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マリアはヴァロンタンに睨みつけられると、悔しそうにしながらもすぐに口を閉じた。


キャンディスはヴァロンタンに掴まれてくしゃくしゃになったワンピースを直した後に咳払いする。

あんなに視界に入りたい、愛されたいと願っていたキャンディスだったが、今は愛されることは絶対にありえない、望みはないとわかっているからか他人と同じように接することができる。



「マリア様がリュカお兄様の夢とアルチュールを馬鹿にしたので、わたくしは悔しくなって言いすぎてしまいました」


「……夢?」


「はい。リュカお兄様は人を救いたいとそう言っていました。わたくしは素敵だと思いましたわ」



キャンディスがそう言った瞬間にリュカの目からポロリと涙が溢れた。

ヴァロンタンの視線は積み上がった本に視線を送る。



「それからわたくしがバイオレット宮殿でお世話になっている間、リュカお兄様がアルチュールとジャンヌを面倒見てくださいましたわ」


「……ッ!?」


「わたくしはリュカお兄様の優しさに感謝しております」



その言葉にマリアの血走った目が大きく開かれた。

リュカは怯えたように肩を震わせている。


(し、しまった……わたくしったら失言をっ)


マリアは以前のキャンディスのようにアルチュールを嫌っている。

リュカは書庫の外に人を置いている理由も人払いをするためなのかもしれないと今更ながら気づくことができる。

キャンディスは己の目的のことなど忘れてリュカがどうすれば目的を達成できるのか考えるのに必死だった。

リュカが叶わない夢を追いかけているのを自分と重ねているからかもしれない。



「マリア様はアルチュールを嫌っています!それで庇ったリュカお兄様を叩こうとしたんです!つ、つまり……つまりですわね」


「…………」


「──アルチュールとリュカお兄様を守りたいのでホワイト宮殿に連れて行ってもいいでしょうか!?」



とにかくリュカをマリアから守らなければと思っていたのだが、最終的に何が言いたいのかわからなくなってしまい、わけのわからない言葉が飛び出した。

キャンディスが息を切らしつつ言ったのだが、周囲は静まり返っている。



「…………ダメだ」



まさか否定されるとは思わずにキャンディスはあんぐりと口を開けたままヴァロンタンを見ていた。

音もなくヴァロンタンの背後に控えていたユーゴが「ブフッ!」と吹き出したような笑い声が聞こえてくる。


キャンディスがワナワナと震えながらショックを受けているとヴァロンタンの視線はマリアへと向かう。



「マリア、暫くはブルー宮殿に近づくな」


「で、ですがリュカには毎日教会で祈りをっ」


「……俺の言葉が聞こえなかったのか?」


「ッ!?」



ヴァロンタンの言葉にマリアの肩が大きく跳ねる。

ガタガタと震えながら「……っ、皇帝陛下の御心のままに」と言って深々と頭を下げる。



「ユーゴ」


「かしこまりました」



ユーゴは名前を呼ばれただけで意図を汲み取ったのか、マリアを外へと促すようにして声を掛ける。

しかしユーゴを避けるようにマリアは体を捩ると「悪魔め、わたくしに触らないで!」と言っているのがキャンディスには聞こえてしまった。


『あなたの髪色って、まるで悪魔ね!』

『生まれが悪いとそうなるのかしら。穢らわしい』

『触らないで!あなたのような人が美しいお父様のそばにいるなんて信じられないわ』


キャンディスがユーゴとアルチュールに言っていた姿と重なって胸が痛む。

こうして以前のキャンディスも当たり前のように生まれや色だけで差別していたのだ。


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