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7話・きみの名は?


 騒がしい朝を迎えて学園に向かえば、今までとは違う世界が待っていた。校門前で送迎の馬車から降りると、生徒達に注目された。


「誰だ? あの可愛い子」

「あんな子、学園にいたか?」

「新入生なのかな?」

「一体、どなたなのかしら?」


 皆の浮ついた声は、ジネベラの耳に届いていなかった。ジネベラはすれ違う生徒達の視線を浴びて、居たたまれない気持ちにさせられた。やはり自分には、このピンク色の髪と黄緑色の瞳が派手すぎて、似合わないのではないだろうか? と、戦々恐々としていた。


 教室へ向かう中、向こう側からアヴェリーノ殿下が、乳兄弟のオラースと、騎士科に所属しているベヤールを伴い、やって来た。いつもの彼らの対応だと完全無視されるか、不機嫌な態度も露わに、「おまえのような奴は、端っこでも歩いておけ」と、怒鳴られたり、わざとぶつかってこられたりして厄介なので、彼らから距離を取るべく自ら、廊下の端に寄った。すると殿下が足を止めた。


「おや、きみは……! 転校生かい?」

「……い、いえ、違います」


 派手な髪色が殿下の関心を惹いたようだ。まさか声をかけられるとは思ってもみなかったので、ジネベラは緊張した。オラースとベヤールも足を止めた。


「きみの名は? どこの教室(クラス)にいるの?」

「……ば、バリアン男爵の娘ジネベラです。淑女科です。1年生に属しております」

「そうなのかい? こんなにも近くにいたのに、今まできみに気がつかなかった……」

「たまたまではないですか? 殿下は紳士科ですし、ほぼ淑女科と紳士科は教室の階も違い、出くわすことは少ないかと」


 オラースは馬鹿真面目に解説する。その隣でベヤールは訝る様子を見せた。


「オレは騎士科にいるけど、バリアン家? 聞いたこともないな。こんなに美人なご令嬢が淑女科1年生にいるなんて、噂にも聞いたこともないぞ。きみは今まで静養でもしていたの?」

「い、いえ。学園には毎日通っていました」

「じゃあ、今までオレ達の登下校時には、すれ違っていたと言うことかな?」


 ベヤールの言葉に、ジネベラは軽く苛立った。いつも彼らに出くわすと、わざとぶつかってくるのはベヤールの方。その彼がジネベラの家名を知らないばかりか、名前も知らなかったなんて。

 どうも美人じゃなくて済みませんね。と、言ってやりたいところだが、相手は悔しいことに自分よりも身分が上の貴族の子息。下位貴族の娘でしか無い、ジネベラが逆らうのは得策ではない。ここは我慢で乗り切るしかないように思われた。


「きみはこの時間に、いつも通って来ているのかい?」

「はい」

「彼女だ……。ようやく見つけた……」


 殿下の呟きに、オラースとベヤールが顔を見合わせる。殿下は微笑んだ。


「そうか。きみの名前、覚えたよ。友達になろうよ。僕のことは知っているかと思うけど、この国の第二王子アヴェリーノ。よろしくね」

「は、はい……?」


 ジネベラは殿下の「友達になろうよ」発言が軽く感じられた。学園の憧れの存在に友達になろうと言われて舞い上がらない女子生徒はいないだろうが、その言葉はジネベラが切に願っていた言葉であり、本当ならクラスメートに言われたい言葉だった。


「私はオラース。殿下と同じ紳士科の2年生に属している。母は殿下の乳母を務めていた。父はトリーフ伯爵だ」

「オレはベヤール。騎士科の2年生。親父はリスチド伯爵。側妃様の護衛隊長をしている。何か困ったことがあったら相談して来いよ」


 殿下に友達認定されたせいか、他の2人も自己紹介を始める。別に聞かなくとも彼らのことは知っている。おしゃべりなクラスメート達が、噂しているからだ。なかには熱狂的なファンもいたはずで、そのような相手に声をかけられて、面倒ごとになりそうな嫌な予感がしたジネベラは、苦笑いを浮かべるのに留めた。


 実際、高位貴族である彼らが、下位貴族に興味を持つこと事態が稀なのだ。彼らにとって下位貴族なんて「塵芥」のようなもの。それというのも彼らの屋敷の使用人達が、下位貴族だからだ。という話しを聞いたこともある。高位貴族から見た使用人は、家具感覚とも聞いたことがある。


 学園では皆、平等を謳ってはいても、この学園は何代か前の王さまが建てられたものなので、生徒達は王族や貴族などの特権階級者しかいないし、所詮、社交界の縮図のようなものとジネベラは考えていた。


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