⑧①
エヴァとローズと自室に戻ったキャンディスはプレゼントを見た。
アルチュールの花は花瓶に生けてもらい、リュカからもらったプレゼントを大切にテーブルに置いた。
ソファの裏にはキャンディスが見上げるほどのプレゼントの山があった。
時が戻る前は名前の知らない侍女たちが適当に開けてもらい、気に入ったものだけを手に取っていた。
誰がプレゼントをキャンディスにくれたのなまったく興味がなく、どれだけ豪華で高価なものかということに執着していた。
けれど今ならそれよりも大切なことに気がつくことができる。
どんな気持ちでキャンディスにくれたのか、関係性も大切なのだ。
(毎回毎回、同じようなプレゼントばかりでそのまま見なくなってしまったわ。このプレゼントの中に自分が欲しいものなんてあるわけないのに)
けれど今回のキャンディスは一味も二味も違う。
キチンと宛先を確認して、誰が何のためにキャンディスにプレゼントをくれたのか理解する必要があるとわかったからだ。
ソファに腰掛けつつ、エヴァとローズがプレゼントを開ける様子を見ているとある記憶が蘇る。
それは母親からキャンディスの誕生日プレゼントが来るのではないか、ということだった。
(毎年、お母様からのプレゼントを心待ちにしていたのよね。わたくしったら馬鹿みたいに待ち続けていた)
なので誕生日にラジヴィー公爵がホワイト宮殿に来た時は、凄い勢いでプレゼントがないかと迫っていた。
『お母様はっ、お母様は何か言っていた!?』
『リナは具合が悪くてそれどころではないんだ。すまない、キャンディス』
キャンディスの誕生日の時期にリナは必ず具合が悪くなってしまう。
以前はその理由がわからなかったが、すべてはラジヴィー公爵がリナと会わせないようにするための嘘だったのだろう。今ならそれがわかる。
『キャンディス……すまない』
その時のラジヴィー公爵の表情は見たことがない。キャンディスは涙を堪えるのに必死だったからだ。
だがキャンディスはもう両親に愛されることに執着することはやめた。
数カ月前からユーゴがリナにコンタクトをとろうとしているが、ラジヴィー公爵が全力で阻んでいるそうだ。
ユーゴとラジヴィー公爵の攻防戦は凄まじいもので、彼も『ここまでするとなるとラジヴィー公爵にもよっぽどの理由があるのではないのでしょうか?』と、語った。
リナを全力で守っているということなのだろうか。
だからこそラジヴィー公爵はホワイト宮殿に顔を出して、キャンディスにとやかく言っている場合ではないというわけだ。
ユーゴの報告でヴァロンタンが動く前に手を打つつもりなのだろう。
ついに最近、療養という名目で帝都にある公爵邸を出て、急遽買った別邸にリナを移したらしい。
王宮がある帝都から馬車で三日ほどかかるそうだ。
それにはユーゴも言葉が出てこなかったらしい。
『皇帝陛下がキャンディスを連れて直接、お会いしてくれるのなら別ですがな!』
ここまでされてしまえば、ユーゴもヴァロンタンのそばを何日もはなれなければいけないし、キャンディスもそこまでして会おうとは思えなかった。
『まさかここまでするとは思いませんでしたけどね……』
ユーゴもラジヴィー公爵がここまでしてキャンディスに合わせないようにするとは思っていなかったようだ。
ユーゴはキャンディスに『影を使って直接、手紙を届けましょうか?』とキャンディスに提案してくれた。
しかしキャンディスはそこまでしなくていいと言ったのだ。
そんな数カ月前の記憶を思い出していると、エヴァが一枚のカードをキャンディスに手渡した。
見覚えのある国の紋章を見たキャンディスは恐る恐る視線を下に向ける。
そこにはジョルジュ・ディ・ダルトネストの文字があった。
「げっ……」
ジョルジュの顔を思い出して自然と漏れてしまう声。
彼の嫌味ったらしい笑顔が思い浮かんで、無意識に眉を寄せる。
どうしてジョルジュからキャンディスに誕生日プレゼントが届くのか不思議で仕方ない。
(おかしいわ。婚約者でもないジョルジュからこの時期に何かもらったことなんかないのに……)
エヴァとローズも心配そうにキャンディスを見ている。
「ジョルジュ殿下はやはりキャンディス皇女様を狙っているのですね……!」
「そうに違いありません! あんなに誘いを断っているに……」
「そ、そうよね。あんなに断っているのにおわしいわ」
キャンディスはジョルジュから定期的に来る誘いを何かと理由をつけて断り続けていた。
しかしジョルジュは諦める様子は一切ない。まるで断られることなどなかったことのようだ。
ジョルジュがディアガルド帝国が来た際も、キャンディスは彼に会わないように全力で逃げ回っていた。
それなのにまるでキャンディスの行動を読んでいるかのように立ち回ってくるのだ。
(ジョルジュ……なんて恐ろしい男なの! あの胡散臭い笑顔が今となっては恐ろしいわ)




