表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【11/12 コミック1巻発売中】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
五章 号泣する皇女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/102

⑧⑧

──ブスッ


キャンディスの鼻に刺さるヴァロンタンの指。

鼻先が上に上がる感覚にキャンディスは驚きすぎて固まっていた。

それはヴァロンタンも同じだ。

豚鼻になっているキャンディスと目が合った瞬間、ヴァロンタンが噴き出すようにして笑う。



「くくっ……」


「…………はっ!」



ヴァロンタンが笑ったことに対して周囲が騒然とする中、キャンディスは変な顔を見られたショックで体を仰け反らせる。

思いきり指が当たったせいかじくじくと鼻先が痛む。

手のひらで鼻を覆うように抑えながら、恥ずかしさから焦っていたため彼の笑顔を見ることはない。

次にヴァロンタンに視線を送ると、いつもの無表情に戻っていた。

先ほどの笑顔が気のせいに思えてくる。


(こんなことで怯んでいる場合ではないわ! 早く許可を取らないとっ)


エヴァとローズを早く家族に会わせてあげたい。

ということは早く許可を取り、納得してもらわねばならないということだ。



「おい、アレを用意しろ」



キャンディスが真剣に考え込んでいるうちに、ヴァロンタンは侍女たちに支持を出す。

侍女は頭を下げて動き出す。

考えがまとまり、鼻の痛みが引いたキャンディスは意を決して口を開く。



「あ、あのっ……お父様!」


「…………なんだ?」


「今度、侍女が休暇を取るので一緒に……「ダメだ」


「……ッ!?」



まだ言葉の途中なのにもかかわらず、断られたことにキャンディスは一瞬、何が起こったのかわからなかった。


(聞こえなかっただけ……? きっとそうよ! そうに決まっているわ)


暫く言葉を必死に考えていたが、もしかして聞こえなかったのかもしれないという答えに辿り着く。



「一緒に行っ……「ダメだ」


「……!?」



しっかりキャンディスの言葉が聞こえているではないか。

また断れてしまい、最後まで言葉を紡げなかった悔しさから唇を噛む。



「ど、どうしてでしょうか!」


「危険が伴うからだ」


「危険……?」


「そうだ。攫われそうになった件を忘れたのか?」


どうやらキャンディスが何を言おうとしているかわかっていて、先回りして答えていただけのようだ。



「忘れてはいませんけれど……」



しかし到底キャンディスが納得できるような答えではなかったため、いつもなら早々に引き下がるが今回ばかりは譲れない。



「ですが護衛がいたら……」


「万が一、何かあったらどうする? 護衛が役立たずだったら責任がとれるのか?」


「そ、それは強い護衛がいたら問題ありませんわ!」


「これ以上、危険な目に遭わせるわけにはいかない。許可はできない」



ヴァロンタンが過保護な発言をしていることもわからずにキャンディスは自分の要望が通らない悔しさに打ちひしがれていた。

いつもはキャンディスが苦い表情をしていると、大抵笑っているユーゴですら何とも言えない顔でヴァロンタンを見ている。



「な、ならユーゴは!?」


「ユーゴは長時間、俺のそばを離れさせるわけにはいかない」


「くっ……!」



(どうしてダメなの!? お兄様たちは普通に宮殿と外を出入りしているはずよね? たしかに護衛がいたけど、そこまで多くないわ。わたくしにもユーゴみたいな信頼できる護衛がいたらいいのに……っ)


マクソンスは鍛錬なのか何なのかは知らないが剣を持って彼の祖父、トップレデロ大将とよくどこかへ出かけていた。

リュカだって毎日のように母親のマリアと大聖堂に向かっていた。

キャンディスだって以前の記憶を思い返してみると、ラジヴィー公爵に『令嬢たちと会ってみないか?』と提案を受けたことがある。

キャンディスは今まで友だちがいなかったこともあり『なんでわたくしが下々の者のために足を運ばなければならないの?』と完全に馬鹿にしていた。

そのためホワイト宮殿に引き篭りっきりである。

どう考えてもキャンディスだけ出かけていけないというのはおかしいではないか。



「ほんの一週間くらいですのよ? それだけ……」


「ダメだ」


「でも……っ」


「ダメだ」


「…………はい」



ヴァロンタンの凄まじい圧に屈したキャンディスの心はポキリと折れてしまい、頷くしかなかった。

明らかにキャンディスだけ対応が厳しくはないだろうか。


(うぅ……これは好き放題しようとしたわたくしへの罰なのね。お父様はわたくしにだけ厳しいのも嫌われているからなのかしら)


キャンディスの落ち込み具合を見て、周囲は二人の考えが完全すれ違っていることに気がついていた。

ヴァロンタンはただキャンディスに対して過保護なだけなのだが、キャンディスは自分にだけ厳しいと萎縮している。

この場でヴァロンタンに意見できる者はこの場にただ一人、ユーゴだけだ。

ヴァロンタンが完全に機嫌を損ねているため、さすがのユーゴもフォローしようか迷っている。


「侍女がいない間、バイオレット宮殿に来ればいい」


「……え?」



キャンディスは泣きそうになりつつも顔を上げた。


(どうして……? 今回の勝手をしようとした罰にここに留まれと? 監視されるのね)


それにエヴァとローズが帰省するという話を詳しく話していないのに、すべてを把握しているような口振りではないか。

不思議に思いつつも、バイオレット宮殿に滞在するということはキャンディスにとっては緊張感ある毎日を過ごさなければならないということだ。

恐怖から小さく震えていたキャンディスはなんとか断る理由を探していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
親の心子知らず、ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ