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にこやかに微笑むキャンディスを見て、マリアの口端がピクリと動いた。

子どもらしく言ったつもりだが、少し刺々しかっただろうか。

アルチュールの時とは違い、マリアはキャンディスの前では気遣っていたように思う。


帝国貴族たちは教会に毎月、多額の寄付金をしている。

それは爵位が上がるほどに自然と大きくなるのだが、もしキャンディスがラジヴィー公爵に何かいえばと思うと下手に動くことはできないと思っていたからだと今ならばわかる。

キャンディスに話を合わせて、褒め称えていたマリアの裏の顔を目撃してショックもあるが、それに騙されてラジヴィー公爵にマリアは良い人だと言っていた自分の単純さに笑ってしまう。



「隠れていたなんてイタズラが過ぎますわ。わたくしったら、つい感情的になってしまったようです」


「あら……でもわたくしの大好きなアルチュールをネズミ扱いしていましたわよね?ましてや汚いだなんて。マリア様ったらひどいわ」


「……っ!」


「わたくしはマリア様の本当の姿を知ってしまったのね」



キャンディスの言葉にマリアの口端がピクリと動く。

しかしすぐに反撃するようにマリアは笑みを浮かべてある言葉を口にする。



「アルチュール殿下を汚いと言っていたのは皇女様も同じではないですか!」


「でも今は言っていないわ!今はアルチュールが大好きだもの」


「……!」


「マリア様ってば何も知らないのね」



あえて何も知らない我儘な子供のように振る舞いながらマリアを追い詰めていく。



「それにリュカお兄様のことを出来損ないなんて言うのですね……マリア様を尊敬していたのに淑女としてがっかりですわ」


「なんですって!?」


「わたくしはアルチュールと本を選んでいただけですわ。アルは正義感が強いから一方的に責められているリュカお兄様を放ってはおけなかったのよ」


「はい……!」


「マリア様ったら、子ども相手にはしたないのねぇ」



アルチュールは状況がわからないながらもキャンディスに話を合わせてくれるようだ。

マリアが怖いのか、涙を浮かべながらも首を縦に動かした。

そんなマリアの額には青筋が浮かんでいる。

優しい表情は消え失せて怒りを剥き出しにしている。


こんなにわかりやすい挑発に簡単に乗ってしまっているマリアは、以前のキャンディスと同じで感情のコントロールはうまくないようだ。

裏表で切り替えているからか、キャンディスは今までマリアの表の部分しか見えていなかった。


そんな時、書庫の扉が開いたことにも気づかずにキャンディスはこの状況をどうにかしたいと必死に考えを巡らせていた。

怒りに震えているマリアとリュカとアルチュールを庇うことに必死で気づかなかったのだ。

見覚えのあるプラチナブロンドの髪と黒髪の人物は静かに書庫へと足を踏み入れていたことに……。

アルチュールだけは扉から静かに入ってきた人物を見つめている。



「キャンディス皇女様、今の発言は許せませんわ!」


「まぁ、許せないからどうするの?」


「……ッ!」


「そっちこそリュカお兄様が出来損ないというのを撤回してくださいませ!お兄様は努力家で人のために動ける素晴らしい人だわ」


「キャンディス……僕は」


「人を救いたいと素敵な夢をわたくしに教えてくださいました」


「──ッ、あなたに何がわかるというのよ!?」



カツカツと響くヒールの音がこちらに近づいてくる。

マリアのミントグリーンのドレスが目の前に揺れたと思いきや、キャンディスは着ていたブラウスの首元を掴まれて上に引き上げられてしまう。


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