前世の私が邪魔して、今世の貴方を好きにはなれません!  作者: 当麻月菜
☆閑話☆ 隠し事をするのは、お互い様

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 苛立ちと遣る瀬無さに全身を浸食されたイクセルは、窓辺に立つ。仕事に逃げたくても、書類が片づけられてしまったここには、気を紛らわすものは何もない。


「まったく、とんだ悪女だ」


 完璧な自分を作り上げてきたというのに、フェリシアには全く歯が立たない。


 隠し事をするのが苦手で、人の悪口よりも甘いものが大好きで、穢れを知らない天使のような伯爵令嬢──それがイクセルが知っているフェリシアだった。


 しかし仮初の婚約者となったフェリシアは、まるで別人みたいだ。


 下手な嘘を吐いて誤魔化そうとしたり、人相の悪いラルフを怖がることもなく高い事務処理能力を発揮したり、挑発するようなことを言って、こちらの心を振り回す。ますます魅力的になってしまい困ってしまう。


「まぁ、相手の名前はわかっているんだ。そう焦ることはないか」


 フェリシアの口ぶりから、シュンという男との関係は完全に切れている。


 嫉妬する気持ちは爆発しそうなほど膨らんでいるが、最優先で処理する案件ではない。今はそれよりも──


「隊長、失礼します!」


 先のことを考え始めたイクセルだが、扉を破壊するような勢いで飛び込んできたイエルによって思考が中断された。


「本当に失礼だな」


 普段はこの程度では、イクセルは苛立ちを露わにしない。だが今日に限っては、とても間が悪かった。


 滅多に見ない隊長の機嫌の悪さに、イエルは身を縮こませガクガク震える。


「も、も、も、申し訳……ございません!」

「いいさ、別に。余程急を要する要件だったんだろ?な゛?」


 な゛?と言いながら「どうでもいいことだったら殺す」と目で訴えられたイエルは、更に震えながら敬礼をする。


「はっ、じ、じちゅは、ち、ち、ち、ちゅかろうでごちゃい在中のフレードリキュしゃまが、暴れて──」

「なるほど、確かに急な要件だ。教えてくれてありがとう、助かった」

 

 噛みすぎてもはや言語と呼べなくなったそれを難なく理解したイクセルは、素早く立ち上がりイエルの肩をポンポンと叩く。


「その件は私の方で処理しよう。君は地下牢付近の人払いを頼む」


 言い捨てたイクセルは背を向け、スタスタと執務机に歩き出す。その背をイエルは追った。


「いや、待ってください。超ヤバい状態っすよ!?ほんとマジヤバいっすよ?あんなん一人で──」

「イ、エ、ル、くーん」


 振り返ったイクセルは笑みを浮かべていたが、その目は先ほどより苛立ちが増していた。


「業務命令違反で西の離島で、一生、野獣の駆除をしたいのかな?」

「嫌っすよ!」

「なら、やるべきことをやりたまえ」

「はっ!」


 我が身が可愛いイエルは敬礼をすると、ものすごい勢いで執務室を後にした。


「……やれやれ。部下も、あの人も、元気が有り余っているようで困ったものだ」


 ため息を吐きながらイクセルは執務机の引き出しから、薬液が入った小瓶を掴めるだけ掴んで地下牢へと向かった。




 人気のない地下牢に、獣のような唸り声が響く。四方は窓のない石壁に囲まれているはずなのに、イクセルの髪はまるで強風に煽られたようになびいている。


「おやおや、セーデル家の嫡男ともあろうお方が、なんとも無様な姿ですね」 


 憐憫の眼差しと、弧を描く唇。言葉通りイクセルは、フレードリクを挑発している。


「だ、だま……れ……!」


 苦し気に呻きながら憎悪の視線を向けるフレードリクは、壁に背を預け座り込んでいる。立ち上がりたくても、立ち上がることができないのだ。


 フレードリクの身体には傷一つない。毒におかされた気配もない。ただ全身に金を帯びた緑色のオーラがまとわりついている。


 これは四大家門の血を受け継ぐ人間にしかみられない症状。精霊力を開花した初期に、まれに力を制御できずに暴走させてしまうことがある。


 ただこの症状は、強い精霊力を持つ者にしか現れない。


「はいはい。虚勢すら張れない状況だというのは良くわかりました」


 肩をすくめたイクセルは、上着のポケットからカギを取り出し牢屋を開け、中に入る。


 牢の内側は、鉄格子の外より格段に風が強くなっている。まるで嵐だ。


 目を開けるのも辛い暴風の中、イクセルは執務机から取り出した薬液の栓を外し、息も絶え絶えになっているフレードリクの髪を掴むと強引に顔を上に向かせた。


「飲め。楽になる」

「ふざ……けるな。誰が、お前が持ってきたものなんて……っ……!」


 拒むフレードリクを無視して、フレードリクは小瓶を無理矢理フレードリクの口に突っ込んだ。


 あっという間に小瓶の中の薬液がなくなり、それと同時にフレードリクの身体に纏わりついていた金を帯びた緑色のオーラも消えた。

 

「おい、なんでお前がこの薬を持ってるんだ?」


 やっと満足に息ができるようになったフレードリクは口の端に零れた薬液を袖口で拭いながら、イクセルを強く睨みつける。


「フレードリク様、その前に私になにか言うことはありませんか?」


 フレードリクの問いかけを無視したイクセルは、彼の前に膝をつくとニコリと微笑んだ。すかさずフレードリクは、吐き捨てるようにこう言った。


「殺してやる」

「はい、残念。違います。窮地を救って差し上げたのですから、ここは”ありがとう”が正解です。さぁ、言ってみなさい」


 笑みを深くして”ありがとう”を強要するイクセルの姿は、闇社会のドンにしか見えなかった。


 そんな相手に礼を言う言葉など、あるものか。


 そう伝える代わりにフレードリクは、露骨に顔をしかめてそっぽを向いた。

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