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【11/12 コミック1巻発売中】悪の皇女はもう誰も殺さない  作者: やきいもほくほく
五章 号泣する皇女

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⑧⑥

キャンディスは感動から声を漏らす。

アルチュールは言葉が出ないのか無言で拍手をしている。

リュカは「芸術的だね……!」と感激しているようだ。



「あ、あなたたち! 最高のケーキよ。ありがとうっ」



キャンディスはシェフたちが作ったケーキをひたすらに褒めちぎっていた。

苦手なお礼もキャンディスの口から自然と出てくる。

シェフたちは帽子をとって、涙ぐみながら頭を下げていた。


三人で席に座ると切り分けられる大きなケーキ。

今日は誕生日なので、お腹いっぱいになるまでケーキを食べようと決めていた。

ふんわりとしたスポンジは柔らかい。

真っ白な生クリームはとろっとしていて、中に入っているフルーツは水々しい。


(断面まで美しいじゃない。素敵……!)


フォークで口に運ぶと、舌に溶ける甘い生クリーム。

フルーツの甘酸っぱさが口に広がっていく。

スポンジのふわふわした食感にキャンディスは頬を押さえた。



「んぅ~~~~っ!」



唸るほどの美味しさ。これならばいくらでも食べられそうだ。

アルチュールも頬を押さえながら「ほっぺたが蕩けちゃいそうです!」と言っている。

普段から甘いものをあまり食べないリュカも珍しくケーキをペロリと平らげた。

おかわりを三度ほどすると、甘いものが大好きなキャンディスもさすがにお腹がいっぱいになっている。


(はぁ……幸せ。とても美味しかったわ)


キャンディスはなんとも言えない幸せに浸っていた。

今は一人ではなく、両側には弟のアルチュールと兄のリュカがいてくれる。

少し苦い紅茶を飲みつつも、ホッと息を吐き出した時だった。



「「「キャンディス皇女様、お誕生日おめでとうございます」」」



シェフたちにそう言われたキャンディスは再び目頭がじんわりと熱くなっていくのを感じた。


(またこの気持ちだわ……なんで泣きそうになるの?)


苦しくも悲しくはないのに涙がじんわりと滲み出る。

アルチュールやエヴァやローズ、ジャンヌやリュカに言われた時もそうだったことを思い出す。



「あ、ありがとう……ケーキ、素晴らしかったわ」



キャンディスの言葉を聞いたシェフたちは本当に嬉しそうにしていた。

余ったケーキは内緒でホワイト宮殿の人たちに振る舞ってもらうように頼む。


(あまったらもったいないもの。エヴァとローズの影響を受けすぎかしら……)


もったいない、そんな感情が強く残っているのは牢に入れられて、空腹に苦しんだ記憶もあるからかもしれない。


ケーキを食べ終え楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。リュカはいつも通りバイオレット宮殿にある書庫へと向かう。

アルチュールは今日を楽しみにしすぎていたらしく寝不足なのだそう。

眠たい目を擦っていたがジャンヌに抱えられながら部屋に戻った。



「キャンディス皇女様、ホワイト宮殿に戻ってプレゼントの続きを開けましょうか!」


「そうしましょう。まだまだたくさんありますから」


「いいえ、行かないわ。わたくしにはバイオレット宮殿に行かなければならないのよ!」


「ま、まさか……」



キャンディスはある場所へと向かう決意をしていた。

エヴァとローズはアワアワとしながらキャンディスを止めようと知っている。



「お父様にエヴァとローズについていってもいいか聞かないといけませんわ……!」



キャンディスは二人の制止を振りきり、バイオレット宮殿に向かうために足を進める。

突然、ヴァロンタンの元に突撃するのは記憶を取り戻す前と同じ行動だ。

しかし今回のキャンディスはちゃんと父親であるヴァロンタンに許可をもらっている。



──今から一カ月前のこと。


ヴァロンタンに今日は部屋に行けないと伝えないといけないと思っていたが、彼のスケジュールを把握していないためバイオレット宮殿の前でキャンディスはウロウロしていた。


以前は相手の都合なんて関係なく突撃していたキャンディスだったが、そんなことをすれば今以上に嫌われてしまい処刑一直線だともうわかっている。

そんな時、たまたま現れたユーゴに事情を説明するとすぐに現れる正装したヴァロンタン。

相変わらずの無表情。表情筋がピクリとも動かないため何を考えているのかよくわかない。

キャンディスは緊張からドレスをギュッと握る。


(図々しかったかしら。それともこんなことを伝えにきたことを怒られてしまうの!?)


俯きながら言い訳を必死に考えていた。

暫くキャンディスを見ていたヴァロンタンは低い声で呟くように言った。



『用がある時は好きに入って構わない』


『えっ……? あ、ありがとうございます』



反射的に返事をするキャンディスの言葉を聞いて、ヴァロンタンは足早に去って行く。

その後ろ姿を見つめながら、キャンディスは自分の用を伝えるのを忘れたことに気づいて、結局ユーゴに伝えてもらったのだった。

けれどその後もヴァロンタンに呼ばれる時以外で自分からバイオレット宮殿に行くことはなかった。

ユーゴに『どうしていらっしゃらないのですか?』と問われたが、キャンディスからしてみたら、どうして自分から危険に足を踏み入れなければならないのかと言いたかった。


(今回はお願いしにいくだけだもの! きっとすぐに許可をもらえるはずだわ)


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