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(この方たちはもしかして人攫いっ!?)


さっそくの大ピンチである。

キャンディスは大声を出そうと声を上げようと口を開いた。



「たしゅ……たっ、れて」


「無駄だ」


「……っ!?」



唇も喉も痺れているのかビリビリして声が出ない。

このまま誰も気づいてくれなければ……そう思うと血の気が引いていく。



「痺れ薬が効いてきたみたいだね。あの侍女たちが戻ってくる前にさっさといくわよ」


「もう裏手に馬車は停めてある。作戦通りにいくわ」



二人に騙されたとショックを受けるのと同時に、自分の皇女だという立場を改めて思い出すこととなる。

キャンディスは大した抵抗ができないまま、お姫様だっこのような形で抱き上げられる。

小さな体は簡単に持ち上げられてしまい、部屋の外へと向かう。

キャンディスの唇も手もじんじんと痺れてうまく動かすことができない。


(エヴァ、ローズッ……!気づいてっ、誰かわたくしを助けなさいよっ)


アルチュールもジャンヌもこの時間はキャンディスの部屋に講師が来ていると知っているため、しばらくは部屋には近づかない。

終わった後にアルチュールやエヴァとローズが気づいたとしても、キャンディスは攫われており部屋はもぬけの殻だ。


(油断していたわ!このままだとあっという間にホワイト宮殿の外に……どうすればっ)


キャンディスが考え込んでいる間にも、二人はどんどんと足を進めていく。

人とすれ違っても「皇女様は気分が優れないように医務室へ」と言われてしまい誰も気づくことはない。


今までこんなことは一度もなかったとは言わないが、キャンディスは誰も信頼していなかったし気に入らない奴はすぐにやめさせていたので、こうなる前に対処できていたのかもしれない。


あまりの恐怖にキャンディスの体は震えが止まらなかった。

涙がハラリハラリと流れていくが、周りから見えないように隠されてしまう。


(誰か……!誰でもいいから助けてっ)


ホワイト宮殿の廊下を抜けて日の光が見えてくる。

中庭に差し掛かった辺りだろうか。

このまま誰にも見つからずに攫われてどこかに連れていかれてしまうのかもしれない……そう思った時だった。



「そこで何をしている?」



聞き覚えのある声が耳に届いた。

だが、絶対に違うだろうと思っていた。

こんなところにいるはずがないのだ。


しかし慌てて頭を下げていることが体の動きからわかる。

キャンディスを抱える腕はガクガクと震えていた。



「あっ……」


「……っ、皇帝、陛下!?」


「答えろ。そこで何をしている」



キャンディスは首を動かして顔を確認したかったが、体の自由がきかずに動かせないままだ。

前からスラリと剣が抜かれる音が聞こえた。

「ひっ……」という引き攣ったような声が上から漏れる。


(もしかして、お父様が……?)


その声は間違いなくヴァロンタンのものだった。



「こ、皇女様は……っ、具合が悪いようなので医務室に運ぼうかと思いまして」


「ホワイト宮殿にも常駐の医師がいるはずだ。どこの医務室に運ぶというのだ」


「えっと……それは」


「答えろ。返答次第では首を斬る」



ヴァロンタンの言葉にガタガタ震えている二人は明らかに焦りを見せて吃り始めてしまった。



「キャンディス」


「……!」


「聞こえるか、キャンディス」



ヴァロンタンに初めて名前を呼ばれたとしても返事ができずに沈黙だけが流れていく。

キャンディスが何も答えないことを不思議に思ったのか「キャンディスの顔を見せろ」と怒りを孕んだ声が聞こえた。


(お父様はわたくしを心配してくれようとしているの?ましてや助けてくれるなんてありえないはずだわ……)


ヴァロンタンの手がキャンディスの顔に伸びるのと同時に体が浮く感覚がした。


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