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64話・カナレッド・モリゾー


 ナーナが案内してきた若者は背の高い赤毛に、透き通る琥珀色した瞳を持つ端正な顔立ちの青年だった。年の頃は二十代半ばだろうか? 学園に通う自分達よりも遙か大人に見えた。

 カナレッド・モリゾーと名乗った彼は、突然の来訪を詫び、仕事の取引先との交渉が終わって近くまで来たので、キャトリンヌに会いに顔を出したのだと言った。


 孤児院育ちと言うわりに彼の物腰は柔らかく、所作が洗練されていた。キャトリンヌ仕込みなのだろう。会話もユニークで楽しかった。

 18歳で孤児院を出た後、キャトリンヌに引き取られ、商会で働くようになったと聞いた。キャトリンヌは孤児院に何度か足を運びバザー品や、寄付などをしていたようで、そこで優秀な彼を見初めたのだと言った。


「この子は即戦力になると思ったの。だから孤児院を卒院する日が来たら、うちに来なさいって言ったのよ」

「僕のような者がキャトリンヌさまに認められて光栄です」

「あなたも猫かぶりが上手くなったわね」

「会長」

「うちに来た当初は誰にも心を開かなくて、私以外の者には猫のように威嚇しまくるし。手を焼いたわね」

「いつの話をしているのですか?」

「そうね。10年ほど前の話かしら」


 二人の外見は似ても似つかないはずなのに、本当の母子のように仲が良かった。


「そろそろお暇をしなくては。宿に戻らないと……」


 と、立ち上がり掛けた彼を止めたのはマーサだった。


「あら、もう帰るの。もう少しお話が聞きたいわ。そうだ、今晩はうちに泊まったらどう? もし、良かったら宿の方は解約して。叔母さまも明後日には帰られてしまうことだし、一緒に帰られたら?」

「ご迷惑ではないのでしょうか?」

「いいえ。客間は余っているし、あなたが良ければ是非。良いわよね? 叔母さま」

「そうしてもらえたら有り難いわ。カナレッド。あなたはここ最近、働き尽くめだったから、早めの休みをもらったと思ってここでの休暇を楽しめば良いわ」


 ジネベラの母とキャトリンヌの説得により、彼はバリアン家に滞在する事が決まった。ジネベラとしても異論はない。自分には兄弟がいないので、もし兄がいたらこんな感じなのだろうなと思っていた。

 一度、カナレッドは、宿泊していた宿を引き払うからと戻って行った。


「カナレッドくんは好青年ね。叔母さま」

「良い子でしょう? 彼は引き取った頃から、私の事を実の母親のように慕ってくれていたの」


 その晩はカナレッドを囲んだバリアン男爵家の晩餐は楽しいものとなった。父も普段、我が家では女性陣に囲まれているので、カナレッドの来訪に快く応じていた。


「カナレッドくん、またこの国で仕事をすることがあったら、我が家を宿泊先にすれば良い」

「良いのですか?」

「きみは叔母さまにとって息子のような存在のようなものだし、我が家は親戚のようなものと受け入れてくれると嬉しいよ」

「こちらこそ有り難いです」


 すっかりカナレッドのことを気に入った様子で、キャトリンヌ叔母さまも喜んでいた。


「ありがとう。アベル。カナレッドのことお願いね。この子がこれから私に代わって、この国に商談に来る事が多くなると思うから」


 キャトリンヌが父のアベルに、カナレッドのことを頼み出したので、ジネベラは心配になった。


「叔母さま。もう来ないって事はないわよね?」

「勿論よ。ベラ。カナレッドと仲良くしてあげてね」


 キャトリンヌに微笑まれて、ジネベラは頷いた。







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