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【11/12 コミック1巻発売中】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
五章 号泣する皇女

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⑧⑦

好きに出入りしていいと許可をもらったが、キャンディスには心に決めたことがあった。

ヴァロンタンにたとえ嬉しいことを言われても調子に乗ってはいけない。

キャンディスが絶対に愛されることはない。

少しでも好かれていると勘違いしてはいけない、である。

心の中で必ず呟いてから、バイオレット宮殿に向かうのだ。

キャンディスがバイオレット宮殿に足を踏み入れると、侍女たちはキャンディスに待ってましたと言わんばかりにキャンディスを取り囲む。



「まぁ、キャンディス皇女様! バイオレット宮殿によくぞいらっしゃいました!」


「本日はどのようなご用件で? 長居はいたしますか!?」


「すぐに甘いものを用意いたしますわ!」



何故かキャンディスは熱烈な歓迎を受けているではないか。

気を取り直してと、咳払いをしてからキャンディスはあることを告げる。



「お父様に……伝えたいことがあるの!」



いつの間にかお父様呼びが当たり前のようになってしまった。

侍女たちは嬉しそうにキャンディスに笑顔を向けている。


(みんな優しいのよね……どうしてかしら。だけどわたくしが侍女に好かれることなんてないはずなのに)


キャンディスがいればヴァロンタンの機嫌がかなりよくなるため、バイオレット宮殿の侍女たちに求められているとも知らずに案内されるがままいつもの部屋へ。

いつの間にか内装が変わっており、可愛らしいもので溢れた部屋の中。

まるでキャンディスのために用意されたようだと思ったところで首を横に振る。

侍女たちがお茶の用意に動き出したのを見て、キャンディスは飲み物だけでいいと伝えた。

すると侍女たちは明らかに残念そうにしているではないか。


(折角、用意してくれようとしたのに失礼だったかしら。このことは……お父様に伝わってしまうの!?)


キャンディスが慌てて訳を説明するも、侍女たちがしょんぼりとして悲しんでいるようにも見える。

侍女たちの長居をしてほしいという本当の気持ちは伝わることなく、キャンディスの勘違いは悪い方へと進んでいく。

どうリカバリーすればいいのかわからずに、プルプルと震えながら待っていると遠くから聞こえる足音。

急いでこちらに向かっているように思えた。


バタンと勢いよく扉が開き、そのあまりの勢いにキャンディスは肩を跳ねさせる。

持っていたソーサーとカップとカチャリと音を立ててしまった。


目の前には小さく肩を揺らしながらキャンディスの前にいるヴァロンタンの姿。

その顔は驚いているように感じる。

彼を追いかけてきたユーゴの表情も驚きと焦りが滲む。

ヴァロンタンが慌てていたように見えるのは気のせいだろうか。


(も、もしかしてタイミングが悪かったのかしら……! わたくしったら許可をもらったから安心してここに来てしまったわ。それが間違いだったのね!)


キャンディスが反省していた時だった。

先ほどまで和やかな雰囲気だったのに、侍女たちの間にも緊張が走る。

ドカリとキャンディスの隣に座ったヴァロンタンは髪をかき上げている。

キャンディスはチラチラと視線を送りながら様子を窺う。


(どうしましょう……もう出て行った方がいいのかしら? ごめんなさいと言うべき!?)


じんわりと背中に汗が滲む。

キャンディスもソーサーとティーカップをテーブルに置けずにそのまま固まっていた時だった。



「……どうした?」


「へ……?」


「自分からここに来るとは珍しいな」



キャンディスの前でヴァロンタンのプラチナブロンドの髪がサラリと揺れた。

バイオレットの瞳は射抜くようにキャンディスを見つめている。


(も、もしかしてわたくしの考えが見抜かれている!?)


キャンディスの表情が緊張で強張っていく。

そして咄嗟に出た言葉は……。



「おっ、お父様に…………会いたかったのです!」


「……っ!?」



正確にはヴァロンタンに許可をもらいにきただけなのだが、緊張からうまく言葉が紡げなかった。

意味は同じだろうと開き直っていたのだが……。



「…………そうか」



声が柔らかくなったような気がしてキャンディスは顔を上げた。

今度はヴァロンタンの機嫌はとてもいいように見えたため、キャンディスは首を捻る。


(どうしてかしら……でも機嫌がいい方が許可を取りやすいわよね!)


けれど気のせいかもしれないとキャンディスはツンツンと人差し指をつついてタイミングを窺っていた。

それと同じようにヴァロンタンの指がキャンディスの頬をつつく。



「後でホワイト宮殿に行こうと思っていた。遅くなると思っていたからちょうどいい」


「……え?」



半年前よりも饒舌になったヴァロンタン。


どうして後でホワイト宮殿に来ようとしていたのか、何がちょうどいいのかはわからないが、キャンディスは今、エヴァとローズの元へ行くことしか考えていた。


(エヴァとローズと離れたくない……がんばるのよ、わたくしっ!)


キャンディスは覚悟を決めて、ヴァロンタンの方へと向き直った時だった。


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