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「知ったような口を聞くんじゃないッ!このっ」


「……っ!?」



マリアの右手が大きく振り上がり、殴られると思ったキャンディスは衝撃に備えて瞼を閉じた瞬間だった。



「マリア、その手を振り下ろせば首を斬るぞ?」



マリアの背後からスッと首元に当てられる剣。

危機に気づいたのか、キャンディスの頬を叩く寸前でピタリとマリアの手が止まった。

地を這うような声にアルチュールとリュカは大きく肩を揺らして怯えている。

キャンディスは聞き覚えのある声に目を開いた。


(お父様がどうしてこんなところに?)


キャンディスは自分がヴァロンタンに呼び出されていたことすらすっかり忘れてた。


呼び出された一日と攫われそうになった後を共にしただけだったが、以前焦がれ続けていたせいかすぐに父だとわかってしまう。

今は相当、怒っているようだ。

視線だけで人を射殺せそうである。

さすがのキャンディスも怖いと思っていた。



「手を離せ」


「……ひっ!?」



キャンディスもヴァロンタンに視線を送ったまま固まっているとマリアの手がスッと離れる。

手が離れるのと同時に、キャンディスはバランスを崩してお尻を床にぶつけてしまう。

「いたっ」とキャンディスから声が漏れた。

マリアは両手を肩の手の位置に上げて首を横に振る。



「こ、皇帝っ、陛下……」


「マリア、皇女に手を上げることを許可した覚えはないぞ?」


「いっ、やめてぇ」



カチャリと向けられる剣先にマリアは涙目になっている。

キャンディスの視線はカタカタと震えるリュカとアルチュールへ。

怯えている二人とは違ってキャンディスは冷静さを取り戻す。


(止めないと書庫が血塗れになってしまうわ!)


今にも斬りかかりそうな姿に危機感を感じたキャンディスはすぐにマリアとヴァロンタンの間に入って止めるために足にしがみつく。



「皇帝陛下、おやめくださいませっ!」


「!?」



キャンディスの予想外の行動にヴァロンタンは驚いているようでマリアの首から剣が離れた。



しかしすぐにヴァロンタンに首根っこを掴まれるような形で引き上げられたキャンディスは必死に言い訳を繰り返す。



「子どもの前で物騒なことをするのはよくないと思いますっ!トラウマになってしまったらどうするのですかっ」



キャンディスの言葉にヴァロンタンは思いきり眉を顰めた。



「お前も子どもだろう?」


「……!」



ヴァロンタンの冷静に言われてキャンディスは暫く考え込んだ後に頷いた。

確かに今、キャンディスも五歳なので子どもに見えるだろう。

だが、中身が違うため自らも大人なような口ぶりで話してしまった。


キャンディスは子猫が母猫に首根っこを掴まれるようにして、ぶら下がるような形で持ち上げられている。

そしてもう片方の手には剣が握られたままだ。



「と、とりあえず剣を仕舞ってくださいませ!」


「…………」



豪華な装飾がついた剣はキャンディスが首を斬られたものと同じ。

その剣がチラチラとキャンディスの視界に入るたびに首が痛むような気がした。

アルチュールが小さな声でキャンディスの名前を呼んだのをきっかけに、ヴァロンタンの手が下がる。

キャンディスも足が床についてホッと息を吐き出した。


そしてアルチュールを安心させるようにそばにいく。

アルチュールは余程怖かったのか、キャンディスに抱きつきながら大号泣している。

リュカも唇を噛んで涙を堪えているように見える。



「何故、このようなことになったか説明しろ」


「皇帝陛下、これは皇女様がわたくしにっ」


「キャンディスに聞いている。お前は黙っていろ、マリア」


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