表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/94

⑨③

目を覚ますと彫刻のような顔が目の前にあった。


(どうしてこんなところにお父様が……? ああ、わかったわ。これは夢なのね)


今日はキャンディスの誕生日。

皆に祝ってもらい父親に誕生日プレゼントのドレスをもらう。

そんな幸せな夢を見た気がしていた。


(なんだか顔が……というより目周りが腫れているような。なんだか痛いですわ)


皮膚が引き攣れるような感覚に違和感を覚える。

特に目元が重たいような気がしていた。

目を擦りながら体を起こし、ヴァロンタンに触れると確かに感触げある。


その瞬間、すべての記憶が鮮明に蘇った。


(わっ、わたくし……またやらかしてしまったのね!)


大抵、何かをやらかすキャンディスだが今回のことはいつもの比ではない。

大声で泣き喚いた挙句、ドレスのお礼も満足に言えなかった。

それに一番はシャツにベッタリついた鼻水だろうか。

カピカピになって固まっているシャツを見て震えていた。


(……やってしまったわ。もう、ここにわたくしの居場所はないわ)


鼻を押さえながら絶望していると、ドレスがあったはずのテーブルに視線を向ける。

キャンディスに贈られたドレスの箱は目の前からなくなっている。


(あれは幻……わたくしの願望を叶えた夢だったのかしら?)


だけど足元に落ちている白いリボンにここが現実だと教えられたような気がした。

これは箱に巻いてあったリボンと同じだ。

キャンディスは乱れたホワイトゴールドの髪を直しつつも、どこにドレスがいってしまったのか確認していた。


(わ、わたくしが泣いたから……勘違いされてしまったのかしら)


折角、もらった誕生日プレゼントを手放したくない。


(一生の宝物にしようと思ったのに……!)


キャンディスが泣きそうになっていると、横から声が掛かる。



「……起きたか?」


「は、はい! ですがドレスが……」


「ドレス? ああ、ホワイト宮殿に運ばせた」



欠伸をしながら起き上がったヴァロンタンは体を伸ばしている。

状況はわからないが折角もらったドレスの場所がわかって安心していた。



「あの…………ありがとうございます」


「あ……?」


「素敵なドレスをくっ、くださっから……」



キャンディスは懸命に言葉を紡いで感謝を伝えていた。

しかしだんだんと尻すぼみに小さくなっていく声。



「あのドレスが気に入らないのではなかったのか?」



その言葉に目を見開いたキャンディスは首を激しく横に振る。



「そんなわけありませんわ! 素敵なドレスでしたものっ」


「……なら、何故泣いた」


「そ、それは……っ」



以前ならヴァロンタンが怖いからだと誤魔化していただろう。

しかしこれだけ会う回数を重ねても殺されなかった。

少しずつ、気を遣いながら自分の意見を伝えることはできている。

先ほど自分の気持ちをちゃんと理解することができた。

キャンディスが誕生日を祝ってもらっているのに泣きそうになっていた理由。

それは〝嬉しい〟からなのだ。



「誕生日をみんなにお祝いしてもらって……そのっ、嬉しかったのです」


「…………!」


「泣いてしまい……ごめん、なさい」



キャンディスはドレスの裾を掴みながら俯いた。

きちんと言葉にできたのはよかったが、ヴァロンタンは黙ったままだ。


(またわたくしは失敗してしまったのかしら……)


心配になっていると大きな手のひらがポンポンと頭を撫でる。

顔を上げるとユーゴや侍女たちに無言で指示を出しているヴァロンタンの姿があった。



「ならいい。護衛はユーゴが選定してバイオレット宮殿に来た際に紹介する」



バイオレット宮殿に来た際、という言葉も気になるところだが、

ヴァロンタンにしっかりと外堀を埋められているとも知らずにキャンディスはあることで頭がいっぱいだった。




「……護衛? 護衛ってまさか!」



キャンディスはエヴァとローズについて行っていいのだと解釈して、パッと表情を明るくする。



「行くのはダメだ」


「えっ……!?」



だが、そうではなかったようだ。


(なら、どうしてこのタイミングで護衛を……?)


まさか自分の発言でこうなっているとはまったく思わないキャンディスは、急に護衛をつけてもらえることに驚いていた。


(お父様とユーゴと同じような感じなのかしら)


だけどキャンディス専用の護衛なんてかっこいいではないか。



「エヴァとローズが行く際は、バイオレット宮殿に来い」



キャンディスは何度も頷いた。

扉から慌てて入ってきたユーゴが「起きたら早く準備をしてください!」と苛立っている。

ヴァロンタンはめんどくさそうに顔を歪めながら立ち上がった。

キャンディスも空気を察知して立ち上がる。

バイオレット宮殿の侍女たちにより、ホワイト宮殿へと送ってもらう。

「キャンディス皇女様がいらっしゃるのを楽しみにしております!」

「美味しいものをたくさん用意しておりますから」

いまだにどうしてこんなにバイオレット宮殿の侍女たち歓迎されているのかもわからない。

ヴァロンタンの機嫌がとてもよくなるからだと知らずにキャンディスはエヴァとローズと合流したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ