⑧③
「はぁ……」
ため息を吐きつつこれもいい皇女になるためだと言い聞かせながらプレゼントを仕分けていく。
(それにわたくしがピンチになった時に帝国外に出る手伝いをしてくれる貴族がいてくれたらといいと思わない? ふふっ、わたくしったらなんて頭がいいのかしら)
キャンディスも記憶を取り戻してから、何も考えていないわけではない。
要は皇女でなくなったとしても、何がきっかけで殺されるかなんてわからないため作戦は立てておかなければならない。
欲を言えばジョルジュを超える頭がよく顔がいい王子を捕まえて帝国外に嫁ぐことだが、未来はどうなるかはわからないではないか。
それにはラジヴィー公爵という壁もあるが現実的な考えだ。
(エヴァとローズと一緒に行きたいもの。それにアルチュールとジャンヌをここには置いていけないわ)
アルチュールは自分が守らなければならないという謎の使命感。
それに早めに結婚が決まるに越したことはない。
(わたくしの安全が保証されるということだもの!)
使わないプレゼントはエヴァやローズ、アルチュールやジャンヌへとわけていく。
「よ、よろしいのですか?」
「わたくしが持っていても使わないものばかりだわ。もったいないもの」
「妹たちが喜びます!」
「エヴァとローズには妹が何人いるの?」
「えぇ! 妹と弟が四人いますわ」
「つまり、エヴァとローズを含めて六人姉弟なの!?」
「「はい、そうです」」
二人の声が綺麗に揃う。エヴァとローズは没落した子爵家の娘だ。
今はホワイト宮殿で働き、そのほとんどの稼ぎを実家に送っているのだという。
(わたくしの知らないところで、エヴァとローズは家族を支えていたんだわ)
父親に四十歳年上の帝国貴族に嫁がれそうになったらしいが、タイミングよくホワイト宮殿の侍女が募集されていたのだという。
キャンディスはあの時、エヴァとローズをクビにしなくて本当によかったと思っていた。
こうしてみるとキャンディスの扱いがうまいのも、同じくらいの妹や弟がいるからなのだろう。
「キャンディス皇女。そっ、それでですね……お願いがございまして」
「あら、何かしら」
ローズが言いづらそうに人差し指を合わせている。
「実は、一度家に帰りたいので休暇をいただきたいんです」
「…………っ!」
エヴァの言葉にキャンディスは持っていたプレゼントの箱をポロリと落とした。
「それは……わたくしから離れるということ!?」
「往復することを考えると一週間ほどいただきたいのですが……」
キャンディス付き侍女は今のところエヴァとローズだけだ。
ホワイト宮殿には他に侍女もいるが、キャンディスが誘拐されそうになった件があったからか、ヴァロンタンが慎重に厳選していると言っていた。
他の侍女たちと直接関わることは少なく、キャンディスのそばにいるのは彼女たちばかり。
「どうして……?」
二人は気まずそうに顔を合わせると黙り込んでしまった。
こうしてエヴァやローズが言葉を濁すことは珍しい。
キャンディスが理由を聞くと、予想もしない言葉が返ってきた。
「久しぶりに家族に会いたいと思いまして。皆が無事に暮らしているのか心配で……」
「手紙もたくさんきていて、妹たちも寂しがっているんです」
「…………ぁ」
キャンディスは簡単に両親に会うことすら許されない。アルチュールは母親すらいない。
だけどエヴァとローズには家族がちゃんといるのだ。
そんな当たり前のことをどうして忘れていたのか。
「キャンディス皇女様、申し訳ありませんっ!」
「そんなお顔をさせるつもりではなかったのです……!」
今、自分がどんな顔をして二人を見ているかわからない。
反射的に俯いていると、エヴァとローズは慌ててキャンディスの元に駆け寄ってくる。
手をギュッと握ったキャンディスを抱きしめる腕。
(家族に会えない苦しみは、わたくしが一番理解できるはずじゃない……!)
キャンディスは両親に愛されたくて仕方なかった。
会いたくても会うことは許されない。手紙すらこない。
愛されることも知らずに……。
嫉妬、羨ましい気持ち、それと強烈な寂しさ。
色々なマイナスの感情がキャンディスに押し寄せてくる。
「やはり言うべきではありませんでした!」
「キャンディス皇女様はこんなにも苦しんでいるのにっ」
「今の話はなかったことにしてください! 私たちが、ずっとおそばにおりますから」
「エヴァ、ローズ……」
エヴァとローズは、ずっとキャンディスに遠慮していたのだろうか。
(二人と離れることが、こんなにも寂しいだなんて知らなかったわ)




