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「ヨダレのせいだけでははないと思いますよ……!」


「あの皇帝陛下に顔が怖いだなんて!」


「確かにめちゃくちゃ怖いですけど」


「皇女様が生きておられるのが奇跡ですよ!」


「そ、そうよね。ユーゴもそう言っていたの。普段ならば殺されていたらしいと……」


「「今回は幸運だったんですね!」」



キャンディスが無事に戻ってきてくれてよかったと、手を合わせながら涙する二人の反応を見つつ、やはりそうだったのかと思いつつもキャンディスは己を律していた。


(やっぱり普段から人に優しくしておけば神様が見ていてくれるというのは本当なんだわ……!)


キャンディスの行動は相当危ないものだったのにもかかわらず、何故許されたのか理由はわからないが一安心だ。


キャンディスになって一ヶ月半。

適当に考えた真逆作戦や盛大な勘違いにより、己の運命が大きく変わっていることにはまだ気付かぬままキャンディスはローズにアルチュールとジャンヌを部屋に呼ぶように頼んだ。


その後はアルチュールとジャンヌ、エヴァやローズにバイオレット宮殿でもらってきたケーキを見せる。

そして一緒に食べようと提案した。


(きっとみんなも美味しいと言ってくれるわ!)


こうして人と過ごすうちに次第に喜びを共有したいという気持ちが出てきたキャンディスは当たり前のように誰かを誘うようになった。


最初は遠慮していたジャンヌとエヴァとローズだったが、キャンディスがどうしても一緒に食べたいと言ったことや、部屋の中で誰も見ていないからという理由でケーキを食べてくれた。

みんなで美味しいものを食べるというのは最高である。


しかしお昼ご飯が食べられなくなり、シェフに怒られたのと「バイオレット宮殿のシェフには負けていられません!」という理由で、夕食にシェフが作ったケーキが出たのは言うまでもない。



キャンディスはその晩、自分の置かれた状況を振り返るために寝間着のまま窓を開けて空を見上げていた。

少し肌寒いが星がキラキラと輝いていて美しい。


(星って、こんなに綺麗だったのね)


ずっと牢の中にいた記憶があるからか、些細なことが嬉しくてたまらない。

今まで悪の皇女と呼ばれていたため、いい皇女になろうと真逆作戦を実行しているがうまくいっているのかは正直、まだわからない。

しかし以前のようなどうしようもない寂しさや消えない苦しみを感じなくなっていたことは確かだった。


(わたくし、いい皇女になれているのかしら……?)


帝国を脱出するまで、まだまだ潜り抜けていかなければならない試練が待ち受けているだろう。


なにしろキャンディスはまだ五歳の子どもである。

ただ中身には一度、悪の皇女キャンディスとして生きていた記憶を持っている。

頭を打ちつけて記憶を取り戻したが悪の皇女として辿ってきた軌跡は無駄にはならない。

でなければまた同じ道を辿っていただろう。


死ぬ前の人生ではキャンディスは常に息苦しさや閉塞感を感じていたが今は胸がいつも温かい。

安心感があるし怒ったりイライラすることも減った。

むしろ何かから解放されてスッキリとしている。


(あと十一年、なんとか生き残らないと……!わたくしが〝いい皇女〟になれば死刑への道は遠のくはずだわ)


以前、虐げていたアルチュールとの仲は順調どころか、キャンディスにとってなくてはならない存在になりつつある。

仲良くするのは作戦だったはずなのに、まさかのキャンディスが絆されるという異常事態が発生した。


リュカとは仲はいいとは言い難いが、以前と比べ少しだけ距離が近づいておりまた少し違った関係性だ。

幼少期、キャンディスは書庫に滅多に出入りすることのなかったためリュカとの接点があったのは彼がブルー宮殿に完全に閉じこもるようになってからだ。



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